多作なリリース、海外でのツアー、レーベルMad Love Recordsの立ち上げなど日本のハウス・シーンでめきめきと頭角を現しているKeita Sano。Antinote~birdFriendからのリリースから数年経て全国で活動の場を広げているSHIZKA (旧・井上調)。Altzmusicaからのリリースも話題のDaisuke Kondo。ハウスを基調としながらもそれだけに留まらないスタイルで国内外で活躍する3人のアーティストだが、彼らは皆岡山出身で、今も岡山を拠点として活動している。

3人の内、筆者が最初にその存在を知ったのはKeita Sanoだった。4,5年前、SNS上でたまたまシェアされていたSoundCloudのリンクを開き、そのサウンドを聴くと……ガツガツと組み立てられたディスコ・サンプルが、4ビートの上で享楽的なムードを伴って展開し、それをまとめるラフで骨太なミキシング。シカゴ・ハウスの初期衝動からディスコ・ダブの色気を現代的にひと繋ぎしたスタイルに唸り、そしてプロフィールにある「OKAYAMA」の文字に、岡山と海を挟んで隣の香川に住む筆者としては非常に強いインパクトを受けた。

それから数か月後、レコードショップのサイトを眺めていた所、ジャケットに大きく日本語が記された12インチが目に留まった。アーティスト名と思しき「井上調」と書かれたアートワークのそのレコードのインフォメーションには、リリースはパリのAntinoteから、ジャーマン・ロック～ニューエイジ風のシンセ、繊細かつミステリアスな作風、作者は岡山在住の20代のアーティスト……とあり、作風に強く興味を引かれるとともに、「岡山」の文字に、数ヶ月前に知ったKeita Sanoの存在を思い出した。

ほどなくして2人に実際に会い、そして現場で彼らのライブ／パフォーマンスを見る機会を得た。岡山市内のYebisu Ya Proで観たKeita Sanoはあの最初にSoundCloudで聴いた印象はそのままに、手数の多いハウス・ミュージックでフロアーを揺らし、ノイズ喫茶iLで観た井上調は4つ打ちに留まらずベース・ミュージック風の展開もあり、しかし一貫して艶のあるシンセ・サウンドを軸にしたマシン・ビートを鳴らしていた。その後も年に数回のペースで二人とクラブ／ライブハウスでコンタクトを取る内に、岡山で知り合ったのがDaisuke Kondo。Theo Parrish~Sound Signatureからの影響を彷彿とさせる、タフネスと品を両立させたファンキーなハウスを作る彼から、彼ら3人ともがいずれも同級生で10代の頃からの友人同士だと知った時、筆者は強く心を動かされた。

同じ街に住むアーティスト数名の友人らの交友関係を核に、パーティが生まれ、コミュニティが生まれ、それが都市単位で音楽シーンに発展していく様子……古くはデトロイト、ベルリン──と書けば少々大袈裟だろうか。しかし近年であれば、例えば1080p〜Mood Hutなどでお馴染みのバンクーバーや、The Francis Inferno OrchestraやTornado Wallaceなど粒揃いにアーティストを輩出しているメルボルンの盛り上がりは周知の通りだ（二つとも、首都でないエリアなのが面白い）。その新たな潮流が日本の、岡山から生まれ得るとすれば──。

西日本豪雨から間もない盛夏の中、瀬戸大橋を渡り、彼らの住む街に向かい、3人の現在、そして未来を尋ねた。

3人とも10代のころから友達なんですか？

サノ：もともと調 (SHIZKA) と俺は同じ中学で、三年生のとき同じクラスになって (仲良くなった)。ダイスケとは高校生のとき、レコ屋とかで見かけて、そん時ダイスケはスケーターじゃったけん、カッコええなと思って…。

コンドウ：（笑）

サノ：ダイスケと喋ったんは高校卒業してからペパーランド (岡山の老舗のライブハウス)で、そん時はもう調はバンドやっとったし、ダイスケもバンドやっとって、俺もDJやったり曲作ったり…18,19の時じゃな。その頃俺が聴いてたのは、Robert ArmaniとかAdam Beyerとかのハードテクノだったな。

シズカ：私も高校のときコンちゃんに出会って、コンちゃんにパンクのイベント連れてってもらったりしてた。

コンドウ：俺はバンドでベースやってて、シーちゃん（SHIZKA）はお父さんがベーシストやから、お父さんに色々教えてもらったり。シーちゃんからはバンド文化を教えて貰った感じ。

3人ともけっこう親や家族に音楽が好きな人がいたようですね。

コンドウ：親がジャズ好きで。

サノ：うちもジャズとフュージョンじゃな。あと俺は兄ちゃんが音楽好きで、テクノを聴かせてくれてた。

シズカ：うちの親はロックンロール。だけどいろいろ聴いてて、車のBGMはスチャダラパー（笑）

コンドウ：シーちゃん (SHIZKA) のお父さんはベーシストで、俺はベース教えてもらったりしてました。

クラブに行き始めた頃で、印象に残ってるDJやパーティはありますか？

サノ：ジャムっていうクラブにKAGAMIさんが来た時、兄貴と一緒に行って……俺、ほんまに卓球さんとか田中フミヤさんのテクノがめっちゃ好きじゃったけえ、まだ酒飲めんけん水だけ飲んで、で踊り狂ってた。

