今月初め、シェフィールドのデザインスタジオHumanを訪れると、テーブルにはCentral Processing Unitの最新リリースが広げられていた。これからリリースされる設立5周年記念の12インチ盤や、オランダのテクノアーティストNadia Struiwighのテープ、そしてIDMプロデューサーNoumenのCD。廃れてきたものも流行りのものも含め、こうした数十年保証付きの記録媒体による作品は、懐古主義と未来主義を等しく併せ持つこのレーベルのあり方をよく表している。中にはスウェーデンのエクスペリメンタルアーティストGoto80によるフロッピーディスクでリリースされた作品まであるのだ。

設立5年目となるCentral Processing Unit、略してCPUは、特にシェフィールドのアーティストによる楽曲をリリースしているというわけではない。しかし、これまでにリリースされた90年代の雰囲気のあるエレクトロやIDM、アンビエントテクノといった一連の楽曲群には、やはりこの街の歴史的な音楽シーンの影響が感じられる。もちろん異論は承知の上だが、シェフィールドが生んだ最も偉大なレーベルといえるWarp Recordsを筆頭とする、この街が生んだ素晴らしい音楽には、消えゆく工業都市という荒涼とした未来にどうにか折り合いをつけようとした切ない背景があった。

CPUの設立者 Chris Smithは、人当たりが良く気取らない雰囲気の40代前半の男性で、Warp Recordsの”崇拝者”だ。彼とは駅で待ち合わせをしたのだが、真っ先に彼が見せてくれたのは、ディヴィジョン・ストリートにあるWarpの旧店舗だった。現在はCosta Coffee（訳者注：イギリス国内大手の喫茶チェーン店）になっている。また、この店舗の前オーナーだったレコードショップ、FONは道を挟んで向かいにあった。（このCosta Cofeeの店舗についてのInstagramの投稿では、どちらもWarpの熱心なファンであるThe Black DogとSmithの間でWarp旧店舗の正確な場所についての論争があったが、最終的に当時の住所の入ったWarpのショップの袋の写真が投稿されたことで、Smithの記憶が正しかったことが明らかになった）。

この地域での鉄鋼業は80年代の長期不況に伴って衰退したが、現在、シェフィールドは再興の道を進んでおり、素晴らしいアートシーンと、特にマイクロブルワリー（訳者注：小規模独立のビール醸造所。いわゆるクラフトビアや地ビールの醸造所）が注目を集めている。街の中心部では古い建物が美しくレストアされ、街並みに彩りを加えている。しかし、Hope Worksなどいくつかの良質なクラブを除けば、ここにはもうWarpやFONのような、音楽の世界をリードするハブとなる場所は存在していない。人生の殆どをこの街で過ごしてきたSmithにとっては、こうした場の不在が痛切に感じられるようだ。

Smithは、90年代のWarpの遺産を受け継ぐべく、CPUをスタートした。彼は、電子音楽界の巨星であるWarpがロンドンに移転し、より多様なリリースをするようになる前の姿の、精神的な意味での後継者になろうとしているのだ。

「XL Tribeというオンライン掲示板でアンテナを張って、いいアーティストを探してたんだ」。彼は言う。「僕は常連の投稿者で、（テキサスのプロデューサー）Cygnusや、ほか何人かのレーベルアーティストとはそこで出会ったんだ。XL TribeはWarpがいつ契約してもおかしくないアーティストの溜まり場になっていて、彼らのスタイルと時代が合っていないと、誰もが不満そうにしていた。だけどそんな様子が、僕にとっては、まだ誰も注目してない素晴らしいアーティストが何人も行列してるように見えたんだ」。

十代の頃からシェフィールドでDJを続け、以前はSheffield Bleepというラジオ番組までやっていたSmithにとっては、レーベルを始めるというアイデアはいつも頭の中にあった。それを実行に踏み切ることができなかった理由は、良いレーベルロゴを作る自信がなかったからだった。しかし、彼は勤め先であるシェフィールド大学で、先述のデザインスタジオHumanの運営者であるNick Baxと知り合うことになる。なんとNick Baxは以前、90年代にWarpのグラフィックとヴィジュアルを担当し、ビデオゲーム『Wipeout』を作った、あのThe Designers Republicで働いていたのだ。そうしてBaxは、CPUのデザインとコンセプトの作成に協力するようになった。

