全国各地のスポットで毎週のようにDJを手がけるHarukaは、日本国内のDJでも有数の引力を持つ特別なひとりだ。年末のFuture Terrorでは2年連続でクロージングを務め、何時よりもマッドで解放感にあふれる元旦のUNITにて、底知れないタフさでグルーヴのうねりを自在に操り、まさに「踊れる」というより「躍らせる」ような力強いセットを披露していた。地元の山形県鶴岡市から仙台市、都内へと移りながら、常に音楽とパーティーを追求しながらセンスを磨き、表現の場を拓いてきたHaruka。身を置く環境以上に、自ら思考し行動することが確かな道のりとなることを彼は知っている。

現在、パーティー・DJ・アーティスト・メディアの訴求力低下や形式化による、日本のテクノ・ハウスシーンは明らかに停滞している。これに危機感を抱くのは私だけではないはずだ。しかしHarukaはその課題に真正面から向き合い、壁を打ち砕かんとする意志を秘めている。そして現状の打破に何が必要であるかを模索し続けているように思えてならない。（DJ Nobu、Haruka、Ioriのマネジメントを手がける）Millennium People Agentの浅野氏は、後述される大阪拠点のパーティーFlower Of Lifeが始まった2000年代初頭にも、供給過剰気味だった海外ゲスト志向のパーティーに対して、反骨精神を持つDJ・アーティストたちによるDIY志向のパーティーが各所で同時発生し新しい動きが起こっていたと述懐する。その時期の体験を共有した面々は各地で独自に活動しているが、その繋がりは巡り巡って新たなカウンターカルチャーの創出にたどり着くのではないだろうか。もちろんHarukaも、その渦中に立つひとりである。本記事ではHarukaのDJに対する拘りが生まれるまでの軌跡と、この先のパーティーシーンがどのように変化し、進んでいくかについての彼なりの意見を存分に語ってもらった。

幼少期より楽器に触れ、10代半ばでクラブ体験をしたということですが、どのような経緯を経てテクノやダンスミュージックにたどり着いたのでしょうか。

10代の頃はKornとかのコピーバンドをやっていたんですけど、ライブの転換の時にDJを入れたいなと思って、皆で簡単なCDJとミキサーが一体化した入門機みたいのを買ったのが最初ですね。16、17歳ぐらいになるとメンバーがどんどん抜けてバンドは解散したんですけど、DJなら一人で出来ると思って。まずは周りの人とか呼んでパーティーやってみよう、と気軽に始めました。Primal Scream、Radiohead、Massive Attackはもともと大好きでそういう打ち込みっぽいロックに加えて、ニュースクールなダブやBoards of Canadaあたりの音も混ぜてました。

バンドから派生して、その他のジャンルの音楽知識はどこから得ていたんですか？

音楽雑誌は数少ない情報源だったので割とジャンル問わず読んでたんですけど、BUZZ（rockin'onの別紙／現在は休刊）にはロックだけじゃなくてクラブ系の音楽も取り扱っていて当時熱心に読んだ記憶があります。でもダンスミュージックだけじゃなくて、DJ Muro やTight（DJ Quietstorm、DJ Yasらによるビートミュージックコレクティブ）のミックステープを先輩に借りたり。あと地元鶴岡にはcd-brain recordsというユニークなセレクトのレコードショップがあって、スタンダードな音楽も扱いつつ、シカゴのReliefのデッドストックが揃ってたり。中学生の頃から通ってたので山本精一から大瀧詠一まで色々教えてもらいました。

様々な音楽を聴いていく中で、より本格的にDJを志すきっかけは何だったのでしょうか？

Indopepsychics（DJ Kensei、D.O.I、nikによるプロダクションユニット）に当時特にハマっていて、打ち込みの音楽はもともと好きだったんですけどさらにドープで緻密な音が好きになりましたね。「じゃあDJ Kenseiさん観に行かないと」ってなり、地元からも近いしThe Cinematic OrchestraやDJ Shadowも出演してたのでFuji Rock Festival（2002年開催）に行って…でも、その時のKenseiさんには電子音響ノイズのようなセットを期待していたんですが、全てハウスで構成された躍らせる感じのセットだったんです。最初は面食らいましたけど、大人数で踊る楽しさと、ダンスミュージックでその場をつくるDJの面白さに目覚めましたね。

