- アルバム、12インチ、ミックス、コンピレーションなど、2010年の復活以降(英語サイト)、ASCが携わって来たすべてのリリースを通じて最も際立っていたのはアンビエント作品である。長期に渡ってビートレスの音楽を取り入れていたASCだが、2010年にその熱が再燃した。傑作ミックスシリーズDeep Space(英語サイト)を皮切りに、Silent SeasonからアンビエントLP3部作で一気に開花したのだ。この3部作は彼の膨大なカタログの中でもベストとして君臨している。このアンビエントミュージックによって彼の音楽世界を構築する才能が明らかになった。その世界から聞こえてくるトラックはすべて、微細なサウンドがひとつの大きな塊として蠢く環境を生み出そうとしていた。ディテールに対するJames Clements(ASC)の耳は、これまでずっと自身の音楽を特徴付けてきた。そしてその点はドラム&ベース作品にも受け継がれようとしている。今回、ASC名義で12枚目となるLP『Imagine The Future』によって、彼は遂にビートを深淵へ滑り込ませ、自身の音楽的個性が持つふたつの側面をひとつにまとめ上げた。
『Imagine The Future』はアンビエントのレコードではないが、アンビエントのレコードのように制作されている。Silent SeasonのアルバムでのClementsによるメロディを組み立てる手法(ゆっくりとしていて注意深く消極的ですらあった)がここでも採用されている。特に13分間に渡る1曲目、"Sunspots"において顕著だ。作品は3つのセクション上をほとんど気付かないくらい徐々に変化しながら、喪に服したようなアンビエンスや、精巧に施したドラムトラックの中を旅している。壮大な、しかし、統制された印象のスケール感は、映画やTV番組の音楽を担当してきたClementsの経験が反映されている。風のようにそよぐパッド、整然とアレンジされたドラム、そして、互いに目的も無く機械がおしゃべりしているようなミステリアスなサウンドで埋め尽くされている。
BPM170の激震トラック"Unfriendly Waters"や"Axis Shift"のように最もヘビーな場面でさえ、『Imagine The Future』には優雅さとしなやかさがある。ビートは激しさで押し切るのではなく、波のように抑揚しているのだ。Clementsのトラックが長時間変化せずにいることは滅多にない。例えば"Cosm"では、タイトに編まれた鋭いインダストリアルサウンドから始まり、そこから最も誠実なBurialを思わせる贅沢なブレイクへと滑りこんでいく。リスナーと一定の距離を保つ冷やかな空間を生み出すことが多いプロデューサーに似合わず、非常にダイレクトな瞬間だ。こうした様々な感覚が渦巻く洪水も本作の他の要素と同じくらいスムーズに流れ込み、そして、流れ去っていく。
『Imagine The Future』では好きな場所でサウンドに浸って、Clementsによる豊かで極上の世界へと飛びこむことができる。そして今回は、前方からではなく周囲全体から霧がかったパッドと軽快なドラムが聞こえてくる。最近の彼の作品で特徴になっているのはこうした没頭性であり、この点が今回ほど素晴らしかったことはない。Silent Seasonから発表した前作のLP『Truth Be Told』のレビューにあたって、Clementsのドラム&ベース名義であるASCをアンビエント作品でも使用する決断に驚いたことを記した。まるで『Truth Be Told』はASCの構造をそのまま崩し、要素をバラバラに分解したかのようだったからだ。このアルバムと同様、『Imagine The Future』も星空のような広がりがある。そして今回はその広がりがドラム&ベースという名の衛星上で起こっており、かつてなく精巧で魅力的に仕上がっている。
トラックリスト01. Sunspots (i. Event #1, ii. Event #2, iii. Event #3)
02. Bell Curve
03. Dark Matter
04. Response Code
05. Imagine The Future
06. Unfriendly Waters
07. Cosm
08. Axis Shift
09. Negative Space
10. The Secret Society
11. (Event #4)