音楽宇宙の中にはいくつもの異なる世界が存在する。そのような世界のすべてでAndrew Weatherallは偉人だったが、私の世界での彼は万物であり、巨神だった。彼がどれほど愛され、どれほど尊敬されていたかを完全に理解することは難しい。しばらく時間をかけて私は自分のFacebookのフィードを遡ってみたのだが、冗談抜きにすべての投稿が彼についてだった。彼が色々な人たちの人生にどれだけ大きな影響を与えたかが語られている無数のストーリーであり、無数の失意のストーリーだった。誰かがこの世を去ると、しばしば世間はその人がいかに素晴らしかったのかを我先に語ろうとするが、Andrewについては語られているすべてが真実だ。彼は最高の人間だった。紳士だった。本物の！　私たちの世界で彼に最高級の賛辞を与えなかった人を見つけるのはかなり難しくなることを約束する。彼は “The Chairman / ザ・チェアマン” もしくは “The Guv’nor / ザ・ガバナー” など、愛情が込められた様々な敬称で知られていた。

Andrewに初めて会ったのは1990年初頭、私が運営に関わっていて、1990年代を通じてエジンバラで開催されていたクラブナイト、Pureに彼が呼ばれてプレイした時だった。Andrewはその場にいた全員を感動させた。全員を感動させ続けた。彼は本当に素晴らしいDJだった。ひとつの枠でくくることは不可能で、消えることのない音楽への情熱が備わっていた。あの晩の彼は心底楽しんでいて、そのすぐあとに行われた当時人気だったダンスミュージックマガジンのインタビューであの晩に彼がパンツを汚してしまうまでの顛末を自ら振り返っていたくらいだった。こういうストーリーを語るのはAndrewしかいない。

その頃、AndrewはロンドンでSabresonicというクラブナイトをスタートさせて、私たちにクラブスワップをしようと持ちかけてきた。そして、彼がスコットランドのPureでプレイをする代わりに、私と私が当時組んでいたDJ BrainstormがSabresonicでプレイするようになった。当時のAndrewはすでに名実共にレジェンドで、正直、彼を知らない人はいなかったが、私たち2人の名前をスコットランドの外で知っている人はいなかった。しかし、彼は私たちを信頼して、おそらく当時のロンドンで最もホットだったクラブナイトでプレイさせてくれた。このクラブスワップは数回やった。私がスコットランド以外で初めてプレイしたのがこのクラブスワップだった。当時の私は自信を持つのにかなり苦労していたので、彼が私たちを信じてくれたことがどんなに私に影響を与え、人生すべてをDJに捧げられるまで自分を信じられるようにしてくれたのかについては言葉では説明できない。彼の心はとても広く寛容だった。そしてこのようなAndrew Weatherallストーリーは星の数ほどある。

DJに関わっているほとんどの人が瞬時に認めるように、DJ同士の会話は面倒で自己中心的で退屈になる時がある。しかし、Andrewとの会話は決して退屈にならなかった。彼は事情通だけが理解できる歴史的知識と腹を抱える笑いがふんだんに盛り込まれた面白い逸話や奇妙な物語を無数に持っていた。彼は賢く、そして熱心な読書家だった。以前、彼と一緒に南仏を走る車の旅に出たことがあるが、その道中でケインズ経済学について穏やかだが熱の籠もったディベートをした。私は経済学を修めていたが、彼の方が私よりもテーマについて良く知っていることが徐々に明らかになっていった。

Andrew Weatherall

10年ほど前から、Andrewと私は素晴らしい人物のCaroline Hayesが運営するエージェンシーSpun Outに所属してきた。Spun Outはファミリーだ。音楽を心の底から愛していて、人生を通じてその愛を広めようとしているはみ出し者たちのファミリーだ。Andrewはその中心に常に位置していて、全員のインスピレーションだった。彼は常に音楽だけではない多岐に渡るプロジェクトを数多く抱えていた。多くの人に影響を与えたそのようなプロジェクトのひとつが、尊敬するSean Johnstonとの共同プロジェクト、A Love From Outer Spaceだった。このプロジェクトは熱狂的なファンを抱えていて、その中には1990年代にクラブで遊んでいたがA Love From Outer Spaceがきっかけでクラビングのセカンドライフを楽しむようになった人たちが大量に含まれている。素晴らしい！　私は彼の死に打ちのめされているが、CarolineやSean、そして彼に最も近しかった人たちにとってこれがどれだけ辛いものなのかは想像を絶する。

私に最も大きな衝撃と影響を与えたAndrewの傑出していた特長は、彼の高潔性と人間性だ。ダンスミュージックの世界はこの2つをしばしば失ってしまう。本人が望みさえしたら、Andrewはほぼ間違いなくスタジアムDJになれていただろう。しかし、彼は違う道を選んだ。物質的な富よりも自己の充足とクリエイティビティが優先される道を。彼は音楽の力と価値を決して忘れず、くだらないことに一度も巻き込まれることなく、自分のやり方を貫いた。生涯孤高であり続けた彼は非同調主義の偉大なる父であり、そして疑いなく、インスピレーションに満ちた私たちの戦友だ。今はただ彼がいないこの世界を想像できずにいる。