今年のInfinite Machineのリリース作には「State Of Absolute Alienation」（訳：完全なる孤立状態）といったタイトルが含まれることからも、このレーベルの志向が伝わってくるかもしれない。2014年以来、Infinite Machineは世界各地の若手プロデューサーによる、激情的で怒りのこもったクラブミュージックをリリースしてきた。

Infinite Machineはモントリオールにて発足されたが、主宰者はメキシコ在住であり、ニューヨークとブカレストにスタッフがいるというグローバルな体制のレーベルであり、そのサウンドもまた世界的だ。ローカル・シーンにフォーカスするNight SlugsやFade To Mindといった人気クラブミュージック・レーベルとは違い、このレーベルはインターネット上で展開する新しいシーンを比較的早くからピックアップしてきた。そしてまた、政治に対する若者の怒りやエネルギーをいち早く届けたレーベルのひとつでもあった。2015年には、ポスト・ダブステップのカラフルな世界から、エクスペリメンタル・クラブミュージックの烈火の領域へと踏み込み、それ以降、Infinite Machineはひたすら突き進み続けてきた。

Charlie Juárez、Nicholas James Concklin、そしてLiarことAlin Ceauseluが共同で運営するこのレーベルは、今や、どんどんと実験的なサウンドが飛び出している自由奔放なエクスペリメンタル・クラブミュージック・シーンを代表するレーベルのひとつである。そういった地位を獲得できた要因は、彼らが発表する作品の先鋭性だけではない。Infinite Machineは無名な若手アーティストを発掘し、彼らのキャリアの足がかりとなるきっかけを与えることを積極的に行っている。これまでBwana、WWWINGS、Ziúrなど、様々なタイプのプロデューサーを同レーベルは輩出してきた。

「10年くらいハードコア系とかスクリーモ系のバンドで活動してたんだ」と、Charlie Juárezが言う。メキシコ・シティの自宅からSkypeでインタビューに応じてくれた。「パンク精神にはルールがない。だからトラック作りであっても、DJやライブセットのやり方だって、ルールはなくていいと思うんだ」

同レーベルが2016年にリリースした最後の作品であり、群を抜いてパワフルな1枚であったAbyss Xの「Nüshu」は、そんな彼らのパンク・スピリットを象徴している。同作はディストーションにまみれた激しい内容になっており、DJ使用など完全に度外視したかのようであった。

しかしInfinite Machineの音楽は、初期からラウドで獰猛なものであったわけではない。同レーベルの最初の傑作は、2012年に切ない”Baby Let Me Finish”で当時のベースミュージック・シーンを噴火させたトロント拠点のBwanaによる作品であった。Infinite Machineは、ポスト・ダブステップのフィールドに現れた新たなプレイヤーとして注目を集めたが、主宰者は“パンク”魂を感じたこと以外、このシーンをまだよく理解していなかった。

彼女と暮らすためモントリオールに移ったJuárezは、エレクトロニック・ミュージックに興味を持つようになり、2009年にInfinite Machineを立ち上げた。それまで、彼はメキシコでEscucha!というハードコア・レーベルを運営しており、レーベル運営に関しては初心者ではなかった。彼が興味を持った音楽のシーンはモントリオールではまだ大きく盛り上がっていなかったため、彼はSoundCloudで新しい曲を探した。そしてトゲトゲしいダブステップの世界にハマると、彼はできるかぎりたくさんの音楽を、可能なかぎり速くリリースしようと動き始めた。Infinite Machineという名前はそういった運営スタイルに由来した。時間をかけて少しずつ限定枚数のヴァイナルをリリースすることが格好良いとされるアンダーグラウンドの価値観に興味を示さなかったJuárezは、矢継ぎ早にどんどんと作品をリリースしていった。ネット上で誰でも手に入るよう、たくさんの音楽をリリースする彼の姿勢は、パンク時代から引き継がれたものであったかもしれない。

「ひとつ出したら、またひとつ。月に2枚くらいはEPを出したかった」と彼は説明する。「あまり1枚に時間をかけたくなかったんだ。とにかくたくさん出したかった。以前ハードコアのレーベルをやっていたときもそうやってやっていたんだ。特に計画があったわけでもなくて、完成された作品が手元に届いたらすぐに世に出したんだ」

作品は驚くべきペースでリリースされていった（Discogsのリストは完璧ではない。ファンが追いつくのも困難なほどの速さで作品がリリースされていったということだろう）。しかし作品はどちらかというと短命であり、初期にリリースされたもの全てが名盤とは言えない。Troy GunnerやBwanaらによる作品は今聴いても素晴らしいが、記憶に残るほどのインパクトを与えることなく忘れられた作品もあったのは事実である。その後Juárezはメキシコ・シティに戻ることになり、そのときレーベルは転機を迎えた。

