※この特集は2010年に公開された記事の日本語訳です。

ダンスミュージックの本質とは、その発端からして、立派に装飾された専用の建物という部分を超えたところに存在する。1988年、アシッドハウスという言葉が初めてイギリスの新聞のタブロイド紙を飾った時、その言葉は、Hacienda、Heaven、Sternsなど、後にメディアによってモラルパニックの象徴として貶められたクラブのことを指していなかった。アシッドハウスとは、レイヴであり、駐車場や運動場、空き地、工場、そしてもちろん倉庫で開かれた違法なギャザリング（集会）など、想像力を掻き立てられるようなものを指す言葉だった。それから20年以上が経つが、近年のレイブ関連の騒動からもわかるように、エレクトロニックミュージックの世界は今も、合法性の最も辺縁に位置するような場所で行われるイベントに魅了されている。他のタイプの音楽では、ダイブ・ヴェニュー（訳者注: 夜にはライブ会場としても営業する大衆酒場）を嫌厭しつつ、アリーナクラスでの成功に向かうための最初の段階としては仕方のないものとして捉えているが、ダンスミュージックはその質素なルーツを今も認識していて、生々しさ、リアルさ、真のアンダーグラウンドパーティーにあるまっすぐな衝動といったものに敬意を向け、取り入れている。

理論上、パーティーとして認められるための要素はごくシンプルだ。ヴェニュー、サウンド、パフォーマー、客。もし標準的なストロボとスモークマシンのコンボよりも、もう少し洒落たことがしたければ、クールな照明も必要だろう。だが、こうしたシンプルな要素をうまく調和させるのは、決して簡単な任務ではない。例えば、予めクラブとして作られた建物で、すでに定評があり、地元当局からも法的なバックアップのあるような、基本的に安全な会場を使うのでなければ、パーティー開催にあたって生じるリスク、作業、そして不安は、飛躍的に増加する。だが、そこさえきちんとすれば、そうした会場でパーティーを行うことでのクリエイティブな面への恩恵は計り知れない（もし金銭が目的でなければ）。そして、どれだけ評価の高いパーティーオーガナイザーたちであっても、イベントが計画通り成功するかの確証は決して持てないものではあるが、完璧なパーティー作りへの道に確実に近づくための基本的なルールは、いくつか存在するのである。

「僕たちが目指しているのは、
自分たち自身がパフォーマンスし、
時を過ごしたくなるような
パーティーを作ること」

まず1番最初に自問自答すべきなのは、なぜ自分はパーティーをやりたいのか、ということだ。多くのプロモーターたちは、自身がDJする機会が不足していることをきっかけにパーティーをスタートしている。ニューヨークでMister Saturday Nightを主催するJustin Carterは、パートナーのEamon Harkinと共にパーティーを始めた当初の目的について、オープンに発言している。「Mister Saturday Nightは、Eamonと僕がこれまで関わって来た全てのワンオフパーティーやパーティーシリーズと同じく、自分たち自身がパフォーマンスし、時を過ごしたくなるようなパーティーを作りたくて始めた」と、彼は語る。「他のどこにもないようなパーティーでDJするには、自分たちで作るしかなかった。それで僕たちはパーティーの仕事を始めたんだ。」

一方、ロンドン拠点のクルーBleep43のToby Frithは、DJが多すぎるとグルーヴが台無しになると警告する。「僕たちのパーティーには全部で7人が関わっているが、そのうちDJをするのは、自分を入れて2人だけだ」と、彼は説明する。「大抵のパーティーでは、出演DJが大勢いる。自分たちのクラブナイトを通して、自分自身のDJキャリアを積み重ねようとしているようなDJ達だ。それ自体は何ら間違ったことではないんだけど、そういう状況では、非常に優れたDJでなければグルーヴを保てない。意欲的なDJが大勢で同じ空間で競い合っていると、大抵の場合、しばらくするとグルーヴが台無しになる」

より適切な言い方をすれば、良いパーティーとは、世のヒット商品と同様、マーケットの隙間を見つけられてこそユニークな存在になるのだろう。LakutiとAlan Abrahamsは2000年にSüd Electronicをスタートさせ、ロンドンのアンダーグラウンド・クラブシーンがほぼ国内のプログレ～テックハウスに支配されていた当時、Jan JelinekやLawrenceのようなゲストを招聘していた。彼らのパーティーで推し進められていたサウンドは、もっと広い範囲のアンダーグラウンドのトレンドを前もって予期するようなものだった。また彼らは、Rick WadeやMove Dのような当時正当に評価されていなかったベテランたちに、それまでは存在しなかったローカルなプラットフォームを提供した。

