1989年のある夏の朝、シェフィールドのDJであるWinston Hazelは、彼が働くレコードショップのオーナーであるRob MitchellやSteve Beckettと何気ない会話を交わしていた。やがて、彼らの話題はWinstonのパイレートラジオショーに移る––具体的には、Winstonが友人のSean MaherやRob Gordonと一緒に制作し、ショーでプレイしたエクスクルーシブトラックに関する評判だ。

そのレコードこそ、Forgemasters "Track With No Name" だった。それから数週間のうちに、このトラックを収めたホワイト盤がMitchellとBeckettのレコードショップで売り出された。MitchellとBeckett、そしてGordonを加えた3人は、お互いに資金を持ち寄りWarp Recordsという名のレーベルを立ち上げることにした。

2019年現在、Warpはエレクトロニックミュージックにおいて最も影響力の強い、屈指の尊敬を集めるレーベルのひとつとなっている。30年前にシェフィールドのレコードショップの階上で産声を上げたWarpは国際的な一企業へと成長し、成功した映像部門を生み出すとともに各時代の最も革新的なアーティストたちを支えてきた。

2007年のRBMAレクチャーにおいて、 BeckettはWarpの設立当初の目標は「ブラッドフォードやリーズ、シェフィールド周辺のクラブやレイヴ、ベッドルームスタジオで生まれた一連のテクノ」を広く知らしめることにあったとしている。これはつまりブリープおよびベースを指し、ステッパーズ・レゲエのヘヴィーなサブベースとレイヴカルチャーの疾走感、そしてデトロイト・テクノの未来的ビジョンが結びついた、いかにもUKらしいテクノの変異体であった。

LFO、Nightmares On Wax、Tricky Disco、Sweet Exorcist、Tuff Little Unit（これらはすべてミックス / マスタリングの達人であるRob Gordonによる絶妙なタッチアップが施されていた）などのリリースにより、Warpは他のどのレーベルにも増してブリープ / ベースの確立に貢献した。ダンスミュージックがますます使い捨てされるようになっていた当時にあって、Warpの印象的なロゴやビビッドなパープルを纏ったスリーブは一目で認識できた。

ブリープが沈静化すると、Warpは自らの方向性を変えはじめ、まずエレクトロニックミュージックの “ホームリスニング” バージョンを打ち出した。これは “インテリジェント・ダンスミュージック” あるいは “IDM” として知られるようになり、その後のWarpはあらゆる音楽的スペクトラムを横断したエクスペリメンタルでプログレッシブなレフトフィールド・サウンドを送り出すようになる。WarpはAphex TwinやAutechreなどの異端のエレクトロニック・アーティストたち、TortoiseやBattlesのポストロック、Stereolabのヒプノティック・ポップ、Jimi Tenorの奇妙なラウンジコア、Nightmares On Waxのストーナー・ソウル、さらにはFlying Lotus、Prefuse 73、Rustie、Hudson Mohawkeらのイノベーティブなヒップホップ・ビーツなどが隣り合わせで共存できるレーベルとなった。

Warpはいかにして今日の姿にたどり着いたのだろう？　まず第一に、Steve BeckettとRob Mitchell、そして長年彼らの右腕的存在となってきたKev Fleming（現在はレーベルチーフ）の3人は、アーティストたちにアルバムを制作するよう働きかけ、ライブをさせることが重要だと早くから認識していた。想定されるリスナーに対し、どのように音楽を提示するかが極めて重要であることを彼らは最初から見抜いていたのだ。また、彼らはインターネットにその初期から熱中し、大半のレーベルよりも先にEコマースの可能性に着目していた（その姿勢はWarp直営のオンラインショップBleepにも今なお表れている）。

Warpを常に導いてきたものは、アウトサイダーとしてのエートス（気風）だった。これはBeckettとMitchellのパンク的ルーツ、レーベル設立当時に色濃く残っていたUK国内における南北対立の構造、そして支配者層に挑もうとする持ち前の願望に由来するものだ。Warpは過去18年間こそロンドンに拠点を置いているが、レーベルの基礎が築かれた場所はシェフィールドだ。製鉄の街であるシェフィールドにはエレクトロニックミュージックの歴史だけでなく、急進的な政治思想も染み込んでいるのだ。

以下に記したオーラルヒストリーはWarpの歴史上重要な側面、このレーベルが支えた音楽的ムーブメント、さらには過去30年の間に節目を飾ったレコード群などにフォーカスしながら複数のセクションに分かれている。今回の記事のために行われたレーベルアーティストたちへのインタビューから抜粋し、また複数のアーカイブの中からBeckett、Brian Eno、Jon Hassellらの過去の発言を引用して構成した。

Warpのロンドンオフィス内にある会議室には、レーベルの30年間を物語るさまざまな記念品が並んでいる

Warp Records前史

Rob MitchellとSteve Beckettの2人は1980年代初頭に出会い、友人同士になった。やがて彼らはシェフィールドのインディペンデントな音楽シーンでは知られた顔となり、1986年にはシェフィールド市内中心部にある倒産したレコードショップを引き継がないかと話を持ちかけられた。

Steve Beckett: Robに初めて会ったのは、僕が当時やっていたバンドのシンガーがRobを加入させようとリハーサルルームに連れてきた時だった。僕の記憶の大半はあやふやで、地元産のマジックマッシュルームを食って音楽を聴きながらめちゃくちゃトリップしたことぐらいしか覚えていない。動物に変身したり、イエス・キリストに会ったりとかそんな感じでね。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Richard Barratt (Sweet Exorcist): Rob Mitchellのことは少しだが知っていた。彼がレコードショップを引き継ぐ少し前、FON（シェフィールドのレコードショップ）で彼を見かけたり、レコーディングスタジオで一緒につるんだりすることもあった。彼らはどっちかっていうとPulp（シェフィールド出身のバンド）周辺のインディーシーンに属していたね。RobとSteveは同じバンドをやっていた。

Phil Wolstenholme: シェフィールドは自立した街だった。大きなレコーディングスタジオがいくつもあって、そこからたくさんの作品が生まれていた。[『Collective Rendering: The Early '90s CGI Designs of Phil Wolstenholme』RBMA - 2017]

Richard Barratt: ディヴィジョン・ストリートにあったFONは、Nickっていう陰気な奴が店長をやっていてね。FON Studioを運営していたDave TaylorとNickとの間で仲違いがあって、Daveは代わりにRob Mitchellをショップの店長に抜擢したのさ。1986年ごろの出来事だったね。Robは親友だったSteveもショップに引き入れることにした。彼らは俺たちのクラブにも遊びに来ていたから、ダンスミュージックがどうやら熱いようだってことは知っていたようだけど、当時の彼らはそれほどダンスミュージックに詳しいわけでもなかったから、Winston（Hazel）をダンス系インポート（輸入盤）のバイヤーとして雇ったんだ。

Winston Hazel: 僕はParrot（Richard Barratt）と一緒に1985年暮れに始まったJive TurkeyでレジデントDJをやっていた。パーティはだんだん人気が出てきて、いろんなタイプの客が混ざっていた。僕はダンサーたちが何を求めているか分かっていた。彼らが聴きたかったのは、とびきりフレッシュなアメリカ産のダンスミュージックさ。当時でいうとハウスだね。

Richard Barratt: 当時、ショップはまだFON Recordsと呼ばれていたね。その少しあと、レーベルが立ち上がる頃にはショップの名前もWarpに変わった。

Richard Benson (RAC): 当時のシェフィールドにはFONみたいなレコードショップはあそこ以外になかった。当時のダンス系を扱うショップの多くがそうだったように、FONにも独自の世界があるって感じだった。ヒエラルキーがあったとは言わないけど、間違いなく彼らは一部の客を優遇していた。ひいきをしてもらいたかったら、何時間もカウンターで粘らなきゃならなかった。

Winston Hazel: 当時やっていたパーティで僕たちがテクノやハウスをたくさんプレイしていることが知れ渡るようになった。僕たちに聴いてもらおうと、いろんな連中がデモをショップに持ってきはじめた。FONはシェフィールドでダンスミュージックの輸入盤を扱うショップだったし、評判はイングランド北部全体に知れ渡っていたんだ。

