去年の今頃から私たちは300以上のアルバムを批評し、さらに何百もの作品を耳にしてきました。先月編集チームはRAのスタッフとコントリビューターに2018年のお気に入り作品を聞き、それを以下のとおり41タイトルのリストにまでそぎ落とし、まとめ上げました。それぞれのLPはどこか並外れています。エレクトロニックミュージックのもつ刺激的な発展を反映し、ある特定のスタイルの最高な例であり、アーティストのこれまでになかった優れた能力が浮き彫りになっている。もしくは、単にそのようなリスニング経験をもたらしてくれる。理由は何であれ、これらは不朽の作品であり、楽しんでもらえると嬉しいです。

トラックのプレイリストをApple MusicとYouTubeで聴くことができます。

- Autechre
  NTS Sessions 1-4
  Warp Records
  
  Autechreの『NTS Sessions』は、現代の音楽に於ける世界観の構築の面で、最も説得力のある作品だ。ひと続きになった楽曲のネットワークが素晴らしいバランスをみせ、また、我々自身の体内のネットワークのように内部的にも繋がっているという包括的宇宙だ。NTSにて、約8時間もの音楽から為る4部構成のシリーズ（約1時間にも及ぶ楽曲”all end”で締めくくられている）として発表された本作は、エレクトロニックミュージックの世界で最も影響力のあるアクトの1組による超大作だ。その存在感を証明するかのように、すでに四半世紀にわたり音楽制作を続けているRob BrownとSean Boothは、決して前進を止めることはない。
  
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  NTS / Session 1 / Session 2 / Session 3 / Session 4
- Julia Holter
  Aviary
  Domino
  
  無調の和音がクラッシュし、Julia Holterの声がオーケストラの上をフォルテ（最も強い音）で飛び交う『Aviary』の強烈でラウドな瞬間には、すぐに心惹かれるだろう。しかし、この90分のシネマティックな傑作の中で、最も魅力的、かつ長く聴きたくなるのは、圧倒的な喧騒の狭間に存在する瞑想的な空間、静寂の瞬間のほうだ。"Another Dream”のドローンなオルガン、"Words I Heard”の甘やかな弦楽器、そして"In Garden Muteness”で奏でられる穏やかなピアノの音は、ここ以外の世界の他の場所全てが"Everyday Is An Emergency”（「毎日が非常事態」の意。収録曲の曲名）のような時、シェルターとなる存在だ。
  
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- Fatima
  And Yet It's All Love
  Eglo
  
  『Yellow Memories』のように革新的なデビューアルバムの後、もし貴方ならどのようにフォローアップを図るだろう？これは、そんな時、劇的に己を再発明する必要は特に無く、ただひたすら自分の芸術性に磨きをかけていけばいい、ということを示した作品だ。FatimaのデビューLPは、モダンソウルに対する規範に捉われないアプローチで驚きをもたらしたが、それを達成した後の本人は、まさに魅惑的といえる、より穏やかで成熟したサウンドに到達した。控えめなソングライティングが、彼女の声を『Yellow Memories』では見られなかった程に輝かせ、最もオーガニックなFatimaを感じることができる。
  
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- Leon Vynehall
  Nothing Is Still
  Ninja Tune
  
  Leon Vynehallの『Nothing Is Still』はどこか、1つのアルバムというものを飛び越えたもののように感じられる。完全に作り込まれたプロジェクトであり、クリエイティブなヴィジョンが、1960年代にイギリスからニューヨーク市に移民したアーティスト自身の祖父母にインスパイアされた中編小説や一連のビデオによって増強された楽曲群という形で、具現化したものだ。悲しみや希望といった文脈、巨大な船や霧深い海のイメージを呼び起こす『Nothing Is Still』は、今年一番濃密なコンセプトアルバムの一つだ。ご機嫌なハウスのバンガーで知名度を上げたアーティストとしては意外ながら、実に上々な出来の作品だ。
  
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- Lucrecia Dalt
  Anticlines
  Rvng Intl.
  