「Wikipediaで、技術やSF、科学論文や記事を相当長い時間眺めてたんだ」とSmithは独白する。「それで、レーベル名の候補を書いた長いリストをHumanに送った。で、その中にはProtocolっていうのもあったんだけど…」。

「リストから3つ選んだ」と、Baxが話に割り込んでくる。「そこからCPUを選んだのは、省略できる名前だからだよ」。

今やSmithの親友となったBaxは（この２人はいつもお互いの話に割り込んでしまうようで、僕との会話中には今話していいかどうかを計るために終始顔を見合わせていた）、CPUに独特のヴィジュアルアイデンティティと、Warpとの新たな繋がりをもたらした。どのリリースも、白黒のロゴの入ったスリーブに、トラックリストとカタログナンバー、また、作品によっては隠しメッセージが二進法で書かれている。ごく一部の例外を除き、そのリリース独自のアートワークは施されておらず、すべて同じように見える。これは、初期のWarpのシンプルな紫一色のスリーブへの密かなオマージュなのだという。

「こうやって、アーティスト自身がレーベルのあり方に注目するようにしているんだ。こんなことをやってるレーベルは他にないからね」とSmithは笑いながら話す。「殆どのアーティストがレコードカバーに写真や絵をつけたがるけど、僕は『ダメだ、番号だけ』と伝える。そうすれば、このレーベルはこういうスタイルなんだなと、自ずから理解してもらえるんだ」。

「CPUは、初期のWarp、Warpの元々の姿のようでありたいんだ」とSmithは付け加える。「レコードストアに行って、あの紫色のスリーブが見えたら、実際に聴く前から、これはきっと気に入るやつだとわかったし、自分が今からどんなものを手にするかまでわかったんだ。だからCPUでも、レーベルのファンには、自分が今からどんなものを手にするのか、わかってもらえるようにしたいんだ」。

また、このレーベルのレトロフューチャリスティックな印象を作り出している二進法のコードは、Smithのこれまでの生涯にわたるコンピューターへの愛着から影響されたものでもある（SmithはIT分野で働いている）。このCPUの独自のスタイルは、コンピューターが無限の可能性を秘めたものだった時代を想起させる。

「コンピューターはある種の神話を作り上げたと思う」とSmithは言う。「自分自身がテクノ（技術）とエレクトロ（電子）の機械の一部になる感覚というか、そういうものの製造工程にいる感覚だ。なんというか、その…ロボットになるような感じかな」。

スリーブと同様、CPUの音楽もまた、オールドスクールであると同時に未来的な印象を受ける。レーベルの最初のリリース（CygnusとDMX Krewのエレクトロ楽曲のレコード）から始まり、より新しいものでは、自由度の高いIDMトラック（MicrolithやMikronの楽曲）に至るまで、CPU全体にわたる、共通のメロディや雰囲気のセンスが感じられる。

「僕はメロディにこだわってる」とSmithは続ける。「いくらアブストラクトなものでも、その中に音楽性を感じたい。人間性とも言えるかもしれない。だから、特にCygnusの曲がそうだけど、エレクトロのトラックには魂があるように感じるんだ。メロディと人間的な手触りの中に魂がある。聴いてると、いつも一度は必ず鳥肌が立つよ」。

CPUはソーシャルメディアを通してアーティストとつながり、育成をしてきた。Cygnus、Fah、CNは XL Tribeから、Plant43はFacebookからだ。ここから既に、現在のCPUに至る兆しが見えていた（「僕の裏庭に世界全部がある感じだ」とSmithは言う）。先述の、初期からのアーティスト達はヨーロッパとアメリカからだが、最近契約したアーティストの例を挙げると、Noumenはウクライナ、Microlithはマルタ、Mikronはダブリン、214は『ツインピークス』の撮影地でもあるシアトルの郊外を拠点としているなど、非常に広範囲にわたる。それでいてなお、地元志向の強固な基盤に根ざしていることの多い他のライバル的レーベルと同じくらい、CPUは一貫性を持っている。一度もシェフィールドには来たことがないアーティストを擁してもなお、CPUはSmithの統率の下、シェフィールドの音楽的遺産を継承すべく集ったアーティスト集団なのだ。

