ダンスフロアがない中でのDJ活動とは？世界のクラブ／フェスティバルネットワークの大部分が休止状態にあった今年、DJミックスは美しい過去への回帰のように感じられたこともあった。Job JobseのNachtdigitalでのライヴミックスへのコメントを見てみると、YouTubeにある90年代のレイヴクラシックスへのコメントと酷似しているのが分かる。だが、在りし日のフェスティバルやクラブナイトのアーティファクトは、2020年に登場したミックスのほんの一部に過ぎない。ロックダウンが敷かれ、失業が広がり、そしてBandcampがますます注目される中、今年はプロデューサーたちがトラックを制作し、すぐにリリースする動きが高まった。私たちが選出した今年のベストミックスのうちの2本は、パンデミック中に制作した音楽で満載の全曲オリジナルのセットだ。ライヴストリーミングの普及と、クリエイティヴになるための時間と衝動が、DJミックスと従来のリリースの境界線を曖昧にした。このリストの中の多くのミックスは、単体のアルバムにもなり得る。セット中にTwitchでチャットしたり、ロックダウン中の音楽ヘッズたちのために制作されたミックスに感謝したりと、DJたちは孤独の一年の中でコミュニティの感覚を生み出してくれた。多くの素晴らしいミックスの中から、RAのコントリビューターとスタッフが厳選したいくつかを以下に紹介する。

- Anz
  spring/summer dubs 2020
  
  Anzによる5作目のプロダクションミックス『spring/summer dubs 2020』は、「混乱の中で構築し、フィーリングの中で形成した」作品であるにも関わらず、なぜか高揚感に満ちた楽曲が多く収録されている。隔離期間中に制作された74ものトラックの中から、このイギリス人プロデューサーはUKファンキー、2ステップ・ガラージ、ダブステップ、ジャングルなどを含む、84分間の夏らしいUKダンスミュージックをコンパイルした。エディットサンプルは90年代のヒップホップやR&BからTik Tokの人気曲“Renegade”までと幅広く、けたたましいアーメンブレイクを用いてリミックスされている。
- Conducta
  The Kiwi Sound
  
  この2年間で、Conductaは信じられないほど良いミックスを2本もリリースした。2019年のNo.1ミックスに続く『The Kiwi Sound』は、バウンシーで明るく、とっておきのフレッシュなUKガラージを並べているという、多くの共通点を打ち出している。
  本作は、UKガラージが決して消え去らないにも関わらず、それを打破するのに何年もかかった現代のシーンの健全さについての思い切ったステートメントでもある。みんなの大好きなサマーサウンドが、ようやくあるべき場所に戻ってきた。大成功を収めた、若く才能あるテイストメーカーたちの手の元に。
- FAUZIA
  DISCWOMAN 87
  
  「これで良いとは思わなかったから、止めようと思った」とFAUZIAは自身のDISCWOMANミックスについてコメントする。「でも友達に無理矢理やり遂げさせられたんです！」この全曲オリジナルのミックスが十分に良いものではないという意見は、彼女がPlaidスタイルのIDMや拍動するディープハウス、力強いダブステップの間を突き進んでいく中盤頃には、ほとんど考えられなくなってしまう。このミックスは、写真にとらえられた稲妻のように、自分のスタイルを見つけた瞬間のアーティストをキャッチしているようだ。収録曲は年間を通してあちこちから少しずつリリースされており、FAUZIAの星は輝きを増すばかり。時間の中に凍結されたこのミックスは、全ての始まりの場所なのだ。
- Scott Zacharias & Patrick Russell
  IT.podcast.s09e05 & IT.podcast.s09e01
  
  レイヴカルチャーの中の小さいながらも熱心なグループにとって、アメリカ中西部の神聖化されたレイヴの伝統における最後の痕跡と言っても間違いないNo Way Backが、あらゆる種類のイベントの中で年間最大のイベントだというのは常識である。ストリーミングで実施された今年のエディションからのこの2つのセットは、かけられたレコードの幅広さから、そのセレクターたちの比類なきセンスと貫禄に至るまで、同パーティーのユニークさを物語っている。Patrick RussellのセットはNo Way Backの重要な要素を体現しており、何十年にもわたるひたむきなディグから引き出された珠玉のレフトフィールド・テクノとエレクトロの数々が、幻覚性のある音の乱流へと完璧にアレンジされている。いつもは日の出の時間にOuter Spaceと呼ばれるチルアウトルームでプレイするScott Zachariasは、このパーティーにおけるデザートのような存在で、ジャズ、ロック、ダブ、ヒップホップ、アンビエント、イタロ、ファンク、ソウルなど、彼が“低俗”と呼びたがるサウンドに合うものなら何でもありの、サイケデリックなスープを用意してくれる。これらのセットはNo Way Backだけでなく、レコードをプレイすること自体の無限の可能性を示している。
- Job Jobse
  Sunrise at the last ever Nachtdigital
  
