今やオンライン・ミックスの黄金時代だが、これはDJにとって最適なフォーマットと言えるのかもしれない。作るのも、リリースするのも、聴くのも無料ででき、ルールや制限もなく、真っ白なデジタル・キャンバスに自分のアイディアを思い描くとおりに実現することができる。他人の音楽を入れてもいいし、自分の曲で構成してもいい。丁寧に構築して表現者としてのステートメントにすることもできる（Leon Vynehallの『DJ-Kicks』）し、フェスでのプレイを録音し気に入った部分を切り取ってミックスにしてもいい（HonchoでのPhysical Therapy）。自分がDJする必要すら無く、Kelelaのように友人にDJをしてもらってその上で歌うことだってできる。言うまでもないが、今年出たミックスをここですべて網羅するにはあまりにも量が多すぎる。そこで40本のミックスに厳選したが、それらに共通するのは、何にも縛られていないアーティストが最大限に自分を表現している様が映し出されているところだ。

- Kelela & Asmara
  Aquaphoria
  
  WarpのNTSテイクオーバーの一環として放送された、このKelelaとAsmaraのWarpミックステープは、友達同士のジャムセッションを聴いてるようだ。AsmaraはAphex Twin、Suzanne Kraft & Jonny Nash、Kareem Lotfyといった近年のアンビエント・ミュージックを定義づけているアーティストたちのトラックを繋げて、ゆるやかに起伏するバッキング・トラックを築いていく。Kelelaの透き通った、即興の歌唱はJaco Pastoriusの天才的なベースソロや、Iury Lechのエモーショナルに打ち寄せる音の波と完璧な相性の良さを見せる。この浮遊感溢れるビートレスな音楽で、彼らはリスナーを忘れられない多幸感へと導く。
- Lena Willikens & Vladimir Ivkovic
  Live: Nuits Sonores 2019
  
  タイミングの良いジョークと同じで、フェスティバルのヘッドライナーのDJセットは、もとの文脈から切り離してしまうと良さが失われることが多い。その場にいないと伝わらないものだ。しかしLena WillikensとVladimir IvkovicがNuits Sonoresで披露した3時間の冒険のようなセットは、ほぼどんな場面でもマッチしてしまう。瞑想的で、奇妙で、やはりメインルームのダンスフロアであっただけあり、踊れる。このふたりらしいBPM遅めの選曲で、水晶玉の中を泳いでるような感覚にしてくれる。
- CCL
  Unsound Podcast 56
  
  CCLいわく、これはHoncho Campoutでのセットの一部の再現らしく、「日が昇る直前の...おかしな時間帯」を表しているそうだ。あの時間帯の予測不能な雰囲気が詰まっているところがまさにこのミックスの魅力だ。ハイライトのひとつは、Codekの“Closer”でいったん抑えておいてから、Metalheadz Wax Doctorへと繋いでボルテージを上げるところ。こういった巧みな繋ぎや、ミックスの最初と最後にエクスペリメンタルなポーランド音楽（Unsoundへの敬意の現れ）を入れるあたりに、CCLの丁寧な手技が光っている。
- Truly Madly
  GHOSTCAST 006
  
  ベルリンの人気移動型レコード店によるミックスシリーズ、Ghostcastは2年前にスタートしてからまだ数本のミックスしかリリースしていないが、どのミックスも、素晴らしいハウスとテクノのレコードコレクションを持っているディープ・ディガーDJたちの世界を垣間見ることができる内容であった。Truly MadlyもそんなDJのひとりだ。彼はアンダーグラウンドで定評のあるロンドンのDJだが、最近ではDiscogsオタクたちの間だけでなくより幅広い界隈で注目を集めるようになっており、このミックスではクラシック・テクノ～エレクトロ～ハウスといったサウンドを紡ぎ、普段のクラブ・プレイで魅せているスペーシーな気持ち良さでまとめている。
- Boards Of Canada
  Societas x Tape (NTS x Warp 30)
  
  Boards Of Canadaはエレクトロニックミュージック界の中でも最も表に出たがらないアーティストであり、スコットランドの田舎で彼らが普段どんな音楽を聴いているかは謎だ。Warpの30周年アニバーサリーの一環としてNTSで放送された2時間に及ぶミックス、『Societas x Tape』を聴けば、彼らの好みが少しわかってくる。Filmmakerのオブスキュアな電子音楽、Killing Jokeの'80sポストパンク、そしてSevered Headsのシンセポップといった選曲を聴いて、このパイオニアたちのことをもう少し知ることができる。
- Dee Diggs
  FACT Mix 710
  
