- レーベルL.I.E.S.のボスRon Morelliによるデビュー・アルバム『Spit』のレビューにおいて、「磨き抜かれておらず拮抗している」音楽観によって、収録曲のいくつかは、不満に思うほど未完成に感じてしまう、とRAのAndrew Ryceは記していた。『Spit』のリリースから6ヶ月が経とうとしているが、Dominick FerrowのレーベルHospitakにMorelliが早くも帰ってくる。今回は8トラックを収録したミニアルバム『Periscope Blues』だ。しかし、早い帰還は決して、クリエイティブな活動におけるMorelliの注意力が欠如していることを意味している訳ではない。逆に『Periscope Blues』における最大の強みとなっているのは、細部にまで渡る彼の入念な視点だ。
例えば、タイトル・トラック"Periscope Blues"は、シンプルな構造の中に力強さがあり、ぶくぶくと泡立つサウンドと時折、残響を残すシンセの音から、ざっくりと切り出されたものだ。しかし、注意深くエディット・ミキシングを行うことで、削ぎ落としたアレンジメントに深みが与えられている。そのため、ちょっとしたサウンドの動きでさえも、がらんとしたスペースの中に響き渡ることが出来るのだ。同様に、"Director Of"では、Morelliは、少量の部品を綿密に組み立てており、このトラックの場合、2つのボイスと、僅かに聞こえるかどうかというほどのテープ・マシーンのサウンドによって、Steve Reichを彷彿とさせるリズミカルなアカペラを形成している。かといって、このトラックはBGMとして適しているものではないだろう。なぜなら、使われている声は、ほとんど理解することの出来ない言葉へとカットアップさせており、解読しようとしなければこうした符号化された言葉を聞き取ることは難しいからだ。
『Spit』でのダーティーなテクノ・ビーツに比べると『Periscope Blues』は明らかにアブストラクトな作品だ。本作に収録されたトラックのうち、"Lone Navigator"以外では、一切キック・ドラムが用いられておらず、"Periscope Blues"や"Director Of"のようにほとんどのトラックでは巧妙な仕掛けによってリズム感をほのめかしているだけだ。ハイハットが8分音符ごとに鳴らされている"Signal Jam"はテンポを取りやすいが、それ以外のトラックはそれほど容易ではない。本作で最も求心力のあるトラックの1つ"Island Bore"では、トラックがサウンドの渦へと展開していく中、か細いクリック音と埃っぽいストリングスによって、カウントが取られている。Morelliがこうしたトラックを急いで作ったとは考えにくい。なぜなら、各ノイズは全て通常とは異なるものであり、まるで、彼が使いたいサウンドが世の中に存在していなかったため、手作りで作り上げようと時間をたっぷりと費やしているように思えるからだ。
トラックリスト01. Alone On The Beach (Beach Mix)
02. Periscope Blues (Version)
03. Shredder
04. Island Bore
05. Signal Jam
06. Lone Navigator
07. Director Of (A Capella)
08. Slowly Losing Sight