「メキシコ・シティにいると、アグレッシヴな気持ちになるんだ。なにしろ、とてもカオスな街だから」と彼は言う。「そのサウンドをまた自分の人生に取り入れて、Infinite Machineをもっとアグレッシヴにしようと思った」

この変化のもうひとつの大きな要因は、LiarことAlin-Mihai Ceauseluの存在である。彼は2012年に「Strange Love」EPで同レーベルに初登場したルーマニア人プロデューサーである。ダンスミュージックの様々な形を細かく刻み、ごちゃ混ぜにした彼の作品は慌ただしく、興奮に満ち溢れたものだった。そんな「Strange Love」は、初期Infinite Machineの切なさが漂うサウンドと、その後に傾倒するハードな作風との架け橋となった。Ceauseluの音楽性はJuárezに刺激を与え、彼の方向性は変わっていった。CeauseluのおかげでJuárezはテクノや、他のノイジーなエレクトロニック・ミュージックを聴くようになり、そういった音楽が内包する「ハードコアさ」に着目するようになったのだ。

耳が慣れていないと、最初に聴いたとき聴きづらいと感じてしまうかもしれないが、「Strange Love」とLiarが2014年に出した続編「Scorpio」は、間違いなく時代の先を行っていた。特に2枚目のEPは、その後世界中の若いファンたちが夢中になるサウンドを予見していた。ブレイクス、ジャージー・クラブ、グライム、ハウス、テクノといったサウンドがごった返す活気溢れた内容であり、1曲のなかで複数のジャンルが登場することも珍しくなかった。「Strange Love」はBwanaの”Baby Let Me Finish”の人気を超え、Infinite Machineのリリース作のなかで最も売れた1枚となった。

「Charlieの考え方とかアプローチに惹かれたんだ」。ブカレストにいるCeauseluに話を聞いたところ、そう答えてくれた。「“Strange Love”以降、お互いの興味があまりにも合致していたから、レーベル運営の仕事も手伝うようになったんだ。作品紹介を書いたり、マスタリングをしたり、A&Rの業務をCharlieとやったり。Infinite Machineを裏で支えるようになったんだ」

「Charlieの考え方を言葉にするのは難しいんだ」と彼は言う。「彼の好みは幅広くて、それまでハマっていたサウンドやスタイルに突然興味を失くすことはよくあるんだ。しかし彼はかなりの音楽好きで、彼のそういう所が好きだ。彼にとって音楽は商品じゃないんだ。昔も、今も。もちろん生活がかかってるし、Infinite Machineにビジネスの側面があることは間違いないが、そういったビジネス面はあくまで二の次なんだ。Charlieにとっては、自分が好きなアーティストと仕事ができているかどうかが最重要なんだ」

Ceauseluの楽曲はまるで万華鏡越しにダンスミュージックを眺めているようであり、クラクラするほど色とりどりの音の断片が舞う。ポスト・ダブステップ・シーンのアーティストの大半がハウスやテクノに染まっていくなか、Infinite Machineはジャンルの壁を壊すKorma、Wallwork & RZR、Roller Truckといったアーティストたちを取り込み、波立つ海を航海していった。

「自然な進化だと思っているよ」と、プロモーションや広報を担当するニューヨーク在住のスタッフ、Nicholas Concklinが言う。彼は地元のヴァーモントでダブステップ・パーティーを開催していたとき、Juárezと知り合ったのだという。「これまで、音楽はその地域特有のコミュニティに根ざす部分が大きかったけど、インターネットのおかげで様々な文化やコミュニティと繋がることができるようになった。Charlieとはもう4年の付き合いだけど、彼と実際に会ったことはまだないんだ」

「2013年から2014年にかけて、色々とハードなクラブ・サウンドが出てきた。Club Constructionsとか、Yolo Bearとか。ジャージー・クラブはようやく注目を浴びるようになっていて、ジュークもホットで新しいサウンドとして人気を集めていた。本当はすでに15年くらいの歴史はあったんだけどね。とにかく、“見つけられる限り様々なダンスミュージックを見つけて、それらを組み合わせよう”っていう考え方があって。異なるものを組み合わせてハイブリッドなものを作ることが、根本的な信念だった」

Infinite Machine

レーベルが変化を遂げるにつれ、Juárezは方向性をしっかりと定めるようになった。そしてリリースのペースが落ちることはなくとも、彼は行き当たりばったりではなく、計画的に進行するようになった。

「エレクトロニック・ミュージック・シーンの仕組みは、パンク・シーンと違うということに気がつくのに随分と時間がかかったんだ」と彼は言う。「2013年にウェブメディアとか雑誌にアプローチをかけるようになったんだが、最初は大変だった。すでに運営を初めて3年経っていたけど、誰も興味を示したり、サポートしてくれなかったんだ」

