多くの人にとって、ミックスはここ10年のエレクトロニック・ミュージックの聴き方を定めたものであったが、そのフォーマットは変容していた。ミックスCDは最後のひと踏ん張りを見せ、何枚か名盤が登場したものの、多くのレーベルがCDをリリースすることから手を引いた。その代わりにオンラインミックス、ポッドキャスト・シリーズ、ライブ配信といったコンテンツが増えていき、刺激的なクラブセットからコンセプチュアルな作品、レイドバックなミックステープまで、無料で聴ける音楽がどんどんと出てくる巨大なネットワークが形成されていった。

過去10年に登場し、消えていった何千ものミックスからベストを選ぶという行為はとても現実的とは思えなかったため、2010年から2019年のそれぞれの年にリリースされた「オフィシャルミックス」（ミックスCD、またはライセンス・ミックス）をひとつ、そしてオンラインミックスをひとつずつ選ぶことにした。ここで取り上げたミックスやライブセットは、登場したあともずっと我々の心に残る、大切な瞬間を記録したものたちだ。

- 2010
  Shackleton
  Fabric 55
  Fabric Records
  
  Listen: Apple Music
- ダンスフロアを教会にしてしまうDJもいるし、Joe Smoothが歌っていたように「promised land（約束の地）」に導いてくれるDJもいる。Shackletonの音楽にも神聖さが垣間見えるものの、ねじれたコンガの音、圧倒されるほどのベースの圧、破滅を予言するかのようなヴォーカルが印象的な儀式ダブ・ミュージックとも言えるこの音楽は、自己超越への道というよりは異端者への近道というほうがしっくりくる。この音楽の言葉にならない魅力は、本質的に、何か危険でハイリスクなものを聴いている気分にしてしまうところだ。Shackletonのリズムの世界でこのまま彷徨い続けたら、自分は誰、あるいは何に変貌してしまうのか？その世界から帰還することはできるのか？
  
  『fabric 55』をループ再生してみてほしい。どこが始まりでどこが終わりなのかわからなくなるだろう。それは意図的だったのかもしれない（ミックスの中盤で「everything starts from point one（全ては1から始まる）」という声が入ってるのが興味深い）。脈打つ脅威が絶え間なく押し寄せるこのミックスでは、メビウスの帯の上を追われている感覚に陥る。しかし同じことを繰り返し、堂々巡りをしている気にはさせないのが素晴らしいところだ。「cancel, cancel!」といった声や「I am alpha and omega」といった言葉で始まる奇妙なスピーチなど、『fabric 55』の声ネタがこの音楽の危険度を浮き彫りにし、挑発的なミニマリズムがメロドラマ的要素を一切排除する。Shackletonのオリジナル曲のみで構成された『fabric 55』の核に潜む緊張感は、彼の音楽人生のひとつの到達点を表している。
  
  - Ray Philp
- 2010
  Spencer Doran
  Fairlights, Mallets And Bamboo
- 2010年の時点でMkwaju Ensembleの『Mkwaju』だとか、芸能山城組の『アフリカ幻唱』、または清水靖晃の『Music for Commercials』を購入しようとしたら、いったいいくらしただろう？購入できる輸入盤すらあったのだろうか？確かなのは、こういったレコードを入手していた日本人ではないディガーは当時多くなかったことだ。だからこそ、Visible Cloaksの片割れ、ポートランドのSpencer Doranは日本の70年代と80年代の音楽を世界に紹介する重要な架け橋的存在となった。そんな彼が作ったこのミックス、『Fairlights, Mallets And Bamboo』はタイトルに全てが含まれている。Fairlightはこの音楽の特徴的な質感を担うシンセサイザーの名前であり、Malletはミックスを通じて響く打楽器を表し、Bambooはこのニッチな禅音楽が後に「環境音楽」と呼ばれるようになることを予言していた。
  
  もともとこのミックスはRoot Strataというブログのために録音され、再生数が5万回以上に登ったが、その後Soundcloudからは削除されてしまった事実が、日本の音楽を巡ってひとつの産業ができ、それが一種の規制を生んでいることを物語っている。今このトラックリストを見ると、例えばウルトラレアな曲が聴けるSanpo Discoミックスシリーズ（Spencer自身がシリーズ100番目を担当している）などと比較して、有名どころばかりに見えるかもしれない。しかし、今では近年の最重要リイシュー作品のグループとして知られるMariahであっても、10年前にその名前を聞いてピンと来ていたひとはほぼいなかっただろう。Light In The Atticのコンピや、NTS RadioのHosono Days、またはVisible Cloaksが自身の楽曲でこのサウンドをデジタルにアップデートするよりも前に登場した『Fairlights, Mallets And Bamboo』は、丁寧に作り上げられた貴重な音楽史の記録であり、緑の豊富な、優しい世界への扉を開いてくれた。
  