  ニューヨークのDJ、Dee Diggsはダンスミュージックがブラックミュージックであることを人々に忘れさせないことを目的に活動する。彼女の『FACT』ミックスはその意思の表明であり、『Paris Is Burning』から始まり、DJ DeeonやKarizmaといったヴィンテージ・アクトのトラックや、DevoyeとAceMoなどニューヨークの新世代の楽曲を繋げ、ブラック・ダンスミュージック史を縦断する。クラシックで、ソウルフルで、ノリの良いこのミックスで、Diggsは自身が記録している音楽史にしっかりと自身の名前も刻んでいる。
- Eris Drew
  Raving Disco Breaks Vol. 1
  
  今年最もファンキーに輝いていた今作では、Eris Drewがダンスミュージックのクラシックな音を巧みに操り、自分らしいサウンドを生み出している。『Raving Disco Breaks』を通して、このアメリカ人DJは様々なダンスクラシックをスクラッチや2枚使いを駆使して、即興で組み合わせている。彼女のスキルの高さもさることながら、エモーショナルで、スピリチュアルで、かつノスタルジーに溢れる彼女のDJセットの興奮が伝わってくる。オールドスクールなテクニックと、ニュースクールなヴァイブスの融合。
- Francesco Del Garda
  Robert Johnson Archive 0002
  
  これは去年のクリスマスの数日後に、ライン川の岸に建つRobert JohnsonでFrancesco Del Gardaがプレイしたセットの一部だ。サンライズ、完璧なサウンドシステム、6時間に及ぶDJタイム、お祭り気分のクラウド――これ以上ない、最高のセッティングである。フランクフルトのクラブの新しいミックスシリーズのひとつとして配信されたこの音源では、そのうちのほんの1時間だが、絶好調なDel Gardaが、彼の特色である高揚感溢れるサウンドを存分に披露している様が聴ける。
- Batu
  Truancy Volume 240
  
  BatuはこのTruancyのミックスを、「2030年開催のBristol-Bassという名のフェス」のクロージングセットをイメージして作ったそうだ。彼が主宰するレーベルTimedanceや、自身の独創的な楽曲を考えると、UKダンスミュージックの未来を想像するにふさわしい人物だ。モダン・ベースミュージックが同ミックスのバックボーンを担うが、ラテンからアフロ・カリビアンなリズム、アンビエント・テクノ、エクスペリメンタル・クラブまで冒険的に跳躍する流れになっている。
- Erika
  IT.podcast.s08e01
  
  ErikaによるInterdimensional Transmissionsポッドキャストは、デトロイトの同レーベルの名前に恥じない内容だ。まるで、別次元からの交信を聴いてるかのようである。ITは奇妙な異世界的テクノをやらせたら右に出る者はいないレーベルであり、LAで開催された姉妹レーベルEye TeethのショーケースでのErikaのセットを録音したこの音源では、そういった音楽のコズミックで、ファンキーで、頭がクラクラするほど良い部分を抽出したプレイを聴くことができる。
- DJ Persuasion
  Dedicated To The Dedicated 94-95
  
  1994年と95年について、腕の立つジャングリストに尋ねてみるといい。1994年と95年は黄金期だったと答えるはずだ。同意できないって？まあ、90年代ダンスミュージック・マニアDJ PersuasionことSemtekによる最新の1時間ミックス『Dedicated To The Dedicated 94-95』を聴けば、そんな反対意見も変わるかもしれない。そのほとんどが詳細不明の全てのチューンはそれぞれリズムとソウルに身悶えするような楽曲だ。温かなベースラインとタイムストレッチがかけられたヴォーカルが、ゾクゾクするような高揚感に拍車をかける。90年代は良かったと言う人たちは、このようなことを思い出しているのだろう。
- Sherelle
  LDN: Bass & Percs Special
  
  今年初め、フットワークとジャングル、グライムの旋風となったSherelleのBoiler Roomでのデビューセッションは、大きな話題を呼んだ。高速BPMのDJはオーディエンスを疲れ果てさてしまいがちだが、彼女のセットは終始中毒性のあるハイ・エナジーを維持し、爆発的で遊び心のあるトランジションがダンスミュージックのモッシュ・ピットの火付け役となった。23:40頃の力のこもったリワインドによって、彼女は瞬く間に（当然の）名声を掴んだ。
- Leif
  Freerotation 2019
  
