Top 10 compilations

今年特に質の良かったコンピレーションは、様々な土地や時代のサウンドを集めたものが多かったが、ひとつ共通するのは、それぞれの作品が個性溢れる独特な世界への入り口であったこと。1980年代のグアドループのナイトクラブにタイムスリップできる作品もあれば、2016年のダーバンで繰り広げられるパーティーの空気が吸えるもの、あるいは類まれなアーティストのスタジオを覗き見できるような作品もあった。愛をこめて選曲されたこれらのコンピは、あなたの人生を豊かにしてくれる曲たちで詰まった宝石箱である。

- 10.
- Various
  Disco Mantras
  Mood Hut
  
  今年はバンクーバー・サウンドが世界を席巻した年となった。Mood Hut初のフルレングス・コンピであった同作は、レーベルに所属している無名アーティストたちによるコラボ作品となり、このシーンを要約したような内容になっている。この音楽はハウス・ミュージックとのみ深く繋がっているわけではなく、ニューエイジの質感や色鮮やかなダブ・エフェクトといった要素も同じくらいの比重を持つが、そういった彼ら特有のサウンドを明瞭にする役割を同コンピは果たしている。Mood Hutのクラブ仕様な12インチと比べると、輪郭がぼんやりとした楽曲が多いかもしれないが、細かいディティールが作り込まれており、聴けば聴くほど味わい深くなるトラックばかりである。
- 9.
  
  Emo Kid - IYona feat. DJ Bradolz
- Various
  Gqom Oh! The Sound Of Durban Vol. 1
  GQOM OH
  
  南アフリカのGqom（ゴム）という音楽ジャンルの全貌を明らかにした『The Sound Of Durban』。全く新しいシーンというわけではないが、まだ完全に確立しているわけでもないという、丁度実りの多い時期を迎えている同シーンの現在の姿が封じ込められている。若きエレルギーに満ち溢れた同作と、今年ヨーロッパ、アジアなどをツアーで周ったgqomのアーティストたちが、ダーバンのサウンドを世界へと届けた1年になった。
- 8.
- Aleksi Perälä
  Colundi Sequence Vol. 1
  Clone Basement Series
  
  Aleksi Peräläの音楽を聴き始めようとする初心者には、どこから手を付けていいかわからず途方に暮れてしまう人も多いかもしれない。なにしろこのフィンランド人サウンド・サイエンティストは、今年だけでなんと4枚ものアルバムを出している。そんな人にオススメしたいのが、Clone Basement Seriesの『Colundi Sequence Volume 1』。PeräläによるColundiシリーズのハイライトを集めたコンピレーションである。多様な外形やムードを持つ彼の驚くほど澄み切ったテクノ・ミュージックの珠玉のトラックが収められたこのアルバムを聴いて、Peräläがテクノ界最高峰のひとりであると思わないほうが難しい。
- 7.
  
  James Ruskin & DVS1 - Page 1
- Various
  Structures & Solutions: 1996-2016
  Blueprint Records
  
  Blueprintの20周年記念盤を出すにあたって、James Ruskinは、たいていのレーベルがしてしまうような、ただ過去作を集めたコンピを作るということはしなかった。その代わり、彼はテクノのトップ・アーティストたちから17曲の未発表トラックを提供してもらう、という手段に出た。こうしてできたコンピでは、Planetary Assault Systems、Regis、Oliver Ho、Steve Bicknellらがベテランらしい安定感を見せ、Randomer、Blawan、Tesselaたちが気鋭アーティストとしてのフレッシュさを持ち込んだ。『Structures And Solutions: 1996-2016』は、20年たってもBlueprintがレーベルとしての力を一切失っていないことを証明した作品となった。
- 6.
  
  Milton - Mizik Nou
- Various
  Digital Zandoli
  Heavenly Sweetness
  
  2016年はズーク（zouk）リバイバルの年だった、と言い切ってしまうのは少々大袈裟だろう。だが、80年代にフランス領アンティルから出てきた、ファンク、ブギー、ラテンやアフリカン・ミュージックを融合させたこの音楽ジャンルは、今年のダンスフロアで存在感を増していた。そんなズークの陽気なヴァイブスを浴びたいと思う人にとっては、フランスのレーベルHeavenly Sweetnessが監修したコンピ『Digital Zandoli』が入門編に最適だ。
- 5.
  
