その日、DRAFギャラリーには、何とも不思議な人々が集まっていた。カムデン・ハイ・ストリートから少し入ったところにある同ヴェニューに来ているのは、ベルリン風の黒づくめスタイルの人々や、アートディーラー風のツイードの服に身を包んだ人々など、ふだん皆が踊りに行くような場所で入り口前に並んでいる人々とは随分様子が違うようだ。階段を上るとメインのスペースがあり、白く殺風景な空間はすでに満員だ。部屋の中心には3つの機材が置かれていて、2つは大小さまざまなサイズの金属製のシリンダーを組み合わせた長い物体で、もう一つは床から天井まで届くような長い木材に太い金属製の巻き弦の張られた弦楽器のようなものだ。

これらの楽器はEmptysetが製作したものだ。Emptysetこと、Paul PurgasとJames Ginzburgの2人は、10年以上のコラボレーションの中で音響芸術と建築芸術の交錯するところを探求し続けている。これまでにも、廃屋や原子力発電所、またテート・ブリテンやSpike Islandといったギャラリースペースにてプロジェクトやインスタレーションを発表してきた。今回のDRAFでの展示は、丸一年に及ぶ建築的な部分と音響的な部分の調査の果てに、2つのパフォーマンスを決定した。また、これはEmptysetにとって初のフル・アコースティックなショーとなった。

金属製シリンダーの楽器によるパフォーマンスでは、2人がマレット(バチ)でシリンダーを選んで叩き、それが互いにリズムを作り出すものだった。シリンダーからの音は、部屋全体に響き渡っている間にまた新たで独自な音質になる。パフォーマンスの最終局面では、4人のヴォーカリストが出てきて、パーカッションとしての声と、音によるポエムの中間といえそうな、言葉ではないフレーズを歌い上げる。

Emptysetの2人にとって、DRAFでのショーは新たな出発点となった。これまでの作品は音圧で観衆を打ちのめして引きずり込むような印象であったが、このショーでは、最新のアルバム『Borders』と同様、静寂の部分と、フィジカルな楽器を演奏するリアルな存在である人間の影響を追求している。複雑なパターンと混み入ったシグナルチェーンは鳴りを潜め、代わりに2人の人間が物体を打つという要素に取って代わった。

ショーの翌日、サマーセットハウスの地下にある、Purgasのヴィジュアルアート製作スタジオ兼、Emptysetのレコーディングスタジオでもある場所で、パフォーマンス、建築と音響、そして常に新しいものを作り続けてきた2人にとっての新たな出発について話を聞いた。

どういう経緯でDRAFからの依頼があったのでしょうか？

Paul Purgas: もともとは、DRAFギャラリーで年に一度行われているFrieze（訳注 : ロンドン発の国際的な現代アートとカルチャーを取り扱う雑誌）主催のアート・フェアの一環として毎年音楽のパフォーマーを呼んでいるので、それを是非やってほしいということだった。それと別に、丁度ギャラリーの増築をして製作スタジオのスペースを作ったばかりなので、アーティスト・イン・レジデンスをやってみたいというアイデアも出てきていたところだったらしい。もちろんレジデンスをやる期間は1ヶ月以上だ。それを聞いて、Friezeのイベントの中のいちイベントとしてパフォーマンスをするよりも、レジデンスとして長く時間をとって製作し、アイデアを広げていくほうが自分たちに合っているし、やってみたいと思ったんだ。

正直、僕たちにとっても、これは新しい製作方法を試してみるいいチャンスになると考えた。電子楽器に特化しての製作はもう随分長くやっていることだし、今こそエレクトロニックとアコースティックの間に絶対的に存在する”Borders（境界）”を顕在化させるような試みをやってみる時じゃないかと思った。それに、その試みはこれまでも自分たちの背景にずっとあったものが互いに交差する場所でもある。『Borders』の製作でいえば、音楽的人類学、パフォーマンスの文脈、ディープリスニング、もしくは一種の音楽的印象、そういったものを、これまでテート・ブリテンやアーキテクチャー・ファウンデーションと行なったプロジェクトと対比するようにマッピングしてみた。

音楽的人類学のアイデアは『Borders』でより明確に表現されていましたね。ここ数年の作品の中で、このテーマをどのように発展させてきたのでしょうか？

James Ginzburg: とても原始的、根源的なものを呼び起こすこと。基本的、ともいえるかもしれない。こういうテーマは日頃なかなか意識にのぼらないものだ。これまで作品を構築する時は、こういうアイデアを巡回させて、その中で固まってきたものを取り出し、説明が無くてもそのもの自体がはっきりと主張しているものを作ってきた。人間の介在なしで出来上がる宇宙を見ているようなものだよ。複雑なものが、無から生まれ出てくるという発想に興味があったんだ。でもそういうことを目指して何度もやっていくうちに、より自分たちが関わって、相互干渉する世界に興味が出てきた。

