A Made Up SoundことDave Huismansは、ダンス・ミュージック界において特異な存在だ。2562名義でも活動する彼は、あまりにクオリティの高い楽曲を10年以上コンスタントにリリースしてきたため、それがもはや当たり前になってしまっている。彼が自身のレーベルから出した10枚の12インチの楽曲を集めた、2枚組のCDコンピレーションが少し前に発売していたが、そこに収録された曲がもし新人が作った曲だったとしたら、天才が現れたと業界が騒然していたにちがいない。Huismansが作る音楽のなかで、創意に富んでいない作品は無いと言い切れるだろう。むしろリスナーからしてみたら、彼の進化に追いつくのに精一杯、というところだろう。このオランダ人アーティストに畏怖の念を抱くプロデューサーやDJも少なくない。Ben UFOは彼についてこう語っている。「どうやったらそんなことができるのか検討もつかないが、Daveの音楽は、まるでひとつの世界に収まり、同じテーマを様々な角度から異なる解釈で表現したかのような内向きなものに聴こえながらも、同時に、様々なシーンやスタイルの境界線を超え、無数の文脈において意味を持つことができる、外向きに拡大し続けるような音楽でもあるんだ」

A Made Up Soundの強みが語られるとき、ダブステップとテクノ、あるいはデトロイトとデン・ハーグなど、異なるサウンドや歴史を交差させることに長けていることが強調されやすい。それはもちろん間違っていないが、Huismansの最大の特徴は、彼の独創性の力強さではないだろうか。一言で説明するのが難しく、常に変化を遂げるが、聴けばすぐにわかる個性がある。彼が刻むリズムは、よろめき、震えるときもあれば、Shedなみに勢い良く跳ねるときもある。また、彼の楽曲には大胆かつ奇妙であり、一見、人の踊りを止めてしまいそうだが、なぜだかダンスフロアをパンパンにする力を持つものもある。そして、エレクトロ、ダブステップ、テクノ、IDMといった異なるサウンドを1曲のなかで表現することができてしまう特徴も忘れてはいけない。

技術的な面で言うと、A Made Up Soundのトラックはあまりにクオリティが高く、他の人の楽曲が素人レベルに聴こえてしまうほど。しかし今回、オランダはユトレヒトにある彼の自宅のスタジオにお邪魔し、Huismansにインタビューをしてみて学んだことは、制作においては技術的な知識よりも直感に頼ることが大事ということ。彼の代表曲は、まだ経験をそれほど積んでいなかった活動初期に作ったものも多いと彼は言う。そして、彼であっても未だに技術面で苦労しているとこぼしていた。そんな彼が音楽作りにおいて最も大事にしていることは、一見相性の良く無さそうな音をあえて組み合わせ、そこから生まれる可能性を追及することだと教えてくれた。

A Made Up Sound

実は、今回このインタビューを受けてくれたことに少し驚いているんです。以前はあまり制作について語りたがらなかったですよね。どういった心境の変化があったのですか？

これといった理由はないんだ。昔よりも頭が柔らかくなったのかな。機材関係の話をすることが楽しいと感じられるようになって、自分のオタクっぽい一面を受け入れることができるようになったのかも。昔は、多くの音楽家と同じで、「機材が音楽を作ってるわけじゃない」などと思っていたんだ。僕は別に自分のことを機材オタクだとは思わない。むしろ、最初は機材を学ぶことが億劫で音楽を作ることを躊躇していたんだ。機材を使うためには知識をつけなきゃいけないと思うと、複雑そうでね。技術的なことはあまり得意なほうじゃないから、理解できないだろうと思った。それに、昔は機材を買うお金もなかった。パソコンのおかげで音楽制作が幾分か楽になったから、ならやってみようかと思ったんだ。それは僕が23歳のときだったから、結構遅いほうだよ。

最初に手を出したDAWは？

大学にカルチャーセンターがあって、そこでデッサンからバレエまで色んなコースがあって、MIDIの授業もやっていた。そのコースを受講すれば、きっと音楽制作に対する苦手意識みたいなものが克服できるんじゃないかと思って始めたんだ。それ以前からすでに曲のアイディアが頭の中にあった。授業ではCubase VST 5.1を使っていたから、自動的に僕も普段からそのソフトを使うようになった。そして授業ではアナログの音の合成をMoog Prodigyを使って説明していたから、自分でもそのシンセを購入したんだ。使い方を教わったからね。