  "Domenique Dumont - Comme Ça"
- Various
  La Torre Volumen Uno
  Hostel La Torre Recordings
  
  Mark Barrottの音楽は、エキゾチックな植物や動物に溢れた魔法の島、という現実とは違うイビサ島の景色を見せてくれる。そしてLa Torreビーチ・クラブで毎週行われた夕暮れ時のレジデントDJでは、彼はその景色をオーディエンスに届けていた。そこから派生したこのコンピには、Domenique Dumont、Penguin Cafe OrchestraやAndrásらの楽曲が収録されており、Barrottのバレアリックなスタイルに更なる広がりを見せている。庭で冷たい飲み物を片手にリラックスしているとき、あるいはベッドで異国の島について夢を見ているときに最適なサウンドトラックだ。
- 4.
  
  Saverio Celestri - Jez Zie
- Various
  Chromophore
  Slow Life
  
  Slow Lifeは、レーベル所属DJたちが何年も前からプレイしていたクラシック・ハウスに、現代的な輝きを加えた作品をリリースしており、そのサウンドを最も明確にとらえたのがこの『Chromophore』であった。S. Moreira、Saverio Celestriといった主要アーティスト、そしてMick Welch、Luis Malonといったニューカマーたちの楽曲を集めた同作は、レコード屋で堀りに掘って、箱の奥でようやく見つけられるようなハウス・サウンドを、Slow Lifeらしい品のあるモダンなタッチでアップデートした、今年の最重要ハウス・コンピレーションの1枚であった。
- 3.
  
  20 Below - A Lil' Tribute To The Moody Black Keys
- Various
  Selectors 001: Motor City Drum Ensemble
  Dekmantel
  
  Dekmantelのフェスやコンピレーション・シリーズの名前に使われる前から、「セレクター」というワードは近年またよくみかける単語になっていた。これは、Motor City Drum Ensembleのような、“特別なレコードしかかけない“という実にストイックなスタンスをとるDJたちの台頭が背景にある。このドイツ人ディガーは、極上のディープ・ハウスとディスコを8曲セレクトし、これらのレア曲の知名度を向上させ（そしてDiscogsでの価格高騰を食い止め）、『Selectors』シリーズの幕開けを最高な形で飾った。
- 2.
- Various
  Jeremy Underground Presents Beauty
  Spacetalk Records
  
  値段ではなく、そのレコードに自分が魅了されているかどうか、そしてそのレコードをかけたとき、誰か他の人が同じく魅了される可能性があるかどうか、というのがレコードを集める基準として理想的である。Jeremy Undergroundの『Beauty』がこんなにもスペシャルな気持ちにしてくれるのは、彼がそういった基準で考える人だからかもしれない。PsychemagikのDanny McLewinがBestivalにてJeremyのプレイを聴いた時、このコンピレーションのアイディアを思いついたのだと言う。Jeremy Undergroundは90sハウスの造詣の深さで知られているDJだが、『Beauty』ではジャマイカン・ソウル（Sonya Spence）、ライブラリー音楽（Christer Norden）、そして70年代後半や80年代前半のとてつもなくレアな7インチなどを繋げている。だが、これらのレコードのレア度はただの偶然でしかないのだと思わせてくれるほど、彼の個人的な音楽愛に溢れている。
- 1.
  
  A Made Up Sound - Sun Touch

A Made Up Sound
A Made Up Sound
A Made Up Sound

12インチとして別々にリリースされた曲をひとまとめにしたことで、『A Made Up Sound』は、Dave Huismans主宰のレーベルの音楽を、始まりと終わりのある一貫したものとして捉えることを可能にした。そしてそれを通して聴くと、このレーベルはここ10年のアンダーグラウンド・ダンス・ミュージック界における最も重要なレーベルのひとつであるという、もともと明らかだったことを再認識させてくれる。しかしアーティストの作品に親しみ続けると一種の慣れが起きてしまうことから、これを改めて確認することは必要なことであったと言える。

懐古主義が蔓延し、未来に向けた思考を放棄するプロデューサーが群れを成す現代、Huismansはずっと循環し続けるハウスやテクノの無限ループから抜け出すようなビジョンを描き出した。『A Made Up Sound』の音を構成する要素は以前から存在していたものだ。それはUKハードコアのリズム遊びやサンプリング感覚であったり、デトロイトの未来傾倒であったり、デン・ハーグの荒削り感であったり、ベルリン産ダブテクノの地を這う低音であったり。しかし、Huismansはこれらの要素から実にモダンなダンス・ミュージックの様相を削り出したのだ。ハウス、テクノ界がネタ切れになったわけではない。ただプロデューサーたちが、『A Made Up Sound』で見受けられるような、才気溢れる緻密さで新しい発想を求めようとしなくなってしまったのだ、ということをこのアルバムは思い出させてくれた。

