キューレーションされたプレイリスト。アルゴリズム。ネット・ラジオ。オンライン・マガジン。オンライン・レコード・ショップ。SNS。まとめコンテンツ。今や音楽との出会い方は無数にあるが、その事実に感心しつつも、活用しきれていない人は多いのではないか。無限に音楽が手に入るこの時代、どこから始めれば良いのかわからず途方に暮れている人もいるかもしれない。良いスタート地点は、お気に入りのレーベルを見つけることだ。現代の音楽市場において、レーベルは検索結果を狭めて、自分が求めているものに出会う確率をあげてくれている。私たちはレーベルを信頼し、彼らの直感を大事にする。そして、ここに挙げられているレーベルを見ればわかるとおり、私たちはこういったレーベルのおかげで、あるいは見向きもしなかったかもしれないアーティストの魅力に触れることができるのである。

- 20.
  
  Loft - With Eye Contact
- Astral Plane Recordings
  
  Astral Planeはブログとしても、無名アーティストにいち早くスポットライトを当てることで評判を集めていた。しかし今年レーベルをローンチし、彼らはかつてない審美眼を発揮した。SHALTの脳髄を揺さぶる2作に加え、LOFTのブロークン・テクノな好作や、Chantsの危険なグライムEPなど、駄作を１枚も発表することなくリリースを重ねた1年であり、Astral Planeは去年まで無名だったアーティストたちを注目すべき存在に変えていった。
- 19.
  
  Binh - Dreifach
- Time Passages
  
  Time Passagesが今年リリースしたのは2作のみであったが、なぜBinh主宰のこのレーベルがRAの今年のお気に入りのひとつであったかは明確だろう。飾り気のない、スペーシーなダンス・ミュージックを得意とする同レーベルは、ハウス、テクノ、エレクトロ界の過去の遺産からインスパイアされた、ミニマル志向のムーヴメントを牽引している存在であり、彼らがリリースする作品は何十年も前のアイディアを新鮮なものへと再構築してしまう。今年リリースされたBinhの「Dreifach」と、Onur Özerの「Frequent Forest Turn」は、ダンスフロアを無視することなく、奇妙な世界観を提示することに成功していた。
- 18.
  
  Obadikah - April 8
- Honest Jon's Records
  
  2015年のベスト・レーベルであったHonest Jon’sの躍進は2016年にも続いた。ウエスト・ロンドンを代表する同レーベルの今年のリリース数は比較的少なめに収まったが、流行にとらわれない彼ららしく、タイムレスな作品を発表し続けた。これまでと比べても群を抜いてぶっ飛んでいたShackletonの新作を始め、Kassem Mosseの難解かつ聴きごたえのある2作、そして何よりも、Mark ErnestusによるナイジェリアのブラスバンドObadikahのダブバージョンを収録したEPという、Honest Jon’sだからこそ実現できたスペシャルなコラボレーション作などを届けてくれた。
- 17.
  
  Quirke - Sa45 Circles
- Whities
  
  Nic Tasker主宰のWhitiesは、まずレーベル史上最高の12インチであったAvalon Emersonの「Whities 006」をリリースして今年をスタート。それからも勢いを失わずに、Quirkeの薄暗いダブ・テクノ作や、Reckonwrongによる芸術映画的ハウス、そしてMinor Science（RAのスタッフライター、Angus FinlaysonのプロジェクトでなければRAでもっと大々的に取り上げるアーティスト）によるミュータント・ベース作などを店頭に並べた。これらのリリースを見ていると、ロンドン拠点の同レーベルがいかに現在のシーンが必要としているレーベルかがわかる。こういった、オリジナリティに溢れる若手の印象的な作品をコンスタントにリリースするレーベルは、もっと存在するべきなのだ。
- 16.
  
  Duke Hugh - Believe
- Rhythm Section International
  
  レーベルを一から作り上げて行こうとしている人なら誰もが思っていることだが、一番難しいのはアーティストを発掘すること。特に難しいのが、レーベルのサウンドや美学にフィットしていながら、なおかつ個性のある音楽を作る人を見つけることである。Rhythm Section Internationalを運営するBradley Zeroは、その両方を難なくこなしてしまう。2016年には、Duke HughやSilentjay & Jace XLといったニューカマーを紹介し、Chaos In The CBD、Al. Dobson Jr.など名が売れているアーティストの成長を助けた。リリースされた作品はアンビエント、ディープ・ハウス、ブロークンビートなど様々であったが、それら全てに共通して、レーベル・シグニチャーである暖かさやソウルフルさ、そして豊潤さがあった。
- 15.
  