Richard Barratt: 自主プレスでレコードを作ったブラッドフォード周辺の連中は、北部の主要なショップを車で巡りながら卸していた。1988年10月のある日、Unique 3 "The Theme" がショップに持ち込まれた。Winstonがカウンターでそのレコードをかけていて「こいつは一体何なんだ？」と訊いたのを覚えているよ。

Winston Hazel: "The Theme" を聴いた時はぶっ飛ばされたね。僕たちが向かおうとしていた方向性、やろうとしていたことにぴったりフィットしていた。僕たちも気づかないうちに、まさしく絶好のタイミングで降って湧いたような曲だった。

Warp誕生

1989年春、Winston Hazelの友人であり、Mark Brydonと共にFON Forceプロダクションチームの一員としてめきめきと頭角を現していたRob Gordonは、Yazzのデビューアルバムに参加して得た多額のギャラを彼のホームスタジオの機材につぎ込んだ。彼は購入した機材を繋げて床に広げ、AKAI製サンプラーの仕組みを見せるためにHazelをスタジオに招いた。

Winston Hazel: Robのレッスンがなければ、僕は曲作りをどこから始めていいかも分からなかっただろう。彼はAKAIのサンプラーを買った次の日の夜に僕を招いてくれた。僕は、CelluloidからリリースされたManu Dibango "Abele Dance" の1985リミックスをサンプリングしてみることにしたんだ。

Rob Gordon: WinstonとSeanは僕の友人だったしね。彼らがハウスが好きってことは知っていたし、いっちょ彼らにレコードをプロデュースしてやるかと考えていた。

Sean Maher: 僕とRobは一服しながら数曲聴いて、Robの新しい機材で遊びながらチルしていたところだったんだ。そこへ、Winstonがレコードを抱えて遊びに来た。

Winston Hazel: Manu Dibangoみたいなレコードを作ろうってアイディアがあった。それをサンプリングするのではなくね。RobがManu Dibangoのレコードをターンテーブルに置いてサンプリングしはじめたんだけど、結局最後にはそのサンプルはズタズタにチョップした。そこにテクノのビートを入れたかったんだけど、Robは彼があらゆる曲で好んで使っていたスネアパターンをすでに用意していた。

Rob Gordon: とても凝ったドラムビートのプログラミングパターンだった。決して目立たないけど、そいつはステッパーズのパターンだったのさ。「俺はハウスは好きじゃないけど、こういうステッパーズっぽいビーツがあればノレる」って言いながらドラムを組んでいた。

Winston Hazel: 僕たちは4時間で曲を完成させたんだけど、タイトルが思い浮かばなかったから "Track With No Name（無題のトラック）" としたのさ。翌日、SCRでやっていた自分のラジオショーでプレイすると、すぐさま問い合わせの電話が殺到した。その次の日に仕事へ行くと、ラジオを聴いたレコードショップの同僚たちが「あの曲は絶対にリリースするべきだ」って伝えてきた。

Rob Gordon: 曲を作って数日後にWinstonから電話がかかってきて、クラブへ遊びに来いって言うんだ。そこで行ってみると、DJブースに呼ばれた。奴は「まあ見てなよ」と言って、"Track With No Name" をプレイした。するとフロアーはものすごい盛り上がりでさ。僕はホワイト盤を500枚プレスして、FONで売るために持ち込んだ。レコードレーベルを立ち上げようってアイディアはそこで生まれたのさ。

Richard Barratt: Rob Mitchellは頭の切れる男で、すでにレーベルを立ち上げる構想を持っていた。レコードショップとスタジオを並行して経営していたから、レーベルを立ち上げるのは理にかなっていると分かっていたのさ。技術的な知識のある人間も実際に知っていたしね。家に帰ってまったくの手探りで4トラックのMTRを使って曲を作ろうとするのとは違っていた。シェフィールドにはリーズやブラッドフォードにはないインフラが整っていたんだ。

Sean Maher: レコードをリリースしてレーベルを立ち上げるって話をしていた時、僕もFONの店内に居合わせたのを覚えている。SteveとRob Mitchell、Rob Gordon、Winstonがいて、僕もアイディアを出した。

Richard Barratt: すでにその前の段階で、DJ Minkのレコード（「Hey Hey Can U Relate」）のディールをまとめるために僕はRob（Mitchell）やSteveたちと一緒にロンドンへ行っていた。

George Evelyn (Nightmares On Wax): 俺がNightmares On Wax名義で作った最初の自主プレスEPを売り歩く途中で、FONにも立ち寄ったんだ。そこで "Dextrous" を聞かせると、Steve Beckettは「DJ Martin（LFO）がリーズのWarehouseでこの曲をプレイしていた」と言うんだ。Steveはレーベルを始めるから俺にもサインしないかと話を持ちかけてきた。

Steve Beckett: レーベルを立ち上げるにあたり、僕はRob Mitchellに相談した。それで、あるコミュニティセンターであったレイヴで僕とRob Gordonがレーベル立ち上げについて話している時、彼も音源を提供して参加するってことになったんだ。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Rob Gordon: シェフィールドで起こっていることを伝えるレーベルをやりたいと考えていたし、ブラックの友人とホワイトの友人の両方にアピールする音楽をリリースしたかった。テクノではあるけれど、レゲエ由来のヘヴィーなベースが効いた音楽をね。この狙いは当たった。ブリープはブラックミュージックでもなければ、ホワイトミュージックでもなかった。ワーキングクラスの音楽だったのさ。

Steve Beckett: Rhythm Kingのスカウトの1人が "Track With No Name" に目をつけ、レーベル契約を持ちかけてきた。世紀のディールだと思ったよ。僕たちは10,000ポンドの契約を結び、Rhythm Kingのオフィスを出て「やったぜ！」と叫んだよ。[Richard King『How Soon Is Now: The Madmen And Mavericks Who Made Independent Music 1975-2002, 2012』- 2012]

パープルのスリーブ

レーベル設立に向けた資金調達がまとまり、今度は作品をどのような形でリスナーに提示するかが議論の中心となった。この仕事は、以前FON Studioのオフシュートレーベルで仕事をした経験のあるIan Andersonが経営するデザインカンパニーThe Designers Republicの手に委ねられた。

Ian Anderson: 僕にはバンドマネージャーの経験があって、彼らにアートワークを依頼される前の時点から自発的にアイディアを提案していたんだ。僕は彼らがデザインを打診した数人のうちの1人にしか過ぎなかったけどね。彼らと話していた時も、僕は『そうだね、もしなんらかのデザインが必要なら…』なんて言っていたものさ。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Steve Beckett: 当時のダンスミュージックは使い捨てのように消費されていた印象がかなり強かった。ブームに乗っかっただけの連中がホワイトレーベルを刷って手っ取り早く500ポンドなり1,000ポンドなりをゲットする、って具合でね。そろそろ誰かがプロダクションとアートワークといった音楽の提示の仕方全体に気を配らなきゃ、と思っていた。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Ian Anderson: 僕たちがやろうとしていたのは、ある意味すでに時代遅れの未来感っていうか、それでいて成熟していると言えるような古くささがあるアートワークだった。差別化のために他の連中が使っていないようなカラーが（スリーブに）必要だと僕は主張した。すぐにそれと分かるようなデザインを用いるというのがアイディアだった。当時Designers Republicが手がけた他のスリーブを見ると、パープルが多く使われているのが分かるはずさ。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Ed Handley (Plaid): 僕らが最初にWarpの存在を認識したのは、そのパープルのスリーブを通じてだった。Andy（Turner）と僕は、このシェフィールドのレーベルは音楽が優れてるだけじゃなく、ルックスも良いなって思っていた。Warpからリリースされるレコードは、そのカラーやクリーンで未来的なデザインが本当にずば抜けていた。

Steve Beckett: 最初にスリーブが上がってきた時の僕たちの感想は「Outer Rhythmってどういうことだよ？　レーベルロゴはどこに行った？」って感じだったよ。これが音楽ビジネスに対する僕たちの自己紹介だったってわけさ。「なんてこった、俺たちとんでもないことをしでかしたぞ」って思った。[Richard King『How Soon Is Now: The Madmen and Mavericks Who Made Independent Music 1975-2002』- 2012]