こうした一貫性は、ある意味で制約でもある。Smith宛てにいろいろな音楽が送られてくるようになったが、例え彼が気に入ってもレーベルの雰囲気に合わない楽曲については、Baxに渡すようになった。彼らが不定期に主催しているパーティー『Computer Club night』は、エクスペリメンタルのアーティストからテクノのDJまで幅広くフィーチャーしているが、彼らはこのパーティーのあり方を反映し、より自由で遊び心のあるサブレーベル、Computer Clubを発足させた。Computer Clubでは7インチのピクチャーディスクやUSBスティックをリリースしており、どれも明るくカラフルなヴィジュアルコンセプトで作られている。

Computer Clubの”楽しい詰め合わせ袋”的なアプローチはCPUにも伝染し、昨年はOff Me Nut Recordsで活躍しているアーティストDaddy Long Legsによる確信犯的なおふざけエレクトロファンクの7インチをリリースした。また、カセットでのリリースにも手を出し、さらにはGoto80の手によるフロッピーディスクでの作品もリリースした。これはCommodore 64（訳者注：80年代初期の8ビットコンピューター）のエミュレーターで作られた作品で、予想外にヘビーな音楽（と映像）が収録されている。

また、もっとも例外的なリリースといえる作品では、遂にCPUの厳しいヴィジュアルコンセプトからも逸脱した。シェフィールド・ブリープのシーンにいた謎のグループDetromentalによる旧作トラック2曲だ。彼らのリリースとして知られているのは、白盤数枚と、一説によると、当時予定されていたWarpとの契約の話が立ち消えになる前に出した数曲程度だ。ある時、Smithは彼らの曲を発見し、メンバーのDean Marriottに連絡を取り、次に彼がシェフィールドに来た際に実家からDATテープを持ってきてもらうように頼んだのだが、結局そのテープが回収されることはなかった。

長年ベッドルーム・プロデューサーでもあったSmithは、オリジナルの曲に使われている機材が殆ど自宅に揃っていることに気づき、結局その自前の機材でトラックを丸ごと作り直すことにした。こうした困難に満ちた作業を経て（Marriottが不用意にサンプリングした素材の出どころを突き止めるのにかなり長い時間を要した）、Detromentalからも万全の了承を受け、このトラックはWarpの初期リリースを思わせる紫一色のスリーブ入りでこの夏リリースされる（Humanデザインスタジオの従業員からは、思わずため息が出ていたそうだ）。

「この件はWarpにも聞いてみたんだけど、さすがだよ。気に入ったって言ってくれた」。Smithは続ける。「遂にWarpの歴史の一部になれたように感じてるんだ。もちろん、ほんの一部だろうけど、僕が一番好きな部分だ。CPUは今後も大きくしていきたいけど、いくつも部署があるような巨大なものにはならないと思う。特に僕の世代には、初期のWarpにあった、純粋で良質な電子音楽の時代を懐かしんでる人が沢山いるから、僕はその空白を埋めたいと思っている」。

「あの頃のシェフィールドが永遠に続くように感じてた」と彼は付け加える。「今になってようやく、当時を振り返ってみて、僕はとてもラッキーで、あの頃は素晴らしかったんだとわかってきた。僕はひたすらその真っ只中にいたから、そこまで自覚できてなかったんだ。Warp Recordがあって、毎週土曜日には世界中から届いた最新トラックのレコードをゲットしに行っていた。たった20分、バスに乗るだけでね。本当に、夢のような感じだったよ」。

Label of the month mix

レーベルの主要人物のひとり、DJ VLRがCPUのサウンドを届ける。

Tracklist /
Alek Stark - RMB 56
Mikron - Out of Body
Federico Leocata - Metacaust
Fah - Cautionism
B12 - Step Inside
Mrs Jynx - Diving Loop
Carbo Flex - Tim
Annie Hall - Herschel
Scape One - Five Hundred Eyes
Morphology - Cobol
MNLTH - Flektro
Microlith - Ju-World
DMX Krew - Space Cucumbers
Tryphème - Away From Prying Eyes
Blixaboy - Masque
Noumen - White Silence
Megatraveller - Escape
Pip Williams - Cutty Told Me
CN - New Ways To Walk
214 - Keep Right
Jensen Interceptor - Microbial
Mikron - Dry Sense II
Goto80 - Fist of Trade
Nadia Struiwigh - Trip In Fiction
Paul Blackford - Proteus
Missqulater - Jenseits Der Traumer
Koova - Retro Transformer
Daddy Long Legs - The Club
Automatic Tasty - Praise Brigade
Detromental - Rewind (Rebuilt)
Cygnus - Arcade Killers
Sync 24 - Program 5
Plant43 - Weightless in The Void
Fah - Uninterpreted