  - Gabriel Szatan
- 2011
  Pearson Sound
  FabricLive.56
  Fabric Records
- 『FabricLive.56』のトラックリストを見て、鮮明に思い出が蘇る一部のクラブミュージック・ファンもいるだろう。「ああ、“GR Etiquette”かぁ。懐かしいなぁ…。おお、“City Cycle”は名曲だった…。ほんと、この頃はダンスミュージックにとって良い時代だった」。この架空のレイヴァーの言葉を少し補足すると、これはUKダンスミュージックにとって良い時代であった。そしてこのシーンを先導するDJ・プロデューサーのひとりとして中心にいたのが、Pearson SoundことHessle Audio創始者のひとり、David Kennedyである。
  
  これはベースミュージック、あるいはポスト・ダブステップとして語り継がれる時代だ。2011年、そのサウンドは素晴らしいピークを迎えていた。まだ初期の興奮が冷めやらない時期で、ダンスフロアでの機能性が失われるほど発展はしていなく、いかにこれまで以上にクレイジーなリズムを作曲できるかに挑戦していた時期だ。そして、『FabricLive.56』はそんな台風の目と言える。同シーンを代表するアンセムを衝突させ、ベースミュージックのルーツであるグライム、ガラージとダブステップとの繋がりを示し、テクノやフットワークすらをも飲み込むことができるほど柔軟であることを証明した。Kennedyは、彼やPangaea、Ben UFO といったDJが支持を集める理由でもある、意外な展開を作るセンスをここでも披露した。これは、シーンのリーダー的存在による、爆発的なクリエイティビティに溢れていた時代に録音された、リスナーに多量のノスタルジアを薬物のように注入してしまいかねないミックスだ。これを超えるミックスにはなかなか出会えない。
  
  - Ryan Keeling
- 2011
  Nguzunguzu
  The Perfect Lullaby
- マルチカルチャーでマルチジャンルで、ボルチモア・クラブやレゲトンといったサウンドの影響が色濃く現れた2010年代のクラブミュージックの方向性を、Nguzunguzuが予言していたことはあまり語られていない。このLA拠点の二人組の初期の楽曲はオープンマインドなハイブリッドで、のちに登場するデコンストラクテッド・クラブの走りとなるサウンドであったが、彼らが注目を集めるようになったきっかけはDJプレイであった。そして2011年にDIS Magazineからリリースされた『Perfect Lullaby』で、彼らの名前がシーンにしっかり刻まれた。
  
  ポップスをエディットするセンス、非凡なDJスキルなど、この1時間程のミックスを聞けば彼らの実力がわかる。The-Dreamのズーク・エディットやNicki Minajのレア曲といったトラックを信じられないほどにスムーズに繋げていき、ノリノリなグルーヴを作り上げていく。中盤でかかるAmerieの“1 Thing”のリミックスは新曲に聞こえるほどフレッシュだ。そして、『Perfect Lullaby』にはDJ Nedwyt-Fox、DJ Fofuxoといった、その後大いに注目が集まるリスボンのゲットー・シーンのアーティストたちの楽曲も盛り込まれており、ふたりがいかにトレンドの先を行っていたかがわかる。
  
  今『Perfect Lullaby』を聴いてもこれが2011年にリリースされたとはわからないだろう。Taylor SwiftやSelena Gomezといったスターがレゲトン・スタイルのビートを採用している現在、Nguzunguzu がこのミックスで提示した方向性はポップ・カルチャーの潮流のひとつとなったが、『Perfect Lullaby』ほどのしなやかさや自由さには欠ける。Fade To MindからInfinite Machine、NAAFIまで、このミックスなしではコンテンポラリー・クラブミュージックが今のような進化を遂げていなかっただろう。
  
  - Andrew Ryce
- 2012
  DJ EZ
  Boiler Room London DJ Set
- それは世界中で「b-b-b-b-baby」と鳴り響いた瞬間だった。初めてBoiler Roomに出演したDJ EZは、スタートから14分ごろにWookieの“Battle”を細かくループさせる。そして信じられないテクニックで、もう片方のCDJのピッチを操りながらCueボタンを連打し、2台のデッキを単音で対話させたかと思うと、マジシャンなみの華麗な手先で次の曲がCleptomaniacsの“All I Do (Bump & Flex Mix)”であることを披露し、クラウドの理性を失わせた。それはまるでエジソンが初めて電球を灯した瞬間を目撃したようであったが、それもこの混沌とした素晴らしいミックスのほんの一部である。
  
  この45分でDJ EZは2010年代のブリティッシュ・ベースを代表するアリーナ級のスターとして生まれ変わった。“Go DJ”、“Things We Do”、“A Little Bit Of Luck”、“Forward Riddim”、“Little Man”を開始10分以内にドロップできるDJは他にいるだろうか？異常である。ほんの一瞬のトリックを披露しているときも、針に糸を通すほどの精度でPeven EverettとMJ Coleを綺麗に繋ぐときも、EZのスキルは恐ろしいほどに高い。この録音は今聞くとなかなか聴き苦しいところもある。技術トラブルもあれば、客が彼にぶつかっているし、音はあまりにも大きすぎてMetallicaがErik Satieなみに静かに聴こえるくらいだ。しかしそんなことはどうでもいい。UKガラージを聴いて育ち、2000年代初期にジャンルの評判が落ちていったのを目の当たりにした人たちにとって、これはUKガラージの復讐を目撃している気分だったのだ。
  