WarpとUKベースミュージックの誕生

Forgemasters "Track With No Name" と人目を引くスリーブが功を奏し、まだシェフィールドで産声を上げたばかりのレーベルは強い印象を残した。Warpは1990年のうちにいくつものダンスフロアー・ヒットを放ったが、その大半はシェフィールドもしくはリーズ産で、Nightmares On WaxやSweet Exorcist、Tricky DiscoそしてLFOが手がけたものだった。ブリープ革命の始まりだった。

Winston Hazel: ハダースフィールドの駅裏あたりにSunset Boulevardって名前のクラブがあったんだ。僕は月曜日の夜にそこでプレイしていた。パーティーはいきなり軌道に乗って、ヨークシャー中からダンサーたちが集まるようになったよ。DJ Martin、Nightmares On Wax、Unique 3といったリーズやブラッドフォードのDJ連中も遊びに来ていた。新しいレコードをいち早くかけるって意味では大いに役立ったね。多くの場合、最初はカセットでプレイしていたんだ。

Aiden Whalley (Darkstar): サードアルバムの『Form Island』制作中、僕はブリクストンでのギグを終えてSteve Beckettとタクシーに相乗りすることになり、ハダースフィールドで僕たちがやっていることについて話題になった。Steveはハダースフィールドでやっているパーティーについて教えてくれた。ウエストヨークシャーに戻ったあと、僕はかつてSunset Boulevardがあったビルの場所を調べてみた。今じゃすっかり繁華街になっているけど、当時よくあった廃墟ビルのひとつに過ぎなかった。

Gez Varley (LFO): 最初、LFOには3人のメンバーがいた。俺とMark Bell、それにMartin Williams（DJ Martin）さ。俺たちはよくチャペルタウンにあったMartinの屋根裏部屋にこもってレコーディングしてた。Martinのインプットがなければ、"LFO" は決してブレイクしなかったはずさ。奴はめちゃくちゃ人気のあるDJで、ダンスフロアーのことを分かっていた。曲をどうアレンジすべきか分かっていたのさ。奴はしょっちゅうDJしていたから、新曲をテストプレイしてもらうことができた。ある夜、俺たちはMartinと連れ添ってSunset Boulevardへ遊びに行った。Martinは自分のセットの中で "LFO" をデモテープからプレイした。

Rob Gordon: 僕はSean（Maher）やWinstonと一緒にSunset Boulevardへ遊びに行っていた。Martinが "LFO" をプレイした時はぶっ飛ばされたね。ブースに駆け込んで「これは一体何だ？」と尋ねたよ。

Sean Maher: 強烈なサウンドだった。Martinがセットを終えたあとクラブの外に出て、彼の車の中でGezやMarkと一緒に彼らのデモテープを聴いたんだ。Warpは彼らとサインすべきだと直感したね。

Gez Varley: Rob Gordonは「このテープを預からせてくれ。こいつはどちらかといえばBサイド向きだよな」と言っていたね。それからすぐにRob（Mitchell）とSteve（Beckett）がリーズまで俺たちを訪ねて来てくれて、Warehouseの外に停めたMartinの車の中でWarpとの契約にサインした。

アイコニックなロゴから鮮やかなレコードスリーブまで、デザインは常にWarpの強みであり続けてきた

Dave Lee (Joey Negro): "LFO" がリリースされた当時、この曲はブリープサウンドの究極形だった。どこにでもあったダンスレコードのうちのひとつでもあったけどね。ソウルフルなハウスが好みだろうと、ヒップホップやR&Bが好みだろうと、"LFO" は誰もが好きになった。あの低いベースのおかげさ。「ワオ！」って感じだったね。こんなにベースヘヴィーなレコードは聴いたことがなかった。まったく別次元のベースがヴァイナルに刻まれていたみたいだったよ。

Rob Gordon: 僕はTownhouseのKevin Metcalfeにマスタリングを依頼すべきだと主張したんだ。おかげでかなり良好でベースが効いたカッティングができた。Warpの初期リリースのマスタリングやカッティングには何度も立ち会ったよ。しっかりと正しいサウンドに仕上げるためにね。

Steve Rutter (B12): 僕たちはB12よりも前に、最初はInfamixって名義で活動してたんだけど、これは基本的に "LFO" のコピーだった。"Hypnotic FX" はすごくブリーピーなレコードだったけれど、あれは完全に当時のヨークシャーのサウンドや特に当時のWarpからのリリースに影響を受けていた。

Mark Pritchard: Warpの初期リリースはどれも大好きだけど、Sweet ExorcistやLFOは特に好きだ。僕たちがShaftという名義で作ったトラックにWarpやそれに近いサウンドを押し出していたリーズのBASSIC Recordsのどちらかから興味を持ってもらえないかと思って、おんぼろのフォード・エスコートを運転してサマセットからヨークシャーまで行ったことがある。Steve（Beckett）と会うアポを取り付けたんだが、結局は会えなかった。実にタイミングが悪かったというか、"LFO" がブレイクして彼らは相当忙しかったからね。

Richard Barratt: タイミングは重要だよ。UKのダンスミュージックが上り調子だったあの当時にリリースされたレコードはかなり好意的に受け止められたし、実際セールスも好調だった。ただし、DJ Minkのレコードは例外だったけど。

Richie Hawtin: "LFO" やSweet Exorcist "Testone" は素晴らしかったし、当時の僕のセットの中でも大きな意味を占めていた。Warpには最初からとても影響を受けた。John Acquavivaと一緒に作った最初のレコード、States Of Mind "Elements of Tone" はまさにデトロイト影響下のシェフィールド・サウンドに対する僕たちなりの解釈だったし、シェフィールドもウィンザーやデトロイトに影響を与えていたんだ。

Steve Beckett: 当時のサウンドには多くの人たちが混乱していた。人々はブリープ音こそすべてだと思っていたけど、いわゆるブリープを作っていた連中にそんなことは関係なくて、彼らにとってはベースこそが重要だったんだ。睾丸を揺らすほどのベースラインを作るために注がれた時間と努力を人々が理解していたとは思えない。[Red Bull Music Academyレクチャー, 2007]

Pioneers Of The Hypnotic Groove

1990年の暮れ、ブリープおよびベースサウンドの人気のおかげで絶好調の状態にあったWarpだが、ここでレーベル創始者3人の対立が表面化した。その結果、レーベルアーティストであり事実上のA&RチーフだったRob GordonはWarpを離れ、Rhythm King傘下のOuter RhythmとのWarp作品に関するプレス / ディストリビューション契約解消を画策したSteve BeckettとRob MitchellをMute総帥のDaniel Millerが手助けしたのち、Warpは18カ月間に渡りレーベル存続の危機に立たされることになった。

Steve Beckett: 僕たちは常に口論していた。特に2人のRob（GordonとMitchell）はね。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Rob Gordon: 最初の諍いは、僕たちが "Tricky Disco" を作った2人の男に会いに行ったあとに起きた。僕たちがサインしたトラックと併せて、僕は彼らが完成させていた別のトラックもサインしたいと考えていたんだけど、BeckettとMitchellはそれを却下した。結局、そのトラックは大きなヒットになったけどね。GTOの "Pure" さ。

Steve Beckett: （Rob Gordonが）僕を槍玉に挙げた激しい口論のあと、僕とMitchellは彼に「会社を辞めてくれ」と伝えた。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Rob Gordon: 諍いの原因を打ち明けてやろうか。僕はPlezというアーティストが作ったシカゴハウス・トラックをライセンスすべきだと言った。シェフィールドで相当受けていたトラックだったからね。彼らが言うには「金がない」とのことだった。僕が「彼らは500ポンドでライセンス契約を受け入れるはずだ」と言うと、「いや、トラックのライセンスはしない」と答えた。

Steve Beckett: 僕たちはひとつの契約を交わし、彼の持株を購入することにした。当時の僕たちに払える目一杯の額さ。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Rob Gordon: 僕は自分で立ち上げたレーベルを追い出されたってわけさ。僕は若かったし、彼らに騙されたんだ。

Richard Benson (RAC): Rob Gordonは気の良い奴だけど、一緒に仕事をするとなると最悪だ。彼は天才ではあるけど、ちょっとした才能の持ち主ってのは扱いが難しい場合もある。