  2018年、Lucrecia DaltはRVNG Intlに幸運な居場所を見つけた。10周年を迎えた同レーベルは、これまでにHolly Herndon、Julia Holter、Visible Cloaksら、エクスペリメンタルなアーティストの作品をリリースしてきたレコードレーベルだ。Daltは『Anticlines』で、他のRVNG所属の有名な同級生たちと同じぐらいのことをしでかした。本作はモジュラーシンセのサウンドデザインと、Dalt本人のスポークンワードのヴォーカルの組み合わせで作られており、彼女自身の地盤工学者としてのキャリアに始まり、犠牲者の頭部の穴からその内部を飲み尽くすというコロンビアの伝説の生き物・ボラロに至るまで、多彩な物事にそのインスピレーションを求めている。
  
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Lucrecia Dalt

『Anticlines』の制作に寄せて

「土木技師としての自身、という部分をなんとか活用したいといつも考えているから、決してそれが時間の無駄だとは思わないし、その部分は自分のレコードに取り入れられていると思う。例えばAnticlines（背斜）というのは、地質学的に形成された地層のことで、それは地層を作るために力が加わっていることと、内面が外に露出していることを表している。私も、自分の音楽に対して同じように感じていて、それこそが自分がやろうとしてることでもある。何か直線的に続いているものには、そこにちょっとしたブレイクを入れたいから、探求して、戻ってきて、ブレイクを入れて、また別のことをやり始める」

- Various
  15 Years Of The Bunker
  The Bunker New York
  
  The Bunker New Yorkは、いちレーベルやパーティーだけに留まらず、コアとなるアメリカのアーティスト達を中心として世界中に大きく広がったテクノファミリーだ。本作『15 Years Of The Bunker』では、Bunkerのレジデント（Derek Plaslaiko、Mike Servito）と、彼らの旧友（Leisure Muffin、Ectomorph）に新人達（Gunnar Haslam、Abi Echiverri）、そして海外からのアーティスト数名（Wata Igarashi、Neel、Tobias）が加わって団結し、この一大キャスト達がそれぞれ最高と思える程の仕事ぶりを見せている。その結果が、テクノ界の活力を感じさせる、ひときわ新鮮で、エクレクティックなコレクションとして結実した。
  
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- Varg
  Nordic Flora Series Pt. 5: Crush
  Posh Isolation
  
  『Crush』は、スウェーデンのアーティストJonas Rönnbergの叙事詩、Nordic Flora Seriesの中で最も劇的な章となった。彼はダダイストのスラム・ポエトリー（詩の朗読）、おぼろげなドリームポップ、勢いあるテクノ、調子外れなブロークンビートトラックといったもの全てを、今や彼のトレードマークとなったガーゼのような層で包み込み、恋に落ちる感覚を表現している。それは、本作を作り上げたアーティスト自身のあり方が反映された、矛盾に満ちた海のようだ。ある時は不条理、続いて胸が張り裂けそうな感覚がやって来て、そして大半の時間は、素晴らしいものだ。
  
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- Sarah Davachi
  Gave In Rest
  Ba Da Bing!
  
  Sarah Davachiは慌ただしいツアースケジュールの合間に新作LPを作り上げた。そのためか、ある種の目的性、すなわち、瞑想としてのドローン、という目的が感じられる。彼女はおよそ縁のなさそうな場所に安堵を見出したようで「聖域を作るのではなく、俗世的な視点から、神聖な建造物の中の空間を擬似的に作り出す」と、Bandcampとのインタビューで語っている。本作『Gave In Rest』のパワフルなミニマリスト的作曲は、それが巨大な大聖堂であろうが、ホテルの部屋の片隅であろうが、セッティングに関して独特の感覚を持つという、Davachiのスタイルを特別なものにしている部分を引き出している。
  
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- Various
  Don't Mess With Cupid, 'Cause Cupid Ain't Stupid
  Trip
  
  Nina KravizのレーベルTripは、リリース20作目に至るまで、精神を溶かすようなテクノの最重要供給源となっている。本作『Don't Mess With Cupid, 'Cause Cupid Ain't Stupid』は、Tripの中でも最もエクストリームな作品であり、ガバやハードコア、そしてあまり知られていないAphex Twinのプロジェクトに並び、若手にもインスパイアされた作品だ。トラックはハードで速く、せわしないが、同時にクリエイティブで、エクスペリメンタルで、ソウルフルですらある。これこそが、Kravizと彼女のレーベルを素晴らしいものとしている不思議な魔法そのものだ。
  
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- Honey
  Robyn
  Island Records
  
