エレクトロニックミュージックのライティングにおいて、今年になってから新しい意味を帯びるようになった言い回しがある。“ホームリスニング”だ。明白な理由から、今年は皆、今までより遥かに多くその行為をした。クラブやフェスティバル、ハウスパーティー、そしてレイヴよりも、新作レコードはソーシャルディスタンシングや自主隔離下の自宅で聞かれてきた。個人同士の繋がりという温かな瞬間の代わりに、それらの音楽は非常に多くの怒りや悲しみ、不安、さらには政治や、私たちの多くが今までに経験したことのないレベルの社会の変化のサウンドトラックとなった。幸いなことに、今年リリースされたアルバムの数々は素晴らしい出来栄えだった。事実、今年だけで複数のアルバムを発表するなど、今まで以上の好調ぶりを見せたアーティストたちもいる（中には1週間に2枚リリースしたケースも）。内省的なアンビエントから情熱的なポップ、我々の頭の中だけで存在したパーティー向けのバンガーまで、2020年のロングプレイヤーは、この12カ月間で我々が体験した多くの奇妙なムードにぴったりだ。以下に、RAのスタッフとコントリビューターの心に響いた20枚（正確には24枚だが）のアルバムを紹介する。

- Various
  HOA 10-12
  Haus Of ALTR
  
  2020年最も多忙だったエレクトロニックアーティストは、MoMa ReadyことWyatt D. Stevensだったかもしれない。自身がプロデュースした十数枚のレコード（AceMoとのLPと2枚のソロアルバムを含む）のほかに、主宰するレーベルHAUS Of ALTRから10枚のレコードをリリースし、そのうちの3枚は偉大な功績となった。6月、7月、9月にリリースされた『HOA 10』、『11』、そして『12』は、各25曲以上を収録するコンピレーションであり、それぞれ「ブラック・エレクトロニックミュージックの未来」、「エレクトロニックミュージックの白人至上主義との闘いにおける先鋒」、そして「臆することのないブラック・エレクトロニック表現の未来への行進」を表現している。この72曲は、ニューヨーク周辺の数十人の活気あるアーティストたちが、自分たちのベスト、あるいはそれに近いものを披露する様を示している。それらが一体となり、半年後の今も尚我々が聴き続ける、有り余るほどの財産を形成した。
  
  試聴: Bandcamp HOA010 / HOA011 / HOA12
- Slikback
  /// + ///II
  Self-Released
  
  9月1日、ナイロビ人アーティストのSlickbackは、自身のカタログを一挙に倍増する全30曲収録のサプライズアルバム『///』をリリースした。そしてその3日後、更なる30曲を収録した『///||』を発表。彼はそれらを「ラフだったり、穏やかだったり、面白かったり… 自分を形作る様々なヴァイブスや感情の反映」と表現した。これら60曲のエネルギーと芸術性には目を見張るものがある。Gqom、トラップ、ノイズ、アンビエント、ドリル、フットワーク、テクノの全てが、Slickbackの音楽シュレッダーに投げ込まれている。テンポは70BPM前後から170BPM超まで。ゲストもポーランドのサウンドアーティストMorgiana Hzからウガンダ人MCのSwordman Kitalaまでと幅広い。これらのアルバムは、イージーに聴ける作品ではなく、ガチャンと鳴り、軋み、耳障りで、バタンと鳴っては、思いもよらない時に忍び寄ってくる。だが、あなたを消耗させるのではなく、曲が変わる度にあなたを更に誘い込む。どんな完璧な側溝が曲がり角に潜んでいるのか、あなたは知る由もない。
  
  試聴: Bandcamp /// / Bandcamp /// II
- KMRU
  Peel + opaquer
  Editions Mego + Dagoretti Records
  