結局Cubaseのそのバージョンを10年くらい使ったよ。他のソフトに手を出したのはほんの数年前のことだ。一旦ソフトや楽器の扱いに慣れると、それをずっと使いたい性分なんだ。機材だとかスタジオ環境に関しては化石のようなものをずっと使うクセがあって。なかなか新しいものを導入したりしないから、古いCubaseからLogicとAbletonに変えて時代に追いついたときは、随分作業が楽になったよ。

長年、パソコンのみで音楽制作をしていたわけですが、現在はハードウェアとソフトウェアをどう使い分けていますか？

今は両方使っているんだ。卓を通してハードウェアの音を鳴らしてるから、Space EchoとかEventideといったアウトボードのエフェクトが使える。パートごとにレコーディングするから、ひとつの音ごとにそれぞれテイクを録って、それぞれ個別に音を処理するんだ。ラップトップをマルチトラック・レコーダーのように使って録音してから、パソコン内で編集やミックスを行う。そうすることで、ハードウェアを演奏する楽しさとか、生演奏感みたいなものをキープしつつも、Logicの柔軟性の高さや、アレンジやミキシングの選択肢の豊富さといった強みを活かすことができる。

その一方で、Abletonのみで制作することもある。だから、制作の仕方は様々なんだ。ときに、頭がごちゃごちゃするときはあるよ。昔、Cubaseとソフトウェア・サンプラーのみでPCで作っていた時代は、何を使おうか考える必要がないくらい単純だった。せいぜい、1つか2つソフト・シンセを追加するくらいだった。今は選択肢がとても豊富だ。もちろんそのおかげで、ずっと同じやり方ではなく気分転換に違うことができるのは良いことだと思うけどね。今振り返ると、10年間よくCubaseでカチカチ地味にやってたなぁと思うよ。音楽を作りたいという願望が強かったのだろう。

制作にハードウェアを導入したのはいつ頃でしたか？

最初に買ったのはMoog Prodigyで、それは2005年くらいのことかな。しかし、前のオーナーがMIDI対応にしてくれていたにも関わらず、僕は長いことそれをただのサンプル・ソースとして扱っていて、サンプラーに録音して使っていたんだ。ハードウェアをちゃんと使うようになったのは、ここ5年くらいのことなんだ。

テクノロジーが苦手だったというのは興味深いです。なにしろ、初期の作品からすでにあなたらしいサウンドが出来上がっていました。手探りで機材を学んでいる初心者のクオリティには聴こえません。

ありがとう。もう随分前のことだし、当時の自分の心理を分析することはもうできない。けどまぁ、もしかしたらだけど、僕はずっと音楽を作りたいと思っていたから、ようやく制作できるようになったとき、熱心に取り組むことが苦じゃなくて、没頭することができたことが理由なのかもしれない。制作を始める何年も前から無意識のうちに、どういった音楽を作りたいのか頭のなかではっきりさせていたのかもしれない。だから、制作を始めるまでは時間がかかってしまったけど、そのことは後悔していないんだ。

当時、あなたの楽曲がクラブのサウンドシステムでどう鳴るかは予想できたのですか？

まったくだね。むしろ、クラブで自分の音楽がかかることを想定していなかったと思う。まず、ただ音楽が作りたいという願望だけがあって、それから、レコードを出したいという思いが芽生えた。若いときは、自分の音楽がレコードの溝に刻まれていることを想像するだけでワクワクしたんだ。しかし、しばらく音楽活動を続けてわかったのは、音楽を作ること自体が喜びであり、それをリリースするかどうかはそれほど重要じゃない、ということ。

あまり知識が豊富ではない人がクオリティの高いものを作ることができて、その一方で、知識がありすぎることがむしろトラウマに近い状態を生んでしまっている人もいることは、皮肉ですね。

知りすぎるよりも、知らないほうがいいときもある。直感を頼りにできるからね。そしてもしかしたら、そのおかげで無意識に相性の良い音要素を選ぶことができて、それが結果的により良いものを生んだりするのかもね。テクニカルなことを全然意識していなかった初期の楽曲が、僕の代表曲だったりする。当時、可能な限り良い音になるように気をつけていたのは間違いないが、昔と比べたら今のほうが圧倒的に知識も経験も豊富だ。運も味方をしてくれたのだろう。