コンドウ：ペパーランドにDJ NOBUが来てた時があって。ドレッドで半裸でDJやってて、その時のDJが凄い良かった。

シズカ：いろいろあるけど……ペパーでALTZさんとA.K.iii.O!!!さんがやってた時。A.K.iii.O!!!さんって人が岡山がいるんだけど、その人のDJは衝撃的だった。

サノ：レコ屋はGreen House 、Groovin’、ANGUS、AIM RECORDSとか行っとった。

シズカ：（岡山のレコ屋も）だいぶ減ったよね。

サノ：Groovin’も昔は二店舗あった、サンプル盤が安いから通っとった。

トラックを作り出したのもその頃ですか？

コンドウ：俺は20才くらいの頃にMac買って、Logicも持ってて、でもしばらくはインストールしただけで放置してて。それをケイタが「（トラックメイク）やれやれ」って進めてきて（笑）。DJ Rels (Madlibの別名義) や4 Heroが好きだったんで、最初のうちは主にブレイクビーツを制作していました。

サノ：俺は兄ちゃんの影響で、13才くらいからパソコンのフリーソフトで打ち込みやっとったなあ。高校生になったら兄ちゃんからMPC貰って、それでダブみたいなトラック作って、テープに録音したりしとった。

シズカ：私は13,14才くらいからバンドをやってて、最初はブルハのコピバン。やけどオリジナル曲作り始めて、メルトバナナとか聴き出して。

サノ：メルトバナナ、ハマっとったよな。

シズカ：で、高校生になるとURとUnderworldに出会って、スッゴい未来を感じて、こういうダンスミュージックをバンドでやろうって思った。

サノ：（当時のSHIZKAのバンドは）カッコ良かったよな。　

コンドウ：むちゃくちゃカッコ良かった。今でも観たい。

シズカ：そういうバンドをやりつつ、MTRを買って、4つ打ちのサイケデリックみたいなのを宅録で作って。バンドはハタチか21才くらいの時に解散して、そこからCubaseとか買ってDTMを本格的にやり始めた。その頃はビートっぽい、ヒップホップっぽいと言うか、トリップホップっぽい感じをやってた。

作ったトラックはどこで発表していましたか？3人で聴かせ合ったりしていましたか？

サノ：俺はMySpaceもやっとったし、ALTZさんにデモ渡したりしょうたな。とにかく人に聴いて欲しかった！その頃からレーベルにはどんどん送りょうたな。Stones ThrowにもCD-R送ったり。

コンドウ：anticon.とか、ヒップホップがサイケデリックになってくあの頃の流れはめちゃくちゃ面白かったなー。

サノ：そもそも、平尾って人がいて。もともとYebisu Ya Proで働いとった人で、この人が俺にMister Saturday Night Recordsとかいろんなレーベルのことを教えてくれて、送るきっかけになった人なんじゃけど。俺はその人に教えてもらってリリースしたレーベルとかいっぱいある。平尾くんはキーマンですね。

コンドウ：ハタチくらいの時に出会って、クラブでのマナーとか遊び方を、平尾さんに教えてもらったって感じかな。

サノ：そうじゃな、すごいお世話になった。……で、調やダイスケにも作った曲聴かせよって、最初は全然リアクションも無くて、でも「この曲はいいんじゃない？」っていうのもたまにあって、それで続けられて…調ん家行って「曲できたんじゃけど」って聴かせたり。

シズカ：（作った曲を）聴かせあいよった。

サノ：で、ほぼ毎週、そういうやり取りがあって…ある時、調の作っとった曲を俺が聴いてて「調、あのレーベルとか送ったええ」って勧めたんがAntinoteで。

シズカ：それが2014年くらい。すぐリリースが決まって、出たのは2015年とかかな？
(「Down Into The Black Church / Camping In Your Soul」「Achromatic Illusion」など井上調名義でAntinoteからリリースされた一連の12インチ)

サノさんは"デモ魔"としてレーベルに送りまくってたらしいですね。

サノ：俺はとにかく「このレーベルの、12インチのラベルに、ロゴと一緒に自分の名前が絶対に載りたい！」っていうのがモチベーションやったし。今は自分のレーベル（Mad Love Records）があるけど、昔はそれで送るレーベルのイメージに合わせて曲作ったりしょった。

そこから現在の活動に至る、と。ここ1年くらいで印象に残っている出演したパーティや、自分でも気に入ってる作品はありますか？

サノ：イベントで最近一番衝撃食らったったのは、去年の11月のパリ。俺の出番の前がBambounouのDJで、それがめっちゃ良くて。元々俺の兄貴もBambounou好きで、俺も聴いちょったし。で、カッコええし、でも話しかけやすくて、あれは食らったなー。リリースだとLPH WHITE (Let's Play Houseのサブレーベル) から出した「Totsu」。　　