  2020年がアンビエントやフィールドレコーディングの領域からブレイクアウトスターを輩出したのは当然のことだ。ケニア出身のアーティストKMRUことJoseph Kamaruは以前から注目を集めていたが、2020年の彼は、自身のBandcampにトラックを投稿したり、傑作コンピレーション『Physically Sick 3』に楽曲を提供したり、自身のサウンドの幅広さを示すこの2枚の素晴らしいLPをリリースしたりと（更にはカセット『Jar』も）、至るところに登場していたようだ。重要アヴァンギャルドレーベルEditions Megoからリリースされた『Peel』は、低く唸るサウンドスケープと幽霊のようなフィールドレコーディングの柔らかな深淵だ。これに対して『Opaquer』は冒険的なカウンターであり、“Lost Ones”や“Canthenta”などのトラックは一般的にアンビエントと呼ばれるものよりも、ベース・ヘヴィーなエクスペリメンタルミュージックとの共通点が多い。この2作品は、繊細でありながらもパワフルな音楽を奏でるアーティストを、私たちの多くに紹介してくれた。
  
  Peel: Bandcamp / Apple Music / Spotify opaquer: Bandcamp / Apple Music / Spotify / Soundcloud
- Ulla
  Tumbling Towards A Wall
  Experiences Ltd
  
  本作が、あなたを菜食主義的状態に仕向けたり、熱帯雨林のフィールドレコーディングによってホテルのスパのロビーを連想させたりすることはない。その代わり、『tumbling towards a wall』ではUllaのアンビエントな一面が、白昼夢のような繊細さであなたの心を奪っていく。このカンザスシティ出身のアーティストは、『Append』のような過去のリリースのほか、Pontiac Streaterや新たに始動したLOGのようなプロジェクトなどで、数年間のうちにアーティストとして多彩な顔を見せてきた。今回のリリースでは、彼女の繊細な作曲家としての耳がこれまで以上にクリアになっている。“stunned suddenly”や“new poem”のようなトラックは、あなたをリラックスさせようと頑張りすぎることなく、考えるためのスペースを作り出している。そして“feeling remembering”、“leaves and wish”、“soak”には、メロディと優しいテクスチャーが散りばめられている。このアルバムは心を落ち着かせる音に溢れているが、決して雑然としていない。『tumbling towards a wall』から離れてみると、このアーティストが何か個人的な秘密を教えてくれたような気がする。それが何なのか正確には分からなくても、何か大切なことを教えてくれたような気がしてくるのだ。
  
  試聴: Bandcamp / Apple Music / Spotify
- E.M.M.A.
  Indigo Dream
  Local Action
  
  デビューアルバムから7年のうちに、E.M.M.A.はサウンドトラックやスコアの作曲に慣れ、最近ではGucciやChanelのような高級ファッションブランドのサウンドトラックを担当している。彼女の大規模でシネマティックなプロジェクトへの好みは、『Indigo Dream』を構成する35分間という短い尺に反映されている。渦巻く80年代のシンセとクラブサウンドがぶつかり合うこの魅惑的なアルバムは、私たちをノスタルジアの頂点へと送り出し、そして連れ戻す。
  
  試聴: Bandcamp / Apple Music / Spotify / Soundcloud
- Theo Parrish
  Wuddaji
  Sound Signature
  
  Theo Parrishのカタログの中でさえ、『Wuddaji』は歴史的なエントリーのように感じる。彼はミレニアムの変わり目頃に、よく模倣されるが決して複製されることのないディープハウスのブランドを革新したが、『Wuddaji』に収録されている8曲は、新たなマイルストーン、あるいは新しく、ひどくファンキーなブラック・ダンスミュージックにとっての出発点のように感じられた。“Hennyweed Buckdance”のように難解でフューチャリスティックなチューンの間に、“Angry Purple Birds”や“This is For You”のようなフロア・フィラーが散りばめられている。『Wuddaji』のカバーにはアイドルワイルドの地図が使用されているが、このミシガン州北西部にあるかつて繁栄した別荘地は、Aretha FranklinやLouis Armstrongが、セントルイスやデトロイトの人種隔離から逃れてきた黒人のオーディエンスたちのためにパフォーマンスした場所だ。彼の音楽の多くと同様に、『Wuddaji』は個人的、歴史的、そして音楽的なものなどから描き出した作品だ。過去の勝利と不公平、そしてそれらが現在に与える影響に対する彼の深い理解が、革新的なアートの素材となっている。
  