仙台に移住して意識的にDJをやるようになった最初の頃は、ダビーなハウスを中心にBackgroundとか初期のミニマルの、パーツとしてかけるようなトラックなどを一緒にかけてました。Mark FarinaがOMから出してた曲もフラットなグルーヴのハウスで好きでしたね。2003年頃にたまたま旅行先の大阪でAltzさん達がFlower of Life周辺のパーティーに出ていて、その頃のBlack Cockなどのディスコリエディットの面白さも知りました。何より大阪千日前の味園ビル周辺の当時のカルチャーには衝撃を受けました。都内の様々な箱にも山形から遊びに行ってましたが、今思うと大規模なパーティーよりもGrassrootsでHikaruさんが回してた日などが強く印象に残っています。

様々なパーティー経験を経て、カバーするジャンルを広げていったということですね。

そもそも自分がプロパーなテクノ、ハウス像に合わせて選曲するDJという意識はないんですよ。Theo Parrishもジャンルではなく、いいタイミングでいい曲をかけるという哲学を持っていますけど、そうありたいと思っています。最初にパーティーやDJを始めたときも…地元の先輩にはもちろんお世話になりましたけど、既にあったパーティーに混ぜてもらったわけではなく自分で一から始めました。

地元・山形でさらに活動を本格化してから、県外でDJする機会も増え、都内に移住したとのことですが、どのようなきっかけでFuture Terror加入に行きついたのでしょうか。

地元の遊び友達がHarmonyという箱を始めて、Kenseiさん、Altzさんのほか、長谷川賢司さんや瀧見憲司さんもよく来てましたね。Ureiのロータリーミキサー常設で、ちょっとディスコ寄りなサウンドが多かったかな。僕も共演したり遊びに行ったりで、そこで東京や各地との縁が出来たという感じですね。現在ベルリンを拠点に活動しているShingo Suwaさんは同じ中学校の先輩だし、地元にはいいDJが結構います。

Nobuさんと出会ったのは、地元の知り合いが『Nobuさん呼びたい』ってなったときに共演者としてピックアップされたのがきっかけでした。そこから何度か共演して、HarmonyでFinger In Itというパーティーを始めました。Nobuさんも全国各地でレギュラーパーティーを手がけていた時期で、山形では僕とやっていたというだけで特別ではないのですが。でも確かにそこから親交を深めていきました。

その頃からDJとして都内のパーティーに呼ばれることも多くなって、20代半ばで一度本腰を入れて東京でやってみようと思い、冬頃に移住したんです。その年の元旦にFuture Terrorで呼んでもらえて、DJ後「これから一緒にやらない？」ってNobuさんに誘ってもらったのが加入のいきさつです。山形に住んでいた頃からFuture Terrorにはよく通っていて、行くたび毎回ぶっ飛ばされてきたので、声をかけてもらったのは嬉しかったですね。ただ、その頃からテクノもさらに掘り下げて聴いていくようになったので、決して『近い音のDJだから』という単純な理由で誘われたわけではないですね。むしろ音楽への向き合い方などを見てくれたのかなと思います。

今はFuture Terrorのレジデントであり、国内屈指のテクノDJというイメージが大きいですが、自らの評価をどう感じていますか。

FTの一員ではあるけれど「Berghain的なテクノ」とか特定の枠に帰属しているわけではないし、自分を制限するような感覚もストレスを抱くことも無いです。DJはお客さんから求められる役割を果たすことが重要だと思っていますし、逆に周りに抱かれているイメージから外れた楽曲をかけて新たな流れを創る面白さもあります。その瞬間も含めて、一晩の中でしっかり期待に応えて、必要とされているのを実感できると、やはり嬉しいです。

地方でのDJもペースを落とすことなく、コンスタントに行っていますね。

一回一回のDJに注力すれば、必ず次に繋がっていくと思っています。音やジャンルにこだわりがある人やパーティー好きな人だけじゃなく、友達と遊んだりナンパ目的な人まで、パーティーに遊びに来る人の意識は様々ですけど、自分なりのやり方で、なるべくその場にいる全員を満足させたいといつも思ってます。時にはやっぱり「外したな」って日もあって、次は無いな…と落ち込んだり、そのあと何日か寝付けなかったりしましたよ。そういう時に改めてDJとしての自覚を再認識しますね。