  2019年のSherelleのBoiler Roomセットが、まるで雷が同じところに二度落ちたような現象だと捉えることは難しくない。大胆なブレンド、喜びに満ち溢れたMC、スピーカーから流れる音もクラウドもエネルギッシュ。タイムラインにDJ EZやSherelleの動画がシェアされるたびにバズるが、その理由も明白だ。その空間に満ちている幸福感は、何度挑戦しようと、人工的に作り出せない自然な興奮なのだ。
  
  - Gabriel Szatan
- 2012
  Rustie
  Essential Mix
- Rustieの『Essential Mix 』には、「ミックス」とは何なのかを考えさせられる。瞬きをしたら見逃してしまうほどの速さで、次々にダンスミュージックとヒップホップが繋がれていき、気がついたら曲が変わっている2時間。これはただのミックスではなく、その後トラップとして人気になるサウンドを結晶化したひとつの出来事であり、コンテンポラリー・ラップミュージックとRustieの地元、グラスゴーのマキシマリストなサウンドの融合を象徴した。（後にRustieの親しい友人Hudson MohawkeがDrake、Pusha T、Kanye Westらにビートを作ることになり、そのコネクションが現実のものとなった）
  
  Baauerの“Harlem Shake”が世に出たのもこれが初だった。Rustieのミックスが話題になったおかげでDiploとの契約が実現し、その後同曲はUSポップチャートの1位を獲得するシングルとなる。そして、後にトラップ・アンセム“Higher Ground”をリリースすることになる、HudMoとLuniceのWarp Recordsプロジェクト、TNGHTのオフィシャル・デビューもこのミックスだった。全体を通じて、このミックスは感情表現が豊かだ。HudMoとRustieの曲に挟まってRick Rossが登場する。その後も興奮は高まっていき、Rustieの多幸感溢れる“Hover Traps”にKanye Westがラップしている瞬間に絶頂を迎える。
  
  登場から8年経ったRustieの『Essential Mix 』は、今聴いても興奮に満ち溢れている。当時は全てが新鮮だったが、今聴いても輝かしく、無限なポテンシャルを秘めているように聴こえる。このスコットランド人のアーティストはそのポテンシャルを全て活かすことなく、2010年代が終わる前にほぼ引退している。そんな彼と彼のムーヴメントを捉えたのがこのミックスであり、今ではもう不可能なのではないかと思うくらいに、当時のエレクトロニック・ミュージック界を魅了した。
  
  - Andrew Ryce
- 2013
  Nicolas Lutz
  Louche 108
- 過去10年の間にミニマルに何かが起きた。Nicolas LutzなどのDJたちは、Ricardo Villalobos、Perlon、[a:rpia:r]といったプロデューサーやレーベルらが形作ったループ主体の簡素なサウンドから離れ、何十年も前の、無駄のないテクノ、エレクトロ、ハウスに焦点を合わせた。エンドレスに揺れ動くグルーヴや精確なミックス技法は変わらなかったが、音はよりカラフルになり、異なるスタイルや時代との融合がこれまで以上に盛んになった。BinhやOnur Özerらとともにその動きの最前線にいたLutzは、「blind buy」（視聴せずにレコードを買うこと）といったワードを流行らせ、埋もれたオブスキュアなレコードを掘り起こすことに世界中を夢中にさせた。そして、かつてリーズで開催されていたパーティーであり、2009年から2017年の間に150ものポッドキャストを配信したLoucheから2013年にリリースされたこのミックスほど、この変化を体現しているものはない。
  
  『Louche 108』は、今では当たり前になったサウンドの創生期を記録している。グルーヴは安定し、ブレイクダウンは稀で、しっかりした手つきとタイミング抜群な繋ぎで曲が展開する。Baby Ford、Robert Hood、James Stinsonらの楽曲とともにVillalobosの見落とされたリミックスも登場する。ミックスが配信された当初、ネットでは収録曲を調べようとする人たちがいたが、トラックリストはいまだ公開されていない。当時、LutzはまだClub Der Visionaereとの繋がりがあることぐらいしか知られていない比較的無名のDJで、たまにベルリンの外でギグをする程度であった。それから６年が経過すると彼はダンスミュージックをリードするDJになっており、Villalobosが王座についた奇妙かつ素敵なハウスとテクノ・サウンドの正当な後継者とも呼べる存在になっていた。
  
  - Matt Unicomb
- 2013
  Galcher Lustwerk
  100% Galcher
  Blowing Up The Workshop
- RAが2013年にベストミックスに選んだ今作は、よくあるミックスとは一線を画していた。果てしなく滑らかな『100% Galcher』は、未発表の自作曲で構成され、そのどれもが信じられないほどのクオリティの高さであった。このGalcher Lustwerkとは何者なのか？パリピ・ディスコのオーナーみたいな喋り方をするのはなぜなのか？ディープ・ハウスの上でラップしていいと誰が言ったのか？このミックスがBlowing Up The Workshopに登場したのは6月のことであり、その年の秋にはアンダーグラウンド・ヒットになっていた。Lustwerkの正体はというと、クリーブランド出身、ブルックリン在住の控えめな青年だが、彼には聴く者を魅了するとっておきのレシピがあった。それは、彼が住む眠らない街の鼓動と同調するかのような、夢見心地なディープ・ハウス。そしてそのレシピを味わい深くしている材料が、薄暗いクラブやバーの裏口へと誘って来るような、無感情でドライにライムをささやく彼の声である。
  