Top 10 Reissues

ここ数年でリイシューを見かけることが随分と多くなった。今やスーパーマーケットや小売店ですらSpice Girlsのファースト・アルバムやFleetwood Macの『Rumours』のアナログ・リイシューを売っている時代だ。しかし興味がそそられる再発作品というのは、我々の音楽的嗜好を有意義に拡張してくれるもの。今回始めて公開することになった今年のベスト・リイシュー・リストでは、南アフリカのハウス、イギリスのエレクトロ、ダビー・ポスト・パンク、日本のブギーや、超絶レアなソウルフル・ディスコなど、過小評価されていたり忘れられている音楽を掘り起こし、スポットライトを当て、良質な再発盤を手掛けたレーベルたちに敬意を払う。

- 10.
  
  Transparent Sound - Punk Mother Fucker
- Transparent Sound
  Punk Mother Fucker
  Pressure Traxx
  
  90年代後半にホワイトレーベル盤として誕生するも、その後15年間格安レコードとしてしか扱われない運命を背負ってきた悲劇の曲であった“Punk Mother Fucker”は、ベルリン拠点のDJの何人かの発掘によって一気にカルト・クラシックへと昇格した。Transparent Soundのこの曲のように、エレクトロ・アーティストが過去に残した忘れられたトラックにインスピレーションを受けるファンやDJたちにとって、このリイシューはありがたいものであった。
- 9.
  
  Eri Ohno - Skyfire
- Eri Ohno
  Skyfire
  Rush Hour Music
  
  今年も和モノ・リイシューが豊作の年であった。2015年にリリースされたMariahの名盤の再発に続いて、Dip In The Pool、AragonやColored Musicといったアーティストたちの作品が再発されたが、アムステルダムのRush Houreは日本のブギーのレア物をリイシュー。中でも特に輝いていたのが、Eri Ohnoの『Skyfire』であり、同作のタイトルトラックは世界中のディスコDJに重宝される1曲となった。
- 8.
  
  KS - Ice Sol
- KS
  Drai EP
  Tikita
  
  ディープでトランシーなテクノ・サウンドは2000年代半ばごろ、Elettronica RomanaやPrologueといったレーベルのリリースによって確立されたと思われることが多い。ところが、KSの「Drai」EPなどの再発を聴くと、それ以前からもそういったサウンドを作る人たちがいたことがわかる。同作は短命であった日本のStratosphere Recordsというレーベルのリリース第5弾として2001年にリリースされ、一部のテクノDJたちの間では2000年代を通して定番として親しまれていた。そして今年、ベルリンのレーベルTikitaのおかげでより幅広い人々がこの作品を楽しむことが可能となった。
- 7.
  
  The System - Find It In Your Eyes
- The System
  The System EP
  Music From Memory
  
  UKトリオThe Systemがセルフ・レコーディング、セルフ・プロデュースを行った1983年のデビュー・アルバム『Logic』は、Romantic Recordsからの最後のリリースとなり、トリオのファイナル・プロジェクトでもあった。若きDuran Duranと仕事をし、UB40のファースト・アルバムを手掛けたプロデューサー／バンド・リーダーBob Lambは、自宅のスタジオで実験的に作品作りを行い、The Systemの未来主義的な優しいシンセポップに新しい質感や深みを与えた。そういった創意に富んだ隠れた名作こそ、再発をする価値がある。静謐ポップ"Almost Grown”や、ゆったりとした原始的テクノ”Vampirella”を収録した「The System」は、Music From Memoryがいかに埋もれた重要作を掘り当てることに長けているレーベルかを物語っている。
- 6.
  
  Lifetones - For A Reason
- Lifetones
  For A Reason
  Light In The Attic
  
  80年代前半にCharles Bullenが『For A Reason』を制作したとき、USとソ連は冷戦の状態にあり、UKでは保守党が優勢であった。それは今の世界情勢とも近いものがあるかもしれない。しかしありがたいことに、Bullenが自身の前のバンドThis HeatのスタジオであるCold Storageで作ったダビー・アート・パンクな同作は、今聴いても素晴らしい現実逃避を提供してくれる。
- 5.
  