  スウェーデンのアーティストRobynはいつでも、悲しみをアンセム調のポップスへと変えてきた。しかし本作『Honey』では、その変化の過程をリアルタイムに聴くことができる。この最も赤裸々なアルバムの中で、彼女は死や失恋を乗り換え、そして頂点に至る。音楽の力そのもののお陰とも言える。RobynはこのLPを「失意の中での日記」と呼んでいるものの、リスナーにとっては、喪失に対面し、それに打ち勝った勝利を示すアップリフティングなアルバムという、まるで逆の効果が現れるようだ。
  
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- serpentwithfeet
  soil
  Secretly Canadian
  
  Josiah Wiseはデビューアルバムで、自身が昔やっていた仕事でのいざこざを思い起こし、その切なる想いをゴスペルにインスパイアされた歌へと導いた。ゴスペルは彼が初めて好きになったものの一つで、それが、彼がエレクトロニックミュージック界で最も力強い声の持ち主の1人であることにも繋がっている。共同プロデューサー達（Katie Gately、Clams Casinoほか多数）も、その歌声をどうコントロールするかをよく心得ており、まるですぐそこで鳴っているかのようなサウンドのベッドを作り、そこで、強迫観念、切望、自己嫌悪といったものについてWiseに歌わせた。本作『soil』は、その正直で明け透けで、ともすれば不快にもなりそうな感情の発露に音楽的な抑制を効かせ、全体を通してまとめ上げた作品だ。
  
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- Christoph De Babalon
  If You're Into It, I'm Out Of It
  Cross Fade Enter Tainment
  
  『If You're Into It, I'm Out Of It』が今年再プレスされた事は、決して懐古趣味によるものではない。オリジナルが21年前に発表されたにも関わらず、この再リリースは現在のオーディエンスにとって20年早すぎたと感じられる作品だ。いわゆる”タイムレス”な音楽といえば、ノスタルジアを感じるような時代に関わるものを指しているが、『If You're Into It…』は、まさに本当の意味でのタイムレスに近いものに思える。暴力と悲しみが、希望と尽きる事ないエネルギーと二重らせんを描くような、パワフルな逆説的世界は、時を経たことによってより強力になる。
  
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- Demdike Stare
  Passion
  Modern Love
  
  マンチェスター出身のDemdike Stareが持つ、瓦礫を黄金に変える才能は、今年、全力で奮っていた。本作『Passion』では、彼らがサンプラーを直火の上に置き、このレコードを出土品、つまり今日リリースされたものが、明日には古代の遺物となるようにすべく、黒々と艶出しをしている様子が目に浮かぶだろう。彼らは時間とカルチャーもブレンダーに入れ、スタイルとスタイルとを時間の流れとは関係なく、しかし彼ら流の奇妙な方法論では辻褄が合うようにつなぎ合わせている。お望みならそれをこじ開ける方法もある。が、『Passion』は、Demdikeを全パーツを等しく扱う錬金術士として、考古学者として、またB-boysとしてとらえるなら、楽しい他なにものでもないものだ。
  
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- Anthony Naples
  Take Me With You
  Good Morning Tapes
  
  『Take Me With You』はもともとAnthony Naplesが友人に向けて制作したアフターアワーズの集いにインスパイアされたミックステープ。それがきちんとしたアルバムになった今作は、おろらく彼の今までの作品の中で一番ステキなレコードになったかもしれない。そのパーソナルな要素がこの作品の温かさを説明する手助けとなってる。深い安心感とくつろぎ、そしてそれをし続けるエネルギー...つまり友人と一緒に過ごす時間の魅力に満ち溢れたアンビエント・ミュージックである。聴きやすいけれどイージーリスニングには程遠い。Naplesが初期のトラックから表現しているメロディーの才能が徐々に引き出され、それがこの作品の焦点を生み出している。
  
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- Jlin
  Autobiography
  Planet Mu
  
  JlinはRAのベストアルバムリストの2017年と2018年の両方に登場する唯一のアーティストだ。昨年は『Black Origami』。今年は、バレエの世界とエクスペリメンタルなエレクトロニクスを一体化させたプロジェクト『Autobiography』だ。このアルバムは、Wayne McGregorが振り付けを担当する、コンテンポラリーダンスプロダクションのしなやかなダンサーたちの為のスコアであり、その意図通りに提示された時には強烈な生命力を帯びる。LPとしては、より繊細なパワーを持った作品だ。静謐なアンビエンスの瞬間が、容赦ないクラップやキックと共存し、バレエが持つ、上品さとガッツに満ちた部分とのバランスが反映されている。
  