それは、一般的な常識に反することですよね。エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーって、テクニック面にかなりの時間を費やす人が多いですが、良い音楽を生む上では明らかにテクニック以上の要素が関わっているように思います。

ディティールに悩むことがトラウマになる、といった話で言うと、僕は特にミックスのとき1デシベルの違いで悩んで、全てを完璧にしようと頑張りすぎてしまうことがよくある。何をすれば良い音になるのか、そして何をやってはいけないのかということを全て知ってしまうと、それがむしろ足かせとなって、ときには楽しささえ奪ってしまうこともある。でもそれを知ってる限りは「やらなきゃ」と思ってしまう。なにしろ、あとでレコードになったときに直したい部分に気づくと、そこばかりが目立ってしまって自分を許せなくなる。そしてもうその曲は二度と聴きたくなくなってしまう。一番良いのは、完成した曲を可能な限り色々な場所で聴くこと。できれば、聴き慣れている音楽ヴェニューで試して聴くべきだね。

スピーカーとヘッドフォン両方で聴くのも大事なことだ。そんなこと常識なんだろうけど、僕はヘッドフォンで聴くことの重要性を知ったのが随分と遅かった。例えば、ちょっとリバーブをかけていないと、音がドライで馴染んでいないように聴こえるときがある。しかしそのディティールはヘッドフォンじゃないと聴こえないかもしれない。そしてステレオ・フィールドのなかのどの位置で音が鳴っているのかも、ヘッドフォンなしだと気づきにくいことだ。

制作を開始したとき、たくさん音楽を作っていたそうですが、どのくらい頻繁にスタジオにいましたか？また、その頻度はその後変わりましたか？

音楽制作をする頻度は高くなったり低くなったり、だね。最近もたくさん音楽を作っているんだが、1曲を仕上げるのに結構時間がかかるようになった。2010年までは仕事をしながら音楽をやっていたが、当時はもっと制作が速かった。今振り返ると、ほぼフルタイムで働きながら、ほぼ毎週末DJギグをこなして、なおかつあれだけ音楽を作ることができていたのが自分でも不思議なくらいだよ。最近は、せいぜい週に4回くらいかな、ここに来るのは。ここでは音楽を作るだけじゃなくて、レーベルのマネージメント業などもしているんだ。

A Made Up Sound

曲作りの仕方としては、様々なアイディアを試すために色々プロジェクトを始めて、そのうちの一部だけを完成させることが多いですか？それとも始めたアイディアはたいてい最後まで作り込みますか？

昔は、始めたものはほぼすべて仕上げていたんだ。しかし、そうしないほうがいいときもある、ということを思い知ったんだ。どんなに頑張っても結果が良くならないときもある。でもそれは最初わからなかったんだ。昔はちょっと頑張りすぎていたように思うよ。最近は、色々な発想を試してみて、そのなかで本当に「良いな」と思ったものだけ進めることが多い。しかし逆に、すぐには諦めないで曲をいじり倒すことが必要なときもある。少し変更するだけで素晴らしい曲に早変わりしたりするからね。キープするものと破棄するものを見極める力は、経験で培っていくしかないかもしれない。

以前、ワークショップをやったときに、「どういったときに、“この曲が完成した”と思いますか？」と質問されたことがあるんだ。その答えは、気が少しも散ることなく、最後まで通して聴くことができる状態になったとき、じゃないかな。少しでも気になる要素があったら駄目なわけで。むしろ、トラックを止めたくないって思うのが正解じゃないかなとさえ思う。最初から最後まで通して聴きたいから、途中で止めるのは嫌だと感じるくらい。

ひとつの曲に長い時間をかけていたなら、最初から最後まで何回も通して聴くのは大変そうですね。

大変だとは感じないんだ。むしろ、もう手を加えることができない、という段階になってからが大変だ。トラックを納品して、マスタリングされる段階になったら、もうその曲は聴きたくない。なにしろ、「本当にこれで良かったのだろうか」とか考えだしてしまうから。それは嫌な気持ちさ。リリースした後、半年か1年くらい経ったらようやく自分の曲が聴けるんだ。そのくらい時間が経過していれば、当初悩んでいた部分とかも忘れて、素直に楽しむことができる。とは言っても、こんなことは全て気のせいだって自分でわかっているんだけどね。完成しているけどまだリリースしていないトラックだと、こういう気持ちにならないんだ。「まだ変更できる」って思うと安心するんだろうね。