  試聴: Apple Music / Spotify / Soundcloud / Sound Signature
- BOOF
  Rebirth Of Gerberdaisy
  Bubble Tease Communications
  
  Maurice Fultonのダンスミュージックへのアプローチは、陽気で、時にユーモラスでもある。そしてBOOFは、彼のプロジェクトの中でも最も風変わりだと言っても過言ではない。5年に一度ほどのペースでリリースされるこれらのレコードは、いつもタイトルに花の名前が付けられ、Microsoft Paintで描かれたような簡単なアートワーク（引き伸ばされた花の写真と相反するテキスト）をフィーチャーしている。しかしその外観の下に存在するのは、このアメリカ人マルチ奏者がこれまでに発表してきた中でも最も素晴らしい作品の数々なのだ。『Rebirth Of Gerberdaisy』も例外ではない。事実、本作はBOOF史上最高のレコードであり、才能あるライヴバンドが、ミニマルテクノ、ピアノハウス、エネルギッシュなディスコ、ジャズフュージョン、そしてディープでソウルフルなグルーヴなど、できる限り多くのダンスジャンルを取り入れようとしているような作品だ。もちろん、あなたが聴いているのはバンドではなく、Fultonがオルガンやギター、キーボードで熱狂しているだけなのだが、この唯一無二のタレントの手にかかれば、どんなジャンルでも彼が作り上げたもののように聴こえてしまう。
  
  試聴: Bandcamp / Apple Music / Spotify
- Beatrice Dillon
  Workaround
  PAN
  
  孤高の天才という発想は魅力的だが、素晴らしいレコードのほとんどは多くの思考の労働の産物なのである。『Workaround』で、サウスロンドン出身のアーティストBeatrice Dillonは音楽制作における集団性を取り入れ、12人のコラボレーターによるアコースティック楽器と自身のソフトウェアの制作テクニックを組み合わせては、足で拍子を取りたくなるような複雑なリズムの14曲を生み出した。全曲、150BPMで固定されている。“Workaround Six”ではBatuによるハイハットがさりげなくビートを刻む一方で、スウェーデン人ジャズ奏者Petter Eldhによるダブルベースの邪悪な音が響く。“Workaround Two”ではLaurel Haloがシンセとヴォーカルを担当している。2015年の『Face A』のような抽象的なダブテクノ作品や、『Index Tape For Performance』、『Two Changes』（Rupert Clervauxとの共作）のような実験カセットを含むDillonのカタログは、他とは明らかに違う特別なご褒美のアドベントカレンダーのようだ。UKダンスミュージックへの憧れによって駆り立てられた『Workaround』は、意図した制約の中での勤勉な実践を通して培われた作品だ。
  
  試聴: Bandcamp / Apple Music / Spotify / Soundcloud
- Various
  Physically Sick 3
  Allergy Season
  
  パンデミックが始まってから4ヶ月、そして警察によるGeorge Floyd殺害事件に抗議する毎日のデモが始まってから6週目となった7月の初め、Allergy SeasonとDiscwomanは、警察の暴力とジェントリフィケーションと闘う団体であり、COVID-19の間ブルックリンの住民が安全に過ごせるようにも支援するEquality For Flatbushへの寄付金集めを目的としたチャリティコンピレーション、『Physically Sick 3』をリリースした。Physical TherapyとUmfang、Frankie Decaiza Hutchinsonがキュレートした本作の音楽は抜群に素晴らしく、大陸や世代を超えて活動するアーティストたちによる力強いクラブサウンドと、ちょっと変わったノイズやアンビエント、計27曲が収録されている。以前“エレクトロニック・プロテストミュージック”と称されたことのある同シリーズの伝統はかつてないほど必要に感じられており、そしてエレクトロニックアーティストたちがこれほどうまく難局を乗り越える様子には勇気付けられた。今年リリースされたベストミュージックの一部というだけではなく、『Physically Sick 3』はDIY音楽アクティヴィズムにおける入門書となった。
  
