Tommi Grönlundは次のように切り出す。「音楽と建築はとても似ている。物質・リズムの反復。私はむき出しになったかたちを好む。それはまるで建築的な音楽なんだ — 理性的な秩序の音楽であり、そこにランダム性が織り交ぜられている」

ヘルシンキのケイラニエミ地下鉄駅には、天井部分から280本のLEDチューブがワイヤーで束ねられて吊り下げられた天井彫刻がある。このチューブ群は、ダークな虚空に浮遊するような効果を意図していると思われる。この彫刻はPetteri Nisunenと共同でGrönlundが手がけたもので、現代アーティストであるGrönlundはその芸術家活動の合間にSähkö Recordingsを運営している。1992年、彼はMika Vainio（故人）という名のミュージシャンと共にこのレーベルを立ち上げた。この彫刻は、フィンランドの音楽におけるGrönlundとSähköの役割を示すメタファーとしての役割を果たしている。つまり、抽象的で時にはほとんどその存在が見えずとも、構造の一部であり続けているということだ。その特質はシンプルであり、何気なく駅の中を通り過ぎていればその存在にすら気付かないだろう。

Sähkö Recordings（一般に＜サーコ＞と発音されるが、フィンランド語本来の発音は＜サックウ>）は、1990年代初頭から2017年に没するまでエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックの成立に貢献したサウンドアーティスト / テクノプロデューサーであるVainioの作品をリリースしてきたことで知られる。VainioのデュオプロジェクトであるPanasonic（のちにPan Sonicを名乗る）は、テクノ / ノイズ / アンビエントを融合し、強迫的なサウンドの波へと変容させた。Ø名義をはじめとした数多くのソロプロジェクトを通じ、Vainioは2019年の現在でもなお他のどれにも似ていない冷淡で滅菌的な独自のサウンドを作り上げた。

そして、Sähköにはジャズとポップ、そしてテクノの融合に取り組むJimi Tenorもいる。TenorはSähköの中心アーティストでありながら、フィンランドではある種のオルタナティブ・ポップスターと呼ぶべきステイタスを確立している。彼は1990年代にWarp Recordsとの複数枚アルバム契約を経て、再び母国のSähköに復帰した。

しかし、Grönlundにとって真の音楽的パートナーとなったのはVainioだった。VainioはGrönlundが現代美術家としてのキャリアと建築のバックグラウンドを結びつける過程を手助けし、そしてエレクトロニック・ミュージック史において屈指の異彩ぶりを放つ重要なディスコグラフィの形成を助けた。

Tommi Grönlund

かつて、Brian Enoは「The Velvet Undergroundのファーストアルバムを買った誰もがバンドを組んだ」と発言した。SähköとVainioは、これと同種の絶大な影響を電子音楽の作り手たちにもたらした — このレーベルは多くのファンを獲得したのと同時に、シーンにおける多くの重要人物を生んだのだった。

「Hard WaxでSähköのレコードを手に入れると、スタッフから褒められた」と語るのは、スコットランド出身で過去15年はフィンランドに住み、Frozen Reedsというエクスペリメンタル・レーベルを運営するIan Fentonだ。「Sähköはパンテオン（殿堂）の一部なのさ。Hard Waxに行くと、そこには “常にクール” とされるアイテムがいくつかあるよね。Aphex Twinはいつでもクールだし、デトロイト・テクノもそうだ。レゲエや一部のワールドミュージックもね。Sähköもその一部だったのさ。これほどのステイタスを築いたレーベルは決して多くない」

Sähköはテクノをリリースしているが、アンビエントやエクスペリメンタルの領域にも踏み出しており、サブレーベル群からはハウスやジャズ、あるいはポップなどもリリースされている。Sähköのリリースペースは散発的で、それゆえスペシャルな感覚をもたらす。リリースの1作1作がヘルシンキから発信される怪電波であり、時としてアブストラクトなイメージでパッケージングされたそのリリース群は、音楽そのものに語らせることを可能にしている（直近のリリースはニシオンデンザメの退色した写真のみが添えられた、謎めいたドローン作品だった）。Sähköに所属するアクトの大半はフィンランド人だが、このレーベルの特異的なサウンドワールドにフィットする例外的な存在としてAtom™やMadteoなどがいる。