  DJ Taye - Burnin Ya Boa feat. DJ Manny
- Hyperdub
  
  かつてHyperdubは、クラブ向け12インチを得意としていたが、今年はこれまで以上にダンスフロアから遠ざかった1年となった。Babyfatherの『BBF Hosted By DJ Escrow』はRAの今年のトップアルバムで1位を獲得したが、これはクサを吸いながら頭を揺らしたくなるようなヒップホップ・アルバムであった。Scratcha DVAの[Hi:Emotion]名義でのデビュー作品は、リスナーをクラクラさせるほど緻密なコンセプトの作り込みがあった。Jessy Lanzaのポップなセカンド・アルバムはダンス・パーティーよりはステージ・ショウのほうがお似合いだ。そしてBurialの新譜はアンビエントと呼べてしまうものであった。もしこれが、Hyperdubが歳を重ねていることを意味するのだとしたら、格好良い歳のとり方ではないか。
- 14.
  
  Umfang - Force
- 1080p
  
  多作なレーベル、1080pの拠点はバンクーバーだが、国際的な活躍が目覚ましく、これまでブルックリン、LA、モントリオール、マンチェスター、そして岡山など様々な街から人材をかき集めてきた。2016年もそういった国境を越えた活動は続き、Umfang、LNS、J. Albert、Jayda G、Perfume Advertらの素晴らしい作品を届けた。量と質、両方に重点を置いているだけあり、どの作品から聴き始めても間違いないとオススメできるレーベルだ。
- 13.
  
  Marco Zenker - First Feeling
- Ilian Tape
  
  Zenker Brothersは独特なサウンドを推し進めており、今年、彼らのレーベルはそのサウンドを更なるユニークな境地へと持っていけるアーティストたちの作品を世に出した。Roger 23のホワイトレーベルは、アンビエントとテクノを突っ切る驚くべき道を切り開き、DjrumとStructionのスプリットEPはUKフレイヴァーが面白く、Marco Zenkerは激しいテクノと浮遊感のあるブレイクスの狭間を堂々と突き進んだ。そして今年同レーベルが出した唯一のアルバムであった、Skee Maskの『Shred』は、レーベル・サウンドを象徴する緩急のある世界観を最高な形で提示した。Ilian Tapeの手にかかったレイヴ音楽は、常に新しい方法で私たちを喜ばせ、驚かせてくれる。
- 12.
  
  Bibio - Town & Country
- Warp Records
  
  Brian Eno、Autechre、Mark Pritchardらの超大作をリリースした今年のWarp。さらにデトロイトのラッパー、Danny Brownや、Hudson Mohawkeのゲーム・サントラ『Watch Dogs 2』など強力なヒップホップ作も手がけ、Aphex Twinの愉快なEPまで登場。そして、新しくWarpと契約したLorenzo Senniは、“Pointillistic Trance (点描的トランス) ”な6曲で我々を驚かせてくれた。
- 11.
  
  Saverio Celestri - Reality Is Not Reality (Ethereal Logic remix)
- Slow Life
  
  2016年はSlow Lifeにとって成長の1年となった。ベルリン拠点の同レーベルは、ファン待望であった2枚組LPのコンピ『Chromophore』と、レーベルの初アルバム、Saverio Celestriの『Reality Is Not Reality』をリリースし、時代を超越したディープ・ハウス・サウンドを探求し続けながらも、時にはエクスペリメンタルな一面も披露した。Celestriの“Reality Is Not Reality”をアンビエント化したEthereal Logicのリミックスなど、こういったレフトフィールドな作品は、Slow Lifeがただのディープ・ハウス・レーベルではない何かへと進化していることを示唆しているようだ。
- 10.
  