Steve Beckett: Outer Rhythmとの契約は破談になった。と言うのも、僕たちはたくさんのレコードを売り上げていたのに支払いがされなかったからさ。だから手を引いたんだ。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

Gez Varley: 13万枚もレコードを売り上げたけど、俺とMark、それにMartinの3人に支払われたロイヤリティは1,000ポンドだった。

Daniel Miller: （Mute Recordsは）1990年までにRhythm Kingと袂を分かっていた。でも、Warpのように問題を抱え、過去に交わした契約から自由になる必要を感じているレーベルから相談があれば、私としては手助けしてやりたかった。Warpからそういう相談を受けた時、彼らはMuteと一緒に仕事をしたいと言っていた。さまざまな理由からこれは実現しなかったがね。そもそも、私自身がそうしたように彼らも独立したレーベル運営をすべきだと考えていたし、また当時のMuteに他のレーベルの面倒を見る余裕はなかった。Warpはレーベルとして立派に成長していたし、彼らがやっていることや所属アーティストたちに対して私も好ましい印象を持っていた。でも、当時のMuteは助けの手を差し伸べられるような状況になかった。彼らが自分たちの道を歩み、独り立ちしてこれほどの成功を収めたレーベルとなったことについては嬉しく思っている。

Artificial Intelligence

1992年、「Warpが発信するホームリスニングミュージック」を掲げた画期的なコンピレーション『Artificial Intelligence』がリリースされた。3Dコンピュータグラフィックをカバーに纏い、その中にテクノやエレクトロの複雑な変種を詰め込んだこのコンピレーションは、AutechreやRichard D. James（Polygon Window名義）をはじめ、Speedy J、B12（Musicology名義）、Black Dog Productions（Ken DownieによるA.I.O名義）など、これ以降のWarpサウンドを牽引する多数のアーティストを世に紹介した。このあとに続いた各アーティストのアルバム群は “インテリジェントダンスミュージック” あるいは “IDM” を世に広める助けとなった。

Chantal Passamonte (Mira Calix): わたし自身が理解するところでは、『Artificial Intelligence』の生みの親はRob（Mitchell）よ。このコンピレーションはRichard D James、Black Dog、Speedy J、Autechreらがアルバムをリリースする布石になった。

Richie Hawtin: Robは僕らにとってWarp側との窓口になっていた。RobとJohn（Acquaviva）は2人で会食をして、新しいコンピレーションについて構想を練り、アイディアを出し合った。そこで『Artificial Intelligence』という名称が浮かんできたのさ。

Steve Rutter: 僕たちはB12 Recordsというレーベルを持っていた。ある日1通のfaxが届いて、ロンドンのとあるパブでのエレクトロニック・ミュージシャンたちの会合に誘われたんだ。日付や時間こそ記されていたけれど、内容はものすごく不明瞭だった。僕はそのfaxがまさかWarpから届いたものだとは思いもよらなかった。とにかく奇妙で謎めいてた。他のプロデューサーたちに連絡して、彼らも同じfaxを受け取ったか、この会合について何か情報を知っているかと尋ねたのを覚えている。

Ed Handley: Warpから届いた1枚のfaxには、Plaid名義のアルバム（『Mbuki Mbuki』）が気に入ったからぜひ会いたいと書かれていた。当時の僕たち（The Black Dog）がコレクティブとして活動していたことを彼らが知っていたとは思えないけどね。Plaidは僕たちがやっていたプロジェクトのひとつに過ぎなかったし。それは彼らと会ってみたあとにはっきりしてきたと思う。

Warpを立ち上げたRob MitchellとSteve Beckettは可能な限りレーベルアーティストにDJやライブをするよう勧めてきた

Steve Rutter: 僕たちは指定されたパブに行き、席に座った。いろんな音楽関係者がいたけれど、誰も話をしていないんだ。みんなやや半信半疑で、よそよそしい感じだった。すると、背の高い痩せ型の男が入ってきて、テーブルからテーブルへと移りはじめた。彼が僕たちのそばに座ると、「君たちがB12かい？　僕はWarpのRobっていうんだ」と言った。もしかしたら契約をオファーされるかもとは思っていたけれど、実際にそうなったのさ。

Richie Hawtin: 当時はすでに十分すぎるほど様々なテクノが出てきていたし、それまでテクノを作っていた連中はすでに別のなにかを探しはじめていた。自分たちのクリエイティブな翼を広げて、ダンスフロアーという文脈の外側でも鑑賞に耐えうる芸術作品としてのアルバムを作ろうと考えていた。『Artificial Intelligence』のアルバムカバーは僕たちのマインドセットを捉えていた。

Chantal Passamonte: 『Artificial Intelligence』は企画の時点で成功が約束されていたようなものね。流れも良かったし、リスナーたちに新しいアーティストを見つける機会をもたらした。なにかの始まりのような感触があったし、実際にそうなったわ。

Chris Coco: 僕はかなりDJをこなしていたし、DJ Magazineの編集の仕事もしていたから、当時のWarpの動きには当惑させられた。彼らはダンスレーベルとして始まったのに、すっかりエレクトロニカに移行したんだからね。「なんだよこれ？　クラブでプレイできないよ」と思ったものさ。当時の僕の音楽観がかなり狭かったということだね。今にして思えば、一連の『Artificial Intelligence』シリーズやIDMアルバムによって新しいオーディエンスを獲得したわけだ。

George Evelyn: 彼らはストレートなテクノレーベルという枠から脱却する必要があったんだ。もしWarpがテクノレーベルであることにこだわっていたとしたら、今までレーベルが続いているとは思えないね。多くの人は知らないだろうが、あのコンピレーション（『Artificial Intelligence』シリーズ）を手がけたことで当時のWarpは救われたんだ。レーベルが巻き返す助けとなったのさ。

Andy Turner (Plaid): あの当時は、僕らが作っていたような音楽にとって黄金時代だった。まさにホームリスニング向けってやつさ。どんなものがリリースされようと、Warpの最新リリースは必ずゲットしなきゃならなかった。

Mixmaster Morris: 「インテリジェントテクノ」というタームは、The Black Dogの音楽について言及する際に私が意図的に編み出したものだ。テクノをほんの少し複雑なものにしたその性質を表現したつもりだった。私の意図が愚かだと考えた他のプロデューサーたちからは随分叩かれたものだ。正直に言えば、あのタームがそれほどのインパクトをもたらすとは考えてもみなかったんだ。

Sean Booth (Autechre): （一般的なダンスミュージックと比べて）俺たちの音楽は特に複雑ってわけじゃなく、単によりオリジナルなだけさ。Aphex TwinのようなアーティストをAutechreと同じグループにまとめられる根拠が唯一あるとすれば、それは俺たちがそれぞれオリジナルなことをやっているからだろ。Autechreのアルバムを聴いて、そのあとで『Selected Ambient Works Volume 2』を聴いたとすれば、類似点はほとんど見つけられないはずだ。[MTV Europe『Party Zone』インタビュー - 1994]

Andy Turner: IDMってのはスタイルを表す言葉としてあまり褒められたものじゃないね。結局のところジャンルの呼び名ってものは必要なんだろうけど。最近じゃ全然気にならなくなったけど、当時はIDMってタームで呼ばれることにすごく反発があった。人生のどこかの段階で学んで「知ったことか、俺たちには関係ない！」って感じになるんだけどさ。

Warp Motion

1994年『Artificial Intelligence』シリーズ2作目のリリースに併せて、WarpはシェフィールドのCGアーティストPhil Wolstenholmeに1時間のアニメーション・ミュージックビデオの制作を依頼した。VHSとレーザーディスクでリリースされた『Warp Motion』は、音楽と最先端の3Dコンピュータアニメーションをミックスする先駆的な試みとなった。

Phil Wolstenholme: 1992年に最初のコンピレーション（『Artificial Intelligence』）から関わりはじめたんだ。ロボットが煙の輪を吐き出しているアニメを作ったら、Warp側は「すごいな、ぜひともこのビデオを制作しなくちゃ！」って感じだった。それで僕が「じゃあもっと機材が必要になりますよ」と言ったら、彼らはすべて提供してくれた。すべてが完成するまでには約9カ月を要した。締め切りに間に合わせるために妥協しなきゃいけなかったのはすごくフラストレーションだったね。でも、僕たちは直感を逃したくなかったし、次のアルバム（『Artificial Intelligence II』）で実現する必要があったんだ。[『Collective Rendering: The Early '90s CGI Designs of Phil Wolstenholme』RBMA - 2017]