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- Silvia Kastel
  Air Lows
  Blackest Ever Black
  
  『Air Lows』は2つのアルバムに渡る物語だ。最初の1つはKastel自身のあやしげなアヴァンDIYシーン出身というルーツを反映したもので、それこそがそのヴァージョンが没になってしまった理由でもある。まさにSilvia Kastelのアルバムそのものすぎる音だったのだ。そして『Air Lows』の最終ヴァージョンとなった2つ目は、これ以上に衝撃的なこともないと思うが、まるでスタジオジブリの作品からそのまま出てきたかのような、柔らかな色合いと滑らかな表面を持つ世界を提示している。聴き手側にはゆっくりと動く雲を眺めているような心地よさを感じさせるものだ。ダークさという安全牌を放棄し、色彩と明快さを選んだことは、アーティストにとって確かな前進であり、今や大きな基盤となっている。その結果が、圧倒的な落ち着きをみせるこのアルバムだ。
  
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- Martyn
  Voids
  Ostgut Ton
  
  ダブステップの黄金時代と、その後の変革の時代のことは、どうにも懐かしんでしまいがちだ。ローカルなサブカルチャーだったものが、拡散し、細分化され、エレクトロニックミュージックの世界に影響を与えた頃、Martynはその一群を率いるプロデューサーの一人だった。特に、2008年から2009年にかけてのリリースでは、同ジャンルの厳ついドラムと重いベースラインを驚異的なまでにエレガントに提示し、後に多くのプロデューサー達が真似した、ハイブリットなテンプレートを作り上げた。『Void』はこうしたレコードの精神と、ジャンルとジャンルがぶつかり合い、互いに浸透し合う事がとても新鮮だった時代を呼び覚ましている。"Manchester”、”Mind Rain”、”Nya”などのトラックは、すべて一新されたモダンさを提示しながらも、そのポストダブステップ的サウンドで聞き手側の気持ちをくすぐってくる。
  
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ORIGINS: Martyn

オランダのアーティストが自身のストーリーを語る。

- Pendant
  Make Me Know You Sweet
  West Mineral Ltd.
  
  Huerco S、Pendant名義としても知られるアーティストBrian Leedsは、エレクトロニックミュージックの世界で最も、良い意味で逆張りで、こちらがいざその有り様を捉えようとするや、すぐに脇道に逸れていくような人間性を提示している。本作『Let Me Know You Sweet』ももちろん例外ではない。Pendantとしての彼のアルバムは、高評価を受けた『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』での心地よい上質さから離れ、ぞっとするような方向性に舵を切った。これはリスニングバーで聴きたいアンビエントミュージックではなく、家路に着く途中、思わず振り返って背後を確認してしまうような、質感のあるドローンだ。
  
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- Yves Tumor
  Safe In The Hands Of Love
  Warp Records
  
  本名Sean BowieことYves Tumorは、人々の予想を撹乱することを明らかに楽しんでいる。柔らかなギターミュージックをリリースしたかと思えば、次にはライブショーで現場を揺るがすほどに絶叫してみせる。そんな彼の最新の”予想外行動”となる本作『Safe In The Hands Of Love』は、彼の心からそのまま出てきたかのようなレコードであり、ソングライターとしてのBowieの姿を我々に知らしめている。”Noid”や”Licking An Orchid”など、ラジオフレンドリーな佳作も収録された『Safe In The Hands Of Love』は、エクスペリメンタルミュージックとポップスの境界線を暖かにぼかしていくような作品だ。
  
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- Surgeon
  Luminosity Device
  Dynamic Tension
  
  SurgeonがレギュラーペースでのDJに復帰し、ドローンとアンビエントを収録したデジタルオンリーアルバムをセルフリリースし、DJ Bus Replacement Serviceと共にLittle Baby Cheesesとしてパフォーマンスを行った今年、彼の8枚目となるスタジオアルバムのリリースは、絶え間なく革新を続けるアーティストとしての再びの勝利を告げる作品となった。2018年のテクノの気分の象徴といえる、トランシーなアルペジオと空に高く響くようなシンセが、ドライヴ感あるクラブトラックの上で瞬いている。死と転生の境界にある空間について書かれた仏教の説話から影響を受けたという本作は、不尽のエネルギーに満ちたテクノだ。その結果が、不安定な感情と強烈なリズムとの、驚く程のバランス感を見せている。
  