  Spacetravel - Run Way
- Perlon
  
  SpacetravelやBinhらのアルバムや、Ion Ludwigの新しいコラボ・プロジェクト、Alter Mahnnの12インチなどをリリースし、2016年に新しい波を起こしたPerlon。他にもFumiya Tanaka、Margaret Dygas、Maayan Nidamらベテラン勢からの新作も手がけていたが、現行ミニマルのエレクトロ傾倒と呼応する作品もあれば、よりクラシックなミニマル・サウンドに寄ったものもあった。Zip、Markus NikolaiとChris Rehberger主宰の同レーベルは、片足を過去に置きながらしっかりと現在進行系の音に手を伸ばしており、そういった姿勢が功を奏して7年ぶりにこのリストに再登場した。
- 9.
  
  Jam Band 80 - Jammin'
- Rush Hour
  
  アムステルダムのSpuistraatに新しくオープンしたRush Hourのレコード屋に足を踏み入れれば、ブラジル、日本、ナイジェリアといった世界各地から集められた中古レコードが見つかる。今年、Rush Hourレーベルがリリースした作品群にもそういった国境を越えたコスモポリタンな感覚が見受けられた。日本のブギー作品のリイシュー、カリビアン・ミュージックや、スリナム共和国のダンス・チューンのコンピレーションなどが、オランダやアメリカ発のハウスやテクノ作品と同列で届けられた。ルーツを忘れることなく、進化をし続けることができるレーベルであるRush Hourが、相変わらずの安定感を見せてくれた。
- 8.
  
  Ploy - Iron Lungs
- Timedance
  
  Timedanceがリリースするトラックはどれも自己完結した重みがある。楽曲の展開は丁寧に作り込まれており、機能性を重視したアレンジよりも流動的に変化する構成が好まれ、レーベル・カラーとなっている機械的なのに有機的な音楽的世界観が打ち出されている。その特徴はとくに、主宰者Batuの「Monolith」において顕著だ。しかし芸術性が高いだけでなく、Timedanceのトラックはみぞおちを狙ったパンチのように、体の芯まで揺さぶる。Lurkaの凶暴なエレクトロ〜EBMな“Beater”や、Ployの爆発的な”Iron Lungs”、そしてBruceの曲芸飛行ショーのようなトラック、”I'm Alright Mate”などが良い例だ。彼らはそれぞれ他のレーベルでも今年強力な作品を発表していたが、Batuは彼らの最も大胆で印象的なトラックを自身のレーベル用に集めることができた。
- 7.
  
  The System - Almost Grown
- Music From Memory
  
  今年の9月、Music From Memoryの主要アーティストが集まり、オーストラリアのシドニー港をバックにパフォーマンスを行ったとき、このアムステルダムのレーベルがどれだけビッグになったか、改めて感心させられた。黄金時代出身のディガー3人が主宰するMusic From Memoryにとって、2016年は特に活躍の年となり、Dip In The Pool、Suso Sáiz、Roberto Musciらを始めとする素晴らしいリイシューやコンピレーション作をリリースした他、サブレーベルSecond CircleかTornado WallaceやDazionの良作を世に放った。
- 6.
  
  Bass Clef - Entendrillar
- The Trilogy Tapes
  
  名のあるプロデューサーから特異なトラックを引き出すことはWill Bankheadの特技である。それもそのはず、彼は類まれで、類を見ないほどにヘンなモノを作ることが最たる目的なのである。BlawanとSkudgeは機能的ながら雑然たるトラックを発表し、Call SuperはOndo FuddとElmo Crumb名義で異次元な作品を届け、Accident Du TravailとCarl Gari & Abdullah Miniawyは実験音楽という宇宙の最果てへと飛んでいった。どの作品も、Bankheadによるアートディレクションによってかけがえのないものになっていた。Samo DJやRobert Bergmanらのミックス・カセットは、限界を知らないDJのあるべき姿が収められていたが、予想や期待を裏切ろうという野心で動くレーベルらしい内容であった。
- 5.
  
  Palms Trax - Paws
- Dekmantel
  
  Dekmantelの2016年の活動を振り返って、「いったいどうやって？」と驚くのはリアクションとして正解である。彼らが開催した3つのフェス（来年には4つめが予定されている）と、非の打ち所がないウィークリー・ポッドキャストの配信、そしてDJギグの多さを一旦忘れたとしても、レーベル運営だけで実に多くのことを達成していた。Robert HoodやVakulaといったベテラン勢と、Call SuperやMatrixxmanといった若手の作品が肩を並べ、Danny Wolfersの脳内トリップ・シンセ作品とPalms Traxの爽やかなハウス・グルーヴがひしめき合うレーベルは、なかなかないだろう。それに加えて、Motor City Drum Ensembleがリイシュー・シリーズ『Selectors』をローンチし、サブレーベルのUFOがテクノ界のダークな領域にスポットライトを当てていた。今年、Dekmantelが大きな動きを見せていなかった時が無かった。
- 4.
  