  Leifは、ウェールズのフェスティバルFreerotationで毎年登場する小さなDJグループのうちの1人で、フェスでのセットは毎回最高で特別だ。2019年も例外ではなかった。Leifがピークタイム・セットを再定義したこの録音は、スローで華奢な雰囲気から始まり、その後、様々な色合いの楽しげでリズミックなクラブミュージックの間を優雅に行き来する。EquiknoxxやDomu、Efdemin、そしてAphex Twinのチューンが全て、類まれなスキルによってまとめられている。あるSoundCloudユーザーがこうコメントしていた: 「彼はもはや人間か？」
- Dr. Rubinstein
  Phonica Mix Series 56
  
  Dr. Rubinsteinは、過去にヴァイナルに刻まれてきた中で最高の303ラインを見つけ出すべく数十年間のダンスミュージック史を調べ上げてしまう、アシッドの歴史家のようなDJだ。彼女のPhonicaミックスは、お馴染みの名前（DMX Krew、Adapta）と並んで何組かのアップカミングなタレント（Jack Roland、Gian）を何組か紹介している。時にダークで時に明るい『Phonica Mix Series 56』は、非常にサイケデリックなトリップであり、素晴らしいエレクトロとテクノを、忘れ去られたアシッド・ボムの数々の間に織り交ぜている。Rubinsteinにとってはいつものことだが、ミキシングはワールド・クラスであり、トランジションごとに彼女独特の音の世界に我々を引き込んでいく。
- Leon Vynehall
  DJ-Kicks
  
  昨年、Leon Vynehallはアルバム『Nothing Is Still』を発表し、彼のプロダクションを通してクラブの遥か先の道を切り開く世界を見せつけた。そして2019年、彼はまた同じようなことをしてみせたが、今回はDJによってだった。ジャンル、時代、ムードを、卓越したフローと巧妙さでブレンドし、リスナーの心をとりこにした『DJ-Kicks』ミックスが今回の“証拠”だ。ダンスホール、テクノ、ポップ、ジャングル、ソウル、ソロ・ピアノ曲—一見悲惨な内容になりそうだが、結果として最近の記憶の中で最も洗練されたミックスCDの1枚となった。
- re:ni
  Dekmantel Podcast 253
  
  re:niのDekmantelポッドキャストは全てにおいてバッチリだ。トラックリストはmixesdb（DJミックスやポッドキャストのデータベースを纏めたウェブサイト）の探偵たちを悩ませた。ミキシングも見事で、早業とロングミックスを組み合わせながらテンポとスタイルの間を勢いよく動き回る。だが何より素晴らしいのは、言葉で言い表せないほどのre:niのグルーヴ感だ。しなやかで柔らかく、常に流れの中にある—それがこのミックスが抜きん出ている理由だ。
- Turtle Bugg
  HNYPOT 330: African Art of Acid (Triple A Baybee) Mixx
  
  Turtle BuggのHoney Soundsystemミックスは、皆があまり口に出さない事実をごくシンプルに主張している。アシッド・ハウスを生み出したのは黒人なのだ、と。とは言え、彼が言っているように「アメリカではセカンド・サマー・オブ・ラブは起こらなかったし、イビサで休暇を過ごす黒人もいない、自由の女神の出来損ないの子供たちの人生を変えられる数百万ドル規模のビジネスも始まらなかった。」Dave Chappelle、Malcolm X、そしてDerrick Mayの声が、連結したアシッド・ラインの上で鳴り響く。メッセージは明白だ。誰が注意を払おうが関係ない、黒人は想像力に富んでいる。
- Ben UFO
  Hessle Audio - 9th September 2019
  
  Ben UFOが2019年に担当してきた多くの放送のうちの1つである、このHessle Audioショーは、なぜそれほどスペシャルなのか？それは、ただただスペシャルだからだ。このショーが放送された初秋の夜、大量の新作レコードと共に登場したこのUKのDJは特段調子が良く、美しく編み込まれたアンビエント、アフロ・テクノ、ジャングル、そしてJoeのタペストリーで常連リスナーと初めてのリスナーを楽しませた。放送当時に聴いていたのはオタクとレイヴァーだけではなかった—Four TetやHunee、John Talabot、その他様々なダンスミュージックの重要人物たちが、毎週恒例の音楽的インスピレーションに耳を傾けていた。
- Via App
  Crack Mix 307
  