Lakutiは、こうした音楽的な先見性を持つためには、タイミングが他の何よりも重要な要素だと説明する。「Alanと私は、自分たちが楽んで遊びに行ける場、自分達が楽しめる音楽がある場、それに幅広い多様性があり、国際的なクラウドがいる場を求めていた」と彼女は言う。「自分は『あるべきタイミングで、あるべき場所に』という言葉を本当に強く信じている。1997年からロンドンに住み始めて、当時はただただ暮らすだけだったから、この街でどんなものが求められ、どんなものが求められていないのかもわからなかった。だけど、自分たちがやりたい事だけはわかっていた。だから、自分たちはこれまで、誰かが求めてるものを先読みしようとしたことはない。私は、何をやれば自分は楽しいのかを考えるのに集中して、もしそれで他の人も楽しんでもらえれば、素晴らしいなと思っている」

MulletoverのRob Starrは、ただ楽しくお金を稼ぎたいからという理由でパーティーをやろうとしている人々に対して警告する。「一番重要なのは、正しい目的をもってパーティーをやること。お金を稼ぎたい、財産を増やしたいという気持ちでやるのは、パーティーとはどうあるべきかを見失っている状態で、それがイベント自体にも影響してくる。音楽が大好きだからやる、他のパーティーとは違うものをやりたいからやる、というのが一番重要なポイントなんだ。この2つの組み合わせであれば、パーティーはうまくいく」

続いての重要なステップは、ヴェニューを見つけることだ。プロモーターの多くにとって、ここがなかなか大変なところだと言えるだろう。比較的寛容な地域に住んでいたとしても、オールナイトでパーティーをやろうとするなら、まずは一から始めなければいけないし。「最初は、Temporary Event Notices（TEN。イギリス政府における、本来はライセンスが必要な飲食や興業イベントを一時的に開催するための許可制度）がとれるなんて知らなかった」とRob Starは言う。「だから、毎回違法な状態でやるしかなくて、常に挑戦の繰り返しだった。途中で止められるかもしれないし、会場の貸主が急にイベントに使わせてくれなくなるかもしれない。そういう、不測の事態を回避するためにずいぶん多く予算を使っていた。工場だとか、アーチウェイを使わせてもらえるように、相手を説得しなければいけなかったんだ。だから、始めた当時は、本当にあちこちを歩き回って、ドアをノックして、空いている場所を探していたよ」

Mister Saturday NightのJustinは、「適切な場所」を探すことが未だに大きな仕事になっているという。「ニューヨークの不動産事情は大変なことになっていて、その影響が色んなところに現れてきている。クラブのオーナーは書面で通知される法律の内容に全て従い、それでいて家のようにくつろげる場所、つまり、皆が何度も何度もまた訪れたいと思う場所にしたいのに、全てを法律の基準に合わせるために苦労しているんだ。その結果、すごく味気なくなってしまったり、時代遅れな雰囲気になってしまっているクラブが沢山ある。だから、ニューヨークでクラブを利用するのは、あまりいい選択肢とは言えない。ずっと監視されているようなものなんだ。それに監視する側も側で、高額の家賃を払うためだったり、もしくは難解なルールに従わなければいけないから、監視せざるを得ない」

こうした規制にひっかからないヴェニューはほとんどなく、ヴェニュー側はそうした規制を仕方なく無視している部分もある。「自分たちが昔、まだ手探り段階だった時にパーティーをやった穴場的な場所は、最近だとまた別な問題に直面している」とJustinは続ける。「仮設の場所でイベントを開催するのは難しい。セットアップもたくさん行わなければいけないし、もとからサウンドシステムがあって現場スタッフがいる場所でやるよりも、先に支払わなければいけないコストが高くなる。それに、仮設の場所はいつ使えなくなるかわからない。どんなパーティーでも起こり得ることだ」

イベントの新鮮さを保つために、定期的に開催地を変えているパーティーもある。会場を変えることで未知な要素を取り入れているのだ。しかし、そうした例外的なパーティーを除けば、いざ約束の地といえるヴェニューが見つかれば、できるだけその場所で続けようとする。Bleep43のToby Frithは「以前使用したヴェニューは、今後使うことはないだろう」と言う。「とにかく、会場というのが非常に重要なところなんだ。ごく最近まで、ロンドンで a) やっかいなことがない b) サウンドシステムが素晴らしい c) お客の入りが期待できる場所にある、この3つの条件が揃ったヴェニューを探すのは大変な苦労だった。これまで使ったヴェニューは立地が良くなくて、それだと、いくらサウンドシステムがあっても、パーティーをやるのは大変なんだ。今使っているCorsica Studiosには満足しているし、今のところパーティーが開催できなくなる理由も見当たらないよ」