重厚かつ音楽的なアクセントでゆっくりと話すGrönlundは、Sähköは “現在進行形のアートプロジェクト” であり、また “自然や人間の環境の中にあるエレメントの表現” であるとしている。Sähköというフィンランド語は＜電気（electricity）＞という意味を持ち、Vainioが開いた同名のレストラン＆バーに着想を得ている。

Sähköからリリースされる作品は、ミニマリスト的傾向が顕著だ。サウンドは周波数やトーンに基づいてアレンジされ、しばしば電気あるいは電気機器そのもののサウンドが用いられる（Vainioは生前、50Hzが最も好きな周波数だと語り、その理由を「配電網とグラウンドノイズの周波数だから」としていた）。Ø 名義でVainioが手がけた初期テクノ作品も、まるでレイヴ・ミュージックを無響室に閉じ込めたかのような滅菌的で閉鎖的なものだった。

「Sähköの作品には、クラブやフェスではすぐには理解されないたぐいのサウンドが入っているよね」と語るのはFentonだ。「Sähköはサウンドアートなどの分野でより耳にする機会の多いサウンドを新たな文脈へと持ち込み、ダンスミュージックとして成立しうる方法で変容させたんだ」

このアプローチの一部は、建築を学んだGrönlundのバックグラウンドに由来している（ただし、彼は建築を専攻したものの学位は修めていない）。Sähköの初期リリース群は、クリーンで幾何学的なシェイプで描かれたミニマルなアートワークを纏っていた。レーベルロゴにしても、波状の線と直線で構成したもので、サウンドの波形と建築家のドローイングテーブルが交わったようなイメージを想起させる。一部のレコードにはセンターレーベルにランダムな穴が空けられており、ベーシックなツールとしてのレコードの使用が示唆されている。つまり、ターンテーブルのロッドを “間違ったコンフィギュレーション” に設定することで、想像を超える結果が得られるというわけだ。

VainioとGrönlundの繋がりは、フィンランド西部の小都市トゥルク（19世紀初頭まではフィンランドの首都であった）で彼ら2人がいくつかのレイヴを主催した1980年代後半まで遡る。当時、2人はHyperdelic Housersと呼ばれていた。アカデミックな教育を受けてきたGrönlund、それに対して自己流・自己完結型で断固たるDIYアーティストだったVainioの2人はことごとく対照的なキャラクターではあったものの、ハウスやテクノ、インダストリアル、EBM、そしてミニマリズムに対する興味の共有が2人を引き寄せた。Vainioの死去に際しGrönlundが寄せた追悼エッセイの中で、前述のようなVainioのスタイルはその料理にも反映されていたと言及している。「彼はその自己流クッキングを “puumies（木こり）料理” と呼んでいた — 粗雑な味わいの、臓物・豆類・根菜・肉などを使った料理だ」

Sähköは、Vainioが初期に手がけていたテクノ作品を世に出す方法として始まった。Grönlundは「もしHard Waxで聴いたとしたら、自分でも買ってしまうだろうと思うVainioのトラックをリリースした」と語っている。Vainioが音楽を作り、Grönlundがそれをリリースする — 彼ら2人のパートナーシップは、終始このようなものだった。Vainioのレコードに関して、そのアートワークをヘルプする以外、その最終的なプロダクトに対してGrönlundが手を加えたり、影響を与えたり、あるいは何らかの言及をすることは認められていなかった。前述の追悼エッセイの中で、Grönlundは次のようにも回想している。「ある時、私がØのアルバム『Oleva 』の2枚組ヴァイナルの曲順を彼に相談せずに変更したことがあった。すると彼は激昂し、4カ月もの間私と口をきかなかった」

Sähköが最初にリリースした2作品 — Øによる「Röntgen」および「Kvantti」— は、その後数十年に渡って続く革新的な音楽の青写真を用意した。このレーベルは、そのサウンドがむき出しの周波数になるまであらゆる要素を取り去った。Guacamole Orchestra名義でリリースされたハウスEPでさえも、ハウスミュージックをコピー機で繰り返し劣化させたかのような奇妙で不可解なサウンドを有していた。

Sähköから放たれた最も衝撃的なレコードのいくつかは、Vainioが製薬工場で働いていた時代にインスパイアされたプロジェクトPhilusによる作品だ。このPhilus名義において、Vainioは不気味でもはや空虚とも言えるサウンドを究め、そのサウンドは彼の代名詞となった。