「なら、なぜ音楽をリリースし続けるのか？」って思われちゃうかもね。理由のひとつは、世界の人々に自分の音楽を聴いてもらうのは、今でもワクワクするから。もうひとつの理由は、退屈なことだが、ミュージシャン、そしてDJというのは僕の職業だから。そして最後の理由は、最も重要なんだけど、毎回リリースをするたびに「今回こそは完璧なものができたかもしれない」と淡い期待を抱けるから。心の底から満足できるパーフェクトな作品をいつかリリースしたい、って毎回思っているんだが、きっと一生それは実現しないだろうね。なぜならそんなものはそもそも存在しないから。しかしなぜだか、この考え方が僕のなかではしっくりきていて、音楽活動を続ける糧になっているんだ。

ミックス的に良いという理由で、楽曲の要素を仕方なく抜くようなことはありますか？あなたの作品には、多数の音が鳴っていながらも、ごちゃごちゃしすぎないという絶妙なバランスを保つ曲が多いです。しかし一般的には、音要素が多すぎるよりは少ないほうがミックス的に良いと考えられています。少し前にDelsinからリリースされた12インチには、忙しなく音が入り乱れるトラックがありました。

確かにそうだね、そしてマルタリング・エンジニアにも同じことを言われたよ。音がとても複雑だって。音楽的にというよりは、単純に1曲のなかで色々なことが起きているという意味でね。たしかに、通常そういう場合は要素を減らしたほうが良くなるもんだが、でも要素を抜きたくないと思ったら、なんとか上手く組み合わせるしかない。でもその一方で、要素を減らすことで聴きやすくなるだけじゃなくて、音楽的に優れたものになることだってあるから、曲によるね。

A Made Up Sound

曲を作り始める際、サンプル・ライブラリーから複数回使用している音素材を選んで使うことが多いですか？それとも一から始めることのほうが多いですか？

たいてい、真っさらのキャッバスに新しい音で描き始めるんだ。まぁ、よく使う音というのは確かにあるんだが、基本的には毎回新しい冒険だよ。パズルみたいだ。いくつかの音を持ってきて、何と何が当てはまるか色々試してみて、その組み合わせを見て次に進む。もしすでにできあがってる音素材から選んで使うだけだったら、音楽作りの楽しみが奪われてしまう。

それまで明確ではなかった利用価値をその音に見出すことは、サンプリングの楽しみだと感じますか？

ある意味、そうだね。サンプル元とは別の用途をその音に与えることは好きなんだ。例えば古いレコードからパーカッションの音を抜き取って、ピッチをうんと下げて、サブベースっぽい音にしたら、かなり汚い音になる。サウンドシステムで聴いたらいまいちパンチのないベースに聴こえるだろう。しかし個性がある。そして、これと同じベース音は存在しないだろう。何しろ、もともとベースの役割を果たしていない音だったのだから。これは全ての音に言えることだ。サンプリングした音に、当初の用途とは違う目的を与えたら、面白い結果を生む。

古い音楽をサンプリングする上でよくやってるのが、演奏された音の間の隙間から面白い素材を探すこと。例えばリバーブの末尾の不協和音っぽくなってる部分とか、レコーディング・スタジオの背景音や、スタジオ内の人々の音、意図していなかった静かなパーカッションの音、弦楽器の弦を弾く音とか。そういった瞬間を切り取って、もとの文脈から独立させるだけで、違ったフィーリングとか意味を持たせることができて面白い。そしてそういった素材を加工処理していけば、この世にふたつとない全く新しい音を無から生み出すことができるんだ。

そういう意味では、シンセサイザーで音作りをするよりサンプリングのほうが独創的な音が作り出せると思う。例え他の人が演奏した音を素材にしていてもね。なにしろシンセサイザーなら他の人も同じものを持っているし、設定の仕方によって生み出される音の可能性は有限だと言えるだろう。しかしどこかから見つけてきた音を自分で加工した音は、自分しか持っていない。もちろん、音に個性があれば良い音楽になる、というわけではないけどね。その曲が必要としている音がシンセのプリセットだったり、909のハイハットであったりするときもあるだろう。僕はただサンプリングのそういった可能性にインスピレーションをもらうし、達成感が得られる。