最後のポイントは、パーティーというパズルを完成させるには必須となるポイント、つまりサウンドだ。あなたが折紙付きのオーディオマニアではないにしても、サウンドのクオリティは最も重視すべき部分だ。特にエレクトロニックミュージックでは、たとえば昔ながらのライブバンドのような視覚的にわかりやすい面白みよりも、プロダクションのダイナミックさや音色の豊かさが最優先されているからだ。歴史的には、パーティーはまずサウンドシステムありきで組み立てられていて、サウンドシステムのオーナーが、必要のある場所に設備を持ち込むという形で運営されていた。これは、さまざまな規制がなされ、とやかく言われがちな現在の世の中では一般的ではなくなってきているが、お気に入りのスピーカーキャビネットが押収されてしまう可能性があるとしても、身銭を切ってサウンドシステムを揃えることを考慮してみても良いだろう。

イギリスでは、Funktion Oneなど評価の確立されているブランドは、サウンドシステム主体の90年代のダンスカルチャーにそのルーツがある。今後もパーティー作りを長くやっていきたいなら、議論の余地はあるかもしれないが、自分の求める最良なサウンドを保証してくれるサウンドシステムを揃えてみるのもいいだろう。「熱意があるなら、自分で組み立てることだってできる」と、C3 productionsのJohn Castrillionは言う。C3 productionsは、イングランド南部で半合法な野外テクノパーティーとして活動を始めたが、現在ではGay PrideからLovebox festivalまで幅広いジャンルのイベント、また数え切れないほど多くの定評あるクラブに完全なサウンドシステムをセットアップしている。「サウンドシステムを1から組む方法の勉強会はよく開催されていいるし、あとから組み合わせたり、追加したりできる、ごくシンプルなサウンドシステムを買うという方法もある。それでも予算が足りないというなら、近所の音響会社の倉庫や工房で廃棄になったものを入手するのもいいだろう。そういう場所では、非常に使える素材を無料で手に入れることができる。しかし、はっきり言うと、デッキや照明、ミキサー、その他機材とは別に、300～400人くらいのパーティー用に適切なPAを組むだけでも、1万英ポンド（約148万円）くらいはかかる」。キャビネットを搬入／搬出する肉体労働という点はともかく、先述した押収というリスクを考えて、他からレンタルしたり、とりあえずヴェニューに据え付けのものを使うのがいいのか、どれが一番ベストかは考えてみてほしい。

どちらにせよ、サウンドシステムは、イベントが始まる前に適切にセットアップされていることが肝心だ。サウンドがいまいちだということ以上にパーティーの評判を悪くするものはないし、今回話を聞かせてくれたプロモーターの誰もが、優先リストの最上位に「サウンドシステムのセットアップ」を挙げていた。また、音楽用に作られたヴェニュー以外でイベントをする場合であれば、たとえ住宅エリアから何マイルも離れていたとしても、現地での騒音制限のチェックは必須だ。「自分の一番の失敗は、6年前、警察に強制的にパーティーを中止させられたこと」とLakutiは言う。「素晴らしい場所を見つけて、セットアップにも丸一日を費やして、パーティーの噂もかなり広がっていた。午前1時にはパーティーは完全に満員になり、外には驚くほど長い行列が出来ていた。騒音対策の関係者が来たのはその時だった。私は、彼らをなんとか説得しようとして、音量を下げると約束したのだけど、その時不意にというか、不運なことに、ウォームアップDJが前の曲より音量の大きいレコードをプレイしてしまった。それで、今すぐパーティーを中止するか、もしくは警察を呼んできて全員が取り調べされるかしか選択肢がなくなってしまった。パーティーを続けるために全員が取り調べられるなんて、それがどんなパーティーだとしても割に合うはずがない」