以前は2人でこの部屋に集まって、部品を組み立て、手順を作るか、もしくはパフォーマンスにふさわしい現場で製作するかのどちらかだったけど、とにかく自分達2人だけでやっていた。2人の流れを一つにまとめ、そこに至るのに一番合理的な手法で製作したかったんだ。

そうしていると、「パフォーマンスをすることの意味って何だ？パフォーマンスに人間2人が関わってる意味って何だ？音が作られ、観客の意識が集まるイベントに不可欠な要素は何？」みたいに、どんどん自分への問いかけが浮かんできた。この問いかけが自分たちの探求を先導して、今回の実験的な試みの土台になっていったんだ。

その結果は、自分達がこれまでパフォーマンスするのにふさわしいと思っていた環境、自分たちの考えてきたプロセスや、フェスティバルやクラブとは合わないものだった。それで否応なしに、音楽の歴史、特に儀式で使われてきた音楽に目を向けざるを得なくなった。そういうものから宗教的な印象を取り去って、もっと現世的な別のものを提示しようとすること、もしくは第3の可能性として、宗教的かそうでないかの二項対立ではないところにある音楽にアプローチしていくことになった。

アコースティックなパフォーマンスが、どこか本質的に儀式的なものであるように感じたということでしょうか？

James Ginzburg: 数ヶ月前にあったギグで、長々とサウンドチェックをした後にあることに気づいた。それまでは、観客を圧倒するように工夫するのがとても重要に感じていたんだけど、そうではなくて、観客の意識をより内側に向けて引き込むようなもののほうがいいと思ったんだ。過去に自分たちが追求していたことは、とにかく観客を圧倒させるためのアイデア、剥き出しの音楽体験のアイデアで、それがどう精神と身体に影響するかだったけど、今回はそれの逆を行くものになった。音をアンプで増強しないという環境では、観客は今ここで何が起こっているかに対して、自らフォーカスすることになる。それが、これまでとは全く違う空間を作り出したんだ。

Paul Purgas: 僕も昨日まさにそう思った。アンプなしのやり方には飾らない純粋さがある。こうも長年の間一緒にパフォーマンスしてきた自分達でさえ、音楽の中で我を忘れるという感覚に戻る体験をした。これも『Borders』を作る動機になった一つで、ミュージシャンとして、とても純粋な音楽体験、音楽の中で完全に我を忘れるのを再度体験したいと思った。そこについに立ち戻れた気がする。我を忘れるパフォーマンスを追求して、それがとうとう形になったんだ。

James Ginzburg: ちょっと皮肉ではあるけど、『Borders』について自分たちが語ってる事の多くは、純粋さへの気づきについてなんだ。ヒエラルキーがあるようなものではなく、パフォーマンスの中の動きひとつ、ジェスチャーひとつのそれぞれが、そのまま環境や体験に置き換わるような、開かれたものだ。自分たちがこういう事を言うのはおかしいと思うかもしれないけど、人前で演奏する際、より伝統的な楽器を使うほど、ミュージシャンにとってはより直接的な体験に感じられるものなんだ。これは自分達にとっては、一種の反乱だね。

Paul Purgas: できるだけ装置を少なくすることと、これまでのやり方の逆を行くことを考えていた。DRAFのショーでは、構造物を現場に運び込むのと、空間を音響学的にテストし、作り込むのに本当に長く時間がかかった。自分たちが納得できる状態まで準備するのに3週間もかかったんだ。

James Ginzburg: まず、とても原始的なものを目指し、一方で、テクノロジーを感じるものはこの状況の中に溶け込んで感じられないようにした。パフォーマンスが始まる前までにテクノロジーは不可視のものに変換され、パフォーマンス自体が純粋になる。でも、テクノロジー、音、空間の関係性は、よりわかりやすくなる。全てはここで自分たちがやった音響テストに基づいていて、結局はテクノロジーに支えられているんだ。

シグナルパスや、テクノロジーでシグナルをコントロールする方法から離れることで、あなた達の試みが新しい段階に入ったと感じますか？それは、以前のテクノロジーに寄ったやり方への反対を行くものですか？