  Gas - Zauberberg 2
- Gas
  Box
  Kompakt
  
  テクノやアンビエント・ファンであれば、いまさらWolfgang Voigtのレガシーの素晴らしさについて教わる必要はないだろう。しかし彼のGas名義での活動がスタートしてから20年経った今年に出た『Box』は、彼がこれまでに発表してきた作品の良さを改めて思い出させてくれた。Kompaktから出た4枚組の同作は四季と、ドイツの音楽史、そしてクラブ文化を融合させるというコンセプトを形にしており、1997年の『Zauberberg』から2000年の『Pop』までを収録している。Wolfgang Voigtのキャリアの重要な時期を切り取ることで、モダン・テクノの変遷を楽しめるだけでなく、テクノ界随一の存在のマインドを覗くことができる作品が生まれた。
- 4.
  
  Crash Course In Science - Jump Over Barrels (Charles Manier Remix)
- Crash Course In Science
  Jump Over Barrels
  Dark Entries
  
  Dark Entriesは今年30作以上ものリイシューを手掛けたが、なかでもこの作品がズバ抜けていた。ポスト・パンク・バンドCrash Course In Scienceが1981年に録音するもリリースされなかった曲、”Jump Over Barrels”はダンスフロアでこそ発揮できる威力を持っている。今にも爆発しそうなシンセの音、そしてMichael Zodoroznyの神経質な震えるヴォーカルの組み合わせにヤラれてしまった人は多い。Carlos Souffront、Andrew Weatherall、Trussなど幅広いDJたちがこの曲の突飛なエネルギーに魅了されていた。
- 3.
  
  Aged In Harmony - You're A Melody
- Aged In Harmony
  You're A Melody
  Melodies
  
  Aged In Harmonyの”You're A Melody”は、珠玉の名ソウルフル・ディスコであり、しかも笑ってしまうほどに入手することが困難であるという点で、マニア垂涎のレア・レコードの典型例のような存在である。そして、少なくとも我々の間では、Floating Pointsのお気に入りであることでお馴染みだ。彼はこの曲が好きすぎて同名のパーティーをスタートしたくらいであり、彼のMelodiesレーベルが今年出した素敵なボックス・セットのおかげで、誰しもがこの曲を楽しめるようになった。
- 2.
  
  Dip In The Pool - On Retinae (West Version)
- Dip In The Pool
  On Retinae
  Music From Memory
  
  Dip In The Poolのシンガー、Miyako Kodaは女優としても仕事をしていたが、彼女のバンドが1989年にリリースしたシングル"On Retinae"には、どこかドラマチックさが漂っていた。現在、“日本の第四世界からの失われた音楽”として世界的に日本の80年代のポップ・ミュージックの再評価が進んでおり、同曲もその動きに含まれるが、Dip In The Poolの場合は現行アーティストとのコラボにまで発展しており、Visible CloaksやJordan GCZらが、Dip In The Poolの神秘的な気品をそれぞれの音楽に取り入れていた。
- 1.
  
  V.O. - Mashisa

V.O.
Mashisa
Invisible City Editions

1990年に最初にリリースされたとき、V.O.のアルバム『Mashisa』の売り上げは予想を大いに下回り、失敗作として見られてしまった。なぜそうなったのか今となってはわからないが、同アルバムのハイライトであるタイトルトラックのダブミックスが、B面の最後にひっそりと収録されていたのが敗因だったのかもしれない。このアルバムの再評価を促したのは、カナダのディガー、Brandon HocuraとGary Abuganである。Invisible City Sound Systemとして活動する2人は、リリースから20年の月日が経過した同曲を自分たちのセットでプレイして大ブレイクさせ、Young MarcoやBen UFOといったDJたちにオリジナル盤を売るなどした。

しかし手元にあったオリジナル盤が底をつくと、HocuraとAbuganは自分たちでライセンシングをしてリイシューし、世界中のレコード愛好家たちの希望を叶えた。『Mashisa』には、リイシュー盤にあると嬉しい要素が詰まっている。まずは歴史的重要性。このアルバムは、南アフリカのエレクトロニック・ミュージックが甘いバブルガムからタフなクワイトへと成長していた、とてつもなく興味深い時代をとらえている。そして、『Mashisa』の作曲とアレンジを行ったEddie Magwazaのストーリーがライナーノーツにて読める。アルバムを作ったとき、ヨハネスブルグに住む10代の若者であった彼は、悲劇的にもアルバムをリリースしたすぐ後に銃弾に倒れ、命を引き取っている。彼が生きていたときにこの作品の魅力に気がつく者は少なかったかもしれないが、Magwazaが作った音楽は今も色あせておらず、2016年に再発された作品のなかでもとびきりの輝きを放っていた。