  試聴: Bandcamp
- Ana Roxanne
  Because Of A Flower
  Kranky
  
  Ana Roxanneのデビュー作『~~~』はアンビエントファンたちを掌中に収め、次作を心待ちにさせた。ニューエイジや礼拝音楽、ドローンの要素を取り入れた彼女のサウンドは、瞬く間に独自の境地を切り開いた。『Because Of A Flower』は彼女のファーストよりもさらに自信に満ちたレコードだ。コンセプト的に示唆に富み、見事に実践されており、脆弱性と控えめな美しさに溢れている。そして彼女のうっとりするようなヴォーカルは、『Because Of A Flower』をよくあるアンビエント作品以上のものに昇華させている。洗練された曲の数々は、さっと過ぎ去っていき、あなたを聴き始めた地点とは違う、より穏やかな気分にしてくれるようだ。
  
  試聴: Bandcamp / Apple Music / Spotify
- Jonnine
  Blue Hills
  Boomkat Editions
  
  Young Marble Giantsの『Colossal Youth』やGareth Williams & Mary Currieの『Flaming Tunes』など、最も尊ばれるポストパンク・ポップのレコードの多くは唾と接着剤でくっつけたガラクタの寄せ集めのようなプロジェクトだ。Jonnineによる『Blue Hills』は、その条件を満たしている。HTRKのメンバーであるJonnine Standishが、メルボルン郊外のダンデノン丘陵にある自宅で録音したこの全9曲収録のアルバムは、当初Boomkatの自主隔離レコードシリーズ『Documenting Sound』の一環としてカセットでリリースされた、目立たない作品だった。しかし、レス・イズ・モアなベースラインとStandishによる幽霊のようなヴォーカルで構築されたスペアの曲たちは、平凡さと荘厳さのエフォートレスなミックスによって、実力以上の力を発揮した。「ねえ、君は今まで僕が手に入れた中で最高のものだ / だって君は僕が持っているものを全て欲しがる / そして鳥が鳴く時は / 君のためだけに鳴く / 鳥たちは青い丘に住んでいる」とStandishは歌い、森の端でのロックダウン生活の小さな心理劇へとリスナーを誘う。
  
  試聴: Boomkat
- Moodymann
  Taken Away
  KDJ
  
  今年、Moodymannと直に会ったという人もいるだろう。あるいはオンラインゲーム『Grand Theft Auto』内の新しいナイトクラブThe Music Lockerで、彼のレジデンシーをキャッチしたという人もいるだろう。それよりも私たちは、バイオグラフィの元になっているのではないかというほど典型的なKenny Dixon Jr.作品である『Taken Away』に安らぎを求めた。デトロイト？はい。ローラースケート？はい。暖かなゴスペル、ハウス、ヒップホップに、「現代のダンスミュージックにおいて最も覚えやすい声」による情熱的で時に無鉄砲な物思いを散りばめたトラックの数々？はい、もちろん。このLPには、それら全てが詰まっている。ハウスミュージックのソングライティングにおけるマスタークラスをご覧あれ。
  
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- Yves Tumor
  Heaven To A Tortured Mind
  Warp Records
  