  Via Appは、ブルックリンのテクノ・アンダーグラウンドの根源となるものを本Crackミックスに取り入れているが、このセットは最近の彼らの作品と同じくらい聴き手を不安定にさせる。耳障りなターンと中断の間を走り抜ける、このバンピーなライドは、唸るようなパンキッシュなスピリットさえも感じられ、今年我々が耳にしたどんなミックスよりもパンチがある。
- <a href="/reviews/23502">Powder In Space by Powder</a>
- Powder
  Powder In Space
  
  『Powder In Space』を1回再生したとする。「これはいいな」と思う。しばらく経ってから、2回、3回と聴く。すると今度は1回目では気が付かなかった、Roy Brooksのヴォーカルや、Daphneの沸き立つヴィブラフォンのようなメロディーが聴こえてくる。そして、このミックスに心を奪われていることにも気が付くだろう。Powderのミックスは、こうしてリスナーを魅了する: 素晴らしいテクスチャの風変わりなハウスから引き出される、彼女の控えめなアプローチが、こちらから近付いていくのを待っているのだ。
- Shannen SP
  DISCWOMAN 80
  
  Shannen SPは、Kode9と共にロンドンのクラブCorsica StudiosでHyperdubのイベント・シリーズØを主催している。週の半ばに開催される、エクスペリメンタル・ミュージックとアートの素晴らしいマンスリー・ショーケースである。彼女は瞬く間に注目DJへと成長し、このDiscwomanへのミックスでは、シャープで角ばったビートをルーズでパーカッシブなリズムとリンクさせており、彼女はこのスタイルを「魔法のブラック・エナジー」という一言にまとめている。
- Ciel
  FACT Mix 724
  
  Cindy LiによるFACTミックスは、「速くて軽い（fast & light）」という明確なコンセプトを持っており、ハチドリにインスパイアされたのだという。このミックスは、彼女のDJがダイナミックである理由をも捉えている。トロント拠点のアーティストである彼女は、高速のドラム・パターンや震えるメロディの間を巧妙に行き来し、ブレイクビーツやエレクトロ、テクノをそよ風に浮かぶ羽のように漂わせる。彼女のテクニックは、音楽そのものが持つフィーリングをも変えてしまう。DJにとって送られる最大の賛辞の1つだ。
- Physical Therapy
  Live: Honcho Campout 2019
  
  今年のHoncho Campoutでは、The Way Inステージが最もファンキーなサウンドを鳴らしていたかもしれない。CCLがBeat Happeningの名曲でダンスフロアを涙させる1時間前、Physical Therapyはトリッピーな調和の中で生まれるマスタークラスなこのセットを繰り広げた。完全にドリーミーなドラム&ベース、Stennyの“Stress Test”にかぶせたCece Peniston“Finally”のスローモー・ヴァージョン、Andrew WeatherallによるSt Etienneのリミックス、そしてD'Angeloの“Devil's Pie”—このセットのハイライトは、挙げるにはただただ多すぎる。1人のリスナーの視点からすると、これほどユニークなスタイルを持つDJのこのようなプレイを聴けるのは、最高に素晴らしいことだ。
- Josey Rebelle
  Essential Mix
  
  「私がプレイする音楽や私の人生そのものに流れる系譜は、私の親世代からくるものなの」と、Josey Rebelleは2017年、Real Scenes: Londonの撮影中に我々に語った。彼女の両親は1950年代にカリブ海地域からイギリスに移住し、イギリスの生活やカルチャーに多大な影響を与えてきたウインドラッシュ世代。そこから受け継いだRebelleの財産は、彼女がデッキの後ろに立つ度に溢れ出る。彼女は典型的なロンドンのDJだ。街のレコード・ショップとサウンドシステム・カルチャーから知識を得た彼女はソウル、テクノ、ハウス、ディスコ、R&B、ジャングルを容易にミックスしてみせる。彼女による初のEssential Mixは、Jamal MossやAybeeによるディープなUSミュージックを地元ロンドンの人気者Steven JulienやCooly Gと並べた、ダークでファンキーなミックスだ。
- Ariel Zetina
  Truancy Volume 249
  