「誰もが話題にしているような
人気アクトを呼ぶよりも、
その一歩先を見れば、驚くほど
手頃な値段を提案できることもある。」

さて、定番のヴェニューと、完璧にチューニングされたサウンドシステム、手助けしてくれたり、パーティーに来てくれる、できればその両方をやってくれる友人達とが揃ったところで、いよいよパーティーをするための最も根源的な動機になっている部分について考える段階がやってくる。音楽だ。多くの場合、始めたばかりのパーティーであれば、レジデントDJと同じくらい熱心で、なおかつスキルがあり、人々の注目をしっかり集められるようなゲストをブッキングする必要がある。始めたばかりだと、観客になりえる人々の大半は、レジデント達には興味がないものだ。もちろん、少なくてもその時点では、だが。定評あるアクトのブッキング担当者と仕事をするのは手強く感じるかもしれないが、もしかすると現地のマーケットでちょうど死角になっていたり、自分の地域がブッキング担当者から見てまだ未踏の地であった場合は特に、あちこちで成功を収めているアクトが思ったよりも高くない費用でブッキングできる場合があることも、心に留めておいてほしい。

そこそこ名前のあるアクト、例えばRAの年間DJ Pollで上位30位以内に入っているアクトのブッキング費用は、千ユーロから1万ユーロ（13万～131万円）、もしくはそれ以上までさまざまではある。しかし、誰もが話題にしているような人気アクトを呼ぶよりも、その一歩先を見れば、もし自分のパーティー日程の前後に同じ地域内のほかのプロモーターも同じアクトを呼んでイベントを行いたい場合は、驚くほど手頃な値段を提案できることもある。定評あるアクトは大抵、空港のチェックインで時間を費やすのを好まず、移動の大変なツアーを避けられるなら割引に応じることが多い。こうしたミニツアーを組むことで、渡航費用や宿泊費を分担して受け持つことができるだけではなく、それで出演者が満足してくれれば、将来的にはブッキング担当者が、新たなマーケットの開拓をしてくれたという恩に報いて、特別料金を提示してくれる場合もあるだろう。

音楽自体に関しては完全にあなた次第だ。どれだけ熱意をもって頑張ったとしても、選んだ音楽が観客や幅広いメディア、そのほか、パーティーの可能性を広げてくれるような存在に必ず気に入ってもらえるという方法論はない。真のパイオニア的パーティーには独自のサウンドがあり、それがやがて彼らの名刺代わりになる。WarehouseからMusic Institute、そしてThe Tunnel、The Omen、Tresor、Lostへと続いていく。しかし大抵の場合、進化はラッキーなアクシデントよりも努力の積み重ねによって生まれる。はじめは、ごく小さなシーンの中で仲間を増やすところから始めよう。今の音楽の流れを変えるような風が強く吹いたら、今大流行しているものは明日には打ち捨てられてしまうのだから。

Bleep43のToby Frithは「定期的にブッキングするゲストがいる」と話す。「常に新しいラインナップでやろうとすると、気持ちの面でなかなか大きなエネルギーを費やす。すると、本当にブックしたいと思う人よりも、経済的な面で現実的なほうを考えざるを得なくなってしまう。これまでのゲストの中には、Urban TribeやConvextionのようにブッキングするまで本当に大変だったアクトもいて、かなりの賭けだった。やってみたらイベントも当たったし、ブッキングして良かったと思っている。彼らはステージに呼ぶに値する、また本当に彼らを尊敬しているオーディエンスの前でプレイするのがふさわしいアーティストだ。デトロイトのアーティストはあまりヨーロッパでプレイする機会がないから、イベントが当たったというのもあるかもしれないけど、それにしてもブッキングできて本当に満足しているよ」。何をするにしても、仮にイベントが失敗した場合でも、支払いはきちんとできるようにしておこう。たとえ予想外の事態で資金不足に陥ったのであっても、金銭問題ほど、ブッキング担当者やアーティスト、また音楽コミュニティ全体からのブラックリスト入りにまっしぐらな道はない。

お金を払ってでも客に来てもらいたい、という考えに行き着くのは、定評あるアクトをブッキングするためにはどのパーティーにとっても核心となっている部分だ。先述した通り、たとえフロアの動きを止めない程度の数であっても、パーティーに来てくれるとあてにできる友人が十分いることが大切だ。Facebookの友人やTwitterのフォロワーを集めるのは簡単な時代ではあるが、意欲的なプロモーター達の多くは、オンラインのフレンドリクエストに気安く応じるような単純な人をターゲットにすれば、パーティーの始まりは十分いっぱいにできると考えている。しかしこのアプローチはある程度のところまでしか有効ではない。自分のパーティーを誇大宣伝しようとしている様子や、誰もが好きに使用できるツールと同じものを使っているのはみじめに見える。プロモーターであれば、変わりばえのないFacebookグループで何度も告知した挙句フレンドを辞められてしまうよりも、専門的なサイトやフォーラムで直接告知（もしくは広告）をすることをおすすめしたい。