  まるでカセットテープのA面とB面のように『100% Galcher』は前半と後半に分割されているが、その両方に共通する音楽的要素がいくつかある。暖かい、靄のかかったパッドの音、ヴィンテージ・ドラムマシンのチクタク、遠くから聴こえる街の騒音、雨音、そしてミックステープ・マントラと化すまでリピートされる“Galcher Lustwerk”というフレーズ。そして、眠たそうな声で「you can’t stop it, no, no, no」とラップするLustwerk自身のヴォーカル。彼は、90年代に登場するもすぐに廃れたチープなトレンドとして知られるヒップハウスを現代向けに再考し、「ヒップ」の部分をミレニアル世代が執着するクラブ、ドラッグ、セックス、名声といった要素にアップデートした。『100% Galcher』が与えた影響は、ダンスポップスを更新するYaeji、Channel Tresらに見受けられるが、彼の真似をすることができた者はいない。
  
  - Chal Ravens
- 2014
  Ryan Elliott
  Panorama Bar 06
  Ostgut Ton
- ダンスミュージックにおいて最も人気のあるミックスCDシリーズのRyan Elliottが手がけた今作は、CDではなくデジタルファイルでリリースされた。フルマスタリングが施されたWAVファイルに高画質のアートワークとDJ本人からのレターを付属してフリーダウンロードでリリースされた『Panorama Bar 06』は、この10年間で起きた重要な変化の一つを反映した作品となった。CDの消滅である。だが、Elliottが自身のホームクラブに提供したこのセットを聞く限り、そのことが音楽そのものに及ぼした影響はあまりなかった。強いて言うなれば、媒体の可能性を広げたことだろうか。『Panorama Bar 06』のリリース元であるOstgut Tonは今作のリリースにおいてコストのかからないライセンススキームを構築し、USのヒーロー（K-HAND、Elbee Bad）から現代のアクトたち（Genius Of Time、Mr. Tophat & Art Alfie）まで、フィーチャーするアーティストの幅を広げることに成功した。
  
  音楽的には、Panorama Barというクラブを垣間見れるセットだと言える。クラシックハウスからテクノ、さらにはUKガラージにまで広がり、その全てが同クラブでの夜を連想させるもやで覆われている。ミックスの制作にあたり、Elliottは過去10年間で自身が最も多くプレイした場所のサウンドをキャプチャーすることを目指したという。今作を聴いていて、かのベルリンのダンスフロアにテレポートしたような気分にもしなったとしたら、それには十分な理由がある。Elliottは収録曲の多くを過去に何度もPanorama Barでプレイしているのだから。ワールドクラスのハウスとテクノがこのフォームのマスターによって90分間にまとめ上げられた、ダンスミュージック界における最も重要な場所のサウンドを象徴した作品である。
  
  - Matt Unicomb
- 2014
  Mike Servito
  IT.podcast.s03e03: Live @ No Way Back 2014
  Interdimensional Transmissions
- Interdimensional TransmissionsとThe Bunker New Yorkによるデトロイト発のパーティーNo Way Backにとって、2014年は当たり年ではなかったと言う人がいるかもしれない。Movement Festival期間中に毎年彼らが開催している同パーティーは、世界有数のレイヴの一つだ。会場はロードウェイ1515番地。伝説的なMusic Instituteの跡地で、その後小さなカフェとして運営されていた。室内も外も異常なほど暑く、お酒の販売も一晩中禁止されていた。そんな快適さに欠けた環境が功を奏して、デトロイトの外にはほとんど知れ渡っておらず、No Way Back目当てのコアな客のみが集まっていた。そのレイヴに耐えうる人のみがそこにいたのだ。
  
  BMGがかつて「壮絶なビッチ・スラップ」と呼んだMike ServitoのDJのスタイルは、そんな雰囲気に絶好にハマった。カモフラージュのネットに照らされた紫色のライティングを背景にしたServitoは不思議と汗ひとつ見せることなく、ピシッと撫で付けた髪型で、次から次へと爆発的なアシッド・トラックを投下した。ムンムンと加熱する温度と湿度、汗の匂いが漂う中で、クラウドの熱気は最高潮に達していた。激しさとファンクさの融合加減、迷い込むようなアシッド感と脈打つグルーヴによって、どの瞬間もフロアを離れ難かった。ときめく瞬間がいくつもあった、Talking Headsの"Girlfriend Is Better"のエディットやMatthew Stylesの"Hot"を選曲する皮肉さや、パーティーの名に相応しい"True Story Of A Detroit Groove"の90年代レイヴを彷彿とさせるリフが、このパーティーの過去と現在を繋ぐコンセプトをよく体現していた。ニューヨークとデトロイトを除いてServitoは知られざる才能であったが、このセットによって彼の名は広く轟くこととなった。
  