Ed Handley: 当時としてはすごく未来的に見えたね。今見ると少し安っぽいとはいえ、あれは未来の音楽として売り出されたんだ。テクノロジーを “敵” として扱うのではなく、もっと日本人っぽいテクノロジーへの接し方っていうか、自分を助けてくれるフレンドリーなアシスタントとして扱うってわけさ。

George Evelyn: RobとSteveと一緒に座って『Warp Motion』を初めて観た時のことを覚えてるよ。クレジットが現れると、そこには「A film by Rob Mitchell and Steve Beckett（監督：Rob Mitchell / Steve Beckett）」と書かれていた。彼らは俺の方を向いてニヤリと笑っていたね。ひとつのアクロポリスがあって、その上にもうひとつのアクロポリスが乗っかっていて、まるでセックスしてるみたいに見えた場面もあったな（笑）。

Phil Wolstenholme: 映像が完成してロンドンのICAで公開したんだけど、あまりに多くの人たちが来場したものだから、3回も上映しなきゃならなくなった。最後はものすごい拍手喝采だったんだけど、僕は内心「こんなにチープな映像なのにな」って思っていた。僕はすごく完璧主義だから、自分ができる以上のことをやりたくなってしまうんだ。[『Collective Rendering: The Early '90s CGI Designs of Phil Wolstenholme』RBMA - 2017]

Blech

『Artificial Intelligence II』以後数年間、Warpはアルバムを優先的にリリースした。Richard H Kirk、Seefeel、The Black Dog、Autechre、Aphex Twin、Sabres Of Paradise、B12などの特筆すべきアルバム群がこの間にリリースされたが、このレーベルのトレードマークであるIDMサウンドを取り巻くハイプは薄れつつあった。そこで、Warpのプレスオフィサーを務めるChantal Passamonte（のちにMira Calix名義によってWarpの重要アーティストの1人となる）はある名案を思いついた。

Chantal Passamonte: 今ではWarpはすっかり大きな組織だけど、当時はまったくそうじゃなかったの。チームは小規模で、レーベルアーティストも親戚みたいに親しい距離感だったわ。みんなで一緒になって遊んでいたし、有望なアーティストはSteveやRobに紹介したりしていた。Squarepusherをレーベルに紹介したのはわたしだったしね。「ねえ、このアーティストは絶対チェックすべきよ」なんて気軽に言えたわ。当時はプレス業務がすごく難しくなっていた時期で、多くの人々にこのレーベルの素晴らしい音楽の数々をもう一度知らしめるコンピレーションが可能なんじゃないかってわたしは思ったの。Warpは設立7年目を迎えていたから、わたしは「seven year glitch」というスローガンのアイディアを思いついた。それで、『Blech』というタイトルでレーベル音源を使ったDJミックスを提案してみたの。このタイトルはなんとなくメッキされた金属を思わせる響きがあったし。ミックス担当にはKev Foakes（aka DJ Food）を推したわ。彼はわたしの友達だったし、当時はギャラも安かったから（笑）。

Kevin Foakes (DJ Food): 僕はColdcutと一緒に『Journeys By DJ』を完成させたばかりだったし、Chantalはきっと『Journeys By DJ』に似たミックスになればいいと思っていたんじゃないかな。Warpのバックカタログを使った、かなりエクレクティックで派手なミックスをね。Patrick Carpenter（aka PC / DJ Food）も参加してくれた。僕たち2人ですべてミックスとオーバーダブを済ませた。当初はWarpのサウンドを紹介するプロモサンプラー的なテープとしてショップやディストリビューターに配ったんだけど、すごく評判が良かったから正式リリースすることになったんだ。

Chantal Passamonte: 『Blech』を楽しそうな内容に見せるために、かなり戦略的な決断をしたわ。音楽は変えずに、プレゼンテーションの方法を変えたの。というのも、Warpはすごくシリアスなイメージで捉えられていたから。『Blech』の2つのミックスはクールさを念頭に、みんなの注意を引こうとした。これは実際にうまくいったわね。

Kevin Foakes: シェフィールドとロンドンで『Blech』にちなんだ小さなリリースパーティーもやったね。僕は相当な時間をプレイしたし、ChantalはレジデントDJの1人だった。シェフィールド大学のRaynor Loungeでやってたマンスリーパーティーはめちゃくちゃゆるかった。「まあ一杯やりながら、おかしなレコードをたくさんかけようぜ。みんなも勝手に踊るだろ」って感じでね。フライヤーも素敵だったな。パーティーの説明に「宇宙一キュートなクラブ」なんて書いてあってさ。

レーベル立ち上げから10年間、Warpは主要アーティストをフィーチャーしたパーティーを頻繁に開催してきた

Warpmart

数々の著名レーベルの中でも、Warpはいち早くウェブサイトを立ち上げたレーベルのひとつだ。レーベルウェブサイトの立ち上げから間も無く、彼らはフィジカルプロダクト販売のために初期オンラインストアであるWarpmartを開設した。Warpのイノベーションは2000年代初頭にも続き、Bleep.comは世界初のデジタルダウンロードストアのひとつとなった。

Steve Beckett: 当時の僕たちはEメールさえも使っていなかったんだが、どうやらインターネットと呼ばれるものがあって、ネットサーフィンなるものができるらしいという噂を聞いた。インターネットに繋がるまで10時間ほど要したが、ネット初体験は散々なものだった。まあ時期が早すぎたということだが、これはきっと誰もが利用するものになるだろうとすぐに直感したし、音楽の未来像になると思った。さっそく僕たちはWarpのバックカタログを載せたウェブサイトを立ち上げ、CDやヴァイナルを販売するためにWarpmartを開設したのさ。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

Tom Brown: 職業安定所で募集を見て、Warpでアルバイトをしていたんだ。Warpmartのオーダーを処理したり、レコードやCDを梱包したり––決して華やかな仕事ではなかったよ。毎朝、僕は誰よりも早くオフィスへ出勤していた。届いたオーダーを全部プリントアウトして、カスタマーのクレジットカードの番号や有効期限を書き留めたあと、自分のデスクで各オーダーのクレジット処理をするんだ。そして発送分を梱包し、世界各地に向けて発送するってわけさ。

Nightmares On WaxはWarpで最も多くのレコードを売り上げたアーティストだが、このような賞を与えられたのは彼だけではない

Steve Beckett: Warpmartのスタート当初はかなりのんびりしたものだった。先駆者ってのは、他のみんなが追いついてくるのを待ってる立場になるものさ。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

Tom Brown: Warpmartでしかオーダーできないエクスクルーシブ・レコードがあったんだ。当時はインターネット環境がある人は多くなかったから、1年かけてようやく売り切るって感じだったね。でも、その後すぐに業務が忙しくなって、結局僕もWarpでフルタイム勤務することになった。

Steve Beckett: 今では、WarpmartとBleepは僕たちの売上高の約25%を占めるまでになっている。もし僕たちがEコマースに進出していなければ、他のレーベルと同じように経営難へ陥っていたことだろう。ここ2年は最高の売上高を更新しているが、これは10年前にWarpmartとBleepを統合したおかげなのは間違いない。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

さよならシェフィールドこんにちはロンドン

2000年1月、一連のコンピレーション・リリースやスペシャルイベントでレーベル設立10周年を祝ったWarpはシェフィールドからロンドンへとその本拠地を移した。

Tom Brown: Warpは以前からロンドンにフラットを1部屋借りていたんだ。SeanやRobはずっとロンドンで仕事をしていたけれど、最初からずっとシェフィールドのWarpオフィスで働いていて、ロンドンとの繋がりは特になかった。

Chantal Passamonte: 2000年ごろになると、SeanやRobは週の半分をロンドンで過ごすようになっていたわ。コミュニケーションが俄然簡単になった現在とは事情は違うけれど、彼らはロンドンへ移動する日常に飽き飽きしていたんだと思うわ。