Top 10 Online mixes

Objektの『Kern Vol. 3』やMoodymannの『DJ-Kicks』、Nina Kravizの『fabric 91』など、2016年にも素晴らしいミックスCDは登場していた。だが、今やミックスをCD形式でリリースするレーベルは本当に少なく、それが今年ミックスCDのリストを公開しなかった理由である。その変化を悲しく感じる人もいるだろうが、無料で聴けるありとあらゆるジャンルのミックスがネット上でどんどん公開されてい現状は、リスナーにとって良いことであることは間違いない。以下のリストを見ればわかる通り、オールドスクール・ジャングルからアンビエント・テクノ、オブスキュアなアフリカン音楽まで、選択に困るほどのたくさんの良質なミックスがネットには転がっている。

- 10.
- Ricardo Villalobos
  #SaveFabric
  
  fabricでのDJプレイが世間を賑わすことは稀だ。だからこそ、Rinse FMが9月に12時間に渡って放送した『#savefabric』の特番はなんとも嬉しい出来事であった。中でも特に目を引いたのが、fabricの人気を拡大させた張本人、Ricardo Villalobosによる2時間セットであった。彼はPerlonクラシック、オランダのエレクトロ、Josh Winkの"Higher State Of Consciousness”などをプレイ（"Higher State Of Consciousness”をこの曲に繋げたときは驚いた）。彼のプレイはなぜfabricが「史上最高のナイトクラブのひとつ」であるかが伝わって来る熱狂的な内容であった。
- 9.
- Mood II Swing
  FACT mix 534
  
  Strictly Rhythmからの3枚組コンピレーションをリリースし、Mood II Swingは今年カムバックを果たした。しかし新曲を届けるのではなく、今年John CiafoneとLem Springsteenのふたりはこれまであまり行ってこなかったDJに注力した。そして登場した彼らの初のスタジオ・ミックス『FACT 534』は、自分たちの過去作からバンガーのみを選んだ1時間であり、彼らの新しいスキルを披露する場となった。これほどバブリーなハウス・ミックスはそうそうない。
- 8.
- Mafalda
  Colectivo Futurecast 059
  
  MafaldaはロンドンのCosmos Recordsで働き、Floating Pointsと共にMelodies Internationalを運営する人物。Colectivo Futurecastのミックスと共に公開されたインタビューで、彼女は音楽に対する想いについてこう語っている。「18歳ぐらいのとき、当時付き合ってた彼氏と別れたかったんだけど、彼は私が大好きな音楽を教えてくれた人だったから振ることができなくて、泣いてたのを覚えてる」。セレクトした曲を繋げず聴かせる『Colectivo Futurecast 059』は、Steve Kuhnの”The Meaning Of Love”やAirの”Jail Cell”といったロマンチックな曲を含み、彼女の本命は音楽であることを物語っていた。
- 7.
- Resom
  The Bunker Podcast 116
  
  ResomはThe Bunkerでプレイした経験を持っていないが、ニューヨークを代表するパーティーシリーズが彼女にポッドキャストをお願いする理由を想像することはさほど難しくない。ベルリンを拠点とするDJ／ブッキング・エージェントであるResomは、これまでポッドキャストを手掛けた人たちの多くと同様に、熟練の技の持ち主であり、ダークな世界観のなかでしなやかなグルーヴやメロディーを繋げていくことを得意とする。Monolake、LegoweltやGavin Russomらを紡いだ『The Bunker Podcast 116』は、傑出したDJである彼女にとって最高の自己紹介となった。
- 6.
- Sa Pa
  Enter Sa Pa
  
  Sa PaはGieglingの中でも特に謎の多い存在だが、そもそもGieglingはミステリアスなクルーであることを考えると、それはたいしたことである。精密なサウンド・デザインや臨終感のあるフィールド・レコーディングを駆使した彼の音楽は、アンビエントともテクノとも言い難く、やはり不明瞭だ。彼のオリジナル曲で構成されるこのミックスは、一見アブストラクトでエクスペリメンタルに聴こえるが、Gieglingらしい深くエモーションな要素が幾重にもなっている。このミックスを聴いてもSa Paのことをもっと深く知ることはできないが、心地良く迷子になれる豊潤な音の世界を提供してくれたことは間違いない。
- 5.
- Invisible City Sound System
  Dekmantel Podcast 055
  