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- Grouper
  Grid Of Points
  Kranky
  
  アメリカのノーザンワイオミングでの1週間半の滞在でレコーディングされた『Grid Of Points』は、地域との一体感を感じさせる作品だ。ピアノ曲が収録された22分の本アルバムには、我々と自然との対立するエネルギーが内在化されているように感じる。GrouperことLiz Harrisは"The Races”と”Parking Lot”で、己自身と素晴らしく調和し、日々の暮らしの賛美歌を作り上げている。"Birthday Song”では"This emotional disturbance began / When I could not get the door open / I wailed and turned into a demon.（気持ちが乱れ始める / ドアを開けることができない時 / 私は嘆き、悪魔へと変わっていく）”と歌う。光と闇、調和と混沌、石炭列車がその広がりの間を走り抜けていく。
  
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Grouper

RA Podcast

- DJ Healer
  Prime Minister Of Doom
  Nothing 2 Loose + Mudshadow Propaganda
  All Possible Worlds
  
  これは果たして、DJ Healer / Prime Minister Of Doom / Traumprinz / DJ Metatron / Prince Of Denmarkの最後のレコードとなるのだろうか？ホームページ上にはThe Hollywood Forever cemetery（多くの有名スターが埋葬されていることで知られるハリウッドの墓地）が作られ、スリーブにはShakespeareの名言が引用され、2週間前には3時間にも及ぶ音源がSoundcloudに投下された。本作『Nothing 2 Loose + Mudshadow Propaganda』は、我々がついに実際には出会うことのなかったアーティストからの別れの言葉のような雰囲気が感じられる。真実か、そうでないかはとこもかく、これは彼の音楽が常に纏っていたドラマと謎とを喚起する。この2枚組アルバムで新たに到達した高みとは、一方は希薄さと哀愁、もう一方は無駄の無さと猛烈さだ。イースターの日曜日にリリースされた本作は、今年のエレクトロニックミュージック界きってのビッグイベントだった。
- Marie Davidson
  Working Class Woman
  Ninja Tune
  
  “You wanna know how I get away with everything?（私がどうやって全てうまくやってのけているのか知りたいでしょう？）”と、モントリオールのアーティストMarie Davidsonは本作『Working Class Woman』で不敵に微笑む。"I work all the fucking time.（私はいつでもクソ働き続けている）”。彼女のデビューアルバムは24時間のパーティーカルチャーに皮肉っぽい目を向けているものの、そのカルチャーへのフリーキーなまでの献身ぶりは、音楽そのものにはっきりと現れている。『Working Class Woman』は、シンセポップ、アシッド、ノイジーな実験音楽など、Davidsonのサウンドの側面全てを、ひとつのポップなステートメントとして結実させている。
  
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- De Leon
  De Leon
  Mana
  
  De Leonのファーストアルバムの、ガムランにインスパイアされたポリリズムは、ライブパフォーマンスの結果なのか、それともスタジオでのトリックなのか？多分、その両方の組み合わせ？答えるのは不可能だ。このアーティストは注意深く、自身のことを明かしすぎないようにしているのだ。私達がDe Leonについて知っていることといえば、アメリカのコレクティブAughtに所属し、このセルフタイトルのLPがロンドンのエクスペリメンタルレーベルManaからリリースされたこと。そして、これまで彼らがやってきた中で最良のものは、フルート、ベルの音、変化し続けるドラムパターンの陽気なミクスチャーだ。
  
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- Blawan
  Wet Will Always Dry
  TERNESC
  
  2010年から2011年にかけてリリースされた最初の数枚のレコードで、Jamie Robertsは大抵のテクノアーティストがそのキャリア全体をかけて求めるもの、すなわち、すぐにそのアーティストだとわかるサウンドを編み出し、それはデビューアルバムの時点で成熟に至っていた。本作『Wet Will Always Dry』は、素晴らしいモジュラーのワークアウトのコレクションであり、ザッピングするシンセが唸るベースラインや幽玄なヴォーカルに織り交ざっていくサウンドデザインは、豊かで細部まで凝ったものだ。いくつかのトラック（"Tasser”、”Vented”）はダンスフロアで最も良く聴かれた曲で、その他（"Careless”、”Stell”）は、より親密なスリリングさを感じさせてくれる曲だ。そうした曲達が結びつき、ほぼ完璧に近いテクノLPを形作っている。
  