  - Will Lynch
- 2015
  Beautiful Swimmers
  Untitled
  The Trilogy Tapes
- Beautiful Swimmersと同時代に産まれた我々は実にラッキーだ。2010年代を通じて、常に影響力を示してきたこのコレクティブ、Andrew Field-PickeringのFuture TimesやAri GoldmanのWorld Buildingといったレーベルのみならず、ワシントンDCの数あるレーベルやアーティスト（1432R、Peoples Potential Unlimited、Dreamcast、Soso Tharpa）のコミュニティーの中心的な存在として、あるいは実力派のDJとして、踊り、笑い、楽しいチューンを聴かせ続けて来てくれた。レーベルとしての活動に励みながら、Swimmers自身のレガシーとしてデビューアルバム『joyride』を投下すると共に、良質なシングルや、オフィシャル／非オフィシャル問わず数々のミックスで2010年代を通してその存在感を示してきた。2015年にThe Trilogy Tapesからリリースされたミックステープは、他に右に出る者がない程強烈なインパクトだったと言っていいだろう。
  
  限定版としてリリースされた90分弱の両面ミックスは、旋風を巻き起こした。ファンによるトラックリスト作成の努力が見受けられたが、MixesDBのデータベースを見ると、未だにいくつかのハテナが残る。1991年のWatt Noizeによる"It's My Life"のMax Dエディットは、ブートがYoutubeで70,000回再生されるヒットとなり、2018年にWarriors Danceから正式なリリースが出されるに至った。Sadeの"Sweetest Taboo"をソカ風にアレンジしたThe Reblesのエディットもまた、中古市場価格が$300にまで高騰すると、Soundway Recordsによる昨年のリイシューが実現した。ミックスのピークと言えるのが、Yohan Square の1991年発"Love Of Life (Genesis Mix)"で、耳に残るグルーヴィーなビートと歌詞で笑みを誘う。「Two people, in love... how nice（恋に落ちた二人。。。なんて素敵何だろう）」といった具合だ。だが、彼らの選曲は高額な希少盤に限られている訳では決してない。2015年にTako ReyengaがRAに語るように、「Beautiful SwimmersといったDJ達の素晴らしいところは、全品２＄の段ボールに入っている様なハウス・レコードの中から、キラーチューンを見つけてくるところだ」。そんな姿勢で向き合えば、君たちにだってSwimmersのセットの様に、掘り出しモノが詰まったトラック・リストを作る事だって可能かもしれない、でも彼らの音と流れとヴァイブスには変え難い何か特別さが秘められている。
  
  - Marissa Cetin
- 2015
  Ben UFO
  Live @ Factory, Osaka
- 2014年に開催されたRBMAのレクチャーでBen UFOはYoungstaのセットについて、「たった4〜5組のアーティスト」のレコードだけを使って構成することは、どこかエキストリームな専門性があり、感心させられると語った。同世代DJの中でもトップの人気を誇るBenとは正反対のアプローチだと言える。Benのセットの中でも、深く印象に残るセットで使われているトラックを振り返ると、前に聴いた時と同じアーティストは4〜5組に留まるか、あるいは知っているトラックがたった4〜5曲程度といった具合だ。
  
  BenUFOのセットの中でのベストを挙げるとしたら、この大阪で録音された機知に溢れた3時間半のセットがトップにくるだろう。Calibre、Sound Stream、DJ Deeonや、Hessel Audio関連のブリティッシュ勢など、エリート・プロデューサー陣のトラックが名を連ねる。またFanon Flowers、Muの"Let's Get Sick"、 Toasty、Owiny Sigoma Band、Art Of Noiseのバルティモア・エディット、それからある時点では興奮した観客に一旦水をかけるようなRoman Flügel『Fatty Folders』のしっとりとしたピアノ間奏曲も含まれている。長年、ジャングルだったり瞑想的な音楽だったり、特定のテーマに沿ったDJを依頼されることの多いBenだが、この録音は彼の音楽性の良いとこ取り。異なるジャンル間をいとも簡単に行ったり来たりする、そんなセットだ。
  
  これ見よがしのミックスを行うことの少ないDJだが、いくつかの場面で彼のレアなフェーダー捌きが聴き取れる。例えば、Salvatore Fredaの"Irpinia"のMassimo Di Lenaリミックスで、クーという鳴き声の部分を焦らしつつ、深淵をふらつくKMA Productionsによる "Cape Fear"へと混ぜ込む。それから、Sizzlaの"Run Out Pon Dem"とLil Silvaの"Pulse vs Flex"をブレンドする瞬間は、叫び声を上げたくなる程良くて、巻き戻してもう一回聴かずにいられない。ミキサーのつまみを捻る度に、肘を振り回しながら、ノリノリで飛び跳ねるBenの姿が容易に想像できる。最高に楽しみながら、その喜びを観客の皆と分かち合う姿が。
  