James Ginzburg: 今は、楽器としての声というアイデアにより注目してるよ。もっと、音楽やサウンドを作る上での人間の直接的な関わりという点についていろいろやってみることが、今自分たちがやっている事につながると思う。継続しているとも言えるし、新たな出発でもあるけど、とにかくまだまだやってみたいこと、夢中になれることがあって、とても嬉しく感じる。

Paul Purgas: それに、探求の方向というのは別に常に直線的である必要はないしね。すでにこの10年でかなりの作品を作ってきたと思うし、そういうプロジェクトが自分たちをここまで連れてきて、これだけのスケールのものをやるという段階に踏み出す自信に繋がっている。それに、完全に消えてしまったものはない。初期の頃には考えなかったようなものに戻っていく可能性もあるし、どんな可能性へのドアでも開けておくのがいいと思うんだ。

これまで、Emptysetは決して揺らぐ事なく構築された理論に基づいて活動しているように感じていましたが、そうした中でも、あなた達は新たな方向性へと進んでいきました。今でも「Emptysetは理論とプロセスに基づいている」と言っても大丈夫でしょうか？

James Ginzburg: プロセス自体は中立的な道具じゃないかな。プロセスで何かに手を加えることのほうが面白い。

Paul Purgas: 最近、あるアーティストに「Emptysetの活動の前提とは何ですか？」と聞かれた。彼はコラージュ作品を作っているアーティストで、彼曰く、Emptysetとは、建築、デザイン、歴史、音楽、唯物論など、あらゆる種類の戦略の複合体だと感じたそうだ。それこそ、僕たちが10年の間に自分たちの中に作り上げたものや、自分達自身と繰り返してきた対話が、コラージュ作品のようになったものだと思うんだ。そうしてできた基礎が、僕たちの基本原理だ。もちろん、プロセス（加工）ということもその中に入っているけど、今後は、そのプロセス自体を作品として表現しようとは思わない。プロセスとは、空間や物体、形、構造に「声」を与えるための方法だと思っているよ。

James Ginzburg: いま興味があるのは、基本原則を作ることや、表現がどれくらい強固なものになったか考えることじゃなくて、構造とプロセスの関係性と、流動性だね。何かを喚起させるため、何かを理解するため、何かと関わるために、こういった手法は何でも使っていけばいいと思う。

サウンドと空間の相互関係について考えた時、例えば、原子力発電所のような場所でも、DRAFのようなギャラリーでもいいのですが、新しい環境で製作を始める場合、まず何から始めますか？

James Ginzburg: 多分、僕とPaulのやり方は違うと思うけど、僕の場合は、まずその空間に入って、これがどういう空間なのかを歴史的背景と建築的背景からチェックし、どういうものが心に呼び起こされるか、どういう体験が共有されるだろうかを考える。続けて、技術的な面で空間をチェックし、テストをして、そこで想定される体験内容や、配置、パフォーマンスにあわせた空間の使い方を考える。ここからまた次の作業に続き、この空間で最も良く共有される体験、喚起される体験、表現される体験と、作品のアイデアについて、出来ることと出来ないことを考えていく。

Paul Purgas: 設計図や、技術的な手続きなどの建築的なプロセスに迫っていく際には、やりたいことに対しての制約や、できることの幅を考える。でも、建物をより人類学的に考えていくと、そこに隠れている歴史的な経緯、受け継がれてきたもののことを考えるね。

空間の歴史的な面を掘り下げた際、社会史的な要素は感じましたか？

Paul Purgas: そこを掘り下げる時にはいつも、時間という観点から追求する方法がメインになる。例えばテート・ブリテンとのプロジェクト（訳注 : ノースウェールズ地方にある廃炉中の原子力発電所でのプロジェクト）だと、まず建物に入ったとき、ここが廃炉中の場所であり、一体100年かけての解体とはどんなものなのだろうと感じた。自分達が入った時点で殆どの機材が撤去されていて、最上階では撤去の準備中で、これから約80年かけて元の風景に戻っていくんだなということも感じたんだ。なので、このプロジェクトはまさに、建物の歴史を捉えていくようなプロジェクトだったよ。