  この素晴らしいミックスの全140分間には、私たちがなぜ2020年、こんなにもクラビングを恋しく思っていたのかが要約されている。ポップのヒット曲、レイヴクラシックス、夜明けの太陽を浴びてはしゃぐNachtdigitalのクラウドの声など、全てが詰め込まれている。早朝に天国が開き、その後数時間にわたって太陽の光が降り注いだ。友人たちは湖で戯れ、パートナーたちはキスをして抱き合い、そしてセレモニーのマスターJob Jobseは、夢を叶えた男のような笑みを浮かべながら砂地のダンスフロアを見渡していた。このミックスを聴くと、その光景全てが蘇ってくる。
- Juliana Huxtable
  Dekmantel 288
  
  彼女自身によるポエムの一つの一節を引用すると、Juliana HuxtableのDekmantel Podcastには「めちゃくちゃ高いレベルのIDGAF（= I don’t give a fuck / どうでもいい）エネルギー」が込められている。ブースの中ではせっかちになるこのテキサス生まれのアーティストは、直感的なテクノやヴォーカルサンプル、インダストリアルの介入の壁を見事な流動性で取り払い、それらを組み合わせては、絶え間なく刺激的な音の極限へと向かうヒプノティックなサウンドコラージュに仕上げている。このミックスでは変化が繰り返され、どのジャンルにも限界はない。その寛容なアプローチは、潜在的なピークの瞬間が満載で、好みに関わらず幅広いリスナーに高揚感を与える構えができていることを意味する。
- Nicolas Lutz
  at Phonoteque
  
  Nicolas Lutzは何年も前から、トラックIDを知るためなら喜んで手足を差し出したくなるようなレコードをプレイすることにかけての達人だった。彼と、BinhやDJ Masdaといった仲間たちのおかげで、ハウスやテクノ、エレクトロ、トランス、ブレイクビートの歴史の中で見落とされてきた音楽たちが、現在急増するDJやプロデューサーの間のオーディエンスに大きな影響を与えている。彼らの多くはこれまで、前述のDJたちが出現した、いわゆる“ミニマル”シーンに注意を払っていなかっただろう。LutzやDJ Koolt、その他のモンテビデオのテクノシーンで活動するDJたちのホームであるPhonothequeで録音されたこのミックスは、事が一周回ってきていることを証明している。これまでにないほど、Lutzは自身のサウンドが直接影響を与えた新しい音楽をプレイしているのだ。また、彼は自身のテイストのくくりにフィットするが、あなたが想像だにしない所で出来たレコードにも辿り着く。数年前だったら、彼が、例えばOvermonoをプレイするなどかなり珍しかっただろう。ダンスミュージックの様々な部分が、如何に軌道に近付いて言ってるのかを物語っている。
- Theo Parrish
  We Are All Gorgeous Monsterss
  
  Theo Parrishの『We Are All Georgeous Monsterss』は単なるDJミックスではない。これは、さりげなく伝えられたマニフェストだ。米国史上でも最大規模の抗議運動の熱気が最高潮に達する中、Parrishは全6部からなる大規模なセットをアップロードし、修正し、最終的には取り下げた。人種的暴力と、エレクトロニックダンスミュージックのブラックルーツの盗用との間にある、直接的な繋がりを描いた内容だった。「この音楽が俺たちにとって何を意味するのかお前たちは分かっていない、お前たちにとって何を意味するかしか分かっていないんだ」とParrishは唱えた。「当然のことだが、自分の考えを持って、それを実行して、自分だけのものを作る、それは素晴らしいことだよ、自分だけの世界を作ることは。どうぞやってくれ、インスパイアされるのは何も悪いことじゃない、でも勘弁してくれ、独り占めはするな！」メランコリーなジャズピアノから熱狂的なビートトラックまでと幅広い未発表曲が数時間にわたって展開される中、名言やインタビューのアーカイヴがParrish自身のスポークンワードに差し込まれる。その間、このデトロイトのアーティストは、Berghainでプレイを止められたりブースから追い出された話など、自身が受けてきた様々な屈辱を列挙した。これが、多大な尊敬を集めるイノヴェーターであるParrishが日々直面していることだとすると、クラブシーンにおける黒人のアーティストたちの体験全体はどうなるのだろう？一体どうしてしまったのだろうか？
- CCL
  Blowing Up The Workshop 111
  