  Invisible Cityは、世界中に散らばるファンクの遺伝子を拾い集めるディガーたちにとってチェック必須なショップ兼レーベルだが、主宰者のBrandon HocuraとGary Abuganが手がけたDekmantelのポッドキャストは、ハイライフ、ズーク、日本の“第四世界”のファンク、古典ハウス、そして現代テクノの共通項を見出し、クリエイティブにミックスして見せた力作であった。トロントを拠点にするこのデュオは、いくつもの正体不明のレア曲や、Lata Ramasarのヒンドゥスタン・ディスコの名曲"The Greatest Name That Lives”をエディットした未発表曲などを織り交ぜ、リスナーを圧倒した。
- 4.
- Nicolas Lutz
  XLR8R Podcast 450
  
  Nicolas Lutzがミックスを配信するとなるとニュースだ。今年、ベルリン拠点の彼が配信したのは『XLR8R 450』のみであったが、80分間に及ぶ同作は、親密な空間でプレイしそうな楽曲を詰め込んだものだった。なかでも特に素晴らしかったのは、1991年にDaniel BellとRichie Hawtinによる、あまり知られていないコラボ曲（Cybersonik）や、1996年のテック・ハウス（88 Monkeys, URB'N'RI）、2005年のエレクトロ（B. Calloway）といった比較的知名度の低い楽曲たち。それらが全てLutzの達人の腕前で滑らかに繋げられている。
- 3.
- Avalon Emerson
  Groove Podcast 52
  
  彼女のエディット・シリーズCyberneditsは変化球が好きだ。以前、インタビューで彼女は自分のことをNBA中継のスポーツ解説者のようだと冗談を言っていたが、それだけ人の意表をつくことを好んでいる。しかし彼女のGrooveポッドキャストを聴くと、こちらではクラブバンガーばかりの直球を投げる彼女が見えてくる。Aroma Pitchの”Portal”や、EctothermやWork Themといったレーベルの友人たちのトラックを組み合わせ、クラブ・サウンドを操ることもお手の物であることを彼女は証明した。
- 2.
- Dj Koolt
  @ Phonotheque
  
  モンテビデオの水には何か入っているのだろうか？ウルグアイの首都であるこの街から、最近、簡素な新しいダンス・ミュージックがどんどんと発信されており、様々な年代のDJたちが献身的なディギングや巧みなミキシングなど、伝統的なDJ道を極めている。このシーンのリーダーはDJ Kooltであり、このミックスは彼がレジデントをつとめるクラブPhonothequeでのセットを2時間半とらえたもの。王道をそれたテック・ハウス、テクノ、エレクトロばかりを次々に披露しながら、DJ Kooltは世界基準の技を見せている。
- 1.

Ben UFO
Blowing Up The Workshop 66

去年のBloc Festivalでのパフォーマンスを録音したこの1時間に及ぶミックスは、UK音楽史のなかでも特に実りの多い時代を捉えている。Ben UFOがPhotekやDoc Scottらジャングルの黄金期のトラックをかけるたびに、フロアは狂乱の渦と化す。SP:MCとGQがつとめるMCや、客の叫び声が混じるこのミックスを聴いていると、真っ暗なダンスフロアで、汗だくになりながら、足から全身へと伝わる振動を感じている自分をいとも簡単に想像できてしまう。

コメント欄ではMCについて文句を言う意見もあり、そのことについてBen UFOはこうコメント欄で反論していた。「MCカルチャーは昔からこの音楽において重要な要素であり、僕の子供の頃の音楽体験でもかかせないものだった。レジェンドであるSPとGQのとなりでDJできて光栄だった。これはレイヴをレコーディングしたものだ。もしミックスされていない、クリーンな状態の楽曲じゃないと楽しめないのだとしたら、他を聴くべきだし、むしろこういう音楽があなたに合っていないのかもしれない」。その生々しく、熱烈なレイヴの興奮が鮮明に録音されているこのミックスは、Benの危険度の高い選曲と相まって、なんともスリリングだ。

このPollはRAスタッフとコントリビューターの投票により決定しています。