「作品をリリースするときは、もっと時間と努力と情熱を注ぐようになった」と彼は言う。「そのおかげで随分と変化があった。1枚の作品のプロモーションに2ヶ月くらい使って、ウェブメディアや雑誌に連絡をとったりするのを地道にやっていたら、明らかに効果があったんだ。あまりそこに時間を使っていなかったんだが、当初からアーティストを成長させたいっていう願望があったんだ。Infinite Machineは、アーティストの成長を促す場であると考えているんだ」

Infinite Machineは年を重ねるごとに強く、信頼できるレーベルに成長していたが、2016年にはついに誰も止めることのできない巨大な勢力と化した。その背景には、Juárezの戦略的な運営方針があるだろう。若手やほぼ無名のアーティストをフックアップするという姿勢は変わらず、それまではSoundCloud上でしか存在していなかったと言えるロジア人のプロデューサー・グループ、WWWINGSの「Meta」EPをリリースし、彼らが注目されるきっかけを作った。同作はまるで地響きのようなエクスペリメンタル・クラブ・サウンドであり、Planet Muからのアルバム・リリースへと繋がった。また、Ziúrによる「Taiga」は同レーベルのベストと言える傑作であり、Galtierは官能的なカリビアンのノリをシーンに持ち込み、Tomás Urquietaはマッドネスを抑える代わりにラテン・ファンク・フレイヴァーを加えた新作を発表した。流行に左右されるというよりも、流行に風穴を開けるのがこのレーベルのスタイルであった。

「WWWINGSとかAphixとか、耳に優しくないエクスペリメンタルな音楽を作るアーティストと、今ではどんどんと契約することができているけど、3、4年前は無理だっただろうね」とConcklinは言う。「まず第一に、彼らのようなアーティストがいなかったし、そして第二に、そういったサウンドを許容するコミュニティがまだ出来あがっていなかった。Juárezがどんどんとハードになっていくアーティストを少しずつ契約していき、更に彼のハードコアのバックグランドを持ち込んだことで、実験的な音楽を作りたい人たちにとって安心して活動できる場を与えることができたんだ。そして、それまでエクスペリメンタルなことをやることすら考えていなかったような人たちにも、刺激を与えることができているんだ」

レーベルに所属するアーティストたちはやがてひとつのコミュニティを形成していった。エクスペリメンタル・クラブがインターネットという地域に根ざした現象だとしたら、Infinite Machineはそのなかに存在する小さな町のひとつと言える。地理的には異なる場所にいるアーティストたちだが、音楽制作への取り組み方やアチチュード、あるいは単純にどれだけハードな楽曲を作れるかという点において、共通している。Juárezが抱くビジョンのもと、世界中のアーティストが団結している。Infinite Machineは2016年に大活躍をしたが、2017年には執筆段階ですでに3枚リリースしており、これまで以上に野心的な作品もそのなかに含まれていた（例えばW3CのEP、「State Of Absolute Alienation」など）。

Juárezの音楽的嗜好の変化はとどまる所を知らず、現在はダンスフロアを意識したサウンドから、エクスペリメンタル・クラブの持つ情感や肉体性を内包した、広大でシネマチックな世界へと進もうとしている。

「最近はSFチックな世界に興味があるんだ」と彼が言う。「だから今年のリリースはクラブでプレイできるものというよりは、サウンドトラックっぽいものが多くなりそうだ。ホーム・リスニング向けが多くなるかもね。でもエッジの効いたものになるのは変わらない。2017年の予定は…15年くらい前からずっと引きずってきたハードコアの美学を、ようやくちゃんと取り入れる最初の年にすることかな」

Label of the month mix

WolfことCharlie Juárezと、Liarのふたりが、Infinite Machineのサウンドを２つのフェーズ（phases）で届けてくれた。

Tracklist /
Phase 1 - Wolf:

Keru Not Ever - Pink Chrome And The Smile Of Karenine (IM052)
Born In Flamez & Modeselektor - TBF (IMFS2)
Beaka - Killjoy (IM022)
Aphix - Trick Or Truth (IM036)
W3C - Bot-o'-War (IM049 Forthcoming)
G-23 - War Drums (IMSL16)
Lokane - Eastway Project (IM034)
Tomas Urquieta - Anatomia (M.E.S.H. Remix) (IM047)
Wallwork & RZR - Tonatiuh Dance (IMSL20)
------ - ---- (Forthcoming)
B.YHZZ - HOL (IM045)
Hound Scales - Suction Clip (IMSL4)
Tsunga - Masstext (IM035)
Ziur - Fever (IM044)
Tomas Urquieta - La Muerte De Todo Lo Nuevo (IM047)
Abyss X - AMADEUS (IM050)
123Mrk - Invisible Colors (Deft Remix) (IM018)

Phase 2 - Liar:

Liar - Black Christmas (IM0XM)
Liar - Assamaite (IM020)
Effy - Move (Troy Gunner Remix) (IM026)
Ill Life - GO (Liar Resex)(IM019)
Wolf & Liar - The Truth
Liar - Ha-REM (IM025)
Liar - Nymph Hunter (IM013)