  Yves Tumorによるショーストッパー的4thアルバムにおけるハイライトは、シンガーのDiana Gordonとのコラボレーションによる“Kerosene”だ。デュエットというよりも2人の衝突のようなこの曲は、GordonのヴォーカルがDolores O'RiordanとAlanis Morrisetteを掛け合わせたように感じるところで最高潮に達する。それは、Tumorを主演に強力なセッションミュージシャンたちが脇を固め、ウェイパーウェイヴスタイルのループをふんだんに装備した21世紀のロックオペラであり、火薬庫のように機能するこのアルバムで、花火が打ちあがる瞬間だ。高波のように押し寄せるホーンセクションと、クリップされたファンクのサンプルに対抗して鳴るギターリードの中で、Yves Tumorはセクシーで異質、上品で、そしてあなたの頭から離れないメロディーのマスターという、長年目指してきたロックスターのように姿を現す。
  
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- Shinichi Atobe
  Yes
  DDS
  
  テクノプロデューサーShinichi Atobeについて多くを知る人間は誰もいない。この埼玉拠点のアーティストは5年前よりDDSからアルバムをリリースしているが、彼とレーベルの間のコミュニケーションは大抵、CDとトラックタイトルを書いた手紙が郵送されてくるのみだという。2018年の『Heat』の基礎でもあった暖かくハウシーな要素で構築された『Yes』には、明るいメロディーがぎっしりと詰まっており、そしてもちろん、彼のトレードマークである高解像度のプロダクションスタンダードによって届けられた。また、“Lake 3”のSF的なシンセや、“Ocean 1”のファンク的パルス、そして“Loop 1”のDrexciyaっぽいタッチなど、ちょっとしたサプライズもあり。
  
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- Actress
  Karma & Desire
  Ninja Tune
  
  Actressのアルバムに関しては興奮がつきものだが、今年の『Karma & Desire』で、Darren CunninghamとNinja Tuneはいつも以上にやってくれた。まずは前編となるミックステープをリリースし、そこにはアルバムの正式なそれをほのめかすような不可解なトラックリストが含まれていた。そしてショートフィルムや、電話口でトラックを聴けるホットラインもあった。さらに数日間、Actressが2本目のミックステープを出すという噂まで広がったが、それは結局Dam Voyageによるものだった。そんなこんながあったのだから、『Karma & Desire』は良い作品に違いなかった。Cunninghamは準備期間を設けたのだ。そうして我々に届けられたのは、Actressの初期サウンドの、よりオープンで楽しげなヴァージョンだった。ヴォーカリストたちがレコードをより理解しやすくしていた。インストゥルメンタルもまた、より明るくクリアになった。その革新的な前触れを含め、このアルバム体験は2020年における紛れもないハイライトとなった。
  
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- Duval Timothy
  Help
  Carrying Colour
  
  Duval Timothy4作目のアルバムは、ドキュメンタリー作家のようなタッチを持つ。彼のピアノを中心に、主にミニマリストなジャズのフックと没入感のあるサンプリングで描かれたこのLPは、癒しと、音楽業界の危機を乗り越える旅を綴っている。Timothyはありふれたものから宝石を作り出す才能を持つ。『Help』では、まばらなヴォーカルが歪み、奇妙なリズムの中へ組み込まれていく一方で、フィールドレコーディングがコンポジションに命を吹き込んでいる。少しの言葉で多くを語る、特別で感情的なアルバムの一つだ。
  
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- Yaeji
  What We Drew 우리가 그려왔던
  XL Recordings
  
  フェスティバルの観客が歌うような万人受けするダンスフロア・バンガーの数々を生み出した後、YaejiはブレイクスルーEPに続く待望の新作をリリースするよりも、コラボレーションやキュレートに専念したいと考えた。『What We Drew』は、憂鬱と倦怠感についての率直な考察であり、どうすればそれらから逃れられるのか、嫌な気分になった時にどうすれば自分を責めずに済むのかを示した作品だ。リードシングルは生きるという行為に対する賛辞であり、「私は水分補給する / 私は聞き流す」と彼女は歌っている。“Money Can't Buy”ではゲストのNappy Ninaが、自慢げなヴァースの後で「ぬくぬくとしていて眠い / こういう昼寝は簡単にできる」と語っている。『What We Drew』は、Yaejiが世界中のオーディエンスと繋がっているのは、他人からだけでなく自分自身のための愛に支えられながら、辛抱に打ち勝ったり、ほんの些細な事を理解したことを祝ったりするという、ありのままの人生を提示しているからだということをはっきりさせた。
  