Steve Beckett: 僕たちがロンドンへのオフィス移転を決心した当時、ディストリビューターやラジオ、プレス、エージェント、ギグなどに加えてロンドン在住の（あるいは頻繁にロンドンを訪れる）外国人関係者など、僕たちのビジネスに関連した取引先はすべてロンドンにあった。それに、僕たちはシェフィールドに退屈してしまっていた。すごく小さい街に感じられたし、時にはネガティブな場所だとさえ思うようになった。[Rob Young著『Labels Unlimited: Warp』Black Dog Publishing - 2005]

George Evelyn: 俺たちはUKの南北分断真っただ中の時代に育ったし、Warpがロンドンに移ると知った時は幻滅させられたね。Steveからプレス的な観点の説明を受けても納得いかねえって感じでさ。『Mind Elevation』をリリースした当時、プレスの扱いの違いはエグかった。それはプレスがロンドン中心に回ってるってことだろうな。くだらねえとは思うが、プレスってのはそういうもんさ。

Tom Brown オフィスをロンドンに移転したのは2000年1月だった。僕たちは誰1人としてロンドンに馴染みがなかったから、みんなオフィスの近所にフラットや家を借りたんだ。ロンドン移転後、僕はレーベル関連イベントの取りまとめを担当するようになった。Steveはバーかどこかでイベントができればって考えていたと思うんだけど、僕はレーベルの存在感を示す方がいいと思ったから小さいけどクールなベニューを選んでイベントを開催した。それが「Nesh」というマンスリーパーティーに発展するんだけどね。

Rob Brown (Autechre): 昔は全員がシェフィールドに住んでいた。みんなが近所に住んでいて、お互いに電話したりしてさ。ロンドンはそれより街の規模が大きいし、スタッフも大所帯になったし、しょっちゅう見知らぬ顔に出くわす。とはいえ、変化がレーベルを活気づかせるものだし、変化こそが物事を進めていくんだ。[Pitchforkインタビュー - 2008]

一時代の終わり

2001年10月8日、Warpの共同設立者であるRob Mitchellは短いがん闘病の末にこの世を去った。半年間に渡り、レーベル関係者の誰もが「いつかその日はやってくる」と覚悟はしていたものの、彼の突然の訃報はWarpと関わりのあるアーティストたちはもちろん、エレクトロニックミュージックのコミュニティ全体にショックをもたらした。

Ed Handley: 僕たちは1人の友人を失っただけでなく、長年の仕事仲間を失ってしまったんだ。僕たちはRobの妻や子供たちも知っていて、すごく個人的な付き合いがあった。全員にとってものすごく受け入れるのが難しい出来事だったけれど、Steveは最も近しい関係だっただけに一番辛かっただろう。Robが亡くなったあと、僕たちは向かうべき方向を少し見失った。

Chantal Passamonte: Robの死は甚大なショックだったわ。彼は近寄りがたいCEOとは正反対で、レーベルを束ねる兄であり父のような存在だったの。Robの死はレーベル内の力学を変えたし、結果としてレーベルの組織構造全体が変化することになった。

Mark Herbert (Warp Films): Robは良き友人だった。僕たちが最初に出会ったのは草サッカーがきっかけだったんだ。SteveやKevはロンドンにいたし、僕もロンドンにいたから、僕が葬儀準備の一部を手伝ったんだ。Steveのことはその少し前から知っていたけど、葬儀の前後を通じて彼とはとても親しい間柄になった。

George Evelyn: 葬儀でのSteveのスピーチを覚えているよ。その中で、彼は「レーベルのビジョンはまだここにある。僕とRobがやろうとしていたことをこれからも続けていく」と語っていた。Steveはこのことを生前のRobと話していたはずだし、彼らが共に描いたビジョンを引き継ぐことがSteveのミッションだったんだ。Steveがその道筋から逸れるつもりは絶対になかったはずさ。

Ed Handley: Steveはしばらく精神的にぼろぼろの状態だった。Warpにとって本当に深刻な出来事だったんだ。ある意味、Warpがこの時期を乗り越えたことに驚いている。Steveはまったくの放心状態で、レーベルはしばらく瀬戸際に立たされた状態になっていた。

Chantal Passamonte: それまでは長年に渡って同じやり方で運営を進めてきていたの。アーティストと契約し、レーベルアーティストをマネージメントするのはRobやSteveの仕事だった。感情的な面を別にしても、Robの死によって変わってしまった。結局、Robが死を迎えるまでのWarpサウンドは彼ら2人の音楽的嗜好を反映したものだったのね。

13作のアルバムでたどるWarp 30年史

Warp Vision

2001年、Rob MitchellとSteve BeckettはWarp Filmsを立ち上げた。その当初の目的は、Chris CunninghamとChris Morrisによるショートフィルムを制作・リリースすることにあった。設立から約20年を経た現在、Warp Filmsは『This Is England』『Tyrannosaur』『Four Lions』『Submarine』『Yardie』などをはじめとした映画・TVシリーズによって大きな商業的成功を収めている。

Chantal Passamonte: Warp Filmsの立ち上げを進めたのはRob Mitchellよ。これは彼が亡くなる前の最後のビッグプロジェクトだった。

Mark Herbert: その通り。RobはChris MorrisやChris Cunninghamとの伝手があった。RobとSteve、それにGed Dayという人物によって映像部門を立ち上げるアイディアが浮かんだんだ。当時僕はPeter Kayの『Phoenix Nights』で初めて単独プロデュースを手掛けたばかりでね。最初は彼らのビジネスプランにアドバイスを請われただけだったんだ。Robがやってきて「こういうクレイジーなアイディアがあるんだが、なにが必要だろう？」と尋ねられたんだ。彼らとは以前も仕事をした友人だったから、僕は非公式な相談役を務めることになったんだ。

Steve Beckett: 僕たちは多くのアーティストのビデオを制作してきたが、一緒に仕事をしたChris Cunninghamのような映像作家には僕たちのレーベルアーティストたちに近いパーソナリティが備わっていることに気づいた。一般的には気難しい変人と思われているが、実はそうではない。彼らは境界を押し上げて、自分たちが求めるものを知っているだけなんだ。このような監督たちと関係を築き、僕たちが音楽を作っているような方法で映画を作れるんじゃないかと考えたんだ。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

2009年にWarp20周年記念としてyes.studioとDan Holdsworthが制作したポスター。レーベル創立当初からの伝統のカラーであるパープルが随所に使われている

Mark Herbert: Robの葬儀の前後だったと思うが、Steveが僕の自宅に立ち寄って話をしにきたことが何度かあった。僕には他の人たちのために働いて大金を儲けるチャンスはたくさんあったんだが、どうにもしっくりこない感触があってね。数杯のビールを飲んだあと、僕もWarp Filmsに参加したいとSteveに伝えたよ。彼らは音楽を制作してリリースするノウハウは知っていたが、映画やTVの制作は経験したことがなかった。なんらかの経験が必要だと思ったから、僕はRobのレガシーを引き継いでビジネスを進める助けになれるはずだとSteveに伝えた。最初のオフィスは、僕の庭の奥にある倉庫だった。『This Is England』はここですべての制作作業が行われたんだ。

Steve Beckett: 10年前にWarpを立ち上げた当時と同じような状況に思えたよ。テクノロジーの進化のおかげで以前よりも低予算で映画を制作できるようになっていたし、このようなテクノロジーを実際に活用しながら最初は自分たちでショートフィルムを手掛け、今では長編映画を手がけるようになった。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

Mark Herbert: 僕たちには「とにかくやっちまおうぜ」っていうアティチュードがある。Warp Filmsが最初に手掛けた長編映画はShane Meadowsが監督し、Paddy Considineが出演した『Dead Man’s Shoes』だった。2月に企画を立ち上げ、750,000ポンド（約1億600万円）の資金を調達し、その3カ月後に18日間をかけて撮影を行なった。僕とRobがよく話していたのは、映画でもパンクロック的なアティチュードを持つことだった。僕たちの映画はダークで気骨のあるものであるべきだと思われているが、それは違う。僕たちの映画にはハートがあり、はみ出し者たちをサポートしている。