コンドウ：俺はALTZさん主催のALTZMUSICAから「Rongorongo」という12インチをリリースした事ですね (リミックスでKeita Sanoも参加)。やっぱり昔からALTZさんは憧れだったんで、嬉しかったですね。そのリリースパーティも楽しかったし。制作も人前でやるのもどっちもやっていきたいですね。

シズカ：私は最近はDJとライブが楽しい。制作もマイペースにやりつつ、全国いろんな所に行って…出たイベントはどれも思い出深いけど、あえて一つだけ挙げると、去年10月の渋谷WWWβでのNeoplasia（Dr. Nishimura、speedy lee genesis、アスパラ、NOVO!が出演）はすごく新鮮でしたね。皆の前でライブやったりDJする面白さ、気持ち良さを改めて身に染みて感じましたね。

サノさん、コンドウさんは今年、Mad Loveからスプリットで『O-Town EP』という作品も出されましたよね。

サノ：「O-Town EP」は、俺とダイスケ、お互いが思うダンスミュージックの捉え方、お互いの現時点の制作の趣向を一枚のレコードにするという企画なんですよ。

コンドウ：サノと松下源さん（a.k.a.サモハンキンポー。思い出野郎Aチームのパーカッションとして知られ、サノ氏とともにMad Loveの運営を務める）から話を頂きまして。O-Townっていうタイトルについては、密に話し合って決めたというよりも、普段の生活に出てくるような、お互いに馴染みのある言葉にしようってことで。

サノ：(タイトルは) 知ってる人には感じとってもらいたい、フィーリング重視のものですね。

現在のトラック制作は皆さんどんな環境ですか？

シズカ：私はKORG MS-20やBossのコンパクトエフェクター、Native InstrumentsのMaschineなんかで素材を作って、手弾きもしつつ、それをCubaseで構成してる。あとはいろんなソフトシンセ試したいですね。

コンドウ：主に使ってるのはLogic 9です。レコード等からサンプリングして、崩していく感じですね。あとElectro-HarmonixのCathedral（リバーブの名機）はよく使ってます。エフェクターだとBossとかEVENTIDEのものもよく使いますね。

サノ：DAWはLogic Xで、あとMPC 2000XLは使ってる。AVALONやVDBXのコンプを前は使ってたけど、最近は違う音を作りてえけん、ちょっと離れとる。ラップトップも使うけど、ハードだけでやるときもあるし。ハードも、MC909、SP-404、Electribeとかいろいろ使うし、曲とか気分によってセッティングはめっちゃ変わる、俺は。　　

日々研究と言った所でしょうか。

サノ："トラック作りたい"って人はおる、そういう人には俺は機材とかミキシングも自分のわかる範囲で伝える。伝える人がおらんけん…別に（技術を教えたとしても）同じ（ような曲には）にならんけん。

コンドウ：LAとかにカッコええ曲作る奴がおるんは、皆で教え合いよるけんやろうな。

アメリカやヨーロッパはトラックメイクのためのフォーラムも充実してますよね。

サノ：海外はダイレクトに（情報や技術を）シェアしょうるけん…日本でももっとオープンにシェアすればええよな。

岡山にシーンはありますか。

コンドウ：音楽が好きな人は多い街だと思いますね。

シズカ：岡山だけの空気観みたいなものは、あるような気がします。

サノ："シーン"っていうのは個人それぞれにあって……例えばデトロイトでも、それぞれ皆に世界観があって、そういう人間が集まって、違いはあっても尊敬し合って、それが結果、外から見て"シーン"って言われるようになっとると思う。

デトロイト・テクノは一人一流派というか、Jeff MillsとDerrick Mayだけでも音楽性はかなり違いますよね。でも同じ環境の中でサバイブして、互いにリスペクトし合ってますよね。

サノ：ここの3人はそれぞれ音楽性はちょっとずつ違っても、それを尊重し合っとるけん、それを大切にしていけば自ずと"シーン"になると思う…まだわからんけどな。

コンドウ：それはそうやと思うわ。

サノ：世界だろうと岡山だろうと、曲作るいうのは一緒じゃと思う。それを誇りもってやれば、後から付いてくる人もきっとおるじゃろうし。今後を見ていて欲しいっていうのはある。

今後の活動の予定は。

コンドウ：マイペースにやっていきますが、海外でのライブはやりたいですね。制作では自分のスタイルを確立したい。Degoがドラムンベースやブロークンビーツを提示したように、自分も何か発明したいですね！

シズカ：HAKANA (ex.CICADA。XXX RESIDENTSのメンバーでもあり、現在岡山在住)とWutataneというユニットを組んで『LESS』『ゆら』『Flow』などのイベントをオーガナイズしています。始めたばかりですが、皆で素晴らしい時間を共有できればと思ってるんで、遊びに来てほしいですね！

サノ：いろいろ準備してますよ！まだ言えませんが…楽しみにしといて下さい、ムフフ。