  Bocal 5 - Gourmandise
- Dark Entries
  
  Dark Entriesのボス、Josh Cheonはまるで理想の兄だ。リリース量の多いヴァイナル・レーベルの面倒をしっかりと見ながら、ソロやHoney SoundsystemのDJとして多忙を極めている。Cheonはこういった活動を通して、80年代のオルタナティブ歴史を構築しようとしている。Young Marble GiantsやCoilがチャートの首位を獲得し、煙草を吸うティーンエイジャーはPatrick CowleyのTシャツを着ているような、そんなパラレルワールドを描いているのだ。
- 3.
  
  Equiknoxx - Last Of The Mohicans
- DDS
  
  DDSは今年このリストに初登場しており、しかも堂々の3位である。イギリス人デュオ、Demdike Stareが主宰するDDSは、今年これまで以上に幅広い作品をリリースしたが、どれもDDS作品だとわかる個性があった。Equiknoxxの斜め上を行くダンスホール・インストゥルメンタルや、Shinichi Atobeのアンビエント一歩手前のテクノなど、彼らは異世界的、超自然的とも言えるサウンドデザインに対して肥えた耳を持っている。あまり注目を集めなかったが、Micachuによるイカれたパーティー起爆剤”Dare You”や、Robert Aiki Aubrey Loweのヒプノティックなモジュラー・シンセ・アルバム『Cognition / Observation』も見逃し厳禁である。
- 2.
  
  Bjarki - The Lover That You Are
- трип
  
  容赦なく変化球を投げ続けるNina Kravizのレーベルは、去年から失速することなく今年も駆け抜け、AFXも参加したサイケデリック・テクノのコンピレーションなどを発表した。さらに、同レーベルが発掘したアイスランド出身の若手である、BjarkiによるイカれたIDMやブレイキーなレイヴ・サウンドが詰まった3枚のアルバムのリリースもあった。最後は、Bjarkiがまるで子供のように無邪気に、ドラム＆ベースを軸にジャンルをごちゃ混ぜにした"Fresh Jive”で締めくくられた。シーンを席巻したтрипの怒涛の1年を1曲で表すとしたら、間違いなくこの曲だろう。
- 1.
  
  map.ache - Happy Birthday
- Giegling
  
  先月、GieglingはPrince Of Denmarkのヴァイナル・ボックス・セット、『8』の情報を公開した。サブレーベルのForumからのリリースとなり、価格は驚きの€100。他の作品同様、正式なプレスリリースや発表はなく、giegling.netに簡単な情報が追加されただけであったが、そのニュースはすぐさまネット上で拡散され話題になった。そしてその数週間後、まだ誰も聴いたことがないその作品（オンラインで視聴できなかった）のファーストプレスは売り切れていた。
  
  他のレーベルがもしこれを見て「なぜそんなことが許されるんだ？」と憤慨しても、仕方がないかもしれない。多くのレーベルが広報を雇い、マーケット戦略を練り、SNSを駆使しようと必死になっている横で、Gieglingは一歩下がり、ろくに宣伝もせずに、最も愛されているエレクトロニック・レーベルのひとつであり続けているのである。もしろん理由は単純だ。彼らがリリースする音楽は、ただ人に好まれるだけでなく、人々が本当に心から共感できるような魅力を持っているからである。それはクラブ・ミュージックでは稀に見る偉業である。
  
  2015年は比較的静かだったGigglingだが、今年は同レーベルと関連レーベルたちがトップギアで疾走した1年となった。『8』以外では、Leafar LegovやOlinの12インチ、Huerco S.やLawrenceらのリミックスEP、『Mind Over Matter』というコンピ、Prince Of Denmarkの別名義が2枚、DJ Metatronの「2 Tha Sky」、そしてTraumprinzの6枚目のEPをリリース。これらの作品がリリースされるたびに巻き起こった興奮を観察していると、このレーベルの力というものが見えてくる。彼らの手にかかると、レコードのリリースは一大イベントになってしまうのだ。
  
  このPollはRAスタッフとコントリビューターの投票により決定しています。