  - Gabriel Szatan
- 2016
  Moodymann
  DJ-Kicks
  !K7
  
  Listen: Bandcamp / Apple Music / Spotify
  
  MoodymannはただのクラブDJとは少し違う。ほとんどの場合、曲から曲へシームレスに繋ぐことに固執しない。予想に反してテンポを変える。マイクを握り、曲に被せて喋り始めたりもする。またある時は、ウォッカのボトルを手にDJブースから出ていって、目の前の客に振舞ったりもする。彼のDJセットは、まるで自宅でお気に入りのレコードを聴かせてもらっているような感覚なのだ。シンプルに「みんなで楽しもうぜ」という、彼の気さくな招きには、何か本質的な魅力がある。
  
  Moodymannは、自分の宣伝のための努力ほほぼ全くしない、数少ない世界的DJの1人でもある。ポッドキャストにせっせとミックスを提供したり、SNS上で存在感をアピールしたりすることはない。だからこの『DJ-Kicks』は、彼の初のオフィシャル・ミックス（2006年に自身の楽曲のみで作られた『Moodymann Collection』を除く）であるというだけでなく、初の”スタジオDJミックス”でもあるので、内容を聴く前からすでに非常に希少価値があった。ここでのMoodymannのアプローチは、彼のクラブセットのようなカジュアルさはなく、全30曲収録中の1/3にオリジナル・エディットを施し、75分間の幅広くも完璧にブレンドされた大作ミックスに仕上げている。そのスキルにも、また痺れる。
  
  - Yuko Asanuma
- 2016
  Helena Hauff
  Live @ Mantra, Manchester
  Meat Free
  
  Helena Hauffの独自のスタイルと型にハマらない姿勢は、一躍彼女をハンブルグのGolden Pudelから大きなフェスティバルに名を連ねるまでに押し上げた。ヴァイナルをプレイすることへのこだわりや、ソーシャルメディアを極力使わないといった姿勢はもちろん、テクノの気骨な面やインダストリアルルーツのテイストが新鮮だったため、彼女は早い頃からシーンの中で一目置かれる存在であった。テクノがより禁欲的で、ヒプノティックで内省的、純粋な質感といった窮地へ進んでいく中で、彼女のテクノはズバリ、ロックンロールだった。
  
  彼女が世界有数のDJになるに至った所以を説明するために、過去10年の彼女のミックスの中からどれを選んでもよかったかもしれない。2017年のEssential MixはEssential Mix Of The Yearに選ばれ、女性DJ初の栄光となったという点で歴史的に意義深い。また、2015年のSecret Thirteenのミックスは、彼女のレフトフィールドで異端的なテクノのスタイルの代表例と言える。だが、Hauffのスタイルを最もよく捉えているのは、テクノのラフで現場主義的な面が反映されたライブ録音だろう。このマンチェスターで行われたMeat Free主催の20 Years Of Blueprintで録音された3時間セットほど、キッチュなエレクトロからディストーションの効いたインダストリアル、デトロイト・テクノはたまたポストパンクとEBMに至るまで、彼女の音楽性の幅広さと深さを味わうのに適したミックスはないだろう。
  
  - Elissa Stolman
  
  2017
  Call Super
  fabric 92
  Fabric Records
  
  Listen: Apple Music
  
  初めてCall SuperのDJを見たのは、インドのMagnetic Fields Festivalだった。ミキサーとCDJを巧みに使いこなす姿と、その落ち着いた出で立ちに、畏敬の念を感じずにいられなかった。宮殿の小塔の間から、朝の最初の陽射しが差し込む瞬間を待ってEverything But The Girlの"Wrong"をかける、タイミングの絶好さ。全体として明るく難なく、手練れているだけでなく、本当にこの芸に情熱を費やした者にしか成し得ない技である。長年色々なDJを観てきたが、これほどにも満足した気持ちでフロアを後にしたことは本当に稀だった。
  
  それから2ヶ月後のこと、Call Superの『fabric 92』がリリースされた。この時点で既にFACT、Resident AdvisorそれからBlowing Up The Workshopなどに上げられたミックスを通じて、彼のスキルは知れ渡っていた。どのミックスも挑戦的で、楽しく、技術的に優れる彼のDJスタイルが聴きとれるミックスであったが、『fabric 92』では彼のレパートリーがグッと広がった。ディープで霞みがかった音は、どの部分を切り取ったとしてもレーザー光線が貫くスモークの匂いが漂ってくるような。音楽的には、1940年代のブルースからYves Tumorへとフェードする部分など、その大胆さに耳が行くが、巧妙に一つの世界からまた別の音世界へとリスナーをワープさせる雰囲気作りの巧みさが、このミックスの最も秀逸な点だ。音楽の錬金術師の中でも、指折りの達人にしか成し得ない名人芸だ。
  