収録時期が不明のあるインタビューの中で、Vainioは次のように語っている。「私は避妊用カプセル薬を作る製薬工場で勤務していた。毎日、私はプラスティック製の衣服を身につけ、気圧調整室を通って殺菌されたあとに眩い白に満たされた生産室に入っていった。その部屋は、極めて冷淡で非人間的な空気に満ちていた。これと同種の、極端に無彩色な環境を作りたいと私は考えていた」

Vainioが製薬工場で勤務していたのと同じ1990年代中盤、Grönlundはヘルシンキの都市改造プロジェクトに参画していた。そのプロジェクトは、冒頭で述べたケイラニエミ地下鉄駅のインスタレーションよりもさらに野心的で、なおかつ音楽に特化したものだった。Grönlundは2週間に渡るラジオ放送ライセンスを取得し、ヘルシンキ中心部の街区において音楽に反応して脈動する『Ambient City』と呼ばれる光のインスタレーションをキュレートした。

当時の録音テープは、現在でも出回っている。Vainioのライブパフォーマンスを記録したテープは、2019年6月に開始するSähköのアーカイヴ・シリーズの1作目となる。Sähköのウェブサイトでは、『Ambient City』でのセットも含めたGrönlundのTG名義での古いミックスも聴くことができる。

ヘルシンキ現代美術館でもパフォーマンスが展開された『Ambient City』は、Sähköが本格的なプロジェクトとして確立する助けとなった。また、このインスタレーションがきっかけで、Jimi Tenorというもうひとりの基幹アーティストがSähköにもたらされた。Lassi LehtoことTenorは、写真家としての成功を夢見てニューヨークに暮らしていた。TenorはSähköとの出会いを次のように回想している。「Mika Vainioによる最初の2枚のEPをGrönlundが僕に見せてくれたのさ。ハードロックやメタル、あるいは子供騙しの音楽ばかりが溢れているはずのフィンランドからこんな音楽が出てきたことに心底驚いた。まったく異質だったんだ」

Jimi Tenor

Tenorに対し、Grönlundは『Ambient City』用の音源提供を依頼した。GrönlundはTenorの作品を気に入ったが、Grönlundいわく「ミニマル・エレクトロニック・テクノ」に特化していた当時のSähköからリリースするにはそぐわなかった。そこで、Tenorの作品をリリースするためにGrönlundはPuuを立ち上げた。Puuとは＜木（wood）＞を意味し、＜Sähkö（電気）＞に対してアーシーな対比をなしていた。その最初のリリースの中から「Take Me Baby」というヒットが生まれた。このトラックはエレクトロクラッシュの雛形とも言えるベッドルーム・ポップで、MTVでもオンエアされた。

テクノと同じくらいにスムーズ・ジャズとの共通点が多く、サックスをふんだんに使ったTenorの音楽における諧謔と音楽性は、Vainioの音楽性とは遠くかけ離れた世界にあるように思えるが、この両者には類似する特徴があった。「フィンランドのエレクトロニック・ミュージックには、固有のシンプリシティとDIYスタイルが存在するのさ」とTenorは語り、さらに続ける。「サウンドそのものはシンプルなんだ。せわしなくフィルターを動かしているわけでもないし、オシレーターがたくさん使われているわけでもない。Mikaはほんの1個か2個のオシレーターしか使わなかったし、パッド系の音色も使わなかった。僕のアプローチも同じなんだよ」

Sähkö（Puu）との契約を交わしたのち、TenorはトゥルクやヘルシンキでのSähköの日常、そしてニューヨークへのツアーの様子を記録したアートハウス・スタイルの映画を制作した（これはBoiler Roomで視聴できる）。ナラティブらしきものが一切なく、手持ちカメラで撮影された『Sähkö: The Movie』では、若く無軌道で、無尽蔵のポテンシャルを抱えたグループの姿が捉えられている。そのライブパフォーマンスは猛烈で、時に無慈悲であり、ダンスミュージックとノイズ、即興の中間のどこかにあるものだった。

この記録映画における数々のシーンは、Sähköの根底にあった矛盾性を強調している — その究極的にシリアスな音楽は、実はただ単に楽しいことだけを考える男たちの手によって作られていたのだ。あるひとつの印象的なシーンでは、Vainioとその一行が夜明けの街で次のアフターパーティを探す中、ある女性がVainioに早く車に乗るよう懇願している。『Sähkö: The Movie』は愚かしくも軽薄で、極めてSähköらしい特色を記録している。セリフはほとんどなく、筋立てらしきものも少ない — そこにはサウンドと映像があるだけだ。