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Blawan

On album interludes

- SOPHIE
  Oil Of Every Pearl's Un-Insides
  Transgressive Records
  
  SOPHIEのシングルを聴けば、彼女が単なるプロデューサーではないと気づくだろう。何とも神秘的なタイトルがつけられた彼女のデビューアルバム『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』は、それを証明する作品だ。収録された9つのトラックは、ありきたりのものに対する過激な反発を見せていて、ともすれば今年発表された他のどの作品よりも過激だ。ポップスとエクスペリメンタルサウンドをマリアージュさせた点に関しては特にそうだろう。歌詞、カバーアート、ミュージックビデオに関しても、このアルバムは一歩先を行っていて、大きなものから小さなものまで（ジェンダーから電子タバコまで）様々な主題を繰り返し歌い、SOPHIE自身をまばゆいばかりの中心的存在に仕立て上げていく。本作『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』により、SOPHIEはもはや、素晴らしいプロデューサーというだけではなく、スターとなった。
  
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- Hunee
  Hunchin' All Night
  Rush Hour Music
  
  HuneeのDJスターダムへの躍進は、セット中の、サウンドからサウンドへの優雅な跳躍ぶりによるところもあるだろう。Rush Hour Musicのために制作したコンピレーション『Hunchin' All Night』は、制作に少なくとも2年はかかっていて、シーンきってのテイストメーカーとなったDJのコレクションを垣間見ることができる作品だ。Carlos Maria TrindadeとNuno Canavarroによる、フルートがリードするドリーミーな実験作”Blu Terra”（Huneeがよくセット序盤でプレイしている曲）に続いて、高品質なUSハウスとテクノ、そしてセネガル、ガーナ、南アフリカのアーティストの楽曲が加わっていく。
  
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- DJ Koze
  Knock Knock
  Pampa
  
  DJ Kozeはエレクトロニックミュージック界で最も興味深い人物の一人だ。ほとんど毎日、午後遅くまで寝ている不眠症であり、ステージ上でシャンパンをボトルで飲み干す内向的な人間だが、そのトラックは驚くほど自由気ままなサウンドを見せたかと思った瞬間、次には感傷的なものとなっていたりする。『Knock Knock』では、彼の奇妙な世界をまたも垣間見ることができる。ヒットシングル"Pick Up”に最もよく現れている、憂鬱と恍惚の応酬ぶり。この愉快なアルバムは、ハウスミュージック界の最も優れたプロデューサーの一人である彼が、さらに一歩先へと前進した作品だ。
  
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DJ Koze

ハウスミュージックの中にある感情

「ハウスミュージックの気分というのは本当に限られている。例えば、Kerri Chandlerのことを知った時にはとてもセンセーショナルに感じた。うわあ、これはディープでクールだなと思ったんだ。でもフォークミュージックにある多くの感情に触れていくにつれ、何で自分たちはハウスの2コードに捉われてなきゃいけないんだ？と思った。ハウスミュージックにだって、もっと多くの感情があっていいはずなのに、いつも同じように聴こえる曲を作るための方法論ばかりが沢山ある。そして、ソフトウェアシンセは祝福であるけど呪いでもあって、誰もがすぐに他の皆と同じような音を作ることができてしまう。これこそが問題だ」

- Tirzah
  Devotion
  Domino
  
  フックとは、ポップミュージックを構成する要素だ。大抵、最も耳に残るように手を加えられていることが多く、シンプルなメロディ、クリーンな均一さへと要約される。イギリスのシンガーソングライターTirzahのデビューアルバム『Devotion』では、キャッチーで否応なしにポップでありながら、愉快なほど破茶滅茶な音楽を聴くことができる。プロデューサーのMica Leviも、Tirzahのスポットライトを奪うことなく輝いていて、超ミニマリストなピアノバラード"Affection”や、密かに奇妙なダンスフロアボム"Holding On”まで、うまくバランスをとっている。聴くたびに新たな複雑さを見せる、愛おしくなるような印象派的ラブソングのコレクションだ。
  