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- Jasmine Infiniti
  BXTCH SLÄP
  Self-released
  
  他の多くのテクノプロデューサーよりも、Jasmine Infinitiはそのダークな衝動と共に、このジャンルの陶酔感のあるポテンシャルを体現している。例えば“Downhill”では、明るいネオンに晒されたシンセの下で鈍いドラムが鳴っている。このアメリカ人アーティストによるデビューアルバムがそうした境界線を非常に上手く跨いでいるのは、ナイトライフが逃げ場であると同時に罠でもあるというギリギリの状態で生きてきた、Jasmine Infinitiの経験があるためだ。だが、どんな不吉な予感の瞬間にも、ベイ・エリアのヴォーグシーンで彼女が過ごした日々とボールルームミュージックの緊張感のあるスラップからもたらされる、しなやかで浮揚感のあるメロディとリズム感に支えられた光が垣間見える。2020年に生まれたどのテクノレコードにも似つかない、ヘヴィーかつ軽やかで、熱狂的で偏執的な作品だ。
  
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- Headie One
  Edna
  Relentless Records
  
  当局がブラックミュージックを取り締まるのは今に始まったことではないが、UKドリルにまつわるストーリーは少し違うように感じる。今回は、YouTubeのように非常に影響力のあるプラットフォームでさえ警察の要請により動画を削除するなど、中傷に加担した。それは2018年の話だが、そこからの同ジャンルの発展を考えると信じられないことだ。この逆転を最も体現しているのがシンボル的存在のHeadie Oneだ。彼の傑作デビューアルバム『Edna』は、UKドリルにとって重大な転機のような作品となった。ロンドンでのギャング生活の栄光と絶望を曝け出したこのチャートNo.1のレコードは、主人公だけでなく、ローカルレジェンド（M Huncho、Ivorian Doll）から世界的なアイコン（Drake）まで、全てのラップスターたちの目を通して語られている。ブラック・ストリートミュージックはまたしても、グリットと純粋な才能のコンビネーションによって批評家を黙らせ、メインストリームを征服したのだ。
  
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2020

アルバム・オブ・ザ・イヤー

DJ Python
Mas Amable
Incienso

色々と大変だったが、2020年は私たちに幾つかの素晴らしいアルバムを届けてくれた。満足げな様子の人たちもいれば、身体を揺り動かした人たちもいる。あまりにも多くの人たちが、満員のダンスフロアを渇望した。しかし『Mas Amable』ほど、このハードで悲痛な1年のムードを上手く捉えた作品はない。本作が4月後半に店頭に並んだ頃、世界は混乱に陥り、先行きは全く見えない状態になっていた。このLPは、ソファで体を丸めた心地良い夜の暖かさと共鳴する柔らかなトーンと、傑作トラック“ADMSDP”でのブルックリン拠点のライター/詩人LA Warmanによる希望と自己愛についての深く感動的なメッセージを通し、私たちの痛みと不安を和らげてくれた。「全世界が絶望的なんだから、絶望的な気持ちになっても大丈夫」と彼女は囁いた。「死ぬことを考えても大丈夫。」Bryan Piñyero本人は、このレコードが今年の出来事とこれほど強力に調和するとは想像だにしなかっただろう、彼は2019年に本作を作ったのだから。だが、時に素晴らしいアートはそうして生まれるものではないだろうか？歴史の力によってタイムレスなものとなったタイムリーな作品は、永遠に慈しまれ、聴き返される遺産となる。

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