  「セクシーな性転換者にパワーを与えて、世界を変えよう。」Ariel ZetinaによるTruancyミックスの冒頭で、女性がそう唱えている。これはたくさんの生き生きとしたヴォーカル・サンプルのうちの1つで、シカゴのクラブsmartbarのレジデントである彼女のストーリーを表現するのに貢献している。そのサンプルの下ではトリッピーなアシッド・ハウスやソウルフルなテクノが（その多くは、他のクイア / トランスセクシャル・アーティストによる楽曲）、異なるムードを描く。時に生々しくセクシー、時に瞑想的で不思議、だが常にアティテュードど情熱で充満している。
- Jackie House
  HNYPOT 300: Half A Bar Will Do It
  
  Jackie Houseによる『Half A Bar Will Do It』ミックスが公開されたのは11ヶ月前のこと。正月明けの真冬、それは北半球のダンスミュージックが一時的に休止状態になる時期だ。ミックスはそんなムードに完璧にマッチする内容。3時間にわたり、Kompaktのディープなカットからピッチが大幅に下げられたアンビエント・ジャングルまでが、あらゆる心地よく物静かなグルーヴの間を通り抜ける。ブランケットに包まり、暖かなランプの光を浴びているJackieの写真が、このミックスの1番いい聴き方を示している。
- Nosedrip
  Live: Dekmantel Festival 2019
  
  サイケデリック・ダブとオブスキュアなポストパンクをラジオでかけるのと、それをフェスティバルでミックスしダンスフロアの雰囲気を保つのは全くわけが違う。しかしNosedripは今夏のDekmantelのRed Light Radioステージで、そんなことをやってのけてしまった。ラッキーなことに、ポゴ・ダンスでもできそうな録音が聴けるようになっている。STROOMのボスの手にかかると、Siglo XXによる"Individuality"のようなベルギー産のレア曲が、目的を述べたステートメントに生まれ変わる。「I don't wanna be like the others （周りの人間のようにはなりたくない）/ I am an originality （俺こそがオリジナリティ）/ In search for individuality（個性を求めて）」
- Sybil Jason
  Blowing Up The Workshop 103
  
  Sybil Jasonによる『Blowing Up The Workshop』ミックスの尺はたったの40分間であり、とりわけ満足のいくトランジションの後に急に終了する。奇妙なダウンテンポからシンセ・ポップ、テクノまで、彼女の幅広さを見せつけ、まるでJansonが熟練したタイム・トラベラーのように時代の間をジャンプする、素早く、激しく、盲点を突くようなミックスだ。2019年は彼女のキャリアにおいて今までになくビッグな1年となったが、このDJスキルがあってこそ獲得した地位である。
- Spekki Webu
  Nous'klaer Radio #20
  
  ここ数年間、ダンスミュージック・シーンで再び盛り上がりを見せていたトランスが、2019年ついにセンター・ステージへと躍り出た。ユーロダンスにインスパイアされている曲も多い中、Spekki Webuは同ジャンルの初期に見られたサイケデリックなフォームが持つ興奮を探し求めている。Nous'klaer Audioに寄せられたこの精密なセットは、異世界感のあるDJのマスタークラスといったところで、幻覚的で眠気を誘うようなサウンドスケープの中を旅し、最後は全て一緒に溶け合う。

2019

Mix of the year

Conducta
Kiwi Krush

AJ Traceyのミリオンセラー“Ladbroke Grove”で始まり、Jorja SmithとRoger Sanchezのエディットで終わる――『Kiwi Krush』の魅力を要約するなら、そう言うのが一番的確だろう。その3曲に加えて、Conducta自身がプロデュースしたトラックをあと4曲収録しているこのミックスは、未発表曲のエクスクルーシブばかりを集めた1時間だ。トラックリストには、Prescribe Da Vibe、Sammy Virji、Jack Junior、Mind Of A Dragon、Smokey Bubblin Bといった、彼主宰のレーベルKiwiに所属するアーティストたちの名前が並ぶ。ConductaはUKガラージの新世代のリーダー的存在となったが、これは彼がクロスオーバーなサウンドと、集団主義的な思想を組み合わせることに長けているからであり、頑なほど時代に後退的だったシーンを進歩させようと何年もかけて努力してきた末の結果だ。今世紀の初頭以降では、どの時期よりも今が一番多くのガラージがイギリスのチャートにランクインしているが、『Kiwi Krush』はこのサウンドの今後の行方を示唆する作品になっている。