アコースティックな楽器／機材をデザインすることと、シグナルチェーンをデザインすることでは、どういった部分が似ていますか？

James Ginzburg: どちらも、予想できないものに対応していくところが似ていると思う。DRAFで使った鉄のパイプなら、きっと簡単に予想もつくだろうし、計算もできるだろうと思うかもしれないけど、実際にこの物体がどう反応するかというと…自分達は10種類のマレットでパイプを叩いたんだけど、どのマレットも、質も違うし、（叩く部分を）包んでいる材も違うし、音の伸びの感じも違う。なので、経験から予測するしかないんだ。こういう類の楽器を作るときは、その機材自体が持っているポテンシャルや制限を見て、その中でやっていくことになる。何かをデザインする時、当初のイメージとぴったり同じ性能や音が出るものを作れるとは、さすがに思わないな。

Paul Purgas: 『Borders』のことで言えば、その時はもっとツアー向けに持ち運びができるハードウェア機材を作ろうと思っていたので、ほとんど全部の要素を新しい機材にあわせて手直ししたんだ。ユニットが変わるからシグナルチェーンを作り直し、こっちが出たらこっちが引っ込むようにして、モジュラーの方式で見て理解でき、使えるようになるまで作業を繰り返すんだ。こういう、すべてが実物で出来ているものを作る時、特に建築のスケールで作る時には、どうしても予算面での制限が出てくる。音響エンジニアや、使う素材のプロに相談すれば、自分がこうしてほしい、こうしてほしくない、こう動いてほしい等々、イメージしたものに近づけてくれると思うけど、最終的には自分で部品を選んで、現場に搬入する。製作の工程はこんな感じになるね。

すると、作曲のプロセスは楽器／機材の素材が表れたものなのでしょうか？

James Ginzburg: まだ色々遊んでみる段階で、使う物体を触っていると、だんだんそれがどういう可能性を持っているか掴めてくる。自分たちはいつも「さて、30分間の作品を作るにあたって、今この素材で遊んでみている。じゃあ、このセットアップ全体の中で、まだ見えてきていない他の部品はどうなっているんだろう？」みたいな感じだよ。自分たちは結構手早く製作をするほうなので、あるアイデアを諦めたらすぐ別なものにとりかかる。何が出てくるかいつも謎だね。

Paul Purgas: 昔、僕が一人でよくやってた『テクノ・ゲーム』にちょっと似てるかもしれない。ここにJuno-60があるとして、もしこれをJuan Atkinsに渡したら？じゃあCraig Leonに渡したら？この機材から出る反復音で、絶対かぶらないものはなんだろう？ってね。『Borders』では、本当に基本的なセットアップをとても狭いスペースに配置して、最初の2日くらいでアルバムの曲が2、3曲できた。どうやってこのシステムからこんなに早く曲が出来上がってくるのか自分でも不思議だけど、面白いなと思う。ほかにももっと可能性があると思うけど中々イメージするのは難しいね。

過去に、テクノ・アクトとして位置づけられて、不満を感じたことはありますか？

Paul Purgas: 僕らのバックグラウンドはすごく幅が広い。Jamesは文学のバックグラウンドがあって音楽を作ってるし、僕は建築のバックグラウンドがあって、現代アートのキュレーターをやっていて、さらに90年代からテクノのDJをしている。人間は、一人一人が、その人の居た環境と経験によって造られた作品のようなものだと思う。僕はテクノとハウスを聴きつつ建築学校で学び、シカゴについて、デトロイトについて、モダニズムについて、都市計画について学んだ。そこを経て、様式化された芸術教育を受けることになったんだ。

音楽というのは、文化、文明、人道、社会、生活、建築などと幅広く対話することができる、信じられない位にパワフルなものだと思う。こんなに広い範囲にわたって、ほかの芸術分野が背負いこんでいる大荷物も無しで繋がることができる。僕は未だに、ヴィジュアルアートでは不可能な、音楽がエンコードできる体験の即時性をとてもリスペクトしている。芸術の歴史では、知識の中に批判という方法が重々しく含まれてしまっているけど、音楽には誠実さが残っている。それに、音楽の関わる作品は現在でも本当に素晴らしいし、そしてより大切な事だけど、とても民主的で平等だから、誰もがすぐアクセスすることができる。音楽作品を楽しむために大げさな基盤は要らないんだ。

都市生活と音楽の間にあるつながりについて考えたとき、建築環境がどのように変わり、そこから生まれる音楽にどんな影響を与えたと考えていますか？そもそもまだ、そこに「つながり」があると思いますか？

James Ginzburg: その2つは切っても切り離せないもので、どちらかに働きかけることでどちらも変わっていくものだと思う。建築環境の変化によって、自分たちは大きな変化を体験した。その環境の中で存在する方法、自分たちが持てる可能性、そして、デジタルな建築の中でどう存在するかということ。このどちらもが、自分たちが覗き込んでいる鏡であり、その鏡によって自分達は自意識を変えられ、芸術や音楽にどう関わるかも変えられてきた。

