- ホテルのロビー、満員のクラブ、アパレルショップ、ブランチスポットなど、どこにでもDJが存在するようになった今、初心者と実力派DJ、そして、毎日Discogsをチェックしている熱心なバイナル愛好者との違いは何か？ それは呼び方のちょっとした違いに過ぎない。しかし、Dekmantelは新シリーズ『Selectors』で名ばかりのDJと数少ない精鋭DJを区別し、後者の深い知識や所有レコードに焦点をあてて、ますます曖昧になってきている前者との違いを明らかにしようとしている。
2011年に発表した『DJ Kicks』（英語サイト）で示されたように、Motor City Drum EnsembleことDanilo Plessowは数曲プレイするだけでコズミックなジャズから汗ばむ地下ハウスを経て、異世界のように不思議なダンスミュージックへと移行する術を知っている。『Selectors』での彼の選曲は、今後リリースが続く本シリーズ（英語サイト）の先例を見事に打ち立てている（今後はJoy OrbisonやYoung Marcoらが予定されている）。Plessowは早速、家賃1か月分以上の価値を持つ愛用レコードを次々とプレイしている。90年代中期のUK産トラックである20 Belowの"A Lil Tribute To The Moody Black Keys"を例に挙げてみよう。トラックタイトルのとおり、マイナーモードで黒く渦巻くキーボードが、存在感のあるバウンシーなキックとクラップに瞑想的な雰囲気をもたらしている。そして、その上をくぐもったギターがゆらめきながら、うずくような陶酔感をジャッキンなトラックに与えている。
他の90年代中期のトラック2曲（DJ Slym Fasの"Luv Music"とHouse Of Jazzの"Hold Your Head Up"）もこうした対照的な違いが特徴的だ。もともとTerrence ParkerのIntangible Recordsからリリースされていた"Luv Music"では、どっしりとしたビートやちょっとしたフルート、そして、波打つジャズコードが用いられている。この高域の音色が漂ってくると、UFOによって拉致されて宇宙に飛ばされているような印象に変わる。House Of Jazzのディープハウスクラシックの序盤でも同様のつんざくサインウェイブが使われている。「上を向いて」と促す至福のゴスペルボーカルを聞くと、ハウスはもともとナイトクラブで流れるだけのものではなく、虐げられた人々を鼓舞し、勇気づける目的があったことを思い出す。
『Selectors 001』の前半には申し分のないレアなハウスが収められている。Risque IIIによる魅惑の"Essence Of A Dream"ではK-Alexiがボーカルとしてフィーチャーされている。彼の気怠いボーカルと比べると、Galcher Lustwerkのような人でさえ強張っているように思えてくる。このトラック以降、Plessowはディスコ、ジャズ、そして、ファンクへと進路を変更する。Lickyの"African Rock"とAhzzの"New York's Movin'"は共に70年代後期のニューヨーク周辺のサウンドで、Peter BrownやPatrick Adamsといったプロデューサーや、レーベルのQueen Constanceに関連している作品だ。両トラックを構成しているのも、意識を惹きつけるワンコード・ギターとホーンや、颯爽としたストリングスと組み合わされるどっしりとしたドラムサウンド、そして、ふわっとしたピンクの雲のように上方へ漂っていくシンセフレーズだ。どちらも普通に買えば数百ドルの値が付くレコードだ。
今回の選曲の中で最もアツいのはおそらくRaphael Greenの"Don't Mess With The Devil"だろう。ホーンを施したシンコペートするこのゴスペルファンクには「悪魔にだまされるな」とメッセージが込められている。本コンピレーションのプレスリリースによると、このトラックは1979年にGreenが私用で楽しむだけのためにプレスされたもので、Plessowはこのトラックを手に入れるためにセントルイスの教会に電話して、現在、司祭を務めるGreenに1枚譲ってほしいとお願いをしたそうだ。これぞまさしくセレクターならではのディグというひたむきな行為の好例だろう。
トラックリスト01. DJ Slym Fas - Luv Music
02. House Of Jazz - Hold Your Head Up
03. 20 Below - A Lil Tribute To The Moody Black Keys
04. Risque III - Essence Of A Dream
05. Licky - African Rock
06. Raphael Green - Don't Mess With The Devil
07. Ahzz - New York's Movin (Instrumental)
08. Bill Deal - Freak n Freeze