その手法は音質劣化に繋がることもあると言っていましたが、あなたの楽曲のミックスは音が際立っていて綺麗に聴こえます。

そう言ってもらえて嬉しいけど、僕はそう感じないことが多いよ。皆と同じく、ミックスではいつも悩んでる。今、ミックスとか専門的な話を色々してるけど、いまだに僕はアマチュアのようなものだと思っているんだ。アマチュアに毛の生えたようなものさ。だからミックスについて褒められると、とてもありがたいんだけど、その半面ちょっとむず痒くなるのが本音なんだ。ミックスが僕の音楽の強みだと思われたくはないかもしれない。

音をどう処理しているか、具体的な例を挙げてもらえませんか？先程はピッチダウンすることを言っていましたが。

ピッチをいじるのは音の個性をガラっと変えることができるから重要だね。あとはEQやコンプレッサーをいじったり、ループしてみたりして、色々な音にすることができる。逆説的かもしれないけど、そもそもその音を面白いと最初に思った要素を失わないように処理することが大事だと思う。基本的には、音を完全に変えてしまうような強力なエフェクトはかけすぎないようにしている。原音がわからなくなるくらい処理をすることが多いが、もとの音にあった何かを引き出すくらいにしているんだ。ところで告白すると、これは今喋っていて気づいたことなんだ。自分のやり方を普段から分析していたわけじゃないからね。でも要約すると僕のやり方はそういった感じだと思う。

音の処理に使用しているものはKorg Electribe、E-mu SP1200、そしてパソコン、といったところですか？

SP1200はもうしばらく使っていないね。このスタジオ環境の主軸に見えるかもしれないが、実のところそうではないんだ。レーベル・コンピの作業が終わったら、もっとじっくり使ってみようと思ってる。Electribeシリーズを使うことが多いんだ。パッと見、オモチャにしか見えないが、というか実際にオモチャかもしれないけど、むしろそれが良いところなんだ。直感的に操作できるし、できることが多い。スノビッシュな機材オタクは鼻で笑うかもしれないけど、結構パワフルなサンプラーだと思うんだ。コスパも良いしね。そして手に入りやすい。ステップシーケンサーがついてるのも良い。1曲まるごとこれで作ろうと思えば作れちゃう。僕はさっき言ったとおり、パソコンでアレンジやミックスをするけどね。曲のスケッチをするときとか、ちょっと遊びたいときに使うんだ。複雑な打ち込みも必要ないし、ちっちゃな画面をスクロールしてメニューを選択する必要もない。音楽作りを邪魔するようなものが一切ないんだ。

音楽作りにおいて、ワークフローはもっと重要視されていいことだと思う。少なくとも、僕にとっては大事だ。いかに温かい、太い音を出す、値段の高いアナログ・シンセを持っているかとか、モジュラー・システムがいかに凄いか、などよりも大事なことだと思ってる。

これらのElectribeにこれまでの楽曲が全て保存されているのですか？

いや、数曲だけだね。"Stumbler"が入っていたと思う。["Stumbler"の一部を再生する。]リリースされたバージョンとは若干音が違うのがわかると思う。このデバイスは遊ぶには最適だが、音のクオリティに関しては、もうひと頑張り欲しいところなんだ。だからポストプロダクションをしたり、ハードウェア・エフェクトを通したりする。それにはEventideが丁度良いんだ。音を温かくする、といったら言い過ぎだけど、深みを与えて音が活き活きするんだ。

ところで、"I Repeat"のスネアのコムフィルターっぽい処理って、Eventide H3000ですか？

はは、実はその音について聞かれたのは、今週2回目だよ。

もし秘密なら、無理に教えてくれなくていいですよ。

いや、喜んで教えるよ。ああ、たしかにEventideを使ったんだけど、その音の最も特徴的な部分はElectribeに内蔵されているフランジャーなんだ。ネットの書き込みを見てると、「Electribeはオモチャとしては面白いけど、エフェクターとしては大したことない」という意見が多い気がする。しかしそうとは限らない。どうやって使うか、そして何の音に使うかによるんだ。まぁ僕も凄く面白い使い方を発見したとかそういうわけではないんだけど、このスネアには凄く上手くハマったんだ。

その曲の1:30辺りから16分音符のベル音が鳴ってますけど、面白いですね。

それはDoepfer Dark Energyだよ。ベルっぽい音はフィルターとレゾナンスの設定をいじって作ったんだ。しかしこれはすごく扱いが難しい。設定が1ミリ違うだけで、凄く静かな音からスピーカーや鼓膜を破壊しそうな爆音に変わるんだ。だからこれはライブ・セットでは使用することはないね。でも個性があるから好きなんだ。モノシンセっぽくない不思議な音が鳴るんだよ。