  - Carlos Hawthorn
  
  2017
  Laurel Halo
  DISCWOMAN 27
  Discwoman
  
  Discwomanのために録り下ろされたLaurel Haloのこのミックスは、彼女の3枚目のアルバム『Dust』と同じ夏にドロップされた。このアルバムは、加工されたボーカル、ゴングやグロッケンシュピール、それから時折ポップな側面が顔を覗かせる混沌とした世界観だった。『DISCWOMAN 27』もまた、同じくらい不可解なミックスだ。それは、彼女の出身地ミシガン州アナーバーでのフリーフォーム・ラジオDJとしての経歴に本を正すことができる。このミックスで、彼女は一曲当たり2、3分という早いペースでミックスして見せた。彼女のミックスは、前へ前へとのめり込むというより、まるでクルッと回って最後に拍手して終わるダンス・ムーヴのように、左右へとトランジションするようなミックスだ。DJ NinOoのクドゥーロ・ハウスのまったりとしたグルーヴにノッているかと思うや、次の瞬間にはDominoweによる容赦の無いゴム（gqom）の嵐に出会う。かと思えば、Monsieur BlackによるクレイジーなPrinceのリミックスが聴こえてくる。クラブ向きの高気圧トラック、エレガントなエレクトロ、中国はたまたメキシコ直輸入のビートなど、彼女の音楽性の幅広さは目を見張るものながら、自由な雰囲気を醸しつつも慎重に考え抜かれたミックスに注目すべきだ。そういった意味合いで、このミックスは『Dust』と親近性が強い。どちらも、彼女の複雑なビートに対する執念的な拘りと、そのビートの合間を縫って遊び心を見せる自由なスタイルを持ち味としている。
  
  - Chal Ravens
  
  2018
  Yu Su
  Truancy 201
  TRUANTS
  
  Yu Suの『Truancy』と題されたこのミックスの始まりは、自らLizstの"Liebestraum"を鍵盤で叩いた録音で幕開ける。彼女が中国で過ごした幼少期にクラシック・ピアノの教育を受けていたことを呼び起こすものだ。彼女のレコードへの向き合い方には、繊細さと音楽への敬意が同居している。丁寧に、スペースを保ちながら、同時に予測不可能性を孕むプレイだ。彼女のセットは、実に幅広い。例えば『Truancy』のために録ったミックスは、坂本龍一やSUGAI KENといった音楽家の曲からGlenn CopelandのヤマハDX7で奏でた子守唄へと漂い、ゴージャスな広東のポップ・ソングで盛り上がりを見せつつ、ゴスペルのように聞こえるChicの曲へと変わりゆく。
  
  このミックスはまた、この10年間で最も影響力のあったDJミックスのためのプラットフォームである『Truancy』シリーズに脚光を当てる。2010年に立ち上げられたこのシリーズは、今や良質なダンスミュージックの権威となるまでに成長した。新人アーティストの発掘の場であると同時に、名の知れたDJ達にとってもプロモーション的なプレッシャーに追われることなく自由に自己表現をが出来る場という点で優れている（『Truancy』のミックスはほとんど、PRの枠組みから離れた姿勢でミックスの提供を行っているためだ）。Yu Suによるこのパーソナルで、とりとめのないロマンチックなミックスもまた、彼女自身によって「私による、というよりも私のための選曲」と表現されているように、このシリーズの、アーティストがありのままの自分の表現を許される長所をよく捉えている。
  
  - Andrew Ryce
  
  2018
  CCL
  HNYPOT291: Ode To The Queer Steppas
  Honey Soundsystem
  
  CCLによる『Ode To The Queer Steppas』ほど、2018年に多くの人の心を捉えたミックスは無かったかもしれない。もはや過去の産物となりつつあると言えるダブステップを、鮮明な音楽的ビジョンとパワフルでパーソナルなメッセージを込めて再踏襲したこのミックスは、何万人ものリスナーの共感を獲得した。リリースされた当時、ソーシャルメディアやベスト・ミックス・リストなどを騒がせたのは、聴いた誰しもが他の人にも聴いて欲しい！と感嘆したからに他ならない。車の中で、仕事中に、友達とダラダラ過ごす時のお供として、ミックスの隅から隅まで親しめる、そんなミックスだ。
  
  HNYPOT 291でCCLは、90年代テクノと00年代ダブステップと現行アーティストによる珠玉のトラックを散りばめたミックスを見せた。最初の10分間で、object blue、Laurel Halo、SUEDと続き1998年初のUrban Tribeによるレコードへとシフト。それに次ぐセクションでは雰囲気が変わり、Shackletonのダークなトラック2曲へ突入し、それからRobert Fleckのダブな"Echo Chamber"の暖かな多幸感に飲み込まれる。この時点で、このミックスの特別な魔力に気づかされる。CCLの手にかかると、ベースの効いたヘビーな音は弾むリズムに変わり、たちまちもっと聴きたくなる喜びに駆られる。Marie Davidsonの"Work It"の特徴的なヴォーカルが90年代のBanduluのトラックから飛び出てきたかと思えば、溶け去ってVersionの2016年の壊れたカットへと変遷する。こうした音のコラージュによって、今まで誰も想像したことのなかった点と点を繋ぐビジョンこそ、CCLのセレクターとしての地位の獲得に貢献した。
  