Tenorが加わったあと、Sähköはさまざまな変遷を経た。レーベルクルー全員でバルセロナに移住し、不遇の時代を過ごしたこともあった（それは彼らがパーティ漬けの日々を過ごし、なおかつスペイン語を学ぼうともしなかったからなのだが）。PuuはFreestyle Man（過小評価されているフィンランド人プロデューサー。本名Klas-Henrik Lindblad）やNicole Willis（Tenorの妻）、そしてSuicideのMartin Revなどのアーティストによるエレクトロやダウンテンポ、ジャズ、ポップなどあらゆる作品をリリースした。これらのレコードは、メインレーベルであるSähköからは出てきづらい奇抜さ、とりわけフィンランド流のユーモアセンスを強調していた。

1999年、GrönlundはもうひとつのサブレーベルであるKeys Of Lifeを友人のHarri Hännikäinenと立ち上げた。Keys Of Lifeはハウスミュージックに特化し、Roberto Rodriguez、Skatebård、Tin Manなどの作品をリリースしている。Grönlundはまたジャズにも傾倒し、古いフィンランド産ジャズレコードのリイシューのみに完全特化したサブレーベルJazzpuuも立ち上げている。

Tenorは当時を懐かしそうに振り返り、次のように語る。「Mika Vainioがホールクラスの会場やミュージアムなどでライブするようになり、その後のSähköの方向性はよりアーティスティックになっていった。でも、初期にはある種サーカス的で愉快なレコード（VainioのTekonivel名義「Sirkus」）もリリースしていたんだよね。それに、かつてバンドリーダーとして活動しながらバンドを辞めたBrandi Ifgrayというフィンランド人の男もいた。彼は夜間のオフィス清掃でお金を貯め、その後自分で作曲を始めたんだ。彼とは一緒にいくつかアルバムを作ったけれど、彼はもう音楽はやめてしまった。今、彼はスウェーデンに住みながら精神科病院の清掃夫をしているよ。でも、僕は彼と作ったアルバムは気に入っている。奇妙な作品なんだ」

過激なまでにクリエイティビティが発露されたこの時期を経て、2000年代後半になるとSähköは活動ペースを落としはじめる。音楽業界はもはや従来ほど採算の取れる状況ではなくなり、Grönlundは自身のエネルギーを現代アートに注いだ。この時期を境にSähköは次のフェーズへ進み、主にVainioの Ø名義での作品（不動のクラシックとなるアルバム2作『Oleva』『Kantamoinen』を含む）、ならびに大絶賛されたMadteoのアルバム『Noi No』などの素晴らしい傑作を、水滴が少しずつ滴り落ちるような遅々としたペースでリリースしていくことになる。

2017年、Mika Vainioがフランスで客死する。レーベルそのものを特徴づけたアーティストを喪ったことで、Vainioの死がすなわちSähköの終焉を意味したとしてもおかしくなかった。しかし、時としてアーティストの死は省察や再評価を促す場合もある。Vainioの死後、Sähköの名はいたる場所で露出した。Vainioを回顧する記事が続々と出回り、Sähköが20年近くにわたってもたらしたインパクトに対してより明確にフォーカスされるようになったのだ。

Ilpo Väisänen and Mika Vainio

注目度の高まりもどこ吹く風といった風情で、近年のSähköの活動は不規則であり続けており、主に『Sähkö: The Movie』から抜粋したØ やPan Sonicの未発表音源、さまざまなかたちでのVainio作品のリイシューを中心とした過去のアーカイヴに根ざしている。PuuはNo-ManやR Vincenzoなどの新たなアーティストを引き入れながら近年もリリースを続けている一方、Keys Of LifeからはDJ SotofettやTigaらのレコードをリリースしている。

2019年初頭にSähköからリリースされたある1枚の12インチは、レーベルとGrönlundの双方を再び活性化させるものになっているようだ。アーティスト名も無名なら、タイトルも「No Title」とされたこの30分のドローン・レコードは、リリース当時さまざまな憶測を呼んだ。この作品を手がけたアーティストについて、Sähkö側は固く口を閉ざしている。今回の取材中でさえ、Grönlundは厳粛な口調で「それは言えない」と語るばかりだった。