これはUKガラージだが、傷んだスリーヴに収まってるレコードで聴けるタイプのものとは違う。Kiwiサウンドは、DJ Q、BassboyやChampionといったアングラの雄たちが過去10年間ほどプレイしてきた音楽のほうがずっと近く、90年代半ばに初期ガラージハウスを育んだサウス・ロンドンのパブや駐車場のほかに、シェフィールドのベースラインのハブ、Nicheに恩を受けている。ミックスの40分ほど経過したところで聴けるShardaの“Alpine”を例に挙げよう。T2によるポップなベースライン・アンセムや、Sunshipの2ステップの名盤『Is This Real』などの影響が感じられるだろう。このルードさとスムーズさの絶妙なバランスが、『Kiwi Krush』の強みだと言える。

明るく軽快な雰囲気からダークで不安定なムードに劇的に変わったり、フェーダーで音を千切りにしたり、リワインドを何度も駆使したり、ちょっと雑な繋ぎもあったりと、Conductaはまるで2001年ごろのKiss FMのラジオ番組で即興プレイを披露しているかのようだ――つまり、生き生きとしてるということ。このUKGの再解釈をスウィートでフルーティーすぎると鼻であしらう純粋主義者もいるが、レーベル名がKiwiなのは偶然ではない。今年、『Kiwi Krush』ほど陽の光に照らされる感覚を味わわせてくれるミックスは他になかった。

ボーナスとして、過去12ヶ月のわたしたちのお気に入りRAミックス、10本を紹介します。

- SO
  RA.697
  
  日本のフェスティバルLabyrinthのオーガナイザーのひとりによる、極めて崇高なテクノ。
- FAUZIA
  Lift LDN
  
  今年3月に開催したNikeとRAのコラボレーションパーティーLift LDNではPeggy Gouがヘッドライナーを務めたが、彼女が話題を独占したわけではなかった。サポートDJとして登場した3人のうちのひとり、FAUZIAは、ハードコア、フットワーク、奇妙なクラブクラシックスをブレンドし、レイヴエナジー溢れるセットを披露した。Keith Flintの死からわずか数週間後に届けられた彼へのトリビュートも感動的であった。
- Aurora Halal
  RA.681
  
  このシーンで最も卓越したアーティストの1人による、目がくらむようなコズミックテクノ。
- Blawan & Dax J
  Live At RA Sonar
  
  まさかフライトキャンセルが起こるとは。この世界初のバックトゥバックは危うく実現しなかったかもしれず、最初の50分、Dax JはSónarLabのクラウドに向けてソロでプレイした。彼は素晴らしい仕事をしたが、テクノボムが投下され出したのはBlawanがようやく到着してからのこと。
- Titonton Duvante
  RA.696
  
  Titonton Duvanteは90年代初期から素晴らしい音楽を作り、プレイし続けているが、我々は幸運にも、世界的に再注目を集めている真っ只中の彼をキャッチすることができた。彼のRA Podcastはそぎ落とされたハウス / テクノの良き模範であり、彼が制作したタイムレスなサウンドを見事にキャプチャーしている。
- Tony Fairchild
  Is / Was - Label Of The Month
  
  主宰する優れたレコードレーベル同様、Tony Fairchildによるオフビートなハウスとテクノの陶酔感のあるブレンドは、聞く者をうっとりさせる。
- Ash Lauryn
  RA.688
  
  有望なUSのDJは、この力強いセットの中で、期待の新人を紹介しつつハウスのパイオニアに敬意を払うことで、アンダーグラウンドとブラックを推し進めている。
- Foreigner
  Xfer Mix
  
  アフロディアスポリックなクラブサウンドに打ち込むワイルドなパーティーの主催で知られるForeignerことAdam Cooperがリードする、活発なロサンゼルスのアンダーグランドシーンを垣間みれるミックス。
- Powder
  RA.700
  
  700回目のポッドキャストのアーティストを決める時、我々は現在絶好調にいるDJを探していた。それが、深夜から早朝にかけての2時間を切り取った魅力的なプレイを届けてくれた、Powderである。
- stud1nt
  Live: twenty four/seven New York
  
  RAがニューヨークNowadaysで開催したパーティー、24/7のオープニングを担当したstud1ntのミックスは、あの7月終わりの夏の夜へと連れ戻してくれる。哀愁を帯びたアンビエント、ドローン、エクスペリメンタルミュージックから成る、この美しいセットは、この日のパーティーの基盤を作り上げた。