  CCLのミックスの魅力は、音楽を超過したところに存在している。66分間の録音を通じてCCLが描き出すのは、パラレルワールドにおけるダブステップの歴史と言えるかも知れない。このフリーキーなベース音が、派手なクイア・パーティーでかかる定番の音、そんなパラレル・ユニバースが存在したとしたら？といったイマジネーションがこのミックスのテーマだ。ストレート男性が中心的だったこのジャンルに、新しいコンテキストを与えることで、CCLは過去の遺物から新しい物語を紡ぐ可能性を示した。このミックスがHoney Soundsystemのウィークリー・ミックスのシリーズからリリースされたのは、ごく自然に感じられた。このプラットフォームは、世界中のアンダーグラウンドに点在しているクイアDJ達にとって重要なものとして成長してきたからだ。TUFコレクティブとヴァンクーヴァーのNew Forms Festivalのオーガナイザーとして、CCLは東海岸のコミュニティの中心的人物として活動してきた。Honey Soundsystemに提供されたこのミックスは、CCLのユニークな音とビジョンを世界に知らしめるきっかけとなった。
  
  - Sybil Gillespie
  
  2019
  Conducta
  Kiwi Krush
  Kiwi Records
  
  Conductaが目指しているのは、UKガラージのニューウェイヴのガイドを務めること。この役に彼ほど適任な人がいるだろうか。大きな笑みでDJブースに立つ姿をよく目撃されるブリストル出身の彼なら、熱意と知識に富んだガイドとなるだろう。ConductaがKiwi Rekordsを立ち上げたのは、ごく最近の2019年だが、すでに何枚かのガラージ・ヒットを輩出し、Sharda、Prescribe Da Vibe、Sammy VirjiそれからMind Of A DragonといったDJ、プロデューサー陣を仲間にし、シーンの中心的な存在に躍り出た。Conductaの『The Kiwi Manifesto』がレーベルの入門的なミックスだとしたら、『Kiwi Krush』は挑戦状的なミックスだ。AJ Traceyのスマッシュ・ヒット "Ladbroke Grove"（7枚を数えるConducta自身のプロダクションのうちの最初のリリース）で皮切るとは、なかなか大胆な選択だ。ライターのAndrew Ryceが語る通り、このミックスは”NUKG"レーベルの現行、Conductaの備蓄のなかの未リリースの曲達（この内いくつかは後に正式リリースされたが、その他については待ち侘びなければならない）で構成されたミックスだ。UKガラージの黄金期へのノスタルジーを感じさせつつ、懐古的とはほど遠く、濃厚で重厚でありながら、真面目すぎずフレッシュで、甘ったるすぎずも甘い（まるでレーベル名のように）。
  
  Kiwi Krushの61分間を通して、天井を突き抜けるエネルギーは果てる所を知らず、疲れ知らずに我々を楽しませてくれる。どのトラックも選び抜かれたキャッチーなメロディー（例えばYemiの"Back To You"など）や、ディープで足元をグラつかせルようなベースライン（Anzによる"Open The Curtains Sis")、次の曲へとロングミックスされたり、スピン・バックしたり、フェーダーの縦チョップで遊び心を見せたりと心を鷲掴みにしてくる。ポップなチューンで始めたからには、締めにもう一ついかが？とJorja Smithの"Goodbyes"の甘いアコースティック・バラードをポップに仕上げて見せるのがConductaの腕の見せ所だ。ミックスの中で唯一盛り下がる箇所が、終わりを告げるかのようにフェードアウトし、予見しなかった終わりについて歌う箇所だ。けれども、聞き取ることができる最後の歌詞で、Smithが歌い上げる「How do we grow, if you're not moving with us?（立ち止まってしまったら、一緒に成長して行けないじゃない）」というフレーズが、なんだかしっくりくる。NUKGと一緒に変わりゆくシーンで、共に成長していきたいという気持ちにさせられる。
  
  - Marissa Cetin
  
  2019
  Josey Rebelle
  Essential Mix
  
  Josey RebelleのEssential Mix（Paul Woolfordを含むダンスミュージック・オタク達によって2019年のベストとされた）が2010年代の終わりに出現してきたのは、ごく自然な流れだった。Rinse FMの献身的なDJとして長年キャリアを積んできた彼女がタルコフスキーによる三本指のナマケモノの如きペースで頂点へと上り詰めたのは、ゆっくりながら着実に、という姿勢の者が最後にレースに勝つことの証明だ。そのレースが例え、DVAの耳を裂くようなSole Fusionリミックスを、Marteloの輝くコードへミックスする瞬間を含んでいたとしても。RebelleのEssential Mixは、リスナーが求めている物を良く理解している。ハウスとテクノを中心にした大箱向きの力強いチューンと同時に、モダンなリズムのクラブミュージックも提供する。特に、Gerald Donald、Dave Angel、Jamal Mossといった黒人の先駆者と、新しい感覚をシーンに注入するようなプロデューサーにも脚光を当てる––例えばAfrodeutschのロウでアシッドなグルーヴ、南アフリカのスターSho MadjoziのShy Oneリミックス、それからLSDXOXOによる深夜をジャックするような曲達だ。彼女のミックスは、いつだってその曲の良さを最大限に引き出す。トラックをかける時、急ぐことなく、観客と一緒にその曲を聴くのを楽しむことのできるレアなDJの一人なのだ。ロンドンのアンダーグラウンドシーンで長年にわたり人気を確かなものとして築いてきたRebelleにとって、この的確で馴染みやすいEssential Mixは、メインストリームへと彼女の知名度を広めるきっかけとなった。
  
  - Chal Ravens