「この新しいリリースはレーベルにとってひとつの新たな方向性を示すものになるかもしれない」とGrönlundは筆者に対して語り、さらに続ける。「だが、私はミニマリスト的なコンテンポラリー・クラシカルに対しても非常に傾倒している。そういった方向性に、ダブステップやベース・ミュージック、ジャズなどの要素をいくらか組み合わせたものを探しているところだ。何らかの形になるのを待っている。私は、1日に20時間ほどはインターネットのラジオチャンネルを聴いている」

その一方で、Vainioの生涯と音楽をアーカイヴする作業も続いている。Sähköは過去の未発表マテリアルやパフォーマンスに焦点を当てた新たなアーカイヴ・シリーズを立ち上げたばかりで、また初期のPan Sonic作品をリリースしていたBlast First / Blast First Petiteは、Vainioの生涯について書かれた書籍を手がけている。

「僕はフィンランドに暮らすようになってからもう随分になる」と語るのはIan Fentonだ。「僕が最も重要だと考えるフィンランド人ミュージシャンは3人いる。Jean Sibelius、Edward Vesala（ジャズドラマー）、そしてMika Vainioさ。Mikaのレコードは、単にフィンランド産の音楽というだけでなく、過去20〜30年間のすべてのエレクトロニック・ミュージックの中でも傑出した存在だ」

Sähköに関わった人々の立場にしてみれば、それは誇張した意見だと言うかもしれない。フィンランドは音楽に熱心な国ではあるが（首都ヘルシンキ市内には20軒以上のレコードショップが立ち並び、人口比に対するメタルバンドの数ではフィンランドは他のどの国よりも多い）、フィンランド国内におけるSähköの知名度は決して高いものではない。Tenorは次のように語る。

「もしフィンランドの音楽史について記事を書くなら、Sähköの話題は出てくるかもしれない。でも、人々はSähköについてほとんど忘れかけている。ミュージシャンたちに訊ねてみれば、もちろん彼らは知っているだろう。でも、若い人たちがSähköを知っているとは思えないね。Mikaが亡くなった時、Sähköはいろんなメディアで名前が出たし、同時に僕が撮ったSähköについての映画もBoiler Roomなどで頻繁に露出した。それらをきっかけにレーベルの存在を知った若い人も少しはいたはずさ。でも、こうした動きが実際のセールスに結びついたとは思えないんだ。というのも、Tommi（Grönlund）はそれほどバックカタログの在庫を抱えていないからさ。在庫はあるにはあるんだが、彼には成功に対する強いジェラシーがあるんだ。レコードは実在するけど、それを買うことはできないのさ。僕は『在庫があるなら売ったらいいのに』と言うんだけど、彼は『… 私にそれはできない』と言うばかりでね。彼は決して商売人ではないのさ」

Grönlundと実際に話していると、彼が非常に頑固な性格であることが分かる。彼は自分のやり方を貫く。これは、Vainioと彼に共通した特質だ。「Sähköの存在など、まったく大したものではない」とのたまうことができるのは、彼ぐらいのものだろう。1994年、彼は「私たちはフィンランド国内でなんのステイタスも持っていない。誰も私たちを知らない。とても厳しい状況だ」と語っていたが、つい2週間前には次のように語った。「Sähköを終わらせる理由など、なにもない。続ける・終わらせるなどというのは、まったく重要ではない。どちらにせよ、1,000年後にはこのレーベルのことなど誰も覚えていないのだ」

Sähkö Records：エッセンシャル・リリース

Ø - Rontgen (Sähkö, 1993)

すべての始まりとなったレコード。荒削りながらもすでに特徴的な、Mika Vainio作品としては数少ないストレートな内容。モールス信号とソナー音だけで作られたかのようなテクノ。

Hertsi - Kohina (Sähkö, 1993)

フィンランド人アーティスト、Sami Saloが唯一残した作品。「Kohina 」はPanasonic登場前の作品でありながら、どこかPanasonic的な奇妙なノイズ、異世界的なトーン、異例のアレンジメントを備えている。

Panasonic - Panasonic (Sähkö, 1994)

多くのファンを生んだ、Mika VainioとIlpo Väisänenのデュオ・プロジェクトによる最初のリリース。静電気やホワイトノイズにまみれた、10分のヘヴィーで挑発的なテクノを2曲収録。

Jimi Tenor - "Take Me Baby" (Puu, 1995)

のちに長きに渡るキャリアを築くことになる、フィンランドが生んだ奇才の第一歩を告げた1曲。その後のJimi Tenorを決定づけるサックスやジャズ・アレンジメントはここにはなく、やや特徴に欠けるものの、暴力的なまでの反復と無表情なヴォーカルフックはSähköのカタログ中でも異例のキャッチーさを放つ。