ロンドンに5年も住んでいるのは初めてだ。ロンドンには以前から何度も来ていたけど、今回は環境が今までとまるで変わってしまって、ある種の精神世界にいるような感覚を受ける。今までで一番インパクトのある体験だ。その体験自体が、自分自身の生活にも、住んでいる場所にも、変化をもたらした。でも、自分が以前知っていたものが突然変化したという感じではなくて、徐々に変化してきたものとして感じている。

Paul Purgas: 90年代に、偉大なるJeff Millsが、テクノミュージックとは都市のウイルスだと説明した時の言葉を引用するよ。「（テクノミュージックは）自らやって来て、自ら基盤を作り上げる。それはこれまで、音楽というものが体験してきた在りかたと違う、完全に独立したものだ。ウェアハウスの中で、レコードショップの中で、レコードレーベルの中で成立し、独自のシステムを作り出す」。でも現在の都市ではそれがどんどん難しくなっていることは明らかだ。前ロンドン市長の任期の間に、多くの夜遊びのカルチャーが破壊された。音楽製作の未来は、都市生活と連動したり、都市生活自体を主題にするような、20世紀的な感覚とは違うものになると思う。

では、都市生活の代わりに音楽に関わってくるものは何だと思いますか？

Paul Purgas: 田舎でレイブ！...ではないよね。

James Ginzburg: 多分、デジタルな都市生活だと思う。建築環境と音楽体験のとても深い結びつきについてはきっと君も色々意見があると思うけど、一番わかりやすい例はウェアハウスとサウンドシステムというアイデアだよね。そこで、たとえばBoiler Roomを例にすると、音楽を聴き、音楽のある環境を体験するということが、デジタル化された体験として落とし込まれている。自分たちが入る空間を作るというコミューン的な要素に変わって、シェアするというデジタルな体験になっている。

良いとか悪いとかではなくて、これは都市生活文化の避けて通れない進化だと思う。都市は次第に門の封鎖されたコミュニティになり、人々は外に外に押し出されていくので、実際に会うという体験がどんどん難しくなる。歴史的にみて、都市というものの良いところは、人々が出会い、交差する場所であることだけど、もしフィジカルな意味で出会うチャンスが都市に無いなら、人々が交差する場所とはデジタルになる。逆に言えば、僕らは実体のある場所、DRAFのような芸術振興団体とのプロジェクトを行なったり、UnsoundやCTMのようなイベントに出演することで、直接、目の前にいる観客と関わることが出来てとても幸運だと思っているよ。

あなた達は音楽を通じて、精神的な意味で、ロンドンという街の地理を読み解いていますね。もしその、音楽と関わる「地理」という部分が完全にデジタルになることはあるのでしょうか？

Paul Purgas: 恐らくそれはメディア考古学の一つとして、デジタルにも置き換えられていくのではないかと思う。でもそれが、今、僕たちが理解できるような、精神的地理のようなものにはならないかもしれない。もっと、一種のアーカイブ的なものになるだろうね。状況主義者が言うような、デジタルの空間にエンコードされた歴史を発見したり、探検したりというよりは、より系統立てられたものになると思う。

James Ginzburg: それって、社会というものが薄まっていくプロセスだと思わないか？フィジカルな面で関わったり、交差したりする方法がなくなると、揺るがずに共有されている現実というものが社会的には薄まっていき、完全に主観的な体験に変わっていくように感じる。ちょっと想像してみたけど、時代とか時間というものすら感じることが難しくなると思う。この、アーカイブ的な世界のモデルでは、物事全てにログとかタイムスタンプがつくようになるけど、正直、全ての事が、ただそれだけのものになる。美的感覚というものも、実際の空間的な、もしくは時間の並びかたとは全然関係ないところで持つようになるだろう。

懐古主義という要素があるかどうかはわからないけど、より伝統的なやり方で音楽を作ったり、聴いたりすることはあるだろう。それがただの懐古主義ではなく、その時でも有効なものであり、その中にまだまだたくさん可能性があればいいなと思う。

Paul Purgas: それは多分、形の異なる体験を色々組み合わせて遊ぶというアイデアになると考えてる。形式的、伝統的、保守的な表現の仕方をする、という感覚は特になくても良くて、表現するときのフォーマットがより幅広くなる、という感覚であってほしい。伝統的なやり方と伝統的ではないやり方の間には、まだまだ余地があるからね。