パーティー運営に慣れてきたら、自分のパーティーのことを言葉にし、より幅広い人々に届けることができる、ジャーナリストやブロガーといった人々との関係を築くことに挑戦してみよう。音楽ライターはゲストリストに入れるという提案を喜んで承諾する人が多く、現場で目撃したものを気に入れば、張り切って伝えるはずだ。信頼できるブログ、ポータルサイト、雑誌などに好意的なレビューや紹介が載ると、注目度は上がり、観客側も見知らぬ人から渡されたフライヤーを見る以上に、あなたがパーティーで打ち出している音楽により一層興味を持ってくれるだろう。「自分たちもフライヤーを作るが、昔からの慣習としてやっている部分が大きい」とMulletoverのRob Starは言う。「デザイン的な側面が欲しいし、実際に手にして見られるものがあるのはいいことだ。ただ、3～４万枚もフライヤーを刷っていた時代はさすがに終わった。コストに合わないし、観客を増やすのには効果的でないと思う」

Süd ElectronicのLeratoは、フライヤーは、ほかの宣伝用ツールよりも限定的なブランディング用に使うツールだと認識している。「自分たちの宣伝はオンラインフォーラムや口コミがほとんどだから、フライヤーはごく少部数だけ用意して、ウエストエンドのレコード店に置かせてもらっている。自分たちは大規模な宣伝をするパーティーではないから、PRのプロには頼まない。友人に少し手伝ってもらいながら、全て自分でやっている」。このことから、宣伝の度合いは自分の目指すもののスケール次第で変わってくるという結論に行き着くだろう。MulletoverのStuart Geddesが言う「アンダーグラウンドから始めて、パーティーが成長すると共に徐々にとっつきやすいものにしていく」というアイデアは間違っていないし、一方、Bleep43のToby Frithの「DJやライブアクトが誰なのかも把握していないような客ばかりが会場に満ちている」状態を避けたいと言う考えも間違っていない。パーティーの場で自分の隣にいるのが、ただ誰かといちゃつきたいような人であれば、人生を全肯定したくなるような音楽体験をするのは難しくなる。しかし、アンダーグラウンドで居続けるのは、それ自体が大変なことだ。Tobyはいつも、観客が十分に入るかどうか「神経がすり減る」ような気持ちで祈っていると認めていた。

「イベントの夜、
会場の後ろに立っていると、
ここまでやってきた甲斐があったと
実感するんだ」

ここまでに述べたことを全て確実に遂行したとしても、パーティーが成功するという保証はない。ダンスミュージックの歴史には、先を行き過ぎていたり、過去のものに頼りすぎていたり、野心的すぎたり、慎重すぎたり、もしくは単に不運で失敗に終わったイベントというものの夢の跡があちこちに散らばっている。もともとの観客層が歳をとって子供ができ、パーティーに来なくなるということもある。自分が心から信じていた音楽が誰にも聴かれなくなり、同じスタイルながら音楽性を薄めた派生物的な音楽が、ライバルのパーティーを満員にすることもある。また、最初の段階で投資しすぎて、予算が底を尽きてしまうこともあるだろう。

しかし、こんな言い方は陳腐に聞こえてしまうかもしれないが、自分のやっていることを信じて、できる限りやり続けるなら、遅かれ早かれ、成功することができるはずだ。最初に夢見ていたような形とは違うかもしれないが、想像以上に、途方に暮れるほどの成功をすることだってあるだろう。だが、ダンスミュージックのカルチャーは全て、最も商業的なものでさえ、少ない予算で大きな夢を見る、純真なパーティークルー達のポケットの中にその端を発している。そういう人たちがいなければ、世界的に有名なクラブ、DJ、リリース、それにこうしたウェブサイトも、存在することはなかったのだ。

プロモーター人生には、真に大成功といえるようなイベントを開催すること以上に、満足を覚えるような出来事もあるという。「当日の夜、会場の後ろに立ち、全てがセットアップ完了されているのを見る。やがて会場が満杯になっていき、人々が輝くような時を過ごしているのを見ていると、思わず、なんて素晴らしいパーティーなんだと口から言葉が漏れる。皆の記憶に残る特別なパーティー、これが我々のパーティーだと自信をもって言えるパーティー、皆が望んでいたパーティー。これが、プロモーターを始めてからずっと、自分がやりたかったことなんだと感じる。ここまでやってきた甲斐があったと実感するんだ」