彼の音楽を知る人にとって、Mike Huckabyとは生粋のデトロイトであり、ダビーなテクノとスムーズなディープハウス（プラス、時と場合によってはヒップホップ、ディスコ、Sun Raの音楽も）との共通点をサラリと見出したDJ / プロデューサーだった。しかし、彼を個人的に知る人々にとっては、彼の非の打ちどころのないテイストとアーティストとしての才能は、彼にまつわるストーリーにおいて大きな位置を占めるにせよ、ほんの一部にすぎない。真にHuckabyを際立たせていたのは、還元することへの献身だ。 90年代には、今は無きレコードショップ Record Time内の伝説的なDance Roomのメイン・レコードバイヤーとして、スタッフを指導し、顧客を教育し、デトロイトや世界中の最高の新作レコードを紹介した。 Huckabyの元同僚であり、のちにInterdimensional Transmissionsを設立したBrendan Gillenは、「彼の影響でほとんどのお客さんがMaurizioのレコードを買っていた」と振り返る。

Huckabyは、他のアーティストの音楽制作を支援することを自らの使命とした。2009年、彼のレコード「My Life With The Wave」から128個のサンプルを収録したCDをリリースし、さらにはそれらのサンプルを使用して制作されたトラックを紹介までした。「俺が強力なフォロワーを獲得した、もしくは非常に多くのリスペクトを得ることができたもう1つの理由は、共有しようとする情報の量にあると思う」と、彼は当時Little White Earbudsに語っている。「かつての自分みたいに他の人が音楽制作のプロセスで行き詰まらないように、手助けしたいっていう思いがあるだけだ」

それからもちろん、Huckabyが若かりし頃のKyle Hallを含む子ども達に音楽制作の基礎を教えた学校、Youthvilleについても忘れてはいけない。本人の話では、Youthvilleの目的は制作スキルを教えることだけではなく、生徒に自己決定の感覚を植え付けることであり、十分に努力すればうまくいくのだと理解させることだった。その理念は、ベルリンでNative Instrumentsが主催し、彼自身がゲスト講師を務めることもあるクラスを含め、世界中の類似したクラスに影響を与えている。

「子供たちの人生を形成したり変えたりすることのインパクトは、ヨーロッパのフェスティバルでプレイすることよりもはるかに大きい」と、RAのドキュメンタリー映像Real Scenes: Detroitで彼は語った。「この仕事はすごく必要とされているし、とても重要度が高いと思う。」シーンにこのような姿勢を持つ人がいることは、実に幸運である。

Huckabyは先週末にデトロイトで息を引き取った。彼は脳卒中で3月初旬に入院し、後にCOVID-19の検査で陽性となった。

「Mikeは私たちに何を残しただろうか？」Tresorの創設者Dimitri Hegemannは、メールの中で思いを巡らせた。「もちろん、彼の音楽だ！でも彼は、その音楽をとても特別な、素晴らしい方法で、つまりメンターとして共有した… 私たちは、熱心で勤勉なメンターとしての彼に出会うことができた。Mikeがここベルリンに残した音楽とは、まったく異なる遺産がある。彼は短い間に、それまで自分の才能を知らなかった多くの子供たちに音楽を作るよう勇気づけ、刺激してきた」

土曜以降に溢れかえっている追悼コメントの数々からは、それと同様のストーリーが伝わってくる。Mike ServitoはHuckabyについて「僕のメンター、僕の先生... かけがえのないデトロイトのミステリー」と表した。Derek Plaslaikoは彼を「悪いレコードをかけるのを一度も聴いたことがない、たった1人のDJ」と呼び、「すべて」がHuckabyのおかげだとコメントした。John CollinsはHuckabyによって「僕たちの人生は本当に救われた」と記しているが、誇張したようには感じられない。K-HANDの追悼コメントにあるように、「これでお別れではありません、親愛なるMichaelへ、どうもありがとう」

世界中の多くの人々のように、私たちは今、Mike Huckabyについて考え、彼が長年にわたって私たちに与えた音楽を振り返っている。彼を偲んで、10曲と1本のミックスをここに挙げる。

Mike Huckaby - Luv Time
友人Rick Wadeのレーベルからリリースした最初の2枚のレコードの時点で、そこから数十年間Huckabyのサウンドの定番であり続ける、温かくレイドバックなスタイルのディープハウスを、彼は既にマスターしていた。

Mike Huckaby - Dance
Harmonie Parkからの2作目のEPに収録された“Dance”で、Huckabyは彼のベスト作品の多くで見られる力強いキックドラムを初めて打ち出した。

Roland King - Flashbacks From The M1 (The Ferox Treatment)
Huckabyのテクノ・サイドが存分に発揮された、完璧でアトモスフェリックな重量級トラック。

Delano Smith - What I Do (Reconstructed By Mike Huckaby)
HuckabyはBasic Channel一派のダブテクノを愛していたが、彼独自のソウルフルなひねりを取り入れた良い例が、友人Delano Smithへのこのリミックスだ。

Mike Huckaby - The Tresor Track
Huckabyはデトロイトとベルリンの重要な架け橋だった。Tresorの20周年コンピレーションをミックスしただけでなく、彼はDimitri Hegemannが創設したアイコニックなナイトクラブにちなんで名付けられた、地面に響き渡るようなこのトラックを制作した。

Mike Huckaby - Baseline 89
Huckabyが生み出した最高のベースラインを携えた、緻密で中毒性あるグルーヴ。

DeepChord & Mike Huckaby - All It Takes (Mike Huckaby Synth Remix)
濃密で温かく、リッチでヒプノティック。このほぼ完璧なダブテクノ・カットで、A面に登場したこの手のサウンドにおけるデトロイトのスペシャリストであるDeepChordを、Huckabyは凌駕した。

Mike Huckaby - Wavetable No 9
「自分が1つのギアだけでトラック全体を制作できるかを確かめるために、使用するシンセサイザーを1つに制限することがよくある」と、HuckabyはLittle White Earbudsに語った。この魅惑的なうねりはWaldof Waveのみで作られ、そのミニマリストなアプローチによる魔法を示している。

Mike Huckaby - Jazz Delirium
いつまでも身体を揺らしていられそうな、晴れやかでレイドバックなディープハウス・グルーヴ。

Sun Ra ‎- UFO (Mike Huckaby Reel-To-Reel Edits)
エクスペリメンタル・ジャズのアイコンSun Raの音楽のみでオープンリール・セットでプレイできるほど、HuckabyはSun Raを熟知していた。そして彼はSun Raのキラーエディットをいくつも生み出し、アムステルダムのレーベルKindred Spiritsから発表した。

Mike Huckaby - Kiss FM, London, 1995
DJ活動を始めて間もない頃のHuckabyがロンドンのKiss FMにて披露した、90分間のジャッキンなハウス。