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- Shinichi Atobe
  Heat
  DDS
  
  Shinichi Atobeについてよく知る人は殆どいない。昨年、彼のDJ中の写真が広まるまで、もしや実在の人物ですらないのでは、と思っていた人も居たかもしれない程だ。しかし、高解像度なBasic Channel風のテクノという、この日本のアーティストの音楽性は、どうしてもその人物像にも興味を湧かせてしまう。2014年の作品『Butterfly Effect』で13年間の活動休止から復帰した後の彼は、強烈な程に首尾一貫していた。しかし、プールサイド風のUKガラージュ"So Good, So Right”や、DJ Sprinklesを思わせる"Heat 1”で聴いてとれる通り、そのサウンドがさらに次元を超えたことで、Atobeはこれまでで最高のレコードを生み出したようだ。
  
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- Specter
  Built To Last
  Sound Signature
  
  Specterの『Built To Last』は数年かけて制作されたものだが、ここに収録されている音楽は20年近い制作活動の賜物だ。Andres Ordonezは2001年、Damon Lamarと共に自主レーベルTetrodeでクラブ用のハウストラックを作り始め、現在の彼の音楽性にも見られる”ディープ・ジャック”スタイルを確立した。しかし彼のデビューアルバムとなる本作『Built To Last』には、より奇妙で魅惑的なサウンドが際立っていて、例えば”0829 Fifty Fifty”では、堅実なハウスグルーヴに、掃除機の吸引音や、不気味な噴水を思わせる音など、珍奇なサンプル音がたくさん散りばめられている。このイマジネーションの深みが、2018年必聴のハウスLPを作り上げた。
  
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- Objekt
  Cocoon Crush
  PAN
  
  ここ最近、テクノにおける未来のヴィジョンが時々、時代遅れなものに思える事がある。だがしかし、TJ HertzのObjekt名義でのセカンドアルバムは、不安をかきたてられると同時に、あまりにも具体的すぎるものを提示しているように感じる。例えば、第四世界のホログラム映像"Lost & Found (Lost Mix)”、もしくは暗殺者へのバラード”Rest Yr Troubles Over Me”のことだ。Hertzはまた、恐ろしい程に超精密な自身の楽曲プロダクションに、細菌の活動のような有機性を加えることでアップデートを図っている。本作の強烈なオリジナリティは、その鎮静的な柔らかさとよくマッチしていて、これまでのHertzの素晴らしいカタログの中でも、本作『Cocoon Crush』はハイライトといえる作品だ。
  
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Objekt

RA Podcast

- Borusiade
  A Body
  Cómeme
  
  1人のアーティストのサウンドを定義付けるのに四苦八苦するのは、大抵が良い兆候である。Borusiadeの音楽は特に捉えどころがなないのだ。このルーマニア人アーティストは自身にとっての重要な影響のひとつにバロック音楽を挙げており（彼女はかつてルーマニア少年少女合唱団に所属していた）、ある人は彼女のダンスレコードに陰鬱な’80年代のジャンルの雰囲気を感じるかもしれない。『A Body』は彼女の音楽が持つ超自然的なミステリーの雰囲気を引き立てている。LPに収録された深く感情に訴えかけるトラックたちは、メロディーとハーモニーの完璧なレイヤーによって結び付けられており、非凡な音楽的才能が現れている。それが最高の極地に達している“Breathw”は、彼女のスモーキーでモノトーンな歌声が魅力的なゴシックドラマだ。
  
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- JK Flesh
  New Horizon
  Electric Deluxe
  
  「19か20歳の頃は、いつか（音楽を）極めてやるんだって夢見てた。でも今は、いつまで経っても極めることなんてできないっていう事実を諦めて受け入れているよ。」これは、Justin K. Broadrickが自身のテクノプロジェクトJK Fleshの最新アルバム『New Horizon』のリリースに関するインタビューの中で語ったことだ。多くの人はこのインダストリアル・メタルのパイオニアのことを何でもできる人と見なしているだろう。『New Horizon』では、彼の揺るぎないパンクスピリットと熟練したサウンドデザインが、テクノを爆発的なものにしている。もし熟練じゃないとしても、それに近いと言える。
  
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- Tim Hecker
  Konoyo
  Kranky
  