ビーツ、ライム＆ライフ

新たなミレニアムの幕開けとともに、Warpはいくつかの新機軸を打ち出しはじめた。最初の顕著な動きとなったのは、USの片隅で発展しつつあったエクスペリメンタルなヒップホップシーンへの傾倒だった。WarpはPrefuse 73やAntipop Consortiumをフックアップし、のちにFlying Lotusを送り出すことになる。さらにはオフシュートレーベルとしてLex Recordsを立ち上げ、ここからはSage Francis、Boom Bip、Danger Mouseらの傑作が生まれていった。

Tom Brown: Warpの連中の多くがCompany Flowを聴いていたし、僕たちは世界各地のエクスペリメンタルなヒップホップシーンにかなり注目していた。僕が契約を担当したわけじゃないけど、Prefuse 73には大いに肩入れしていた。おそらく、彼の音楽を耳にしたWarpの人間は僕が初めてだったはずさ。

Steve Beckett: 僕は単純にああいう音楽が好きなんだ。僕たちがショップを立ち上げ、ハウスが大爆発する前にはヒップホップを売っていたし、僕のルーツに根付いているんだ。ファンクや生々しさのある音楽だし、こういう要素をエレクトロニックミュージックに持ち込めたのは良かった。[Red Bull Music Academyレクチャー - 2007]

George Evelyn: WarpがPrefuse 73、Antipop Consortium、Beansらとの契約を検討していた時、俺はそのデモを聴きながら「マジかよ？」って思ってた。するとSteveは俺に「いいかい、このレフトフィールドなヒップホップはWarpが進むべき方向だ」と言った。彼は正しかったね。

Tom Brown: 最初は自分のレーベル（Lex Records）を立ち上げて、そこから自分のシングルを切っていこうって考えてたんだ。それをSteveとRobに伝えたところ、数日後になって彼らから「Warp傘下でリリースすればいいじゃないか。基本的なルールはいくつかあるけど、僕たちが資金を援助するよ」って言われたんだ。彼らにとってはサブレーベルとしてキープしておくことが理にかなっていたんじゃないかな。僕たちはこういうエクスペリメンタルなヒップホップを推してた唯一のレーベルではなかったけれど、僕が誰かと契約しようとする時には、アーティストや国際的なディストリビューションの間でのWarpの評判の良さが利点になった。とはいえ、当時のアメリカにおけるWarpの知名度は微々たるものだったけれどね。Lexであるアーティストを契約した時、彼は「UKのトランスレーベルと契約したぞ！」って言いふらしていた。

ロックへの傾倒

Warpはエクスペリメンタルなヒップホップをプッシュした一方で、シンガーやギターが在籍するバンドとさらに契約した。SeefeelやBroadcastを最も明確な例として、このようなバンド形式のアクトは1990年代中盤からWarpに在籍していたが、過去20年は!!!、Grizzly Bear、Battles、Tortoise、LoneLadyそして物議を醸したMaximo Parkなどのバンドを新たに引き入れている。

Mark Clifford (Seefeel): 僕たちが1994年にWarpと契約した当時、まさかこんなに早い段階でWarpのテクノファンからある種の敵意が向けられるとは思ってもみなかった。僕はWarpは既成概念を壊すレーベルだと思っていたからこれは驚きだったし、こういう性質の保守主義にさらされて失望したし、やや意外に思えた。

Chantal Passamonte: わたしたちが好きなバンドについてインタビューを受けたのを覚えているわ。わたしたちはみんなインディーバンドが好きだった。テクノのレコードをリリースしている時でさえ、SteveとRobは決して潔癖主義ではなかった。彼らは「僕たちは自分たちが好きなものをリリースするだけだ」ってよく言っていたわ。おそらくこれは言い得て妙で、彼らは音楽に対してピューリタン的になるのではなく、極めてオープンだったのね。

Andy Turner: レーベルファンの一部はひどいやり口で裏切られたと感じたんだ。僕はWarpがこれまでリリースしてきたすべての作品を気に入っているわけではないけれど、このレーベルと一緒に働くのに「こうあるべき」っていう決まった形があるようには思えない。まあ、少し馬鹿げてるし、わがままな考え方だよね。

Tom Brown: Maximo Parkとの契約前の段階から、Warp内にはFranz FerdinandやBloc Partyなどのバンドを抱えるべきだという考えがあったんだ。数百万枚を売り上げるようなモダンロックバンドがね。当時のUK国内ではブレイク寸前のシーンがあったんだ。Maximo Parkの初期デモテープはかなり荒削りだったけど、出来上がったアルバムはキャッチーな曲が並んだ豪快で磨き抜かれたロックアルバムだった。Warpの良識的なファンにとってさえも、これらは極めて受け入れがたいものだったんだ。

Nic Offer (!!!): インターネットでAutechreファンが「!!!は真のWarpアーティストじゃない」と書き込んでるって話はいつも僕の耳に入っていたよ。誤解を恐れずに言えば、Warpが僕たちと契約して方向性を変えたのは「最先端」っていう概念そのものが変わったからだと思う。IDMアクトはもうリスクを負うのを止めてしまっていたしね。当時、リスクを負っていたのは僕たちのようなバンドだったんだ。もしWarpが自身のエクスペリメンタルなエーソスに忠実であろうとするなら、彼らはギターバンドを引き入れる必要があったんだ。なぜなら、あの時期はバンドこそが新鮮で最先端の存在だったんだからね。

Jon Stanier (Battles): Battlesと契約すべきだとSteve Beckettに伝えたのはPrefuse 73だったんだ。あの “中期” のWarpは本当にさまざまな作品をリリースし始めていたから、僕たちも本当にワクワクしていた。PrefuseやFlying Lotus、!!!のようなアーティストが在籍する一方で、奇妙なレフトフィールド・エレクトロニカも同居しているレーベルと契約したいって思っていた。

Tom Brown: 2004年末、Kev（Fleming）から「あと半年でLexは終了だ」と伝えられた。Lexはブレイク真っ最中のDanger Mouseとアルバム複数枚契約を交わしたけど、彼のレコードの売り上げは良くなかった。Non ProphetsやBoom Bipのアルバムもね。Lexの計画的な終了の背景には、Maximo Parkが成功するための多額の予算を確保しなければならなかった事情がある。まあ、彼らは実際に大成功したわけだけどね。少し時間はかかったけれど、僕はWarpからLexの運営権をお手頃な金額で買い取った。おかげで、Lexは今日までインディペンデントレーベルとして存続できているというわけさ。

グラスゴー・コネクション

‘00年代後半以来、Warpはグラスゴーに拠点を置く画期的なアンダーグラウンド・レーベルLuckyMeとの関係を深めている。WarpとLuckyMeの関係は、WarpがHudson MohawkeやRustieなどのLuckyMeアーティストたちと契約したことから始まったが、今では共同リリースやディストリビューション契約も行うなど、ロンドンを拠点にするWarpチーム内でもLuckyMeは存在感をアピールしている。

Dominic Flanagan (LuckyMe): どちらのレーベルもシーンに貢献したいという思いから始まり、そのアーティストたちは新たなジャンルを定義するまでに成長してきたという共通点がある。それに、どちらのレーベルも特定のサウンドにこだわるのではなく、視野を広げながら成長してきた。Warpにはもともとアウトサイダー的な視点があって、僕もそこに共感している。グラスゴーにいると、音楽業界ってものはとてつもなく遠く感じるものさ。

Ross Birchard (Hudson Mohawke): 2007年にモントリオールで行われたRed Bull Music Academyへ出席した時に初めてSteve Beckettと会ったんだけど、それ以降は割と疎遠だったんだ。1タイトルたった300枚しかプレスしていない僕たちのような連中がWarpのボスと知り合うなんて、考えられないことだった。Hudson Mohawke RBMAレクチャー - 2015]

Dominic Flanagan: Numbersを始めたCalum MortonはWarpのデジタル部門で働いていて、オフィスでRuss（Rustie）やRoss（HudMo）の曲をよくかけていたんだ。これを聴いたSteve BeckettとA&RのStephen Christianが気に入ってね。あとは知っての通りさ。