Freestyle Man - Come To Dance (Sähkö, 1998)

Freestyle ManことKlas-Henrik LindbladはSähköのカタログ中における隠された秘宝であり、「Come To Dance」は彼の最高傑作のひとつ。Sähköの多くのリリースと同様、この作品では聴きなじみのあるサウンド — この場合はデトロイト調エレクトロ — にフィンランド流の奇妙なひねりを加えている。

Philus - Tetra (Sähkö, 1998)

製薬工場で働いていた時代の、完全なまでに静寂な無菌空間内での経験にインスパイアされた、Mika Vainioの別名義。彼が残した作品中でも最も不気味で、真に孤独な響きを有するシンセミュージック。

Brandi Ifgray - Maurice Fulton Mixes (Puu, 1998)

元ShadowplayのフロントマンであるBrandi IfgrayことVisa Ruokonenは、Jimi Tenorに言いくるめられていくつかラウンジ・ポップ・レコードを残した。彼の2枚のアルバムは共に極上のフィンランド・ポップだが、Maurice Fultonがリミックスを手がけたこの12インチはPuuのリリース中でも最良のひとつ。

Martin Rev - Strangeworld (Puu, 2000)

SuicideのオリジナルメンバーであるMartin Revのソロアルバム・リリースは、Sähköにとって重要なマイルストーンとなった。その内容は、まるでJimi Tenorをよりラフなポストパンク仕立てにしたかのようなサウンドだった。

Nicole Willis - Soul Makeover (Puu, 2000)

これも罪深いまでに見過ごされているレコードのひとつ。Jimi Tenor、Maurice Fulton、そしてJimiとの結婚後にヘルシンキへ移住した米国人シンガーNicole Willisらが共同プロデュースした、アーシーなファンク＆ポップ・アルバム。

Tin Man - Love Sex Acid (Keys Of Life, 2006)

Sähköのハウス・レーベルであるKeys Of LifeからリリースされたTin ManことJohannes Auvinenの2枚のレコードでは、彼がのちに究めることになるメランコリックなアシッド・サウンドにおける別のパースペクティブが示されている。「Love Sex Acid 」はバウンシーで力強い内容でありながら、彼がのちにリリースする作品のようなエモーショナルな重さが詰め込まれている。

Ø - Kantamoinen (Sähkö, 2005)

Mika Vainioが生涯手がけた中でも最も心地よい作品のひとつ。2005年にリリースされたこのアルバムは、惜しみなく用いられたメロディー、柔らかな質感のシンセによってエモーショナルな魅力を備えている。決して最も広く知られた作品ではないものの、最重要作のひとつであるのは間違いなく、Ø名義でのプロジェクトがテクノを発端としながらもダブにインスパイアされたアンビエント / ダウンテンポに移行してきたことを示している。

Bastian Wagner - Elsmfeuer (Sähkö, 2010)

そのほとんどをアコースティック楽器を用いて作られたこのレコードは、Grönlundのモダン・クラシカル的な嗜好を窺わせる。Wegnerは繊細なエレクトロニック要素を統合しつつ、ピアノ音のディケイ部分を活かす傾向を有しており、これはVainioのシグナルプロセシングやトーンへのアプローチにも似ている。

Madteo - Noi No (Sähkö, 2012)

MadteoがSähköに残したこの唯一のアルバムは、このレーベルに興味を持ち始めた若いリスナーに最適なエントリーポイントとなる。レフトフィールド・テクノ、IDM、そして奇妙なスポークンワードのループで作られた、容赦無くストレンジで魅力的なアルバム。

R. Vincenzo - EP (Puu, 2017)

Grönlundはこのブラジル人アーティストの演奏をフィンランドのフェスで見たことがきっかけでPuuとの契約を決めた。Sähköとその傘下レーベルの中でも、最も最近ロースターに加わったのがR. Vincenzoであり、その存在はほとんど知られていないものの、彼がPuuからリリースした作品はウォームかつアーシーで、オーガニックなパーカッションで満たされている。

... - No Title (Sähkö, 2019)

電気的シグナル、ハムノイズ、その他の残骸のようなサウンドを直感的に心ゆくまでミックスしたこのSähköの最新作は、依然として変わらぬこのレーベルの価値の大きさを示している。