  Tim Heckerは"大きく反響する音の壁"で知られるアーティストかもしれないが、『Konoyo』は落ち着いた作品だ。10作目となるソロアルバムで、この卓越したエクスペリメンタルアーティストは無の空間に注目し、日本伝統の雅楽が持つ古典的なトーンを、自身の荒涼とした音のパレットに融合させた。“Across To Anoyo”では、刻まれた雅楽のサンプルが、Heckerのトレードマークであるフルスペクトルのスコールにシームレスに溶け込んでいる。オープニングトラックの“This Life”では、寂しげなグリッサンドによって鳥肌が立ちそうになる。Heckerのその他の作品がフィードバックとテクスチャの塔を組み立てているのに対し、『Konoyo』は壊滅的なダメージを受けた街の灰の中をさまよい歩いている。
  
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- Various
  Kulør 001
  Kulør
  
  コペンハーゲンの高速テクノシーンが何故2018年にこれほど盛り上がりを見せたのかと不思議に思う、懐疑的な人たちもいるかもしれない。140BPMのテクノ？トランス？何が新しいんだ？と。だが、デンマークの首都のシェアアパートメントやウェアハウスレイヴから生まれる音楽は、フレッシュで活気に満ちており、それはヨーロッパやその他地域のクラブで毎週末そうした音楽を貪っている、若くトレンディなクラウドたちにもよく似ている。今年、コペンハーゲンのスターDJであるCourtesyは舞台裏で糸を引き、この街のシーンにおける過去最大の作品を完成させた。このサウンドがブレイクした理由を証明する、豊かで勢いのあるコンピレーションだ。
  
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Courtesy

コペンハーゲンの高速テクノシーンについて

「正直に言うと、まだ始まったばかりのように感じます。この街からは素晴らしいプロデューサーが何人も出ているし、現代テクノにおける最高のメロディーライターたちもいる。世界がそれにようやく気付き始めたみたいですね。」

- Deena Abdelwahed
  Khonnar
  InFine Music
  
  Deena Abdelwahedはかつてこんな冗談を言った。だが、真剣そうにだ。彼女のアーティストとしてのゴールは、アラブのカルチャーの未来を見つけることに他ならないと。『Khonnar』では、そんな彼女の心の中を垣間見ることができる。このチュニジア人アーティストによるファーストLPには、彼女のアイデンティティの葛藤と複雑さが現れている。曲がりくねるメロディーとシンコペートされたリズムが、テクノ、フットワーク、クドゥーロ、UKベースといった彼女が影響を受けたクラブミュージックのパッチワークにアラブっぽさを加えており、さらに彼女のリリックは、アラブの世界と、西洋のアラブに対する誤解、両方を批判している。エレクトロニックミュージックがいかに表出的になれるかを私たちに思い出させてくれる、大胆不敵で、いつまでも心に残る、非常に現代的なアルバムだ。
  
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- HVL
  Ostati
  Organic Analogue Records
  
  HVLとして知られるジョージア人アーティストGigi Jikiaは、しなやかで、夢のようで、そしてとても誠実なレコードを作る。精巧に整えられたそのテクノは、個人的なポエムのようにも感じる。このスタイルは、7月に発売された彼のファーストアルバム『Ostati』で新たな高みへと昇華した。優しく鳴るパッド、漂うリズム、そして作品全体に感じる幻想のようなオーラは、JikiaがレジデントDJを務めるBassianiの、夜明け頃にクラウドがまばらになり、切ないムードが漂い始めたダンスフロアを想起させる。Jikiaがトビリシのベストアーティストであることを明らかにする、素晴らしく、時に超越的なアルバムだ。
  
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- Skee Mask
  Compro
  Ilian Tape
  
  Skee Mask名義のファーストアルバム『Shred』で、Bryan Müllerはリズムを極めた。そして今作『Compro』ではメロディーを極めている。Ilian Tapeからのセカンドアルバムとなった今作は、過去のどのSkee Mask作品よりも色彩豊かで、IDM、ジャングル、アンビエントの変化に富んだ探査であり、Müllerのトレードマークである霞に包まれている。トラックはクラシック（“Kozmic Flush”）からモダン（“Rev8617"）まで幅広いが、どれも明らかにSkee Maskのサウンドだ。『Compro』で、この若きアーティストはフィーリングとリズムの黄金比を発見したようだ。
  
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