あなたの音楽で最も特徴的なのが、クォンタイズされていないシャッフル感のあるリズムです。ダウンビートがほんの少しズレていることで、馬が駆けるような跳ねた疾走感というか、ループが前のめりになるような感覚があります。オーディオやMIDIのブロックをスクリーン上で並べてトラックを作っているのですか？それともビートを組むのはハードウェアでしょうか？

昔のトラックは全て意図して打ち込んだものだったから、もし若干ズレている音があったらそれは僕がその音をそこに置いたからなんだ。昔はよく音の位置を細かくズラして、どういったグルーヴになるか試していたよ。そんなことよくやってたなぁと今は思う。なにしろモニター上のブロックを動かして、人間味のあるグルーヴを作ろうとしていたわけだからね。矛盾しているよ。

しかしそれが結果的に、あなたらしい音楽になりました。

それはありがたい。それに、その気の遠くなるような細かい作業が楽しかったというのもある。しかし今はもっと手を動かして感覚的にトラックを作るようになったから、もうそのやり方には戻れないね。だから今は昔よりもハードウェアを使っているんだ。今では、ハードウェア・サンプラーやドラム・コンピューターでビートを組んだり、パソコンでやるときはAbletonでループしたサンプルをひたすら良い感じになるまでいじる。とにかく重要なのは、マシンやコンピューターではなく、僕自身が決めた瞬間に音が鳴ってくれるかどうかだ。

もう片方のパソコンは何に使ってるいのですか？

それは古いほうのスタジオPCだ。今ではサンプリング・ワークステーションとして使ってる。リビングルームでレコードをサンプリングしたり、ネットから音を拾ってきたり、フィールド・レコーディングとか、シンセから音を取ってきたら、このPCに乗っけてサンプル・エディターで編集するんだ。Steinberg WaveLabの古いバージョンが入ってる。これを使ってピッチを変えたり、音を逆再生したり、ループしたり、録音し直したりするんだ。

あと、古いPCを使ってる理由のひとつは、持ってるハードウェアの大半が古くて、これらのために作られたサンプル・エディターが最近のパソコンでは使えないものもあるからなんだ。例えば、サンプルのロードがすごく簡単になる、誰かがElectribe用に作ったエディターとか。あと、古いプロジェクト・ファイルがすぐに開ける状態なのも良いことだね。例えば、"Waybackmachine"の古いファイルが残っていたのはラッキーなことだった。

マスタリングの前にMacで手直ししましたか？

ああ、プロダクションがそこまで良くなかったからね。Cubaseからステムを持ってきてLogicでミックスし直した。PCとMacを行ったり来たりするのは面倒なことなんだが、どちらもメリットがあるから両方使っているよ。

他のトラックに使った要素を使い回すことはありますか？

あまり無い。さっきも言ったけど、真っさらの状態から新しく作るほうが楽しいんだ。でもAbletonで同じ音を使うことはたまにあるけど、そういう時は違うオクターブにしたり、違うカットの仕方やループにする。ひとつの音を1回しか使ってはいけないとか、そういったルールを決めているわけではないけど、たいていそうなるんだ。

"Bygones"と"Peace Offering"は比較的最近できたトラックですか？これらはサイケデリックかつドリーミーで、SVNやDynamo Dreesenを思い出しました。

ああ、どちらも最近作ったんだが、両方共サンプリングで構成されていて、ハードウェアをあまり使っていない。だから面白いことに、たしかに曲の雰囲気はそうなんだけど、DreesenとSvenと一緒に音楽を作るときとは真逆の作り方なんだ。彼らとコラボするときは、ほぼ100％ハードウェアを使ったジャム・セッションで、それをあとで編集する。そういったコラボにはとてもインスピレーションをもらうんだ。やってて楽しいし、ひとりでは絶対に作らないようなものができあがる。

Bygones / Peace Offeringみたいなトラックは以前から作りたいと思っていたんだが、今回丁度タイミング良く形になった。これらの曲って、まだA Made Up Soundとしてリリースをする前に作っていたような、初期のトラックに近いものがあるような気がするんだ。むしろ、当時作ろうとしていたけど、なかなかできなかったようなものに聴こえる。そういう意味では、この作品で原点回帰したと言えるのかもしれない。

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