Ross Birchard: Warpと関係を築くことができて最高だよ。なぜなら、Warpほどの規模の大きさでありながらアーティストにクリエイティブ面で完全な自由を与えてくれるレーベルは他にないからね。アーティストが「このサウンドは前の作品でやったから、次の作品では完全に違うサウンドにトライする。誰がなんと言おうと絶対にそうする！」と言ったとして、それを全面的に応援してくれるレーベルに在籍できている自分はすごく恵まれていると思う。Hudson Mohawke RBMAレクチャー - 2015]

実験主義の拡大

過去15年以上にわたり、Warpはあらゆるエクスペリメンタルミュージックへと手を広げ、アヴァンギャルドなフィルムサウンドトラックやコンセプチュアルなエレクトロニックミュージック、さらにはアンビエントのよりアカデミックな側面を示してきた。Warpとエクスペリメンタルミュージックの関わりは、1995年のAphex TwinとPhilip Glassのコラボレーションに端を発している。それでも、アンビエントのパイオニアであるBrian Enoと2010年にWarpが契約を交わした際は多くの人々を驚かせた。

Brian Eno: 私はずっとWarpのファンだった。彼らが提示するアーティストたちも好きだし、Warpが展開する幅広さも好ましく思ってきた。Warpのアルバムは数多く所有しているし、私がプランを温めている今後数作はWarpにとっても良いプロジェクトになるだろう。[『Eno: Warp Really Should Sign Tony Allen』FACT - 2010]

メディア嫌いのアーティストを多く抱える中、Warpは他のパブリシティ方法を考え出さねばならなかった。奇妙なAphex Twinテディベアはその中でも最も印象的なもののひとつ

Kelly Moran: Warpはクラシカルな音楽の世界でも非常に評価されている。その理由のひとつは、Warpがエクスペリメンタルでアヴァンギャルドな展開を決して恐れていないという点で、その時のトレンドだけを追った紋切り型のエレクトロニックミュージックにはならないんだ。 Warpの作品は常に極めて先進的だし、コンテンポラリーなクラシックの世界の人々にもアピールできるものなんだ。

Jon Hassell: Warpからリリースする以前はECMから作品を発表していたが、ECMとの関係はそろそろ潮時だと思ったから移籍を決意したんだ。WarpのMatthew Jonesが私自身のレーベル（Ndeya）を持つ機会をオファーしてくれて、「Warpの方が居心地がいいな」と思ったものさ。『Listening To Pictures』にあたっては、未来的なサウンドを最初から意識していた。Miles Davisが私のヒーローなんだ。もし彼が今も生きていれば、エレクトロニカに傾倒していただろうね。現実世界を受け入れつつ、他の可能性も受け入れるというのがアイディアにあった。さもないと、非常に退屈な作品になってしまうからね！　この方向性を選んだのはこれが理由さ。クリエイティブに関して言えば、生き生きとした状態でいたいんだ。[『The Strange World of Jon Hassell』The Quietus - 2018]

WXAXRXP Sessions

2019年6月、Warpは3日間に渡ってNTS Radioをテイクオーバーした。これはレーベルアーティストや外部ゲストによるショーやミックス、ライブセッションをフィーチャーしてWarp30周年を祝うWXAXRXP Sessionsとなった。この30周年記念の締めくくりとして、WarpはLFOやAphex Twin、Broadcast、Seefeel、そしてBoards Of CanadaならびにAutechreによる幻と言われた秘蔵のPeel Sessions音源をまとめたボックスセットをリリースする。

Stephen Wilkinson (Bibio): NTSでのテイクオーバーは僕も気づかないうちにあっという間に話が進んでいたんだ。Warpの30周年記念にはぜひ参加したいと思っていた。『Ambivalence Avenue』がちょうどリリース10周年を迎え、30周年に華を添える良い機会だと思ったので、このアルバムの収録曲をプレイすることにした。自分のヒーローたちと同じボックスセットに収まることができて誇らしい気分だよ。

Mark Pritchard: NTSテイクオーバーのためにミックスを依頼された時、いわゆる “クラシックなWarp” 的なショーをやるアーティストは多いだろうなと思った。僕もお気に入りのWarp作品をまとめたミックスもできたはずだけど、そこに意味があるかどうかは疑問だった。最初はForgemastersのトラックから初めて、僕が自分でやったブートレグの "LFO" ダンスホールミックスを入れ、最後はDJ Minkのトラックを少しかけて締めようと考えていたけど、それ以外は僕自身の未発表曲で構成されている。たくさんのアーティストがかなり力の入ったミックスを提供してくれたから、僕自身もリスナーとしてこれらのミックスを聴き返しているところだよ。

Gez Varley: John Peelは "LFO" を全国ラジオでプレイした初めての人物だった。"LFO" がチャートインして数カ月後の1990年10月にMaida Valeでセッションを録音してほしいとJohnに依頼されたんだ。断る理由なんてなかった。Rob Mitchellが車を運転してくれたんだけど、その途中で彼が見た悪夢について話をしてくれてね。そこから "Rob's Nightmare" という僕たちのトラックが生まれたんだ。Peel Sessionsに収録されたトラックはすべて僕たちのファーストアルバム『Frequencies』からのものだけど、ひとつとして同じバージョンはない。Maida Valeに着いた時、ヴァイオリニストのNigel Kennedyに会ったのを覚えている。彼は僕たちがLFOだと認識してくれていて、そのあと10分ほどサッカーについての話題を話したよ。

Mark Clifford (Seefeel): これまでもリリースを切望してきたから、僕たちのPeel Sessionがようやく世に出ることになって嬉しいよ。セッションの思い出に関しては、コントロールフロアーの床に座って必死で "Rough For Radio" の仕上げをしていたのを一番良く覚えている。というのも、スタジオで一から1曲を完成させてみたいとは思っていたけど、まさか2時間しか枠がないとは知らなかったからね。そんなわけで、ライブルームで他の3曲のレコーディングを進めながら、"Rough For Radio" を1時間以内で仕上げたってわけさ。

Kelly Moran: 私はラジオ用にオリジナルの録音を用意しなかった唯一のアーティストだろう。しかし、私の作品はすべてワンテイクでライブ録音されたものだったから、これらもボックスセットのテーマに沿うものだと思うがね。Warpからの依頼は基本的に私がすでにリリースした作品の別バージョンをライブで演奏してほしいというものだった。当時の私は1人のパフォーマーとして長らくこの作品に馴染んできたし、作品をアレンジする新しいアイディアも持っていたからとてもワクワクしていた。

インディペンデントのアイコン

Warpは2019年で30周年を迎えたが、我々はこのレーベルをどのように評価すべきだろう？　そして彼らの成功の秘訣は何だろう？

Ed Handley: いろんな若手のエレクトロニックアーティストたちに出会ってきたが、彼らのほとんどはWarpを愛し尊敬してくれているし、このレーベルと契約できることに興奮を感じている。こういう時にWarpの影響力を実感させられるし、このレーベルが今なお画期的なエクスペリメンタルミュージックを輩出し続けていることを痛感する。

James Young (Darkstar): Warpは独自の地位を築いたんだ。Warpは同時期にスタートした他のすべてのレーベルを凌駕し、後続レーベルにも肩を並べ続けている。さらには、Warpでなければ世に出なかったであろう一連の作品をリリースし、彼らにとってのホームとなっている。アーティストとして、Warpは素晴らしく働きやすいレーベルだ。彼らはアーティストたちに進化を促してくれるんだ。これがWarpに名作が数多く残されてきた理由さ。彼らはアーティストを信頼しているんだ。

Simon Pyke: Warpの成功の秘訣？　彼らが映像の世界や音楽出版に投資したのは賢明な判断だったと思うけど、よりアーティスティックな視点から言えば、彼らは空虚さに消失することなく別世界を提示してみせたんだ。 Warpはファンが求めているものを理解しつつも、それらを煙に巻く絶妙なバランスを心得ていると思うね。

Julie Campbell (Lonelady): Warpが成功した理由は “直感” だと思う。直感に決められたフォーミュラはない。彼らはアーティストに秘められた才能を見つけることができるんだ。Warpのアーティストの多くはおそらく確固たるサウンドを持っているけど、恐れを知らない実験精神もまたこのレーベルのDNAの一部だと思う。Warpは非現実的なエレクトロニックミュージックやエクスペリメンタリズムなどを引き寄せる不可欠な存在さ。しかも、それらはすべてイングランド北部にルーツがあるんだ。