各地を巡っていると、パーティーやシーンに対する課題を実感することもあるのではないでしょうか。

パーティー規模は10年前に比べて小さくなってはいますよね。地方だととくに顕著で、そもそもその土地自体で若い人の数が明らかに減ってるし、そこはもう人口とか街とかの話になってくるので僕らがどうにかするのは難しい。でもコンスタントに呼んでもらえていること自体、テクノやダンスミュージックに興味を持ってくれている人がいる証だと思うので、希望はまだまだあると思います。そこに対してはDJで最大限お返しするしかないですよ。

都内に移住して7年経ちましたが、海外からのゲストやコンテンツが以前より身近になったし、海外との情報と体験の時差も縮まったと思います。でも“どんな一夜にしたいか”というコンセプトよりも、海外ゲストありきで作られているようなパーティーが多くなった気はしますね。インターナショナルな存在がいないと成立しない風潮の元では、日本人アクトはメインになりえないのに、自分でお客さんを呼ぶことを常に要求される。となると、やはりDJの意気も上がっていかないし、お客さんにもそれが伝わって文化が徐々に途絶えていくと思います。「DJは費用対効果でしかない」とある主催者に言われたこともあります。僕はそんな風には考えたくない。ゲストに楽しんでもらってギャラを払うことより、あくまでお客さんに喜んでもらうことを最優先に考えるべきだし、そのためには明確に提示したいコンセプトがないと。

「パーティーを楽しめるものにする」ために「ゲストを呼ぶ」とより意識するべきということでしょうか。

そういう意味では、最近だと幡ヶ谷Forestlimitで行われていたパーティーK/A/T/O MASSACREは人選の組み合わせでどれだけ面白いことやれるかを考えていることが伝わったし、実際楽しかったですね。ただ既存の何かを輸入したり真似するだけでは結果的には何も根付かないと思うので、パーティーだけでなくレーベルなども含めて、自分で作るという意思を持ち、お客さんを巻き込みながら拡げていくのが理想だと思います。あとはオーガナイズを手がける当人も、もっと楽しむ姿勢を併せ持ってほしいですね。今度出演するパーティーのオーガナイザーは都内でトランス系のイベントを手がけている方ですが、僕が名古屋でDJした際も遊びに来てガンガン踊ってくれて…正直、僕はそういう方のほうが信頼できます。

自発的にパーティーやシーンを創ろうとする意思は、どのようにして育まれていくと思いますか。もしくは現在なかなか育まれない理由は何でしょうか。

つい先日ベルリンに行った知人が『俺たちが地球上で一番先を行ってる！』と明言するような、自信あふれるDJ、クルーが多かったと話していました。国柄や性格もあると思いますけど、日本ではああいう勢いはなかなか出ない。『あの人のようになりたい』とDJとして身近に憧れる存在が少ないのかも。日本では他の音楽に比べると、以前よりも興味を持ったり始めてみようと思うきっかけが少なくなってるとは思います。

とはいえ、下の世代のDJも徐々に現れていますが、どのように自信と力をつけていくべきだとアドバイスできますか。

DJへの自信を身につけるには、やはり様々な時間を経験しないとわからないところもあります。オープンの時間ももちろん重要だし、サブフロアの雰囲気を保つのも大切。でも、メインで大きな流れを創っていく経験でしか得られない感覚は確かにあります。地方でスキルの高いDJが育ちやすいのはメインのフロア・時間を任されるチャンスが比較的多いというのもあると思います。その機会はもちろんDJ自ら掴むのが理想ですが、オーガナイザーや箱側など周囲からのサポートもよりあってほしいですね。

これも地方で顕著だと思うのですが、ゲストと共演する際、自分の役割をこなしつつ印象に残るDJを披露して、それをきっかけにブレイクしてやろうと密かに燃えてる人がいる。僕自身も昔はそうでしたし、その勢いとエネルギーが自分の実力につながっていると思います。今も海外ゲストとの共演の際は、できればそのゲスト目当てで来た人たちやゲスト自身に僕のDJを見てほしいし、引けを取らないプレイをしようと思って臨んでいます。

現在の課題に対しては、Harukaさん自身はどのように動くべきと考えていますか。

僕は昔ながらの手法や考えに立ち返りつつ先のことを考えるのが好きで、そこに現状を打開するヒントがあると思っています。今だとネットからのフィードバックは指標として大きくなっていると思いますし、それを気にせずに行動するのは難しいかもしれない。でも何より、僕はやはりDJにこだわりがあるので、自分なりのDJスタイルを貫いた上で一つひとつの現場でお客さんにとびきり満足してもらいたい。それに勝るものはないですね。