  常にそうとは限らないが、既に終了してしまったMatthew KentのミックスシリーズBlowing Up The Workshopは、DJがしばしばアートになり得るということを私たちに思い出させてくれた。歴史的に見ても重要な同シリーズは、Galcher LustwerkやBen UFOによる年月を経ても古びないミックスをホストしてきた。しかしこのシリーズは、DJという概念を実用主義的なものから非常に個人的なものへと移行させることにも貢献した。111回目へのCCLのエントリーは（BUTWが好調にシリーズを終える前に公開された7本のミックスのうちの一つ）、その目的にかなっている。Kentはドリームポップからダブステップまでと幅広いこのセットについて、「僕がそもそもこのシリーズを始めた理由のようにも感じる、美しいコラージュ」と説明した。111回目ではAkashによる愁に沈んだボリウッドチューンのミックス30分間と、Chris SSGによる3時間の見事なアンビエントセット、そしてDr Bananaによるムーディーなガラージと2ステップのミックスなどが同時に公開された。BUTWは、そうした異なるスタイル全てにとってのナチュラルなホームのように感じられ、その自由こそが、大切にする価値のあるミックスの数々を生み出しているのだろう。Kentは現在BUTWから離れ、Andrea Zarzaと共同運営しているMana Recordsに集中している。しかしうまくいけば、BUTWの無限のアプローチは続いていくはずだ。

2020

ミックス・オブ・ザ・イヤー

Josey Rebelle
Josey In Space
Beats in Space Records

『Josey In Space』の最初の数分間では、Tenesha The WordsmithとDaniel B. Summerhillが黒人としての体験を語った美しいポエトリーを、煌くトラック“I Dream So Loud”の中で聞くことができる。「夢が先延ばしになるのを見てきた / 子供たちが願いをかけているのを見るのと同じくらい何度も… 今 / 後ではなく今すぐ / 今まで以上に私は大きく夢見ている。」次の曲では、一度限りのヴォーカルサンプルが聞こえる。「反乱か何かできないのだろうか？」これらの言葉が、そこから続く豊かで、予測不可能で、非常にパーソナルなミックスを聴いていく間も、私たちの頭の中にとどまる。

DJの良いところは文字通り好きなものは何でもプレイできる点で、13歳からDJを続けるJosey Rebelleは他の誰よりもそれを深く理解している。Tim Sweeneyの『Beats In Space』シリーズからのオフィシャルミックス第2弾としてリリースされた『Josey In Space』は、彼女のクラブやラジオでのセットと同じエクレクティックな柔軟性を持ち、90年代のハードコアからハウス、テクノ、アシッド、ジャングルを経て、チルなUKヒップホップに至るまで、様々な音楽で描かれている。しかし非常に焦点を絞った作品でもあり、そうした異なるサウンドを一つにまとめることによって、私たちがじっくりと考えなければならない何かを与えてくれた。それは、大西洋の両岸で過去数十年間のうちに生まれた、ブラック・クラブミュージックへの賛歌だ。

「そう、音楽は美しい、あなたを幸せにしてくれる」と、Rebelleは今年、DJ Magのカバーストーリーの中でChal Ravensに語った。「でも真剣なビジネスでもあって、ダンスフロアを破壊するっていう真剣な目的を持ってデッキに近づいているんです。」ここでのRebelleの目的は、ダンスフロアの破壊というよりも、音楽によるストーリーテリングの要素の方が大きい。BBCが選出した2019年のNo.1 Essential Mixから1年後に登場した『Josey In Space』は、Rebelleが彼女の世代におけるベストDJの一人であることをまたもや証明した。

オマケとして、過去12ヶ月間の我々のフェイバリットRAミックス5本を紹介する。

- Vlada
  RA.742
  
  ロシア人DJが、しなやかでエレガント、控えめなハウスを披露。
- Kabuto
  RA.747
  
  日本の重要DJによるスムースなハウス。
- Nazar
  RA.749
  
  躍進するHyperdubのスターによる、荒れ狂うクドゥーロとGqom。
- patten
  RA.751
  
  10年分のレイヴ向けオリジナル音源、1時間。
- NDRX
  RA.726
  
  Bassianiのレジテントによる、舞い上がるテクノ。